幻霧と暗殺者
評価、ブックマーク、齟齬のご指摘等色々有難うございます!
今回は少々短いですが……
アデル達よりも大きく先行したネージュは目標である島の上空にいた。
まだ数分程だが見張っている限り、島に大きな変化・動きはない様に見える。
目標の島も、先日休息に立ち寄った無人島同様、中央付近に小高い山があり緑が生い茂っている。島の周辺は白い砂浜と穏やかなクリアブルーの海が広がり、風光明媚なその様子はまさに休息や観光にはうってつけともいえる島であった。
ネージュは静かに緩やかに島の周囲を飛行し島を確認するがやはり幻惑鳥の姿は見えない。
東側に抜けた所で海水竜の様子を探るが、7体全て緊張感はなく、こちらに気づいている様子はない。
海水竜と少し距離を取りつつ島を一周するがそれ以外の脅威となるような生物の姿は見えなかった。
(やはり中央の森?山?に潜伏しているのか。)
ネージュはそう考えると『物は試し』とシルヴィアから基礎を教わった“魔力視”を発動してみる。母の様に魔素の大きさ、魔力の強さまではわからないが、漠然と『あっちの方に何かいる。』くらいは分かる様になっていた。
目を閉じ、周囲に漂う魔素をイメージする。次にその魔素の流れと揺れを意識して――
ネージュは己の失敗を悟る。
見えたのは周囲一面を覆う濃い魔素。
慌てて目を開き周囲の確認をする。何の変化もない。
そこでマリアの言葉と自分が上がった状況を思い出す。
『【強心】は元々展開されていた幻惑空間に対抗する魔法ではない』
『海水竜――前哨3体が接近開始』
即ち――今自分が見ているのが幻そのものなのだと。
近くに来る時点で体の変調、違和感、そのようなものは一切なかった。まさにシームレスで幻惑の空間に入り込んでいたことになる。この状況で山に向かった所で何かを見つけることは出来ないだろう。
島上空に来てから経過した時間も良く判らなくなってきていた。もしかしたら最初の偵察に来た時に見ていたのも、レインフォールの他の斥候が目にしていたのもこの幻だったのかもしれない。そんな気さえしてくる。
「くそっ!」
そう声を漏らすと急いで上空高高度へとあがり、元来た筈である方向へと離脱する。
しかし声を漏らしたことで【不可視】の魔法の効果が解けると、同時に感知されたか幻惑鳥がスクランブルの様に森から飛び出し、島の周囲を一周旋回した後、西へ――船団の方向へ向かって飛んでいくのが見えた。
先ほどまで見えていた海水竜は7体でなく、4体が西へ向かうべく動き出している。
すぐに追い掛けなくては……
そう思ったネージュは己の失態を悟ると同時にとんでもない物を見つけてしまう。
「……うわぁ。」
幻惑鳥は“番い”だったのだ。
船団へと向かった個体とは別にもう一体の巨鳥が森の中に潜んでいた。
ネージュさんが久しぶりにやらかした模様。




