無謀と無策
直近のあらすじ
貴族様(めんどくさそうな人)が現れた!→いいから旧文明の遺跡いくぞ。
→大丈夫か?このパーティ…… →ネージュ初被弾。傷は浅くはなさそうだが……
げぇっ!ゴーレム!? ←イマココ
鉄の山はゆっくりと立上ると、高さ5メートル程の人型になった。
冒険者として話くらいは聞いたことがある。ゴーレムだ。
――遺跡で金属製のゴーレムが出てきたら回れ右だ。
そして、つい先日別れたばかりの大先輩の言葉を思い出す。
ネージュとティルザが即座に離れると、
「ふん!ガラクタが……!」
とローザ、それに釣られてミシェルが武器を掲げて突進する。
「待て!そいつは!」
アデルが大声で止めようとしたが遅かった。というより、聞く耳を持たれなかった。
「おいおい。マジかよ……」
護衛対象が突撃してしまったなら仕方がない。アデルも慌てて追い掛ける。
ガキィィンと金属同士が激しくぶつかる音が響く。
最初に攻撃を入れたのはミシェルだ。鋼鉄製の長剣をゴーレムの左膝に振り降ろすが、弾かれてしまった。
緩やかな、そして滑らかな動きでゴーレムの頭部がミシェルを捉える。
ブンッっと質量がある物が空気を切り裂く音がすると同時に、再度金属同士の衝突の音がしてミシェルが盛大に吹き飛ばされる。
幸い、楯による防御が間に合ったため、体勢を崩した以外はそれほどのダメージには至っていない様で、ミシェルはすぐに立ち上がる。とはいえ、衝撃で腕がしびれているのだろうか、楯が持ち上がらない様だ。
更に金属音が響くと、今度はローザがやはりゴーレムの左膝に長剣を振り降ろしていた。
しかし、ゴーレムはそれに怯むことなく、無造作に方向を切り替えると、ミシェルに向って更に腕を振るう。
十全のガードが出来なかったミシェルは今度は胴部に太さ1メートルはあろうかと言う腕に薙ぎ払われる。
「がっ……はっ!」
そのまま体ごと数メートル吹き飛ばされ、更にその先にあった石壁に叩きつけられ、ミシェルはついに剣と楯を落してしまった。
「野郎!」
アデルも負けじと槍を左膝に叩きつけるが、激しい音が響くのみで槍は弾かれてしまう。それどころか、アデルの古い鉄槍ではゴーレムに微かな傷を与えた所で刃こぼれを起してしまった。
「まじかよ……」
やはりアデルの攻撃もゴーレムには何の痛打にもなっていない。ゴーレムは何事もなかったかのように吹き飛ばされたミシェルへ足を踏み出す。
「ローザさん、ミシェルさんの応急処置だけして外に運び出そう。」
自身の渾身の攻撃が通らなかった事と、盛大に吹き飛ばされたミシェルに気を取られて半ば呆然となっていたローザは慌ててミシェルに駆け寄る。
ローザは短い詠唱と共にミシェルに回復魔法を掛ける。淡い光がミシェルの全身を包むとミシェルは果敢にも自分の武具を拾う。
「ちょっと!護衛!仕事しなさい!」
ローザがアデルに怒鳴り付けるが、アデルは冷静だった。ゴーレムの視線らしきものがミシェルからローザに移ったような気がしたからだ。
「ネージュ、ミシェルの脇を抱えて外に退避させろ。」
「わかった。」
「いらん。まだやれる!」
アデルの大声に、ネージュは同意を示すが、当のミシェルがそれを拒否した。
「動けるなら動けるで一度下がってカタリナの治療を受けてくれ!ネージュ。引っ張ってでも一度外に出させろ!」
アデルはそう叫びながら、ゴーレムの、今度は右膝に向けて渾身の一撃を叩きこむ。槍が持つか心配だったがそちらはなんとか無事だったようだ。しかし同様にゴーレムの膝もほぼ無傷と言えた。
「ちょっと!?」
ミシェルが引っ張ろうとするネージュに文句を言い掛ける。
「フラフラじゃない……」
「とりあえず少しでいいから一旦下がってくれ。」
ネージュとアデルにそう言われるとミシェルはローザの指示を仰ぐ。
「一度下がりなさい。」
ローザにそう言われると、ミシェルは渋々と後退する。何とか両手の武具を握ったまま、ゴーレムに背を向けないように下がる。
「はああああ!閃!」
ローザが気合と共に大きく振りかぶり、ゴーレムの左膝を剣で叩く。今度は先ほどよりはまともな傷を与えられたようだが、膝を崩すにはまだまだ至らない。
「なっ!?」
「ローザ様!?」
ゴーレムはお返しとばかりか、左腕をローザに振り降ろすがローザは間一髪でそれを避ける。するとゴーレムが振り降ろした拳の下にあった石床が盛大に砕けた。
ローザは一旦長めに距離を取ろうとするが、ゴーレムはすぐに――と言っても、その歩みはゆっくりだが、ローザを追う。
(今のうちに)
アデルは先日習ったエンチャントウェポンを唱え槍を強化したところで……
(え……?)
