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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
南部興亡篇
343/373

妖鳥と暗殺者

 猛烈な勢いで西――即ち母艦であるトルエノ号らの方角へ飛んでいった幻惑鳥を見てネージュは奇襲の失敗を悟る。

 そして新たに発見した2体目の対処をどうするか――

 1.見なかったことにする。――事前情報、即ち“依頼”にあった幻惑鳥は1体。それをアデル達が撃墜できれば依頼は達成と見なされる可能性が高い。今から追いかけて後ろから攻撃できれば多少は己の失敗の取り消せるはずだ。

 2.2体目の存在を報告する。――巣を守っているのだろうか?少なくとも2体目が今すぐ動き出すという気配はない。それなら東に隠れている筈のエミリーに監視を任せてこの異常事態を船に知らせるのもありなのではないだろうか?

 3.自分でケリをつける。――自分に対する評価は最も高くなるだろうが、失敗――特に万一逃げられた場合、全体としての作戦が失敗に終わり、更なる時間を拘束される可能性がある。エミリーと口裏を合わせないと自分の失敗もバレるハイリスクハイリターン。


 3択からネージュが選んだのは――


「森の中にもう1体!逃げだしたら始末宜しく。」

 風の精霊の力を借り声を拡大させてどこにいるかわからないエミリーにフォローを期待してそのまま森へと突っ込むことだった。

 増幅された音声と突撃してくる竜人に幻惑鳥Bは驚きながらも応戦状態に入った。

 まずは幻惑エリアの再構築だ。しかしすでに中にいて高レベル神官の【強心マインドセット】を受けたネージュにはほとんど効果は出ない。ただ、幻惑なのか本物なのか、濃いめの霧が島全体を覆いだした。仮にこれが幻惑でなく、霧と言う気象事態を操っているのであれば、幻惑鳥と言うのはとんでもない魔法の使い手である。

 エミリーもアンナの【不可視インビジュアブル】の特性は理解している。故に当然ながら返答などは一切ない。声が届いているかも不明だし、この幻惑空間の外にいるであろうエミリーの目に何が映っているのかすらわからない状況だ。

 ネージュは一気にケリをつけるべく、急降下を開始する。


 幻惑鳥Bも巣から飛び降り、降下により若干の速度を稼ぐとそのままネージュに向けて急上昇を始める。その上昇率、速度を見る限り恐らく風の精霊の力も借りている様子だ。周囲の霧が一瞬ふわりと揺らめき、岩でできた山肌にあった巣らしきものが見える。

(島の景色自体が幻だったのか……)

 外から見た、そして中から見せられていた景色との明らかな相違にネージュは舌を巻いた。ハルピュイア、ネヴァン、そしてシルヴィアとカーラ。かつて幾度となく空対空の戦闘を経験したが、このての搦め手まで考慮すれば幻惑鳥が一番厄介なのではないだろうか?

 ――流石にカーラ以上はないか。

 ネージュは急上昇してくる幻惑鳥と向かい合いながらそんなことを考えた。すると幻惑鳥の脇とも呼べる翼の付け根の下側に朱色の光が集まっていく。

「魔法!?」

 人族に一般的に伝わっているものとは違うのだろうが、風の精霊魔法が使えるのだ。火の魔法が使えても不思議はない。幻惑鳥は双発の火炎弾を放出すると同時に向かって左下方へと下斜めループスライスターンを始める。急激な機動ではあるが早すぎるそれは相手の目の前で背後を晒すという余りいい策ではない。ネージュはそう思いながらまずは迫る2発の火球をハーフロールからの降下でそれを躱した。

(遅い――)

 火球の速度を見てネージュはそう思った。しかし放たれた筈の火球はネージュが避けた先を予測していたかのようにグイっと曲がり始めると、慌てて機動を変えるネージュの動きに少しだけ食らいつきつつネージュの背後へと抜けていった。

(あぶなっ!?)

 そう思ったのも一瞬、今度はすぐ後ろで爆発音がしたかと思うと、そのままネージュの背後から爆風と熱が襲い掛かって来る。

「ちょぉ!?」

 炸裂弾だ。直撃せずとも、近くで爆発させればその熱や爆風が確実にネージュを襲う。それはハルピュイアの自爆特攻に近い感じもしたが、ハルピュイアはネージュの動きにここまでついてこれはしなかった。

(幻惑鳥が操作してる?)

