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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
南部興亡篇
363/373

立ち上がる

評価&BM、誤字報告有難うございます。

 1年分のイベントを1週間に圧縮したような怒涛の5日が経過し、最後のイベントとも言えるルーベン・カルローネ侯爵との商談の日がやってきた。

 約束通り午後9時付近にティナの【次元門】で転移先として指定された部屋へと移動し、部屋に待機していた者に取り次ぐとその部屋に先日同様ルーベンとシモン父子、そして執事長と思われるマヌエルの3名が現われた。

 ヴェントブルーノからの参加者はアデル、ティナ、フローラ、オルタ、そしてゲスト参加のグラシアである。

 ルーベンとグラシアは互いの顔を見、互いの状況を見るとやや気まずそうな表情を覗かせた。

 簡単な挨拶をすませた後、すぐに本題へと移る。

 まずはこの商談が非公式且つ内密なものであると確認がされ、双方とも他言無用の確約が宣誓された。そしてカルローネ家からの要望だ。


 カルローネ家からヴェントブルーノへの要望は最高級の武具3セット、騎士装備30セット、そして汎用の槍・剣・楯を計500ほどとの事だった。額にすれば数十万ゴルト単位の大口契約である。

 同時に用意できるものとして、金子きんすの他、経理他必要な人材の派遣・紹介、そしてカールフェルト及びタルキーニ中枢への口利きを行うというものだった。

「カールフェルト及びタルキーニ中枢と言うのは、大公のことですか?それとも……」

「……大公の後の話だ。」

 アデルがルーベンに尋ねると、ルーベンははっきりとそう言った。

 商談最初の他言無用の宣誓から不穏なものは感じていたが、ルーベンらは既に大公の次を見ているらしい。

「それは即ち、大公の次を用意できているという事か?」

 その答えに反応したのはアデルではなくティナだった。

「……そうだ。フローラ、覚悟は決まったか?」

 ルーベンはティナではなくフローラにそう声を掛ける。アデル達が怪訝な表情を見せる中、言われたフローラは静かに『わかりました。』と頷き、大きく深呼吸をする。

 すると意を決したような表情をし何かの詠唱を始めた。


 そして程なくその魔法が実行された。

「なんだと!?」

 大声で驚いたのはティナだった。同時にグラシアもまた目を見開いて驚いていた。

「ん?それは……」

 メイド服だったフローラの姿が、光り輝く騎士の姿になっていた。アデルとしてもどこかで見覚えのあるものだ。

「流石だ。これが何であるか知っている様だな?」

 ルーベンが満足げに言ってくる。しかしアデルはフローラの使ったと言う魔法自体は知らない。

 アデルはチラリとティナを見ると、ティナは呼吸すら忘れている様に驚き固まっている。今迄に見た事のない様子である。

「ティナさん?」

 アデルは固まっているティナの目の前で手をひらひらさせるが反応がない。呆然というか……まさにこの世ならざるものを目にしているかの様子である。

 あの邪神の話にすら動じなかったティナが、である。

「おおーい?」

 仕方なく?アデルはティナの頬をつつき、ふにふにしてもまだ反応がない為、ペチペチと軽く叩いてみる。そこでようやくティナが我に返る。

「……神装――それも――カールフェルト王家に伝わる筈の物で間違いない。」

「え?それって……」

 ティナの言葉にアデルも少しずつ理解を始めた。神装――初代王の血を引く者しか具現化出来ないと言う魔法装備である。つまりは――

「フローラが初代王の系譜?ってことはカルローネ家が次を継ぐのか?」

「聞いていないぞ?」

 アデルの言葉には答えずティナはルーベンに低い声で言う。恐らくはカルローネ家が“古き血”とやらの継承者である事を知らなかったのだろう。

「……残念ながら……当家は古き血族ではないのだ。」

 ルーベンはため息をつきフローラにやや悲しげな表情を向け、魔法を解除させた。

「ここから先はフローラが認めたあなた方だからこそ話せる話です。そしてそれは聞いてあまり気持ちの良い話ではないでしょう。そしてくれぐれも他言無用でお願いする。」

 そういうとルーベンが語り出す。

 それは俄かに信じがたく、そして哀しすぎる話であった。


 まずは結論から入った。フローラの親はルーベンとミゲラではなく、フィデル王とフロレンティナ女王だというのだ。つまり今現在ローレンス大公が収まっている場所と言うことになる。

