表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
南部興亡篇
348/373

忍ばない混沌

評価や誤字報告、有難うございます。

 グラシアを臨時講師に招き早1月、大陸南部は愈々(いよいよ)混迷を深めて来ていた。

 大きな動きとしてはフィンの第2、第3王子がそれぞれ旧イフナス、カールフェルトに入った事だろう。

 そしてその2王子だが、共に最初からトラブルにまみれている様子だ。


 旧イフナスは苛烈化する解放運動のさ中の入国であり、第2王子ベルナルドは旧国境を越えてから何度もゲリラに襲われ、越境数日で少なくない数の兵士の他、側近や侍従までが数人殺されたと言う話である。

 ベルナルドは早速に怒り狂い本国に増派を要請、さらに2万の兵を投入するも激しい抵抗運動の末、平定にはまだまだ期間を要する様子だと言う。


 一方で第3王子ローレンスは、母の旧領であったカールフェルトには大きなトラブルもなく迎え入れられていた。

 それにはさんざん突き上げ、困らせた挙句、異郷の地で死に追い込まれ、不名誉と非業の死を遂げたが、結果として“カーフェルト大公国”として再興を認めさせ、他の2国と比べれば雲泥の差とも言える明確な優遇を取り付けたことで改めて英雄視されたフロレンティナに対する住民たちの贖罪と敬意が含まれているとの話が聞こえてくる。そんな話にフローラはいつにない憤りを募らせていた。

 ローレンス王子はこのカールフェルト入りに当たり、妾腹の第3王子から大公という、中央からは遠ざかるもより強い立場に列せられたのだ。


 しかしそれから僅か半月ほどで雲行きが怪しくなる。

 カールフェルトに古くから根付く、ソリス教会との関係が悪化したためだ。

 関係悪化の理由は2つ。

 まず最初にカールフェルト王国の国教であった太陽神・ソリスの教会がローレンスを現時点では・・・・・“カールフェルト王”として認められないと宣言したのだ。これに関して教会は具体的な理由を明かしていない。

 それに対してローレンス側は、そもそも今回認められたのはカールフェルト大公国・・・であり、カールフェルト王国・・ではない。封じたのはフィン王であり、太陽神ではないと飽く迄フィン王国の属領としての旧領安堵であり統治権はフィンの大公たる自分が持つと言う言い分だ。客観的に見ればローレンスの言うことにも一理はあるのだが、ご当地であるカールフェルトでは、旧来のそして自分が継ぐべきはずのカールフェルト王家を自ら否定したものと、教会や旧国民の不満を集める結果となった。


 この二つの事案の対応としてローレンス大公はカールフェルトに根付くソリス教に圧力を掛けつつ、フィンの国教である、海神・ネプトの教会を積極的に誘致、保護する姿勢を見せ始めた。太陽神ソリスは光神テリアの“使途筆頭”とされ、カールフェルトを始め、各国で多数の信者がおり、カールフェルトにあるのはその総本山である。一方で海神ネプトは光神テリアの使途ではなく協力者であるとされ、微妙に系譜が異なっている。その為カールフェルトのみならず、イフナスを含む光神テリアの系譜を国教とする周辺国から宗教的に警戒感を集めているのが大公の実情だ。実力行使により勢力図が年々塗り替わる今の時世に於いて、国同士の関係もややこしいが、その地域の文化そのものと言える宗教の対立が絡むとさらにややこしいことになるのは誰の目から見ても明らかだ。

 この対立に対して住民はやはり反応に困っている。

 せっかくの旧領安堵、即ち自分たちカールフェルト民は安全と生活の保障を受けられるのだが、旧来の文化を捨てさせられることになりかねない。弾圧とまでは行かないものの、ソリス教に対する圧力強化とネプト教の保護はこれを意味するものである。

 元々大陸10国の中でも"古き国"として、大陸南部の盟主として伝統や文化、知識や情報を受け継いできた国にとってこれは中々に耐えがたい事態であり、生活の安定と天秤に掛けても痛し痒しどころの話ではない。

 特に解放されたグランにグラン国が興されたり、同じ旧ブリーズ地方のイフナスやタルキーニでフィン王国が苦戦を強いられているところを見ると"大公国"と言う名の属国扱いを喜んで良いものかと言う意見も強くなってきている。

