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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
南部興亡篇
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海へ

栞・評価・感想&誤字報告ありがとうございます!

 レインフォールとの“取引”に応えるべく、2週間の一部業務停止を各方面に伝え準備を整えると、アデル、ネージュ、アンナ、オルタ、マリア、ティナの6名とグリフォン4体でトルナッドへと向かった。

 レイラは海路奪還作戦への協力に感謝を述べると同時に、アデル達に予想外の成功報酬、即ち“ボーナス”を提示した。

「うちの最高峰の《付与術師エンチャンター》を半年間、講師として貸してやると言うのはどうだ?」

 と。

 これに食いついたのはマリアとティナだ。

「本当ですか?」

「それはいい!」

 共に珍しく興奮気味でマリアとティナが声を上げる。

 何かの形でヴェントブルーノに貢献したいと言った矢先のマリアと、新たなカテゴリの魔法を習う機会がやってくると見るティナがアデルよりも先に大きく反応したのだ。

 どちらも魔法に関しては、保有魔素量さいだいえむぴー魔力制御いんてりじぇんすは折り紙どころか、金屏風が付いても不思議はないレベルである。

 レイラも両名及びフローラの魔法の腕前は見聞きしているらしく、それを踏まえての“貸出”というボーナスなのだろう。放出は惜しいが半年程度の講師派遣なら問題ない。また、ドルケンの武器・防具をベースに一流魔法使いによる魔法が付与されたとなれば相応の価値の武具を取引出来るようになるとの思惑だ。

「レイラさんの言う最高峰ですか。是が非でも成功させなければなりませんね。」

 アデルがそう言うとレイラが応える。

「元々素養の高い奴が死ぬ気で修得したものだからな。ふふふ。」

 レイラは不敵に、そして意味ありげに笑みをこぼした。

「それではまず概要の説明からだ。」

 レイラがそう言い合図を送ると、側近らしきものが数枚の地図を持って駆け寄ってきた。

 アデル達が初めて見る地図である。


 大陸南岸の少々入り組んだ地形の表示の下部にはひたすら海が記されている。ただ、その海の部分には海の深さを示す等深線が記され、それに後から書き入れたかのような矢印がいくつかある。また、縮尺が異なる別の図には、目的地である群島部の海路を示したものもあるようだ。

「まず今回の作戦に出港する艦船は、この船及び同型の戦闘艦1隻と輸送艦1隻の3隻だ。お前が【時空門】の使い手だな?」

 レイラはそう切り出すとティナに向けて言う。年末にオルタ等が来た際に話を聞いたのだろう。ティナはその問いに黙って頷いて応えた。

「いくつか聞きたい。目の前の空間と視界内の一点を結ぶことは可能か?門のサイズは問わない。」

「……出来ると思うが?」

 レイラの問いに少し眉を寄せてティナが答える。

「例えば……目の前の海面と敵勢の艦船の一点とを結ぶことは?」

「おいおい……」

 レイラの問いの意味を即座に理解したオルタが呆れ声を出す。

「……その“一点”とやらによるな。大方、海水を敵船の真上辺りに送り込みたいと言うのだろうが、それなら相手の船が静止している状況か、座標を固定するために観測手がいるな。」

「「ほほう。」」

「「うわーお。」」

 ティナもレイラの意図はすぐに理解できた様でそう答える。その具体的な解答のお蔭で意味を理解したネージュとアデルもレイラやオルタと共に驚く。

「なるほど。流石に条件はあるか。しかし有用だな。」

「沈めるだけなら船の横っ腹にブレス一発でいいんじゃないの?」

 感心するレイラにネージュが尋ねる。

「沈めるだけならな。ただ穴は開けたら最後だ。転送なら脅しや警告に使えそうだと思ったが……弱点があるなら万能と言う訳でもないか。まあいい。今回の相手は船じゃないしな。」

