群島
評価・コメントありがとうございます。
こっそり頂いた分も早速適応させていただきました。
「ゆうべはおたのしみでしたね!」
無人島散策の翌朝、アデル達の船室に遊びに来たネージュさんが開口一番、そう言い放った。
「何を言っているんだ。君は?」
アデルが目を細め、棒読みに近い感じに答えるとネージュは部屋の中を覗き込んだ。
「開放的な絶景の海!星降る夜の密室には若い男女が二人きり……」
「時々お前が読む本の検閲をしたくなるんだが?……それに二人きりじゃないんだよなぁ。おまけがティナだったらワンチャンスあったかもしれんが。誰だ。新婚旅行に海とか船旅とか言い出した奴は。」
ニヤリと首を突っ込んでくるネージュにアデルはやれやれといった風に答えた。
船室にはベッドが2つ。一応は奴隷であるティナが相部屋なだけなら無視して『お楽しみ』もあったかもしれながいが、昨日急遽彼らの部屋に割り当てられたおまけは気位の高い隣国の元王女だ。
「嫁に人数制限があるのは連邦くらいって聞いたけど。」
ネージュが部屋に入り込んできて確認すると船室の一つのベッドに第2王女が2人薄い毛布と掛け布を掛けた状態でゴロゴロしている。ある意味――いや、色んな意味で凄い光景ではある。
「普段ならお兄がマリアより早く起きてる筈はないんだけどなぁ。まあそう言うことにしておいてやろう。もうすぐ上陸が始まるんだって。私らにはあんまり関係ないけど。」
ニヤリと嗤うネージュの顔にアデルは軽くアイアンクローを見舞いながら答える。
「わかった。準備する。ってゆーか、させる。」
アデルはネージュにそう答えた。
簡素な朝食後、レインフォールの船団は群島の中でも特に大きい島へと上陸した。
錨を降ろし、船からタラップの伸ばしてぞろぞろと船員たちが島に渡っていく。流石は私掠船、標的の船の制圧を速やかに行う訓練やら経験やらを積んでいるのだろう。50人ほどの乗員がほんの数分の間に移動を終える。アデル達はその様子を感心しながら見届けた後、グリフォンsと共に島へと上陸した。
その島には町が形成されており、大型であるレインフォールの旗艦・ウラガン号、そして2番艦・トルエノ号が並んで停泊できる程の港も整備されていた。
港には彼らの他にも中型船が2隻停泊していたようだが、これといったトラブルは起きていない。
レイラによると、この島は古くからフィンと南大陸のオーシャスと言う国が合同で整備・管理する中間地点であり、つながりの深い両国が海上の拠点として利用している島で、両国の正規の海軍部隊が駐留し、ここで騒ぎを起せば両国の貿易からつまみ出されるとのことで、もめ事は起さない様にと注意された。
と、いっても所詮は荒くれ者ぞろいの船乗り達の休憩地点であり、酔っ払いの乱闘騒ぎは日常茶飯事であるとのことで、死人が出ない限りは個人レベルの私闘でいきなり貿易ルートからの排除という事はないらしい。
島の利用には事前連絡に加え、停泊と上陸でそれぞれに安くない料金が発生するがここを利用することで両国間の貿易に関しては大幅に航海時間を短縮でき、結果として大幅にコストを下げられる。ここで荷を交換、積み替えを行えば実質距離が約半分になるのだからこれはまあ当然ではある。
また、今回はシーサーペントの群れには両国・各船団、相当に頭を悩ませていたらしく、民間としては最大手のレインフォールが冒険者らを雇い自主的な討伐に来たと知られた結果、いろいろ便宜を計ってもらえることになったそうだ。
具体的には水・食料の供給、そして討伐成功時は一部戦費の補填を受けられるとのことである。
シーサーペントの群れという前代未聞の相手に、各国軍は碌な連携も取れず下手につついて被害を受けるよりはと静観し、民間はそもそも手を出せる様な勢力は現在この周辺にはいないらしい。
大型艦とは言え、戦闘艦2隻だけで討伐に出るというトルメンタ艦隊に一部懐疑的な目もある様だが、トルメンタ私掠船団が返り討ちになったところで国や部隊に被害が出る訳でもなく、うまく討伐できれば僥倖。せいぜい面子を保てる程度に後から費用の負担をしてやれば良いというつもりである。
レイラによるとアデル達が乗っていた輸送艦はここで待機させるとのことで、ここからは旗艦の一般の船室に移動させられるとのことだ。
輸送艦から必要な物を移し、空になった各種入れ物を輸送艦に入れ替える作業を終えて、昼過ぎ、いよいよ他人目のないところでティナの【時空門】を開き、ハンナ、ルーナ、ユナを呼び寄せる。
レイラの指示により、ネージュとアンナ、ブリュンヴィンドが旗艦、それ以外がオルタが戦闘指揮を担当する2番艦へと分かれて乗り込ことになった。その移動の際、揃いの装備を付けたケンタウロスやグリフォン、竜人や翼人など馴染みの薄い種に港にいた者達から注目が集まっていた。
午後になり再出港すると、やはり船に不慣れなハンナが少し体調を崩したが、マリアらの回復魔法のお蔭で落ち着き、最初の夜までにはある程度慣れてきたようだ。
久しぶりの実戦に備え、ハンナは揺れる甲板からの射の感触を確かめるようにずっと練習を繰り返していた。




