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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
邂逅編
39/373

休戦と休息

直近のあらすじ


貴族様(めんどくさそうな人)が現れた!→いいから旧文明の遺跡いくぞ。

→大丈夫か?このパーティ…… →ネージュ初被弾。傷は浅くはなさそうだが……

→げぇっ!ゴーレム!?

→やっぱり勝てなかったよ…… ←イマココ

 ローザに詰め寄られるアデルをネージュとカタリナがにやにやと見下ろす。ミシェルとティルザはそれぞれ眉を顰めながらその様子を見ていた。

「えーっと、じゃあ順番にわかった事と、気付いた事と、それを踏まえての作戦案です。」

 鉄扉を中から叩くような音も聞こえてこないので、改めて一つ息を吐き、アデルはそう言って扉の向かい、スイッチの下に腰を下ろす。

 アデルが座ったのでそれに釣られる様に全員が次々と腰を下ろした。

「その前に、ミシェルさんの治療かな?」

「……そうね。カタリナ?」

「はい。」

 改めて観察すると、ミシェルの金属製のプレートアーマーの胴部が変形している。かなりの力で叩きつけられたのだろう。板金鎧が即座に取り外される。

「治療が終わるまであんたはあっち向いてなさい。」

 カタリナが傷を確認しようと下に着ている服をめくり上げようとしたところで、ローザに言われ、仕方なくアデルは壁と向き合う。

「出血はなさそうだけど、骨が怪しいね。1つ上の回復魔法を使うよ。」

 そう言い、神聖魔法の詠唱――これは祈りに近い物か。を開始した。

「終わったよ。もう大丈夫。」

 少ししてカタリナがアデルにそう声を掛けると、アデルはパーティの方へ向き直った。

「それじゃまずわかったことから。ご意見その他は後程で聞くので先に言うだけ言わせてください。」

「……わかったわ。」

 アデルがそう言うと、ローザが返す。即ちパーティ全体の了解だ。

「まず最初から。馬鹿馬鹿しいと思われるかもですが、重要な事ですので。

 鉄製の武器、まあ、そんな安物使ってるのは俺だけの様ですが……では、アレに傷を負わせる所か逆に武器が負けます。最初の一撃でこのザマです。」

 アデルが長らく愛用していた紐付きの槍を見せる。鉄の穂先の先端に近い部分の刃が完全に欠けていた。

「ミシェルさんの武器が鋼鉄、ローザさんの武器がミスリルってことであってますよね?」

 アデルの問いかけにそれぞれが首を縦に振る。

「アレの膝の傷の具合からして、鋼鉄で互角、ミスリルでやや有効と言った感じでしたね。つまり、対策なしだとローザさん以外まともに打撃を与える術がありません。」

「地上に戻って武器を調達してくる気?」

 ローザが口を挟むがアデルは首を横に振る。

「もし、次でダメだったなら、そうお願いしたいところですね。人数分のミスリル武器があるのであれば……」

「次?」

「俺が最後に当てたやつは見てませんでしたか?」

「そんなに良くは見てなかったけど、ミシェルの最初のヤツよりは効いてたかしら?」

「おそらく。で、先に種明かしをしますと、“火力付与エンチャントウェポン”を掛けました。

「「「「え?」」」」

 アデルの言葉にローザ側4人が一斉に声を上げた。

「あなた、魔法が使えたの?」

「つい先日、とある方にこれだけ覚えとけと言われて教わりました。他の魔法は一切使えません。」

「……で?」

「準備として、再突入前に前衛4人の武器にこれを掛けます。そうすればあとは実力勝負、ローザさんの剣ならそれなりのダメージを期待できると思いますし、他もある程度のダメージは与えられるものと思います。」