 そもそもカーフェルト王国から分かれたイフナス公国とさえ不仲となった昨今を見ればこの仮初の安定が長く続くとは思っていないのだ。


 この報に関して、主な関係者であるフローラの仮説にグラシアとティナが驚きつつも同じ意見に纏まった。

『恐らく“神装”の具現化に成功していないのでしょう。』

 フローラの仮説はこれだった。

 “神装”と言うのは、新興のフィンとイフナスを除く大陸南部3国、カールフェルト、タルキーニ、グランに伝わる“魔法”であると。

 大陸にあった旧文明の崩壊である“大崩壊”の原因の一つとされる“魔王”を討ったそれぞれの初代国王の血を持つ者のみが扱える魔法で、その魔法自体は“口伝”であるとのことだ。

 魔法を知る、即ち次へと伝えられるのは代々の国王と各国教の法王のみで、行使できるのは初代の血を引く者、既に十数代を数える今となれば直系・傍系含めればそれなりの人数がいる筈だが、結局伝えられるのが2人だけであるため、行使できる者は1人或いは2世代で2人しかいない。魔法を伝え残す法王でさえも行使はできないらしい。分類としては“神聖魔法”であるようだが、その中でも特殊中の特殊な物であるようだ。ちなみにコローナにはそのようなものは伝わっておらず、ティナが言うには“魔王”と対峙した南部の3王家のみであろうとのことだ。

 それならとグラシアに使えるか尋ねてみると、法王より伝授され修練すれば使える筈だと答える。つまりは現時点では使えない。仮に今、『実は生きてました』とカールフェルトに出向いたとしても反逆者である自分に、フロレンティナの子であるローレンスが健在な今、魔法を伝授されることはないだろうとのことだ。

 そしてもしそれが正しいのなら、グラン王家が滅んだ今、今頃グラン、特にグラン国教である風神ピデルの教会は必死になって初代国王の系図を遡っているだろうと言う。

 案外、ファントーニが治めるグランが、グラン王国・・でなく、グランであるのはこの辺の事情も絡んでいるのかもしれない。


 さて話を戻すが、今回のローレンスについて、フローラの見立てによるとフロレンティナがローレンスに魔法を伝える前に死亡した可能性が高く、その場合、直系の後継者と目されるローレンスにソリス教の法王が口伝で伝えることになったたものの、まだうまく行使できていないのだろう。それ故教会は『現時点では(・・・・・)認められない。』との言い出したのではないかとのことである。

 その為フローラ曰く、『元々余り魔法に興味も造詣がないローレンスだが、そのうち正しく使えるようになればいずれ教会に認められるであろう』とのことである。

 ただ教会がローレンスを王と認めたとしても、結局フィンは大公国として扱うのは変わらないだろうとも。ある意味、『旧き国』の乗っ取りに成功しただけなのである。

 ともかく、イフナス、カールフェルト、そしてタルキーニに加え、コローナ南部からベルンシュタット南西部に至るまで絶賛戦火延焼中となればいかに強国フィンと言えど制圧、平定はかなり厳しい筈で大陸南岸は当面混沌とするだろうことは明明白白である。



 そして話の順序が少々逆になるが、南海遠征から戻ったヴェントブルーノにもちょっとした嵐が訪れていたのだ。

 それは勿論、グラシアである。

 グラシアの素性を聞いた瞬間、フローラが周囲全てを凍り付かせる勢いで緊迫した空気を発したのだ。それはそうだろう。フロレンティナを敬愛するフローラとその家族にとって、正にその朝敵。フロレンティナに多大な苦痛と不名誉を齎した張本人が時代を超えて目の前に現れたのだから。

 フローラ自身も、『今更振り返ったところで……』と自分に言い聞かせはするものの、その心まではなかなか抑えられなかった。当初『絶対に許さない』と言ったが、結局その当時産まれてすらいなかったフローラに許す許さないの権利がある訳でなく、所詮は自分の内心での整理が出来るか出来ないかの差であり、グラシアがフローラにその過去を詫びることもない。最終的には隷従の首輪を付けられたグラシアが黙るしかなかったが、その空気はかなり険悪なものとなった。

 ただ程なく、ローレンスがすぐに王と認められないと分かった結果、フローラに別の選択肢が現れたのも事実で、いずれフローラは実家に相談に行きたいと申し出た後、敵対的な――敵愾心は封じ込めることが出来る様になった。

 多少の紆余曲折は起きたとはいえ、事前の触れ込み通りグラシアはヴェントブルーノにとって優秀な講師であることに変わりなく、半年の期間限定ということもあり、フローラもそれ以上正面から突っかかることはしなくなった。

