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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
南部興亡篇
352/373

東へ西へ。

 方針が決まればヴェントブルーノの次の動きは素早い。

 まずはティナがマリアの【魔力付与】を受け、【次元門】を強引に拡大してモニカとワイバーン、そしてハンナとオルタ、レドエルドをドルケンへと送りだす。

 モニカの指示により開いた転送先はグルド山麓、馬で30分ほど走らせたところにある温泉の近所の様だ。ネージュさん。どさくさに紛れてティナを連れて行って来たらしい。

 アデルが少し呆れた風にジト目を向けると、ティナがワイバーンやグリフォンがいきなり現れても問題のない場所としてあの温泉を選んだと説明する。どうやら正当な理由があるとのことだ。そしてもう1箇所、個人が王城内にすぐに向えるような場所を転移先ポータルとして設定したそうである。ちなみに王城内の転移先は、確実にスペースが空いており他者がいる可能性が極めて低い空間――モニカの私室らしい。いいのか?大丈夫か?それ。

 とりあえずは無事に東担当チームを送りだすと、すぐに西担当チームの出発だ。

 時刻は話を纏めてすでに22時を少し過ぎている。カールフェルト到着予想は1時頃だろうか?そこから場所を探して着陸先を探すとなるともう少し時間を要するかもしれない。

 留守居役らはエミリーとエルザを除き、グリフォンsを休ませた後各々の部屋で休むことにした。

 エミリーとエルザはエミリーの部屋で今後の相談だろう。


 アデル達は氷竜化したネージュにアデルが騎乗しその前にティナ、後にアンナがそのアデルに掴まる様に乗る。フローラはカールフェルトに到着するまでは魔法袋の中だ。アンナがアデルの後ろに乗っているのは、暗視兜をティナに貸すためである。アデルは先日、レインフォールで購入した大陸南部の地図を見ながらネージュに指示を出しつつ地形を確認する。

「出来れば一度、明るい時に確認しておきたいな。」

「Guu」

 アデルの呟きにネージュが竜の声帯で低い返事をする。暗視兜は色を反映しない。ただ、物体の輪郭が闇に浮かび上がるという感じの物で、昼間と同程度の視野・・は得られるが、昼間と同じ視界・・が得られるわけではないのだ。また方角の目印となる太陽が出ていない為、方位の確認が少々難しい。

 

 グラン――ポルトから西へはしばらく平原が続く。

 地上に起伏は殆どなく、先にサラディーノ一行を追走した街道を視界の左下に留める様に西へと向かう。

 そしてものの十数分西へと飛行すると川が見えてきた。

 おそらくはこれがオーヴェ川なのだろう。ネージュがタルキーニの元公爵家に『取立宣言』をした場所である。

「これがオーヴェ川だ。水量も比較的安定していて、元々はオズード港からこのオーヴェ川の水運を用い、タルキーニ北部の各地やカールフェルト、グランに多くの物資を展開していた。その向こうがオヴェリアの街、見ての通りグランへ向かうには立ち寄りはほぼ必須となる。もう少し北に行くとエズルードという町がある。それが水運――北部への出荷の拠点だな。」

 川の上空に差し掛かったところでアデルの後ろからティナが言う。

「ほう?」

「ポルトも悪くはない。しかし、トルナッドやグラマーの様に貿易・交易の中心地には成り得ぬだろう。」

「……何故?」

 少し間をおいてアデルが尋ねる。アデルとしてはその竣工から大きく関わった町だ。現時点で今迄過ごした他の街よりもすでに1ランクは上の思い入れがある。

「時限の租借地というのが大きいな。大抵こういうのは国力が変化したり、国勢や世情によって当初の取り決め通りの管理、利用そして返還とその後の安定など成された試しがない。今は丁度よい落としどころなのだろうが、発展すれば欲が出るし、そもそも……コローナは港のない海軍を運用できるとでも思っているのか?」