 到底信じがたい話だが、フローラが神装を具現化させたことが何よりの証拠であると言う。これはティナとグラシアが可能性は高いと認めた。

 次いでここに至る経緯だ。

 フィデルは軍門に降したフロレンティナを手籠めにした後、1人の子を産ませた。公式にはそれが第3王子、現ローレンス大公と言うことになっている。

 だが実際はそうでなかったのだ。

 古き国、由緒あるカールフェルト王家を完全に乗っ取り、2度とフィンに刃向い、又は復活させられない様にと、子の取り替えを行ったのだ。ローレンスはフローラより数日先に生まれた、フィデルと第5妃イサベルとの子供で、フロレンティナの血は入っていない。そしてフィデルは取り換えの際、実の子であり、カールフェルト王家の唯一の血を持つフローラを殺す様に家臣に命令をしたと言う。ルーベンはそれを聞きつけ、同時期に生まれたルーベンの実子とフローラをさらに取り替え、フローラを匿ったと言うのだ。

 つまりルーベンとミゲラは己の子供を犠牲にしてフローラを、カールフェルト王家に残された唯一の子を引き取ったと言うことになる。

 これに関し異を――疑問を投げかけたのがアデルだ。

「フロレンティナ――様?は、ローレンスが自分の子であると信じて他のブリーズ国やグランに侵攻したんじゃないのか?」

「陛下はご出産の折、一度としてその子を――抱くどころか見ることすら叶わなかったと言う。フィデルの手配した産婆にすぐ引き取らせ接触を禁じられた。恐らくローレンスが産まれた時点で完全乗っ取りを計画したのだろう。かなり徹底されていたと言う。」

「……ってことは……差し出したあなた方の子と言うのは……」

奇跡的・・・にも娘だった。尤も我らの子が男であったとしても手を尽くして身代わりを用意したであろうがな。」

 ルーベンの言葉にアデル達は閉口する。

 えぐい話であったが古き国の貴族にとって古き王家の血脈は何に於いても代えがたかったのだろう。実際、フィデルの計画が成功していたら彼らのみならず、他の旧貴族やその家臣、家来までずっと本来の場所に戻る事はできなくなるのだから。

「でも、その魔法?って、口伝で王と継承者、教皇しか知らない筈ですよね?いつの間に修得していたんですか?」

「……今の教皇であられるサロモン様は前王とフロレンティナ様の引継ぎも執り行っていた方だ。何度も事情を説明し、フローラが試験を突破したことにより教えて貰えた。フローラが12才、王宮へ召される直前の話だ。」

「また冒険をしますね……でも裏を返せば……今の教皇はローレンスが血を引いていないという事を知っていると?」

「そうなるな。」

「その教皇が『現時点で認められない』というのは……」

「『現時点で』と言うのは……周囲、そして本人にも悟らせないためだ。」

「つまり、いつまでたっても『現時点』が続くと……」

「そうなる。」

 つまりローレンス大公がカールフェルト王国・・の王と認められることは永遠にないとのことである。

「それじゃ具体的に――いや、なんでもないっす。」

 具体的にどうするのか?そう聞こうとしてアデルは思い止まる。この先にどういう答えが返って来るかはもう予想できたからだ。何故、非公式に大口の武具発注が必要なのか。理由は一つしかない。その矛先が西へ向かうか東へ向かうかの差なのだ。

 アデルがそこで言葉を飲み込むと今度はオルタがルーベンに質問する。

「フィデルが仮にあんたの命でその娘を助けるって言ったら差し出してた?」

 ぶっきらぼうにオルタが尋ねる。

「……無理だな。我々は最初からフィデルを信用していなかった。そしてそれに同意したとなれば我らがローレンスの正体を知っていることを白状する様なものだ。間違いなく潰され、消されていただろう。」

 ローレンスと生まれが近かったというだけで、ルーベン達の本来の子は1か月に満たない寿命が確定してしまった様だ。仮にローレンスの生れがもう少し遅かったとしたら、フローラの生れがもう少しずれていたら……別の赤子が犠牲になっていたのかもしれないが。