 レイラがそう答える。水を少し送り込んで脅して接収できないかと言うつもりなのだろう。確かに沈めるだけならレイラやネージュがいればそれほど難しくはなさそうである。

「戦闘艦2隻だけで大丈夫か?と思ったが……まあ、余程の船団に遭遇しなければ余裕か。」

「船団相手でも風や水をある程度操れる者がいるなら常時優位に動けるだろうさ。」

「……あれ?うちら空賊より海賊の方が向いてない?」

 オルタの言葉にレイラが答えるとネージュさんが何か別のことを思い立った様子である。

「沈めるだけなら、な。船の制圧や接収にはそれなりの人員が要る。いくらその魔法袋があったところで一度に運べる量は限られるだろうが、戦闘後の船を何度も往復する余裕はないだろう。」

 レイラがネージュ相手に真面目に答えた。

「……魔法袋に入りきらないなら【時空門】で直接店に送り込めば良いじゃない。」

「「「…………」」」

 ネージュの答えにレイラとティナ、そしてオルタが閉口した。

「……ま、うちの船に手を出さなきゃ好きにしろ。話を戻すぞ。」

 レイラは一つ溜息をつくと話を戻す。

「今回向かう先はここだ。知っている情報は1週間ほど古いものになる。向かう途中に1回は新しい情報が来るだろうがそれも最新情報とは言えない。まあ、シーサーペントが1週間でいきなり倍になっている事は無いだろうが、幻惑鳥がいる以上油断は出来んな。」

 レイラは海図の島らしき場所を示しながらそう言う。もともと群れることのないシーサーペントを幻惑し群れとしてまとめ上げる“女王”の存在にレイラや他の船乗り、他の商会の者達も強く警戒している様だ。

「実際にアンナの魔法を試してみないとはっきりとは言えないが、この海域まで恐らく1週間前後は必要だろう。【時空門】の使い手とグリフォン、その世話係は必須となるがそれ以外は配置につくまでポルトにいるという事もできるが……」

「いや、そのつもりの人員で来たからこのままで大丈夫っす。討伐前には2~3人呼ぶつもりですが。」

 レイラの言葉をアデルが遮った。

「そうか。なら移動中も心強いな。ただこの船にグリフォン4体は流石に狭い。お前らにはそれぞれ別の艦に分乗してもらいたいのだが……」

「それならそれで。組分けは?」

「あちらの戦闘艦ふねにオルタとオルタ用のグリフォンを、それ以外をこの船と輸送艦で分けてくれ。グリフォンに関しては私ではわからんからな。オルタは戦闘の際は空との連携も含めてあちらの指揮を執れ。」

「了解。」

 レイラの言葉にオルタは即答する。航海中はともかく、有事の際はオルタにもう一つの船を任せるつもりの様だ。

「じゃあ、私とアンナがここ。お兄たちとティナが輸送艦でゆっくりバカンスでもしてれば?」

 ネージュがそういう。

「バカンスって……てか、伝令メッセンジャーも欲しいし、アンナとティナ入れ替えでいいんじゃないか?」

「何かあればグリフォンでいいじゃん。アンナは精霊魔法の使い方とかでレイラの指示があるだろうし。」

 ネージュはどうしてもその組分けにしたい様子だ。この手のある種の戦略的な話にネージュが主張するのは珍しいが、ネージュの言うことはもっともでもある。

 アデルはアンナとティナを見遣る。

「風向きとか水流とか指示が有りそうですし、その方が良いかと。」

 アンナがネージュの意見を肯定した。そうなるとアデルが話を強く押し通す必要もない。

「わかった。島まではそうしよう。島に付いたら他を呼び出す様にするか。」

 アデルは納得するとネージュ案が採用された。

「ああ、日焼け止めが必要なら支給するぞ?塗あったらどうだ?」

 レイラがアデルを見てニヤリと笑う。

「いや、俺は要らんけど……」

「私は欲しい。」

 アデルが遠慮しようとしたが唐突にティナが必要と言いだす。

「私は……まあ、会った方がいいかしら?」

 ティナに続いてマリアもそう答える。


 斯くしてアデル達のおまけつき小旅行――もとい。初の大海原遠征は幕を開けた。



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