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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
南部興亡篇
358/373

分裂

 エミリアナ達を希望の地点へ送り届けて翌日。アデル達は朝も早い段階からドルケンへと向かった。

 ポルト港開港、そしてフィデル王暗殺の報から2日目、アデルはネージュ、アンナ、ティナと共にドルンへと向かう。移動は氷竜化したネージュによるものだ。

 ドルン城へと到着するとアデル達は早速に“招集”された。

 招集をしたのは王グスタフ。集められたのは軍務卿ベックマン、国務卿カールソン、そしてやや久しぶりとなる財務卿のダールグレン他、翼竜騎士団の団長ら軍幹部たちだった。オルタやモニカの姿はない。

 グスタフはまずアデルに今の状況の説明を求めた。そこは色々取り計らってもらっている上、肩書はドルケン准騎士だ。軍事絡みの知り得る情報――と、いってもグルド南麓絡みはこちらの方が詳しい筈なので割愛し、フィン情勢とコローナの対応を伝える。

 ネージュから伝えられたモニカによって初報は齎されていたらしく、フィンで何が起きたか・・・・・・は全員知っていた様子だ。ただ距離が離れ、途中にいくつもの国を挟む形であるドルケンとフィンではすぐに直接的な影響は出てこないだろう。そこで関わってくるのがコローナとグランの対応だ。

 アデルとしてはエドガーのリーク情報をどこまで流していいのか気になったが、とりあえずコローナは対フィン、そして実質フィン領であるタルキーニの国境線の警戒を強める為に軍を増派することを決めたと伝え、グランはグラン東部情勢を理由に西への派兵を渋っていることを伝える。そして直接的には言わなかったものの、その件とタルキーニの重要人物の勝手に国境を越えさせたことに不信感というか不快感を持っていることを示唆すると、グスタフ王やカールソン候はむしろそこに注目し、詳細を尋ねられた。

 結局アデルはティア(マト)・カッローニによる持ち逃げ以外の部分を掻い摘んで説明する。当時コローナに保護を求め、グラン・カンセロ身を寄せていた筈のサラディーノ・カッローニをグランが雑に放置したため勝手にタルキーニに戻られたこと、ポルトの新港の所属する船と海軍への言及、現状のポルトにグランが快く思っていない様子などだ。

 するとそれまでは情報整理を、という表情だった彼らの表情が険しくなった。彼らとしては西への対応よりもコローナとグランの関係の不安定化の方が問題なのであろう。ただその辺りに関してはアデルもそれ以上の情報もなく、情報なりが集まり次第ということになる。

 話を戻して今度はフィン方面。第1王子がコローナと睨み合っていた軍を急転直下でうまく引き上げた事、レインフォール商会がフィン周辺の海岸線警備を強化しこちらも戦闘艦を送るだろうとの見込みを述べると、そちらには皆一切口を挟まずに一通り説明を聞いた。

 その後改めてベックマンの口からグルド山南麓~テラリア西部にかけての状況の説明があった。

 ケンタウロスの一団の亡命があったこと。彼らが持ち込んだ情報通りにテラリアがグルド南麓へ侵攻を始めた事、それにより南部の村が脅かされていること、そこへの地上部隊の増派、そして軍とは別にモニカが前線に出てケンタウロス部隊の切り崩しやテラリア軍の情報収集に奔走していること等だ。こちらはアデルにとって新しい情報と言えるものはない。

 その確認が終わったところでグスタフから、亡命ケンタウロスの素性を問われる。

 アデルがイスタ東征の折、捕虜としたケンタウロスを情報収集目的に放った・・・・・・・・・・ことを説明し、その時の情報として、ケンタウロスの長である別氏族のリーダーと軋轢が起き始めていたことは耳にしていたと伝える。もちろん、情報収集どころか調略までしたのは予想外だったが。

