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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
南部興亡篇
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救出依頼

 示し合わされた当日の夕方。アデルはティナ、ネージュ、アンナを伴い、まずはティナの【次元門ディメンジョンゲート】のポータルが設置されているモニカの私室へ移動する。

 そこでモニカと合流し、改めてピートたちがいる村へと転移した。こちらもティナが複数回訪問している為、安全そうな場所に門を開く。

 消耗はそれなりらしいが確かにこの上なく便利な魔法だ。また1回の発動で3分程は門を開いたままに出来るため、集団の移動等、フローラやルーベンらカールフェルト勢がティナを取り込みたいという気持ちもわかってしまう。正確な座標、若しくはポータル、或いは視認が必要と条件はいろいろあるが、まさに地味ながら戦略兵器級の魔法である。アデル達にとってはフロレンティナの“疑似【隕石召喚メテオストライク】”よりも有用な魔法である事は間違いなさそうである。


 現地にはまだルイーセらの姿は見えない。

 モニカが言うには連絡は既についており、モニカの配下である翼竜騎士とピートが連携して会談の場所を設置した様だが、ルイーセの到着がやや遅れている様子だ。

 しかし、陽が落ち、暗くなり始めると同時にルイーセが1人の部下を伴い村の入り口に現われた。

 セッティングされた会談場所にはアデル、ネージュ、アンナ、そしてティナとモニカ、それにルイーセと部下である――元々は同僚であった筈だが、例の6人に聖騎士の内の1人、ファネッサが臨席した。尤も下半身が馬と化しているルイーセ達には座れる椅子がない為、立ったままであるが。

 まずは挨拶代わりとアデルとネージュ、ルイーセとファネッサが無言で睨み合う。

 自領からの逃亡民 vs 搾取者にして何度も厄介事を齎した相手だ。お互い快くは思っていない。

「さて。フェルベルネ王国の生き残りがいるという話だが?」

 そんな空気を読んでか読まずか。ティナがモニカよりも先に話を切り出す。

「そうだ。テラリア北西の遺跡で私が発見した。」

 ルイーセが強めに言う。

「馬になる前にか?」

 時期を聞きたいだけなのだが、普通に聞けなかったかアデルがそう言うとルイーセとファネッサは表情を険しくしつつも正確に答える。

「この姿になる前だ。第2皇女エリサベトの指示による2度目の調査の時だな。」

「……それがフェルベルネ王国の生き残りであるという根拠は?」

 当人たちの表情など全く意に返さずティナが淡々と質問する。

「本人が『フェルベルネ王国』の者だと言っていた。私も当時、その名を知らず、意味が分からかったのが悔やまれる。」

 なるほど。アデル達のカミラ同様、その翼人はグルド山北東部の遺跡で発見されるも、ルイーセがフェルベルネを理解できず、その重要性を知らずにエリサベトに引き渡してしまったのだろう。

「今はどうしている?」

「……エリサベトに囲われている――いや、『飼われている』と言うべきか。」

「どういう意味だ?」

「エリサベトは“人間至上主義”の中でも先鋭的な奴だ。翼人も獣人も大差ない。むしろ――人間以外の美形の男を鎖に縛って囲うのが趣味だ。」

 テラリア皇国も表向き・・・は奴隷の売買や所持が禁じられている。しかしどこへ行っても“表向き”と注釈を入れられるのはこういう事例が少なくないからであった。特に上級貴族に於いては珍しくもない。あくまで『保護している』或いは『囲っている』である。

「……翼人の美形の男か……」

 アデルはチラリとアンナを見て呟く。

「女は何人か見て知っているけど男は初めてだな。」

「……言われてみれば私もです。」

「アンナでもか。まあ、もともと里から外で生まれていたし仕方ないのか。」

 アデルとアンナがそんなやり取りをすると、少々邪魔そうに眉を寄せてティナとルイーセが続きを始める。

「で、それを保護する目的は?」

「対邪神の鍵となり得ると見ている。」

「……『なり得る』ね。確かに当時の話を聞ければそれなりの価値はあるだろうが……」

 ティナがアデルをチラ見する。

「まあ、手の届く範囲で出来ることは出来るだけやろうって方針は曲ってないがね?」

 アデルがティナにそう返す。

 アデルとしては無関心ではないが、ここで取るべき手、付けるべき話を理解しかねている。この交渉は全面的にティナに任せるべきだろうと考えた。

 また、保護対象は翼人。皇国の人間以外への扱いを考えれば可能であれば救いたいとも思う。どちらにしてもアンナ、延いてはユナやリシアにも影響を与える可能性はあるかもしれないが。


