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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
邂逅編
35/373

不安と不穏

直近のあらすじ

貴族様(めんどくさそうな人)が現れた!

→いいから旧文明の遺跡いくぞ。 ←イマココ

 翌朝早々にアデル達はローザ達と共に馬で出発した。

 最初は、馬と聞いていたのでプルルを駆り出そうとしたところで彼女らに呆れられてしまう。

「馬ってもしかして……」

「え、俺の馬ってこいつですけど……」

「今回馬を使うのは移動の為です。特に荷物を運んでもらう様な事はないので、ギルドで騎乗用の馬を借りて来てもらえますか?戦馬ウォーホースである必要はありません。」

「……ハイ。」

 と、いうことで今回プルルはお留守番。騎手ギルドで騎乗用の馬を借りることとなった。ちなみに戦馬とは、騎乗戦闘を想定して訓練されている馬で、重装備の騎士を乗せて走ったり一緒に戦ったりできる馬で、当然通常の馬よりもさらに高級品となる。プルルの世話はブラーバ亭の係員がしてくれるそうだ。話を聞くに、やはりこの案件は“腫物”を扱うかの様な話の様だ。彼女の実家は日頃から相当無理を言ってきているのだろうか?聞くところによると、彼女の家はフォルジェ家、子爵の爵位を持つ、コローナ北部でも比較的歴史の浅い家であるらしい。

(歴史のない新興貴族って碌なのいないよね。)

 アデルの記憶に刷り込まれた経験談である。

 さて、今回アデルが借り受けたのは騎乗用の馬である。従って鞍や鐙も備え付けられていた。アデルは鞍に跨ると、自分の前にネージュを乗せ、左腕で抱える。ネージュ自身が移動程度なら充分馬を扱えるので手綱はネージュに任せてしまう。今のアデルはネージュの背もたれ兼シートベルトと言った状況だ。

 移動は、態々騎乗用の馬を借りただけあって、かなり早いペースでフォルジェ子爵領へと向かった。早朝に出発すると、日暮れ前には彼女の実家であるフォルジェ家が治める町に到着する。

 ローザとミシェルはローザの実家に戻って準備をしてくると言って、早々にフォルジェ家の屋敷に向った。明日の朝、ローザが手配した宿の前で合流だという。

 指示された宿で受付に話をすると、すでに2人部屋を2つ用意してくれてある様だった。

 当然、アデル・ネージュ組と、ティルザ・カタリナ組と分かれることになるが、食事くらいは同じテーブルで取る事にした。

 ティルザは年の位は20歳といったところか。細見でスラっとした印象を受ける。装備もネージュと似た様なもので、革製の鎧、スカート、レギンス、装備はショートソード、サブウェポンの代わりにバックラーを腰に架けている。カタリナの方は年の頃はネージュ以上、アデル未満といった感じか。身長は150cmにも満たないだろう。ネージュよりは大分肉付きが良さそうに見えるが、冒険者としてみると少々心配になる感じだ。以前会ったことのある神官、フォーリやロゼと比べてもなんとなく不安感を覚える。

 双方、黙々と食事をとっていたが、アデルは感じていた疑問をティルザにぶつけてみた。

「ローザさんとミシェルさん組とティルザとカタリナさんの組で随分と雰囲気も毛色も違う気がするけど何かあるんですか?」

 その言葉にティルザが露骨に嫌そうな顔をした。

「あー、触れちゃいけない系?よそ様のパーティをあれこれ詮索するつもりはないけど、探索や戦闘に支障が出るようだと困るから……」

 雰囲気を察したアデルが言葉を詰まらせると、カタリナが答えた。

「ローザたちは貴族、私たちはタダの平民だからね。」

「それは何となくわかる。強いて言えばミシェルさんも正式には貴族じゃないよね?」

「それでも武家の出だ。」

「……ってことは、あなた方も俺達みたいに外部から雇われた感じか。」

 話の流れで、アデルはてっきり彼女らもアデル達同様、別枠の冒険者でローザに雇われたのかと思ったのだが、

「そうでもないんだよ……」

 ティルザが否定した。

「ってことはやっぱり4人パーティ?」

「そういう登録になっているね。」

 何となく話が進まない。

「《聖騎士》と《騎士》に《斥候》と《神官》、バランス的には悪くないと思うよ?っていうか、かなり恵まれたパーティと言えるかもしれないけど……

 ちょっと失礼な事を言うかもしれないけど、気を悪くしないでね?冒険者として実戦の経験てどれくらいある?」

「……ないよ。初陣だ。」

(マジかよ……)