 ネージュはその衝撃に姿勢を崩されると少しだけ落下しつつも幻惑鳥が器用に放った魔法を操っているのかと考えた。しかし先に反転を始めた幻惑鳥はその背をネージュに向けている。魔法の発動や誘導は基本視認が必要の筈だ。少なくとも幻惑鳥が今のネージュの位置を捉えている様には見えなかった。

(……)

 しかし、幻惑鳥が背を向けているのも事実だ。ネージュは降下から再度速度を増して追いかけようとしたが、先にループに入っていた幻惑鳥はすでにネージュよりも高い位置に移動しており、ぐるりと姿勢を変え、ネージュに向けて回頭を済ませていた。

 ネージュは竜化すべきか一瞬迷ったが、“やる気”の幻惑鳥を見てもう少し様子を見ようと思い留まる。“すぐ逃げる”という選択肢を持つ相手は勝利条件によっては下手な強敵よりもずっと難敵である。ネージュは今更ながらそう思った。


 幻惑鳥が再度双発の火球を生み出すと、ネージュは人形態のまま氷の収束ブレスを吐いて牽制する。竜化なしでもブレスは打てるようになったが、当然ながら威力も範囲も本来の物よりも大きく下がる。それでも中遠距離から一方的に撃たれるよりはとネージュも対抗して見せたのだ。

 火球と氷柱は空中で接触することなくそのまま互いの横を抜け、それぞれの目標である本体へと真っすぐ飛んでいく。

 突然の飛び道具に慌てたのか幻惑鳥は火球の横を抜けてくる氷柱を見るとすぐに左へ急旋降下スパイラルダイブを始め氷柱の進路から離脱する。勿論ネージュのブレスに目的を追尾する様な性能はない。ただこの幻惑鳥はあまり高くない高度においても咄嗟となると左への急旋降下を選択しやすい様子だ。最初の驚きを通り越したネージュは相手は幻獣ながら強敵であると逆に冷静になって相手の動きの観察を始めた。

 一方で放たれた火球は確実にネージュの動きを捉えている。幻惑鳥は遥か前方ですでにこちらの腹を見せ旋回を開始しておりやはり視線が通っている様には思えない。

 しかし火球は確実にネージュの旋回に合わせて機動を変え、更には急降下に対してもさらに合わせてくる。

 といっても速度自体はそれほどでもない。ネージュはある程度火球を引き付けると、200度ほどのロールからそのまま降下して直撃を避ける様に身を躱した後、炸裂に備えて一気に加速した。

(ぬーん……)

 火球の動きは何となくネージュの思った通りの動きだった。

(こちらが動きを変えようとすると後追いの如く動きを変える?少なくとも先読み・・・でないことだけは確か)

 ネージュはそう考えながらも今回は炸裂によるダメージを最小限に抑えつつ、先に回避機動を取っていた幻惑鳥の後ろを追う。

(本体は速いな……)

 追ってくる火球を避け、再度幻惑鳥を捉えようとすると、幻惑鳥は思いの外鋭い動きですでに回頭を済ませネージュの前方上方にいる。

 小半径のスライスターン気味に火球を避けたネージュだったが、今回はやや幻惑鳥が先行している。更に上を押さえられている状態で機動でも幻惑鳥がやや有利な状態だ。

 そこで一気に勝負を仕掛けるつもりか、幻惑鳥が嘶く。高周波のそれは正確な音程を計れない程の異様な音であり、それを耳にしたネージュは側頭部を、三半規管を直接揺さぶられたかのような感覚を覚え、姿勢を崩した。

(!?)

 突然の眩暈に姿勢を、そして速度と機動を崩されたネージュに向けて今度は2対4発の火炎弾が放たれる。ネージュはそのまま数秒、自由落下に身を任せると今回は回避を諦め、その火炎弾を相殺できないかと竜人本来の光熱のブレスを吐きつけた。

(やったか!?)

 ネージュの少し上で光熱ブレスと3発の火球が衝突し爆発する。すると残った1発が、ネージュの脇を真っすぐに・・・・・通り抜けていく。

(む?)

 相殺しきれなかった場合、1~2発の被弾は覚悟したネージュだったが、意外なことにその1発はネージュの脇を曲がることなくそのまま地上へと落ちて行き、地上で爆発を起こした。

(ほほう。)

 頭を軽く振り、眩暈を振り払いながらネージュはそれを見て何やら思いつく。

 しかし悠長なことは言っていられない。幻惑鳥の方もそれで仕留めきれるとは思っていなかったようで、すぐに上方から次の4発が立て続けに放たれる。

 ネージュは再度光熱ブレスを拡散モードで選択し、自分の正面にそれを置いた・・・。すると、そこに吸い込まれるように4つの火球全てが吸い込まれ、爆発を巻き起こす。

(ははーん。)

