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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
邂逅編
36/373

経験と実力

直近のあらすじ


貴族様(めんどくさそうな人)が現れた!→いいから旧文明の遺跡いくぞ。

→大丈夫か?このパーティ…… ←イマココ

 翌朝、ローザの世話役であると言うミシェルに起され、彼らは宿前で合流した。

 ミシェルはフォルジェ家の陪臣の家系の次女で、ローザよりも5つ年上で、ローザが幼いころから、守役・護衛として仕えているそうだ。護衛の役目もあるため、自身も武技、騎乗共に訓練し本来の騎士と同等程度の実力を持っている。冒険者技能としての《騎士》は、純粋に戦闘・騎乗能力だけを見るので、家系や身分、本職とは関係なく《騎士》と称される。《騎士》=“王国騎士”即ち貴族である騎士ではないのでそこはややこしいところだ。ミシェルは《騎士:14》であるが、貴族でも、本物の騎士でもない。敢えて言うなら《騎兵》と分類されるか。

 

 まず、合流した時点でアデルは一つ驚いた。

 アデルの視線と驚きの表情を読み取ったローザはこれ見よがしに胸を張る。

 アデルが驚いたのはローザの装備だ。純白で統一され、特徴的な銀色の紋様の修飾が施されたフルプレート、スカート、ゲートル。テラリアの中でも極一部にのみ支給され装備が許されると言う、『聖騎士の鎧』である。だが、アデルが驚いたのはそこではなかった。

「えーっと……それ、本物スか?」

「はぁ?当たり前でしょ?舐めてるの?」

 アデルの言葉にローザは怒りを露わにするが、

「ああ、すいません。そう言う意味じゃくて……なんつーか、テラリアの神殿が国外の人間にもちゃんとそれを支給したことが意外でして……」

 アデルの言葉に、意味が解らないと言う風に眉を寄せる。

「テラリアのお偉方、特に神殿の上層部や中央の貴族はテラリア帝都こそが世界の中心と思ってる人らばかりだと思ってまして。奴ら、同じ爵位であるのに地方の領主をすごく下に見ますし。それが、留学とはいえ他国の人間にその聖騎士の象徴をちゃんと渡したことが凄く意外でして。」

「ああ、そこね。確かに、最初の成績を見た時に結構嫌そうな顔をされたわね。だからこそ、こっちも意地でも上位に食い込んでやろうと必死になったわ。結果トップになれたわ。」

「そりゃすごい。それをあなたに渡す瞬間の奴らの顔は是非見てみたかったものです。」

「まあ、色々思うところはあったでしょうけど、『伝統』とか『慣習』は大事にするみたいだわ。」

 少なくともローザの実力と努力する姿勢は本物なのだろうとアデルは納得した。少しだけローザを見る目が変わる。

 と、同時にカタリナが意外そうな顔でアデルに尋ねる。

「アデル君、意外とテラリアの事情に詳しい?」

「え?あー、元々はあちらの生れですので……」

「あれ?そうだったんだ……」

 言外に、何故ここに?というニュアンスが伝わる。

「まあ、魔の森に接する田舎村ですけどね。で、そこで鬼子の妹なんて生まれた日には……」

「ああ、なるほど。君達も大変だったんだね……」

 そこで納得するカタリナを不思議そうな目線で見ながら、

「それじゃあ早速向かいましょう。」

 ローザがそう促すと一同、急ぎで現地へと向かうのであった。



 目的地である遺跡の入口には昼過ぎには到着した。

「距離がある」とは言っていたが、馬の足ならこの程度のものだったようだ。確かに歩けば丸1日ほど歩くことになったかもしれないが。そもそも、1子爵の領土が馬の全力疾走で1日も掛るほどの広さであろうはずがない。

 遺跡の入口には警備の私兵が立っており、当主の娘であるローザの姿を確認すると、姿勢を正し、敬礼で迎えた。

「ご苦労様。変わった様子は?」

「特にありません。」

「そう。それじゃあ中に入るわ。お父様から許可も貰っている。知ってるわよね?」

「はい。しかし、お嬢様自ら入られるのですか?」

「ええ。何か問題でも?」

「いえ……」

 ローザに、馬を彼らに預ける様に言われたのでそれに従う。


 そして前から、ティルザ、アデル、ローザ、ミシェル、カタリナ、ネージュの順番で守衛の見送りを受けながら遺跡の入口へと足を踏み入れる。

 入り口からは細い木製の階段が続いているが、ここで違和に気づく。この階段、というか木材が新しいからだ。

「これが遺跡ですか?なんか新しい階段の様ですが?」

 アデルがすぐ後ろにいるローザに尋ねる。

「ここはね。元々地下にあったのよ。というか、地下に埋まっていたのよ。当時は地上にあったのだろうけどね。うちに集められた資料を分析して、この辺りに埋まってると見てあちこち掘らせてみたら、ここが一番当たりだったってわけ。遺跡のところまではただの急拵えの階段よ。」

「なるほど。」

 納得のいく説明だ。そもそも最初から今の地上にあったのなら、旧文明から変わって数百年の間にとっくに踏破されている筈だ。それが今まで手つかずのままで残されていたのはのは何かしらの理由で地下に埋まっていいたためだということだ。

 実際、それが確かであるように、遺跡本体にたどり着くと雰囲気は一気に変わる。石造りの本来入り口が姿を現したのだ。

 光源はローザが唱えた“聖光ホーリーライト”の魔法だ。神聖魔法の初級の魔法、正確には下の中級といったところの魔法であるらしい。

 しかしそこは魔法の光だけあって、松明の様な揺らぎはなく、視界も松明よりも遠くまで見通せる。盗掘者や妖魔などの敵性の先客がいればすぐに所在がばれてしまうが、中はある程度フォルジェ家によって探索済み、入り口も絶えず見張りがいるのであれば少なくとも探索済エリアでは何もないだろう。