 ブラバドが話しにくいわけだ。そして受付その他の周囲の反応もうなずける。恐らく得意先であろうフォルジェが実戦経験のない彼女らをパーティとして捻じ込んできたのだろう。

「人とか妖魔を斬った経験と、重傷者とか血まみれの人間を治療した経験は?」

「重傷者の治療なら何度も経験してますよ。傷口を見る分には問題ありません。」

 先にカタリナが答える。

「そのうちの1人に私も含まれるがね。私はスラムの出身だ。刃傷沙汰は何度か経験してる。」

 スラムでって……つまり町中でかよ……良いか悪いか判断に困るが、今だけを考えれば経験が何もないよりはマシか。

「逆にあんたはあるのかい?」

「妖魔なら何十体も。人間も、山賊なら10人くらい殺してるかな?勿論、町中じゃないし、襲われて迎撃としてだけど。」

 ティルザの問いに正直に答える。

「そうか……20レベル超えは伊達じゃないか。」

 ティルザが静かに言った。

(まてよ?むしろ実戦経験なしで《斥候:18》って……)

「まあ、何も経験がないよりはマシか。状況次第だけどどういう隊列で探索するのかね。場合によっては後ろで控えてもらっている方が良いって状況もあるかもしれん。」

「あ、先頭は多分私になると思うよ。」

 ティルザが答える。

「斥候だから?まあ、罠もあるって話だったから探索中はそうなのかもしれないけど。」

 アデルがそう言うと、予想外の言葉が返ってくる。

「私は捨て駒だからね……まあ、君達も自律型の楯としか思われてないだろうけど……」

「貴族出身で、テラリアでエリート扱い受けたらなぁ……」

「……」

(なんであんたらパーティ組んでんだ?)

 アデルはその言葉を飲み込むので精一杯だった。


 ティルザ達と別れ、自分たちの部屋に入ったアデルはぼんやりとローザについて分っている事をまとめた。フォルジェ家の三女で、昨年度にテラリアのアカデミーを女性ながら首席で卒業したとのことだ。つまり、武技に於いても、軍略に於いてもこの世代で随一の成績を残したことになる。

 女性ながらというのは武技ではやはり筋力のつきやすい男子の方が有利であるためで、テラリアに於いては『女子だから~』という性差別はない。相応しいと判断されれば女性でも貴族家だろうが帝家だろうが家督を継ぎ家長となり得るのだ。その分というのか、平民や亜人に対する差別は大陸一だがな!(アデル主観)

 逆に、コローナやオーレリア辺りは種族間差別はだいぶ緩くなるものの、家督相続は大抵長男というのが常識に近い。子供が女子しかいない場合に極稀にあるらしいが、そうだとしても大抵は適度な距離の親戚の男子を娘と結婚させて血を継がせるということの方が多い。そもそも、言葉は悪いが、貴族令嬢と云うものは貴族同士の結びつきを強めるための政略結婚の道具だと見られるのがだいたいだ。幼少期からマナーなどを徹底してたたき込まれ、美を磨き、12歳くらいから社交界にデビューすると早い段階で婚約し15~18歳で早々に結婚すると言うのが殆どだ。それが態々15歳でテラリアのアカデミーに留学し、18で首席卒業、コローナの貴族令嬢としては俄かに考えられない経歴である。

 意識が高いのか、その辺に対する反発か……まあ、親が許して支援してるなら別にいいのか。

 アデルはラウル達のことを思い出しながら適当な事を考えつつその日は早めに眠りについた。


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