「……大正解だな。」

 ルーベンの答えにオルタは大きく頷く。そして――

「信じていいと思うぜ?」

 オルタがアデルにそう言った。ティナやグラシアが認めている時点でフローラがフロレンティナの娘であったことはほぼ間違いなかったのだが、オルタはこの経緯に嘘がない事を保証したのだろう。

「この者は?」

 突然話に割り込んだオルタにルーベンは眉を顰めアデルにそう尋ねる。

 アデルはオルタに関してどこまで開示して良いのかわからず、少し困った風にオルタを見遣るとそれに気づいたオルタが改めて自己紹介を始める。

「ここでの話は互いに・・・他言無用なんだよな?」

 オルタがそう確認するとルーベンも険しい表情で頷く。

「フィデル王第4妃、クリスティーナの子。通称世捨て親子の片割れだ。」

「なんだと……」

「何ですって!?」

「何だと!?」

 オルタの自己紹介を聞いたルーベン、フローラ、そしてティナがそれぞれの驚きを見せた。

 ルーベンとフローラは互いに視線を送り合うと、わずかに『しまった』という表情が覗く。

「出来ればフィデルはこの手で――今の(・・)フィンもこの手でぶっ壊して見たかったんだがなぁ。」

 ルーベン達の反応を少し面白がったかオルタが不敵な黒い笑みを浮かべてそう言う。

「どういうことだ?」

 そう尋ねるルーベンにオルタは母と本来の婚約者が受けた仕打ちとフィデルの外道ぶりを披露した。ただ以前一度聞いていたアデルはやや冷静に、外道なのはフィデル王よりも最初に召し上げた地方領主の方が原因なのではと思ったがそこは口にしない。

「つまりあいつならこれくらいやりかねんて話だ。アイツを1ミリでも本気で信じたらダメなのさ。ついでに……だからこそか?あんた達やフローラが悩んでいる事も分かる。」

 急に真顔になり声のトーンを落としてそう言ったオルタにルーベンとフローラが睨むような視線をぶつける。

「フィンの――“強欲”フィデルの血をそのままカールフェルトの王に据えていいのか?って悩みだろ?」

「なっ!?」

「…………」

 オルタの言葉にフローラは露骨に驚き、ルーベンは険しい表情で互いを見る。図星であった様だ。フローラはオルタ同様、己に流れる血の半分を忌み嫌っているのだ。オルタの一言、そしてこのフローラの反応でアデル達もフローラの内心、秘された悩みを察してしまった。

 フローラがフロレンティナ唯一の子供であるというなら、同時にフィデルの血をも引き継いでいることになる。その血を由緒ある古き血と混ぜ後に公に残して良いかという悩みというか葛藤なのだろう。

「それに関しては……フローラに一時的に王を引き継いでもらう。その後、グラシア様と誰かの子を引き取る事が出来れば、忌まわしき・・・・・血が次代のカールフェルトに残る事はない。」

 ルーベンの言葉にアデル達――グラシアまで含めてだが――が閉口する。彼等は“個人”というものを一切見ていない。ただ古き血脈の存続しか頭にないようだ。そもそも、そうであるから自らの子を犠牲にフローラをここまで育てて来ていたのだろうが。

「それはまだ10年以上先の話として……フローラは本気で王を継ぐ――勤める気はあるのか?フロレンティナの辿った道を知った上で同じ場所に立てるのか?」

 ドスの効いた声でティナが問う。戦闘や戦争はルーベン達が執り行うのだろうが、その後フローラに待つのは茨の道以上に険しい道だ。

「立てる立てないの問題ではありません。今まで生かして育ててくれた方たちに報いるためにも立つしかないのです。……勿論、頂ける協力は有難くいくらでも頂きたいところですが。」

 半ば脅しの様なティナの言葉にフローラは毅然と答える。最後に少し表情を緩めて何かのアピールをアデル達に向けた様だが。

「時間はどれだけある?」

 フローラの目を数秒、じっと睨みつけていたティナがルーベンに問う。

「フィデル横死のせいで何とも言えなくなった。計画ではあと1~2年準備するつもりではいたのだが……」

「……もし待てるなら待った方がいい。1年あればフローラを一人前の《魔術師メイジ》に、知識を伴わない急造の能力のみの《魔術師》で良いのであれば、それこそ私と同程度の【次元門】も扱えるように鍛えてやるが?」