 通路の大きさは高さ、広さ共に3mといったところか。石造りで一定の広さが保たれたそれは間違えようのない人工物である。途中、いくつか、木製、鉄製の扉があるが、すでに徹底的に探索済という事でスルーされた。ローザの持つ地図を元に、何の問題もなく、一言の言葉もなく通路を進んだ。

 中に入り、半刻程歩き続けたあたりだろうか。鉄製の扉の前でローザが止る様に指示を出す。

「さて、ここが最初の問題ね。」

「守護獣、サーベルタイガーですか。」

「報告によると、虎をベースに改造された魔法生物が2体。兵士じゃ手も足も出せなかったって話だけど……」

「……え?」

「虎ベースの魔法生物2体よ。」

「えーっと、サーベルタイガーってお話でしたよね?」

「似たようなものでしょ?」

(いやいやいやいや。)

 アデルは思いっきり抗議の声を上げたいところだが、それを飲み込む。

「確かに……こんなに肉のにの字もないところに原生のサーベルタイガーが長期間居座ってるわけもないか……」

 そこを見落としていたアデルの落ち度でもあるのだ。

「部屋の広さはわかりますか?」

「だいたい10メートル四方と書かれているわね。」

「10m四方に魔獣2体ですか。お誂え向きですね?」

「……良いでしょう。」

 アデルの言葉の意図をローザはすぐに理解した。そしてミシェルへと視線を交わし2人で頷く。ネージュについてはいわずもがなだ。

「準備ができ次第、蹴り開けます。」

「合図は私がするわ。」

 ローザはそう言うと、何かの詠唱を始める。“(プロテクション)”か。

 ゴブリンの振り降ろしならともかく、虎クラスの魔獣の牙や爪となるともはや気休め程度だろうが、無いよりははるかにマシの筈だ。

 魔法が自分たち――パーティの前衛に掛かったのを確認すると、アデルに合図を出す。

 アデルは一つ息を大きく吸い込むと、無言で重い扉を蹴り開けた。




(サーベルタイガー(もどき)2体、情報通りか。)

 ローザの号令の下、扉を思い切り蹴り開け突入すると、10四方の部屋の奥の方に2体の白い虎が置物のように座っていた。

 体長は3メートルくらいだろうか。口から不自然なくらいに長い牙が下に向かって生えているのが目を引いた。虎の方は突然の光に目が眩んだのだろうか。少しだけ目を細めるが、すぐに侵入者を認識し戦闘態勢に入る。

 アデル・ネージュ組がやや左、ローザ・ミシェル組がやや右、ティルザとカタリナは合図があるまで外で待機だ。虎もそれに合わせてくれたのか、左右に一匹ずつ散開して走り寄ってくる。当然だが早い。

 最初に接敵したのはミシェルだ。虎の突進進路上に素早く入り込むと、金属の大楯を構えて詰め寄る。ガキィンと硬い何かが金属を叩く音が響くと、ミシェルが長剣を突き出すが虎はとっさにバックステップで退避する。

 アデル側の対応も同じ様な展開――に、なる筈だったがそうは行かなかった。

 虎の爪は想像以上に鋭く、木製の楯の木の部分を易々と貫通し、金属のフレーム部分で何とか止まったのである。

 ファーストアクションは虎の先制攻撃をなんとか防いだというところか。ここで左右2組の行動が分かれる。

 先に動いたのは――否、動いていたのはネージュだった。虎が強引に爪を引き抜き、次の攻撃のために一度重心を下げ、飛び掛かろうとした瞬間を虎の左側面から飛び掛かり首を狙う。ギリギリ死角には入りこめていた筈だが、そこは鋭敏な虎だけあってネージュの跳躍と同時にそれに気付いたが時すでに遅し。もともと側面方向への移動、回避が苦手な四足獣の動き、それに初撃の右前足の攻撃を踏まえての攻撃である。虎は左右は勿論、前にも後ろにも避けることが出来ずに首にミスリルのショートソードが突き刺さる。

 だが油断はできなかった。もしこれが人間であったなら、ショートソードを引き抜いた瞬間に崩れ落ちるのだろうが、相手は旧文明時代の魔法で強化された魔獣だ。一度後ろ足2本で立ち上がり、上半身を捻って無理やり方向を変えると、アデルに向けて振るう筈だった右前足でネージュを捉える。

 ネージュもある程度は警戒していたようだが、虎の判断の早さが一瞬早かった。ショートソードを引き抜こうと右手に力を入れた瞬間に鋭い爪に胴を薙ぎ払われる。

「くっ!」

 ネージュは剣を引き抜くのを諦め、即座に回避行動をとったが、完全な回避は出来なかったようだ。飛び退く勢いが薙ぎ払いの衝撃で微妙に方向を変えられさらに加速してふっ飛ばされるような形になる。

 虎が追撃しようとするが、そこはアデルがきっちりと首を貫き、今度こそ止めを刺す。

 アデルが慌ててネージュに駆け寄ると同時に、ローザ組にも動きが起きる。ローザを狙うがその壁となるミシェルに痺れを切らして飛び掛かったのだ。

 ミシェルが落ち着いて楯で虎の攻撃を防ぐと、うまく位置を入れ替えたローザが長剣で虎の右前足を切り飛ばす。更に虎が怯んだ一瞬を見逃さずに次の斬撃で虎の首を切り落とした。こちらは文句なく止めとなった。

(流石聖騎士……か。)

 アデルはネージュを助け起こし、爪を食らった辺りを確認する。革鎧には見事な深い三本線が刻まれていた。切り裂かれ初めて外気に触れた革の内側が赤く染まっていた。


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