 ついでグスタフから、モニカの説明としてテラリア皇国の軍が分裂し、構成がめちゃくちゃになっているという説明がされると、軍幹部らは皆眉を寄せ訝しげな表情をする。

 アデルはグルド北麓方面の話を尋ねると、魔の森の竜人勢力は今はテラリア攻略に全力を置いている様子で現在は落ち着いているとの返事が得られる。

 グスラフはそこで改めてアデル達にテラリア情勢の情報収集と可能であれば更なるケンタウロスの切り崩し、或いは排除が依頼された。額は1000ゴルトからの出来高とのことであったが、もともとそのつもりで来ていたアデルとしては特別交渉の必要はなかった。


 アデル達は早速、先にオルタ等が向かっている村の位置を確認してそこへ向かう。その際改めてドルケン国民やグルドのグリフォンの“中立”の為にもグリフォンへの騎乗は極力避けるようにと伝えられ、代わりにワイバーンが貸与された。

 恐らく以前貸与されていたワイバーンとは別の個体の様だが、そこは軍の騎乗用として訓練されたワイバーンである。単座・複座の鞍もしっかり用意されており、何の違和感もなく乗りこなすことは可能だ。

 アデル達がその村へと向かうと、低空からでも十数体のケンタウロスの姿が確認できた。オルタやハンナは既に到着していたらしく、こちらを見つけるとすぐに着陸に適した地点へ誘導を始めた。するとそれを察したかレドエルドが単体で駆けつけて来て誘導してくれた。

 なるほど、ドルン出発時に釘を刺されたのはレドエルドの所為か……となると、オルタとハンナは陸路で来たか?背に誰も乗せていないレドエルドを見てアデルは派遣の組み分けを少々失敗したと悟った。

 その予想通り、オルタ達は陸路で全力でこちらへと向かってきていた様だ。モニカの後をレドエルドに後を追わせ、それをハンナがオルタを乗せて走ってきたらしい。それを聞くとアデルは慌てて己の失策を詫び、ハンナの労を労った。ハンナは短くここまでは大丈夫だと言うが、この後は騎乗させる姿を余り見せたくないと言う。

 ケンタウロス族の前でケンタウロスに騎乗と言うのは、人族・ケンタウロス族両者にとって誤ったイメージ・メッセージになりかねない。そこはアデルもオルタも理解している。今後はワイバーンをオルタに任せ、アデルとティナはネージュに頼ることになりそうだ。そう言えばアデル、アンナ、マリア以外の騎乗を渋るネージュがここまで大人しくティナを乗せていたのは、緊急事態の為だったのか別の理由があるのか定かではない。しかし今そこをつつくのは藪蛇というものだろう。

 アデルはまずピートに接触し、モニカの立会いの下、ネージュの通訳を経て話を聞くことにした。



 ピートの話によると、テラリアは現在大きく皇太子派、第2皇子・皇女派の2つに分裂し、蛮族勢力もドルフら元々の一派と、隻腕の赤い竜人――恐らくはあの時ヴェーラが腕を落した奴だろう。のランドルフ派の2つに分裂しているとのことだ。

 そして皇太子派とランドルフ派が手を結ぶと、ドルフが第2皇子派に接触しようとしたが、それをケンタウロスのリーダーがそれを激しく嫌い出奔・独立、ドルフ達とは戦わないが第2皇子派――というよりは連合を組んでいる第2皇女を目の敵にしている様子らしく、そちらは徹底して攻撃するとし、またその後第2皇子派がドルフの話を一蹴どころか、使者の首を送り返してきたところで交渉は決裂。結果として2対1対1対1の構図が出来上がったとの事である。

 アデルとしてはまずは皇太子派が竜人であるランドルフ派と手を組んだことも驚きだが、それ以前に亜人たちを勢力上位に組み込み、その下になる形で人族一般の兵を従えている現状に脅威と違和を感じた。恐らくはそれを受け入れられなかった人族兵士らが第2皇子の所に一気に流れ込んだのだろう。

