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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
南部興亡篇
355/373

転換点 ~ 決別 ~

 ティナがルーベンの休憩室とやらに【次元門】を安全確実に行使するための“転移目標ポータル”を設置して戻って来ると、アデルは5日後、仮にアデルに大きなところからの“指名”があったとしてもティナとフローラと誰か1名は必ずこちらに寄越すことを確認しティナの【次元門】でヴェントブルーノへと戻った。

 先に温泉を堪能してきたらしいネージュとティナは良いとしてアデルとアンナが交代で入浴を済ませたところで時刻はすでに午前2時、一同はそのまま部屋に戻り翌朝8時起床ということでベッドに向かう。

 だがしかし、アデルの寝室には先にマリアとエミリーが起きてアデルを待っていた。

 マリアはダブルのベッドに腰かけ、エミリーはマリアの作業机の椅子に腰かけて何やら話し込んでいた様だ。

 アデルの姿を見るとまずはマリアの『おかえりなさい』のあとにエミリーが改めてフィンへと向かう旨をアデルに告げた。

「ここに拾われて・・・・まだ1年にも満たない筈なのに……ここ2~3年分の時間を過ごしたように感じるよ。」

 エミリーがいつになく柔らかい表情で言ってくる。

「拾ったのはオルタだけどな……本当に明日でいいのか?しっかりとした情報が入って来る頃にはオルタも戻っていると思うが?」

「私はオルタにもレイラにも煙たがられているからな。」

「オルタとは元々面識があったんだろう?ってか、思い出したくもないかもしれんが、あの状況ですぐにあんたに気付けたってことはそれなりに顔を合わせていたんだろう?」

「……向こうは知らんが、私が最後に会ったと認識しているのは……少なくとも5年……もっとだな。7年くらいは前だろう。私ですらまだ成人していない頃だ。」

「……どういう認識だったんだ?」

「少なくとも王宮では、『フィデルに飽きて捨てられた身体の弱い第5妃の傍にいてずっと支えている』ということになっている。」

「……無茶苦茶だな。情報統制が上手いのか情報収集がアレなのか。」

「両方だろう。レインフォールの情報網と今のフィン王宮、殊、国王以外の者が持つ情報網では雲泥どころの差ではないだろう。今はな。」

「何そのいかにもな含みは……」

「……戦場での活躍だけが強さ――力ではないと知れたからな。情報武官や伝令、斥候ももう少し重用されるようにならねばならん。酷使ではなく。」

「…………評価してくれるのはごく一部で名声や実績とは縁遠くなるぞ?派閥の長には難しいんじゃないか?」

「派閥の長と言うなら兄上になるだろう。モニカ殿の様な立ち位置も面白そうではある。どちらにしろ機動力は確保したいところだが……それに――」

 エミリーはそう言って一度マリアに向き直る。 

「評価をくれる一部からは通常の出世とは別の形のものを貰えることもありそうだしな。経緯はどうあれ、マリアほどの女性、大陸中を探してもそうはいないだろうよ。」

 マリアをそう評する。先の船旅を経たのち、この二人は随分と打ち解け仲良くなっている様子が見受けられる。特にエミリーは元々の高いプライドを手放せないまま、また一時は捕縛によってそれが打ち砕かれ自虐に走っていたが、船旅後は安定した精神状態を維持できている。マリアのカウンセリングでもあったのかもしれない。今は互いに相手の得意分野を学び、自分の得意分野を教え合う様子もよく見かけられていた。

「まあ、うん。そうね。王太子の思惑は……色々感じられるけど。」

 エミリーの評をアデルはやや困り気味に、マリアは無言で受け取る。

「勿論私もそれほど劣るとは思っていないがな?」

 エミリーは穏やかな笑みを浮かべて立ち上がる。

「……短い間だったが有意義だった。世話になった礼と店への恩はいずれしっかりと返させて貰う。」

 エミリーはそう言うと座ったままのアデル達に深い騎士礼をして部屋を出て行った。

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