 ネージュはその瞬間、追尾の原理を悟った。熱だ。周囲の空気よりも温度が高いものを、より高熱な物を追い掛ける特性がある様子だ。

 ネージュはその爆発地点を避けつつ上昇を始める。必殺の一撃と思っていたのかその爆発の向こう側を幻惑鳥が悠然と通過していくのが見えた。生意気にも油断――ないしは勝ち確を認識する知能がある様だ。

 幻惑鳥はネージュにほぼダメージがないこと察知すると慌てて距離を離しに掛かる。垂直に近い角度で急降下し一気に身体を引き起こす。そして最初に見せたように風の精霊魔法を使ったか上昇気流に乗り一気に高度を上げる。だがそれはネージュも同様のことが可能だ。そして取れる選択肢はネージュの方が多かった。

 ネージュは光熱ブレスを囮に、氷柱ブレスを攻撃に使い分け巧みに幻惑鳥の動きの幅を狭めていく。幻惑鳥はそれに対抗すべく、旋回半径を極力抑え、上下の機動を軸にネージュの死角から誘導弾を捻じ込もうとする。


 極力旋回半径を抑えつつ、少しでも有利な位置――相手背面または後部上方――から回避困難な攻撃を放つために、互いが近距離から交錯しつつ幾度となく切り返すローリングシザース。距離と速度が詰まったところで至近距離からの攻撃に移ろうとネージュが蛇腹剣を手にしたのに気づいたか――

 幻惑鳥はそのローリングシザース合戦に於いて“やや有利なターン”となる、上側から捻りこみながらの交錯の時、勝負を決めるが如く姿勢を捻り急な機動を試みる振りをして――降下による速度に風の精霊魔法の加速を乗せ一気に離脱した。

 流石に別系統の精霊魔法の同時起動は無理なのだろう、幻惑鳥はここ数回の交錯時に誘導炸裂弾を放っていなかった。

 勿論、至近では誘導に限度があり、炸裂による自分へのダメージも多少は考慮していたのだろう。しかし小回りが利くネージュが徐々に有利な位置を締め始めると、離脱できるタイミングを計っていたのだろう。


 幻惑鳥は狡猾――いや、種の存続に熱心ともいえるか――だ。

 自分も可能な限りは当然の様にその子供や伴侶を守るが、勝てないと踏んだ場合、何を差し置いても自分が逃げる。それは我が身可愛さもあるだろうが、根本は全滅しては何も残らないことを承知しているからだ。

 食うか食われるかの世に於いて、最後の砦たりえる自分が負ければ自分を含めた全てが食われる。しかし、幻獣の寿命は動物よりもはるかに長い。単性での繁殖は出来ないとはいえ、自分が生き伸びさえすればまだ次がある可能性が残る。取り返しの効かない命に関しては、可能性の0%と1%は雲泥の差があるのだ。例え子供や伴侶は亡くそうとも全滅しなければ次がある。

 幻惑鳥は既に数十秒前から逃げ出す算段を整えていたのである。


 勿論ネージュの方もそれは分かっている。しかしほぼ完全と言えるタイミングでの離脱を始められると初動のわずかの差を詰めるのはなかなかに難しい。

 ネージュはすぐに追尾体制に入ると、距離を詰めることより軸を合わせることを優先し、それがあった瞬間にほぼ水平に高速の光熱ブレスを吐きつけた。大きさよりも速さと飛距離を重視した収束型の細いレーザービームだ。勿論無誘導である。

 背後を確認していたか、或いは迫る熱や魔力を感知したか、幻惑鳥は大きめのバレルロールのみでそれを躱すと針路を大きく変えず、速度を保ち更なる加速をする。


 そして30秒、ネージュとの距離が十分に離れたところで幻惑鳥の速度が緩やかに低下する。

 幻惑鳥の腹側、首から下が綺麗にぱっくりとわれたのだ。

 幻惑鳥は血と臓物を空中散布しながら速度を失い、そして高度も失っていく。何故ならもう、慣性の力しか残っていなかったからだ。

 落下していく幻惑鳥の首をグリフォンが掴んでいた。


 幻惑エリアの外にまで伸びたネージュの光のブレスは東側上空で待機していたエミリーへの合図となり、まさにレーザー誘導兵器の様にエミリーを幻惑鳥の飛行先へと誘導していたのだ。


「集中力は大事だな。」

 ブロースカに幻惑鳥の首を掴ませながら追いついてきたネージュにエミリーは笑って見せた。

  



こんな感じのファンタジー3D格闘シューティングどこか作ってくれないかなー。



尚、SASMはACx2、3大出禁装備の一つ。異論は認める。

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