 ティナの申し出にフローラとルーベンが目を見開く。

「まあ、そう望むなら店の経理を任せられる者と、家事ができる者をそれぞれ派遣してもらわねばならなくなるがな?」

 ティナは今度はアデルに言う。経理を丸投げして魔法の訓練という名目で自分が魔法に関われる時間が増えるならこれ幸いと言ったところだろうか。ある意味徹底的である。

「……経理のサポートは契約の中に含まれてたよな?こちらとしては、本意はともかく実務は店を最優先にしてくれる人間じゃないと受け入れにくいんだが……今回の武具取引を含めて。」

 アデルはティナに答える風に暗にルーベンに尋ねた。

「……そこは任せておいてくれ。家事を行う者も……フローラに見合うようにしっかりと人選する。」

「それならそれで結構ですが、期間はフローラを預かっている間のみということですか?」

 アデルとしてはフローラの離脱はいずれくるものと踏んでいた。まさか自分たちが引導を渡した相手の娘で、未来の女王候補だったとは思ってもみなかったが……。

「よほど変な待遇をされなければその後も残れるような者を選ぶ。可能であれば彼らの家族ごと移住できる環境を用意してやってもらいたいが。」

 どうやら派遣候補は家族持ちらしい。

「そちらは何とかしましょう。現時点で小さな宿屋を営めるような建物にしていますのでその部屋をいくつか融通します。」

 元々はブラーバ亭、宿を備えた冒険者の店をイメージして作ったヴェントブルーノ商店だ。1~2家族増えた所で収容だけなら充分に出来る。

「わかった。では“商談”の部分の契約はそれでよろしいか?」

 ルーベンの最後の念押しにアデルはティナをチラ見して確認する。

「私としては充分だ。あとは店主次第だな。」

「では納期をどうするかですね。最上級装備は最低でも1か月は見て頂きたい。汎用武器も一度に500となるとすぐには難しい。騎士向けの装備も出来ることなら相応の物に何かしら基本的なの魔法付与を行いたい気もしますし。」

「そこは承知している。2か月以内に全て何とかしてもらえれば順序は問わない。いや、汎用武器はできれば1か月以内に欲しい所か。」

「汎用の物なら各方面で掻き集めれば何とかなる……か。セット装備は希望のデザインとかはあるのでしょうか?」

「流石にそんな悠長なことを言っている時間はなさそうだ。機能性を重視してくれ。分かっていると思うが、ある程度微調整できるしろ(・・)は確保しておいてくれ。」

「セットものに関してはドルケンの職人を何人か紹介してもらえそうなのでその辺りは大丈夫です。早速手配に掛かりましょう。ところで――」

 そこでアデルは少し口を濁す風に小さく話を切る。

「何かね?」

「いえ。何というか……フローラから聞いているかもしれませんが、うち(・・)の得意先にはポルトの行政府他、コローナ王宮とかドルケン王宮とか絡んでまして色んな情報が交差します。もちろんそれを踏まえて信を寄せる者ということなのでしょうが、その辺の管理はしっかり出来る方をお願いします。」

「勿論聞いている。そして君達の“戦力”もな。」

「…………」

 ルーベンの答えにアデルがジト目気味にフローラを睨むと、フローラは強かに肩を竦めてみせる。その様子を見たルーベンが険しい表情で言う。

「言っただろう?あの陛下を“お止めした”者たちであると聞いているとな。」

 あー……前節、そんなこと言ってましたね……

「これからケンタウロスが増える可能性もありますし。戦を望むケンタウロスの需要も十二分にありますよ?」

 フローラはにこりとしてそうのたまう。

 預かった美少女メイドが想像以上に計算高く黒かった件。

「……レイラさんは本当の親の事を知っているのか?」

「直接は言っていないが、示唆は何度かしている。賢明な彼女なら承知している筈だ。」

 アデルがフローラに尋ねたが、回答はルーベンから寄せられた。レイラもあっち側だった様子だ。そういえば――

「グラシアさんに久々の娑婆で見極めて来いって言ったのは……」

 講師派遣される折、レイラがグラシアに言っていた事を思い出すと符号が合う。アデルは今度はグラシアにジト目を向けるとグラシアはふるふると首を横に振った。

「あなた達が姉さまを捕縛したということは聞いていましたが……その娘が生きてこちら・・・側にいるとは思いもしませんでした。」

「今述べたとおり、我々も|直接は言ってはいません(・・・・・・・・・・・)からな。」

 どうやらアデル達はレイラの掌で転がされていた様だ。流石長命の竜人。きたない。しかし利害は完全に一致してしまっている。個人としてはともかく屋号としては乗るしかない話である。