「成功条件はその翼人の救出、報酬は情報の共有と言ったところか?」

「「おお」」

 ティナの言葉にアデルとネージュが反応した。

「……何だ?」

 いきなりのアデル達の反応が気になったかティナがアデルを見て問う。

「いや、ティナが冒険者らしいことを言いだすからつい。」

「私たちには1ゴルトの収入にならないけどね……」

 ……この兄妹は――

 ティナはふっと鼻で笑うと視線をルイーセに戻す。

「確かに利益があいまい過ぎるな。そやつが有益な情報を持っているとは限らないのに。」

「救出できたならその身柄はお前たちが好きに使えばよい。邪神の事に限らず、昔の事、その技術、全てお前たちが好きに聞き出せばよい。」

「「「……」」」

 ルイーセの答えにアデル、アンナ、ネージュが閉口する。救出された後の本人の意思などお構いなしだと言うのだ。この辺りは思考が今だに皇国聖騎士のままである。

 ここまでくると、当初は単細b――脳筋かと思われたハンナの決断と、ピートが想像以上の数のケンタウロスを調略できたのも納得できてしまう。元同僚であるはずのファネッサら3人の――3体の部下も良く大人しくしているな……とは思うが、その辺りはルイーセが単純に“強い”のだろう。

 確かに祖国に裏切られ、複数勢力が割拠し手を組み合う情勢の中でそれなりの勢力を維持できているだけでも十分な強さではあるのだが。

 アデルはそんな事を考えつつティナの反応を待つと、ティナは

「悪くはないか。あとはその作戦の難易度次第だが……手や目はあるんだろうな?」

 乗る気の様だ。しかし押さえる処は押さえる。

「……必要があれば、ドルケンなりそちらなりの作戦に合せる。場所は――」

 ルイーセはそう言うとモニカに視線を送った。

「現在のエリサベトがいる陣の場所はこの辺りだ。高高度に対する対空手段がないのか、200メートル程の高さを飛べば奴らの攻撃は飛んでこない。」

 どうやら高高度からの偵察はし放題であるようだ。そしてそれがドルケンや他の竜人、そして第1皇子派相手に苦戦の連続を強いられている原因でもあると察せられる。

「ただし、地上の兵の数は多い。『後がない』と分かっている分、士気も常に高い。我々――ドルケン軍と言う意味で、だ――正面から殴り合うのはかなり厳しいだろう。」

 その分地上部隊の練度・士気はすこぶる高いようだが。

「エーテル弾が500発も用意できれば楽勝なんでしょうけどね……」

「出所が連邦だからな……調達の望みは薄い。」

 アデルの呟きにモニカが馬鹿正直に答える。

「……シルヴィアやドルフだったら1人で半壊くらいにできそうだけど……」

 ネージュが呟く。

「シルヴィアは知らんが……ドルフの主敵は第2皇女――正式には第2皇子ヤーコブ派か。ではなく、第1皇子アードリアン派とその背後の竜人だからな。それにヤーコブ派には生粋の上位神官も多い。結界、破魔、対蛮族、吸血鬼などはどれも強力な神聖魔法が揃っている筈だ。不本意だが、ある意味で皇国として真っ当な後継はヤーコブ派だからな。エリサベトが絡んでなければ我々もそこにいた可能性はある。」

「その派閥がその姿を受け入れてくれるかね?実験材料にされるのが関の山だと思うけど。」

「……」

 ネージュの呟きに応えるルイーセにアデルが突っ込みを入れるとルイーセとファネッサが神妙な顔をして閉口する。この期に及んで自分たちは大丈夫という認識があったのだろうか。

人間を加工・・・・・する。どちらにしろそんな技術が表に出る可能性を含む奴らをおおっぴらにはしないだろうよ。ただ……施設、設備――遺跡が生きているなら、裏で亜人たちにいろいろやっていそうではあるがな。」

 ティナが言う。全く以てごもっとも。今の皇国、特に第2皇子派なら『戦力強化!やっぱり俺達神に愛されてる!』とかいいながら手元に残している亜人たちを手当たり次第戦闘力の高い何かに加工していることだろう。そう考えると、ドルフやランドルフと共闘状態の第1皇子派がテラリア北部を押さえているのは幸いなのかもしれない。

「どちらにしろ偵察は必要だろうが……その翼人と接触、或いは目標の識別は出来るのか?」

 ティナが話を戻した。

「エリサベトの周りに翼人は一人しかいない。セシルはいたく気に入られているらしくてな。夜な夜な……最近は当り散らされているそうだ。」

「いるそうだ?密偵でもいるのか?」

 ルイーセの言葉にティナがすぐに反応する。

「……いる。かつてのヘンドリクス家の使用人を何名か潜りこませている。が、最近は部隊内の監視が厳しい様でうまく接触できていない。セシルとの接触はさらに難しそうだ。」

「……なるほど。主殿。この依頼はモニカ殿に仲介をしてもらったうえで受けて良いと思うぞ。その翼人はセシルというのだな?フェルベルネを知る者をカーミラにくれてやるのはいろいろ憚られる。」

 ティナがそう結論を出した。


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