「……ってことは?」

「もしかしたら裏でカッローニ家とオズード港やオーヴェ川の権利に関わる裏取引があったのかも知れんな。それが、ここでフィンが内紛に突入し、“外”にまで手が回せないとなれば、このままコローナの手を借りずにタルキーニが“王国”を取り戻すことも有りうる。レインフォールは元より、フィデルも元々それほどこの地に興味があった様には見えなかったからな。」

「……え?」

「ん?」

 ティナの言葉にアデルは疑問を浮かべた。

「レイラさんは聞いてたけど、フィデル……王もこの地に興味なしとは?」

「…………フィン領旧ブリーズを治めていたのは『フィンの軍を借りていたフロレンティナ』だったからだ。勿論その下にフィンの貴族共を送り込んできてはいたが、実際に運営していたのは――」

「……あのおばさんそんなに凄かったのか。いや、むしろ疲れ切ってあの状態だったのかもしれん。」

「……お前は対峙したフロレンティナをどう見ていたんだ?」

「いや……まあ、フローラに会って話を聞く前だからな。敵の将軍、危険人物、傾国の美女、そんなイメージだったけど……まあ、とにかく何かされる前に決めなきゃって必死こいて強襲したからそんなに対峙もしてないんだ。身柄も確保後はすぐにロゼールに渡したし。最後、急に目の前に現れたアンナに一瞬驚いてくれたってのが幸いしたけど、ある意味紙一重だった。多分、姿は1分も見てないと思う。」

「……そうか。どちらにしろ、フロレンティナなしで旧ブリーズが維持できるとは思えなかった。実際、フロレンティナが消えてからこの有様だ。」

「ってなると……タルキーニやイフナスにもフィンの暗殺劇の裏でワンチャンスあるって訳だ。で、なんだっけ?」

 アデルはフィン王暗殺事件が大陸南部に波及する影響を考えると、当初の話題を忘れたか話を戻す。

「もしかしたら数年後か十数年後、ポルトやオズード辺りを巡る紛争が起こりかねんという話だ。」

 コローナは港を手放す気はない。開港時の哨戒船を見て薄々アデルも感じたが、やはりティナも同様に考えている様だ。

「で……?」

「コローナ・ドルケン・グラン・フィンを相手に商売をするなら、何を扱うかにもよるが、オズードやエズルードはお勧めの出店先と言える。カッローニとどういう関係を結ぶかにもよるがな。」

「なるほど……」

 どうやら商会の安定と発展のためのアドバイスであるようだ。ただそれはこの地域自体が安定――タルキーニ・カッローニになるか、コローナ・レオナールになるかは別として。国力的にはどう考えてもコローナだが、コローナは現時点では周囲への体裁か軍を出して平定するというつもりはなさそうだ。外交と裏取引によって恒久的に使える港を確保したい様子が窺える。

「故にレオナールもこの混乱と情勢を指をくわえて黙って見てる訳もあるまい。せめてカールフェルトに港があればな……」

 ティナはそう言うと静かにため息をついた。

――『問題はタルキーニか。』

 昼間、レオナールが漏らした呟きが今になって不穏なものに聞こえてきた。

 元々ポルトを時限租借に落とし込んだ背景には、サラディーノ――カッローニ家を支援して親コローナ・レオナールの新政権樹立を見越していた筈だ。

 カッローニ家はティナが『古き血』を持つと明言していたり、レオナールが“神装”云々を言っていた辺り、グランやカールフェルトとは違い“王国”を正式に再興させることが出来ただろう。

 しかし現状はどうか?

 カッローニ家はレオナールの手を離れ、情勢も今でこそカールフェルト経由で物資や兵士が送り込まれてくるフィンの軍勢の方が優位に立っているが、フィン国王急逝により今後はフィンの勢いが落ちる可能性が高い。

 このままコローナの支援なしでフィンの勢力を押し退けることが出来てしまうと、コローナのタルキーニへの影響力は大分少なくなってしまうだろう。


「君達は国に――コローナにとらわれ過ぎない方が、結果として君達やコローナにも良い方向に向かうだろうと思っている。」

 以前、カミーユ――現・コローナ北方辺境伯であるエルランジュ家の当主が言っていた言葉をアデルは再び思い出していた。


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