「今後の具体的な予定は?」

「そう遠くない内にローレンスからタルキーニ平定の命令が出るだろう。その時が“始まり”だ。」

「なんだかんだで、カールフェルトの表層は落ち着いているからな。後継争いから1抜けしたローレンスなら下手に国に戻るよりもうまくブリーズ3国を手に入れた方が得と踏むだろうな。」

 ルーベンの言葉にティナが裏書をする。

「手柄を召し上げられるって懸念はないのか?」

「属国扱いとは言え別の国扱いだ。勿論要求されるだろうがそれなりに見合う要求も出来よう。フィンの主要な奴らが潰しあいを始めれば兵力的にも今迄の様な差はなくなる。それこそレイラがいなければ、余計な欲がもたげてくるかもな。」

 フィンには何度も心置きなく|後継争い(内紛)出来る環境が整っているのだ。巻き込まれる兵士や住民はたまったものではなかろうが、荒くれもの共には逆に特需でもある。正に秩序ある無法地帯である。

「最初の取引――武具の用意と経理担当の用意はいつくらいの予定で?」

「経理担当は既にある程度候補を絞り込んでいるから1週間もあれば決められる。武具に関しては――流石に1週間は難しいだろう?」

「先程も申し上げた通り、最高級品は鍛造から魔法付与まで行いたいので1ヶ月くらいは欲しくなりますね。ただ出来合いでも質の良い武器ならある程度の前金があればそれなりに集められると思いますよ。」

(ドルケンじゃ飽和気味だし――)

「前金か……確かに相手側の信用を考えればそれなりに必要かもしれんな。よろしい。では手付金として10万ゴルト渡そう。もし可能であれば兵士に支給できる防具も別途用意したい。」

 さらりと10万ゴルトが出て来てしまった。10万ゴルトと言えば、土地さえあれば一発でそこそこ豪華な屋敷が建つ位の金額だ。

「……どこからこんな……いえ、これなら騎士鎧20、汎用品200くらいは買い付けられるでしょう。防具は……統一する必要がないなら、チェーンメイルなりラメラーアーマーなりそれなりの物を確保しましょう。」

 アデルとルーベンで商談が進む。するとそこでオルタが口を挟んだ。

「……とはいえ、500+α程度でフィンと……ローレンスとやりあえるのか?」

「500は当家で集められる精兵の数だ。雑兵を集めようと思えば当家だけで2000は集められる。他家やタルキーニの反フィン勢を集めれば2万くらいになるだろう。」

 不穏な言葉聞こえた。

「タルキーニの反フィン勢?」

 困惑の様子でアデルがルーベンに尋ねる。

「タルキーニでフィンからの解放を掲げるタルキーニ王家の継承権を持つ方との共同作戦を計画している。ローレンスからタルキーニ平定の命令が下ればその折、戦いに行くふりをして合流し、フィンからの両国奪還を目指す。ただその直前に1度フローラが必要になる。」

 ルーベンが静かにそんな事を言う。

 ルーベン達による反ローレンスの動きは予想できた。しかしその予想の斜め上を行く計画にアデル達は一層不穏なものを感じた。

「タルキーニの継承権を持つ勢力って……」

「旧タルキーニの公爵家、カッローニ家だ。」



「「「…………」」」

 その答えにアデルとオルタ、そしてティナは思わず頭を抱えた。

「フローラさん?」

 アデルにジト目を向けられたフローラも困ったように答える。

「……私もタルキーニとの協力の話は今初めて聞きました……」


 ヴェントブルーノの反応にルーベンも何かを感じたか、その意図するところの説明を求めてきた。


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