 勢力の大きさ的には、第2皇子派>皇太子派>ドルフ派>ランドルフ派>ケンタウロス族という状況の様で、最大勢力でその大半が皇国の正規軍の人族で構成されている第2皇子派がグルド南東に進出してきたために、ドルケンやグランは『テラリアからの侵攻』と受け取った様子であった。

 最小戦力となっているケンタウロスとしては不毛且つ無謀な戦いを強制されるのを厭い、その一部がピートらの説得に耳を貸し偵察の振りをし亡命、ドルケンに逃げ込んできたとのことである。

 その事でケンタウロス族はさらに数を減らしたが、ケンタウロスリーダーが攻撃目標は第2皇子派のみと宣言しそれを守っている為、ドルフ派もランドルフ派もケンタウロス族には敵意を向けていない、或いは優先攻撃目標ではないと言ったそんな状況である様だ。この状況下で敵の敵を利用せず、敵を増やすなどという手はないのだ。

 話を聞けば、どうやら群雄割拠で鎬を削っている状況ではなく、特定の勢力と特定の勢力が敵対をしており、それの状況を安定させるためにうまく勢力を動かし均衡状態となっている様子だった。

 話を聞いた限りで纏めると、ドルフ派が皇太子派とランドルフ派を敵視、皇太子派が第2皇子派を敵視、第2皇子派は周囲全てを敵視、ランドルフ派がドルフ派を敵視、ケンタウロス族が第2皇子・皇女派を敵視という構図らしい。

 そしてそれらの内、ドルケンとして大きく関連するのは既に北部を中心に敵対中のドルフ派と、今回グルド山南麓を侵攻してきた第2皇子派である様だ。その第2皇子派も戦力こそ最大とは言え、周囲全てが敵と言う状況で徐々にテラリアを押し出される形で苦し紛れに西へ延びてきた感は否めない様子であった。


「侵攻じゃなくて、人族対蛮族の形にして事前にドルケンと話し合いをしてればこうはならなかったんじゃないのか?」

 アデルの問いにモニカが答える。

「無理だな。皇国の今迄を思えば第2皇子らへの信用はない。そしてその勢力は決して小さくはない。そんなのを領土に入れてしまえば何を侵食されるか分かったものではないし、皇国の中でも人族至上主義であろう第2皇子派を受け入れてしまえば、この国の亜人らに我々が不信感を持たれかねん。」

「……つまりは最初から袋小路って訳だ。まあ、袋の底が破れそうだからこっちに来やがったって感じか。第2皇子に肩入れする気なんてさらさらないし、ご愁傷様だな。そうなると……当面の問題はやっぱりケンタウロスか。」

「そうなる。話を聞く限り標的は第2皇女であるようだが……ケンタウロスの一団が無断で我が領内に土足で踏み入れている事も事実だ。」

「不戦協定、又は協力の可能性は?」

「私の一存では難しいが、話を聞いた限り無くはなさそうだな。」

「それで可が出た場合、交渉条件に彼等の返還を要求された場合は?」

「それこそ私の一存では無理だ。が、一度受け入れ、見返りを得た以上は責任を持つことになるだろう。」

「なるほど。」

 そこでアデルは少し思案する。ケンタウロスリーダーが不戦・共闘の見返りに亡命者たちの返還を求めたとしてもドルケンは受けるつもりはないとのことだ。それなら一度接触してみる価値はある。

「わかりました。ではモニカ様は今の情報・勢力の相関状況を陛下に伝え、ケンタウロスとの交渉の可否を確認してください。もし、可であったなら一度接触を試みたいと思います。もちろん、決裂の可能性も少なくはない気がしますが、向こうの現状を見ればある程度の情報は持ち返られると思います。」

「なるほどな。承知した。ではすぐに向おう。」

 アデルの提案を受けたモニカはすぐに返事をすると、ワイバーンに跨って空へと舞っていった。



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