「ふむ。」

 とりあえずローザを持ち上げておくと続きを促してくる。

「で、次が気付いた点。これは確実とは言えませんが、かなり高い確率であっていると思います。

――アレは魔法に反応する。」

「え?」

「最初のターゲットは最初に打撃を加えたミシェルさんでした。続いて俺やローザさんが同じ様な攻撃を加えましたが、アレは距離や能率に関係なくミシェルさんを狙った。それが、ローザさんが応急処置の回復魔法を使った瞬間、ヤツはターゲットをローザさんに切り替えました。そこまではいいですよね?」

「偶然を考慮しないなら。」

 アデルの説明に返答するのは全てローザだ。

「で、次はそれなりの距離を取っていた俺にターゲットを移した。これは離れた所で“火力付与”を使ったためです。あいつ、魔法が発動した瞬間に頭をこちらに向けましたからね。可能性は高い筈です。」

「なるほど。」

「で、最後はローザさんの“聖壁プロテクション”に反応したと。」

「なるほど……ん?」

「ん?」

 一度納得したローザがそこで再考する様子を見せる。

「それじゃあ、あなたが指示した“聖壁”は私にターゲットを移すためだったと?」

「最後の確認したかっただけです。タイハナイデスヨ__」

「こいつ……!」

 ローザが立ち上がって怒りだすが、アデルは続ける。

「魔力に反応するのか、魔法の発動に反応するのかの確認をしたかったんです。」

「どういうこと?」

 ローザはアデルに恨めし気な視線を向けながらも座る。そこはテラリアのアカデミー首席。自分の感情よりも打開策が優先だ。

「魔力に反応するのであれば、魔力を付与した俺の槍を狙う筈ですが、アレは“聖壁”の発動後はローザさんを狙った。もちろん、“聖壁”が対象者の周りに魔力を張るというのであれば、対象は俺に戻る可能性もありましたが……」

「つまり、魔法の発動に反応すると?」

「恐らくは。そしてそれは距離に関係しません。ある程度は感知範囲などもあるのかもしれませんが……」

 そこでアデルは周囲の反応を窺いながら続ける。

「で、作戦案です。まず最初に、突入前に順番に“火力付与”を掛けます。効果時間は約四半時間(15分)と考えて下さい。で“火力付与”の魔法ですが、残念乍ら名前の通り、武器にしか効果が及びません。防具は現状のままで挑む事なります。できれば気休めでも“聖壁”も欲しいですね。ミシェルさんは何かしらの魔法が使えたりしますか?」

「……いや、まったくだ。」

 ミシェルが不服そうに答える。

「と、なると、防御面で一番頼りになるミシェルさんから一度ターゲットが逸れると、もう元には戻せなくなりますね……」

「そうなると、私とアデル、カタリナで順番に引き付けるって形になるかしら?」

「あー、俺なんですが、所詮付け焼刃でして、本来の“魔法使い(スペルユーザー)”クラスである、《神官》や《聖騎士》の様にはいきませんよ。せいぜい、4人の武器に“火力付与”を配った時点できつくなるかと。

「都合のいいことばかり言うのね?」

「いやいやいや、元々使えるとは思ってなかったでしょ?《戦士》に無茶言われても困りますぜ。」

「ネージュは?」

「まだ教えていません。俺が確実に発動できるようになったら俺から教える様にって言われてるんですがまだ時間が取れなくて。」

「そう……」

「で、アレですが今のところ飛び道具は所持していない様ですね?」

 アデルがそう言うと、ローザも何か気付いたように不敵な笑みを浮かべる。

「なるほど。そういうこと……」

「です。一応勝算と言って良いのではと。」

「わかったわ。準備は今の案通りで良いでしょう。問題は、最初にミシェルがアレを引き付けられるか、次に、一度アレが目標を切り替わった後どうするか、ね。攻撃力的には私が一番上、耐久力的にはミシェルが一番上、だけどミシェルから他に目標が切り替わったら、アデルか私、カタリナしか引き付けられないと。」

「いっそのこと、俺が引き付けて防御に専念しますか?楯を貸してもらえれば粘れるだけ粘りますが?」

「ミシェル?」

 ローザがミシェルに尋ねる。一番上等な楯を持っているのがミシェルだからだ。

「……わかりました。」

 かなり嫌そうな表情をするがミシェルが同意した。

「それなら……最初からアデルが引き付けられるわね。その後一回ターゲットが飛んでも、回復の後に取りなおせるかも。それが一番安定しそうね。」

(勢いとは言え、まさか自分が進んでこのパーティの楯役タンカーを買って出ることになろうとは……まあ、カタリナはアテにしてもいい……か?)