 ただその気配に『フローラはその内カールフェルトに戻るだろう』と言う認識は他のヴェントブルーノの者たちが共有するようになっていた。


 グラシアの方も、捕縛され、売られた後、今の今迄大陸南部がどうなっているのかを全く知らされていなかったらしく、ここ15年の経過をエミリーやティナ、そして直近に関しては多少主観が混じるもののアデルやフローラから聞かされると、殊、フロレンティナの最期に関する部分では、表情を崩し、悔恨の様子を見せた。

 因みに、姉との戦争に敗れ売られた後、付与術師として開花するまでは主に南大陸に出稼ぎに行かされ、奴隷同然に色々(・・)な仕事をさせられていたという。これに対してもフローラとティナが露骨に不快な表情を見せていた。


 最近はグラシアとフローラが互いに黙ることで、深刻な状況になることももなく、期待されていた通りのグラシアの指導によりいくつか魔法を付与したマジックアイテムの作成と販売に手が付き始めている。

 マリア・ティナ・アンナ、そしてフローラと言った魔法使いスペルユーザー勢はこの1月、従来剣や槍の鍛練に当てていた時間を縮小しグラシアから魔術付与に関する講習を受けている。

 その4人ほど積極的ではないが、アデルやネージュ、ルーナ、ハンナ、そしてエミリーも、スペルユーザーと言うよりも、“武器まにあ”の観点から基礎くらいは理解出来るようにと定期的にその講習会に参加していた。

 そのおかげでわかった事は、魔術付与とは、文字通り、物体に己が扱える魔術を付与する技術であるという事だ。術者の魔法のレベル・能力が高ければ高い程効果が高く、また付与の難度も跳ね上がる。

 付与の性質や複雑さも様々で、例えば【防護プロテクション】の魔法を“何”に“どの様な形で”に付与するかによっていろいろ難度が変化する様だ。【防護】を刀身に付与し刀身そのものの強度を強化するのは比較的簡単なのだが、【防護】を【防護】として持ち主に掛かるようにするにはかなり複雑な術式となり、さらにその場合も効果を犠牲にして長期間効果を発揮させるか、或いは媒体に魔法を封入し、任意のタイミングでそれを開放し、1度きり通常の【防護】効果を所持者に発揮させる形にするか等、またやり方や難度が変わって来る。

 付与にはその魔法の強さや、意図する効果時間によって媒体となる物体の強度や純度の高さも影響し、封入に関しては大抵は使い捨てにするか、相当価値のある純度の高い宝石等媒体に繰返し封入するかになるとのことだ。

 また、術者とその魔素があればいくらでも出来る物ではなく、付与には媒体の他にも、特殊な薬品や素材も必要で、術者と時間があればいくらでもできるという訳にはいかない様だ。

 創意工夫により色々な応用が利くが、難しいことをしようと思うならそれ相応の何度と素材が必要になりそうだ。


 アデルが最初に――現時点で唯一だが――付与に成功した魔法は、槍の穂先に【灯明ライティング】の封入であった。緊急時に目くらましくらいにはなるだろう。

 マリアはまず全員の武器とレザーアーマー・スーツに【防護】を、アンナはお守り代わりのアクセサリーとして宝石に【疲労軽減】を、ティナはアデルやハンナの楯に【吸魔マナアブゾープ】、フローラは自分のレイピアに【放電スパーク】を、ルーナは自身の槍に【風切ウィンドカッター】を、ハンナは蹄鉄に【遮音サイレンス】を、ネージュも同様に蛇腹剣に【遮音】を付与し、暗殺能力が更に向上した……のかもしれない。

 【吸魔】は向けられた敵の攻撃魔法の一部を吸収し受ける効果を軽減する魔法で、比較的高位の“真言魔法”である。同様に【放電】も“真言魔法”であるが、こちらは【火矢】に並ぶ初級の魔法であり、電撃によるショックや熱を敵に与える魔法である。【風切】と【遮音】は共に風の精霊魔法で当然と言うかアンナ監修であったが、最終的には自分で修得し、自分で付与を行った。勿論修得した魔法は“付与”でなく、普通に使えるようになった為、それぞれのサブウェポンとしても今後活躍するだろう。

 原則的に付与できるのは1つの物品に対して魔法1つとのことで、レザーアーマーに【防護】やら【吸魔】やらを纏めて付与する訳には行かない様だ。


 早速、鍛錬を兼ねた模擬戦でその効果を試してみると、期待していたほどでないが現時点で充分に効果を感じることが出来た。

 講習・練習はまだ1か月余りだ。今後しっかりと修練すれば必ずやもっと強力な効果を発揮できるようになるだろう。


 ヴェントブルーノは高級武具取扱店として確実に歩みを進めていたのだ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