ゴーレムがこちらを睨んだ気がした。
否、気がした、ではない。明らかにゴーレムはローザへの追撃を止め、アデルに向かって来出したのだ。
(……そう言う事か!)
アデルは一つの考えに至り、ゴーレムの腕に注意しながら一気に接近する。
「ローザ!このままじゃ武器が持たん。一旦下がろう。」
「はあ?ここまで来て何言ってんの!?」
緊急時につき思わず呼び捨てにしてしまった事は咎められなかったが、ローザがふざけるなとばかりに声を荒らげる。
「ふんっ!」
アデルは再度鉄槍を振り降ろすと、今度は先ほどよりも深い傷を負わせることができたことを確認する。
「一旦立て直すだけだ。まだ手はある……多分。」
最後に若干弱気が入ったがアデルはそう言い、すぐにローザから離れる。そこへ、ゴーレムの腕が振り降ろされた。
「まともに食らったらかなりまずいな……とにかく準備時間が欲しい、一度下がりましょう。あ、余裕があったら一旦プロテクション欲しいっす。」
「……勝算はあるんでしょうね?」
「ないことないって所ですかね。少なくとも無策で続けるよりは現実味があります。」
ローザは疑わしげな目を向けつつも、現状打開策は殆どないことを悟り受け入れる。
「ネージュ、先に外へ出ておいて、俺が合図したらすぐに扉のスイッチを切り替えろ!」
「ん。」
ネージュは短く頷くとすぐに行動に移す。慎重に後退していたミシェルも撤退が合意されたことと、充分な距離を確保できていたことで出口に向かって走り出す。
“聖壁”
ローザが魔法の詠唱を終えると、アデルとローザに一瞬青い光が灯る。術がちゃんと発動したようだ。
「気休めにもならないでしょうけどね……え?」
ゴーレムのターゲットがアデルに移っていたので少し油断していたのだろう。魔法の詠唱を終えたローザが何の気なしに息を吐いたところにゴーレムの腕が襲う。
「危ない!」
アデルがとっさに反応し、ローザに飛びつき体ごとゴーレムの攻撃範囲から離れる。一瞬年上のお姉さまを押し倒す形になったアデルだが、聖騎士のプレートアーマーの上からでは何の感慨もない。
「御無礼を。文句はあとでまとめて聞きますから武器は絶対に離さないでください。」
アデルはすぐに立ち上り自分の楯を捨てると、両腕でローザを抱きかかえてそのまま全力で入口を目指す。
「ネージュ!今だ!」
あと入り口まで2メートルと言った所でネージュに指示を出すと、すぐに行動に移され、鉄扉が閉まっていく。
あと1メートルというところで、アデルは後ろを一切確認せずにローザを抱えたままヘッドスライディングの要領で部屋の外へ飛び出す。
ほんの一秒くらいの間を置いて、鉄扉が完全に閉まる音が聞こえた。
「アデル君。意外とやるねえ。年上好み?」
再度ローザを押し倒した形になっているアデルにカタリナが声を掛ける。
「痛ぇ!?」
その言葉にいち早く反応したのローザの膝蹴りをくらいアデルはローザの上から転がり落ちた。
「どういうことなの!?当然説明はしてくれるんでしょうね?」
ヒステリックに叫ぶローザの顔が心なしか朱に染まっていたのは気のせいだろうか。