 アデルは内心で苦笑した。

「この遺跡には私たち以外足を踏み入れていない筈よ。慌てることはないわ。一度休憩して、万全の状態で挑みましょう。」

 ローザがそう言うと、一同無言で頷く。

「ちょうど周りに机やらベッドやら備えられてる部屋が沢山あるし……これは寄付してあげるわ。」

 そう言いローザは液体の入った小瓶をアデルに渡す。

「これは?」

「魔力香よ。1~2滴布に垂らして香りを嗅ぎながら休むと消耗した魔力が回復するわ。使い方がわからないなら……カタリナに教えてもらいなさい。」

「お?おう……そっちの方が効率もいいかもね。それじゃそっちの部屋に行こうか。」

 突然話を振られたカタリナは一瞬困惑したが、少し思慮した後アデルを先ほど探索した部屋へと促す。

「ティルザ。あんたは魔法も戦闘も関係ないんだからここで見張ってなさい。もし何かあったらすぐに知らせること。何もなかったらだいたい1時間後くらいに起こしに来なさい。」

「はい。」

 ティルザが無機質に返事をして頷いた。




 アデル、ネージュ、カタリナの3人で古の住人の個室と思われる小部屋に入る。

 中にあるのは他の部屋と全く同じ。机、ベッド、書棚だ。アデル達が以前借りていた部屋よりもさらに狭い。碌に堪能する前にこの探索に駆り出されたが、ディアスの引っ越し手伝い後に貸与された部屋と比べると2ランクは落ちると言える。今よりもずっと進んでいたと思われる旧文明時代で一体どんな生活をしていたのだろう。

「アデル君。ハンカチか汗拭き用のタオルとかある?」

「ありますよ。」

 カタリナにそう言われ、アデルは荷物袋からフェイスタオルを取り出す。

「いいもの持ってるね。それじゃあそこで仰向けで寝てみて。」

 カタリナはそう言うと、アデルのタオルを手に取り、古びたベッドを指さす。ここのベッドも布地は完全に解れており保温などの効果は期待できそうもないが、気休め程度の緩衝材くらいにはなる。埃を適当に払ってアデルはカタリナの言う通りにあおむけに横たわる。

「宜しい。で、これをね……」

 そう言うとローザが渡した瓶の蓋を開け、折りたたんだタオルに1~2滴垂らす。

「これを顔に掛けて寝るといい。魔力も回復するし、リラックスもできる。見張りがいなくても寝れちゃうくらいにね。」

 言葉と共に受け取ったタオルを顔の上に置いてみる。確かに心地よい匂いがしてくる。

「あの様子だと、30分くらい居眠りしても大丈夫そうだね。ちょっと脇に動いてくれる?」

 カタリナがアデルの身体をベッドの端に押しのけようとするのでアデルは身体を上下交互に浮かせながら自主的に動く。

「ティルザが見張ってるから大丈夫だと思うけど……少し私も休ませてもらおう。ネージュちゃんも適当に警戒しつつ休んじゃってくれていいからね。」

 カタリナは自分のハンカチを取り出し、同じようにそれに魔力香を数滴垂らし顔に乗せるとアデルのすぐ横で寝転がと、程なくして寝息を立て始める。

 無防備なのか、信用されたのか、鼻から男と見られていないのか、何かもっと別の思惑があるのか……量りかねるままアデルも香りと睡魔に身をゆだねた。



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