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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
南部興亡篇
332/373

年明け

 大陸歴451年元旦。

 日の出前。まだ外が暗い中、ヴェントブルーノ商店に軽い衝撃が走った。


 申し合わせによりいつもの朝よりも早目の時間に全員が起き出すと、そこにばっさりと髪を切ったマリアが姿を見せたのだ。

 聞けばフローラに我儘を言い、他より早く起きて切ってもらったと言う。

 背中に届いていた金髪は肩口よりもさらに上で切りそろえられ、ボブに近い感じである。慣れもあるのだろうが、金髪では少々違和感が強かった為、フローラの提案でアンナの光の魔法で明るい茶色に見た目を変化させると、何となく茶目っ気のある、活発な印象の女性が姿を見せた。

「昨晩言っていたのはこれか……」

 アデルが呟くとマリアは明るく笑い、それ以外の視線がアデルに向く。

「……いや、昨日寝る前に……『どんなマリアでもちゃんと受け止める』ってな。」

 神妙な――見る者よっては照れ笑いにも見えるアデルの口からそんな言葉が聞こえると、ネージュとオルタが『ほほう。』と漏らす。

「見た目だけではなく……そうですね。出来れば――」

 そう言うとマリアもアデルと似たような表情を浮かべ……マリアは初めて店の者達に我儘を言った。

 マリアの我儘に全員は少し驚いたが、その我儘は満場一致で可決された。

『ポルトの日の出を見た後、皆と王都のパレードを城下町から見たい。』

 昨年は国を取り巻く情勢を踏まえ中止となった新年を祝う王族のパレードや挨拶を下から見てみたいと言うものだった。

 一昨年、結局見ることなく、昨年は中止となったコローナ王都の新年慶賀パレードだ。アデルとしても興味深い。例年13時付近より始まるそれは彼らの移動力があればポルトの日の出を見た後でも充分間に合う。

 ポルトはコローナとグランの民が混在しており、元日の文化も多少異なる。また、土地柄――王都から遠い地方柄というか、殆どの者にとって王家のパレードとは縁がない。そもそもグランには王の祝辞程度はあるが、大々的なパレードの様な者はない様だ。オルタやエミリーに言わせれば、むしろコローナのパレードの方が異例中の異例であるらしい。

 その為か、ポルトでは市庁と商店会の合同企画で、完成間近となったポルトの新港で海から昇ぼる初日の出を見ようという企画が進められていた。

 今回は店で出し物をするという性質のイベントではないため、アデル達も時間は充分にあった。


 せっかくだからお披露目も兼ねてと新調されたヴェントブルーノの制式装備を身に付け、空が紫に変わり始めた頃に港へと向かう。

 ポルトでは既にケンタウロスハンナグリフォンブリュンヴィンドたちも既に馴染みとなっている為、必要以上に目立つこともなく全員で徒歩・・で港へと向かった。

 敢えて徒歩で向かったのは、全員役割こそあれど立場は同等というヴェントブルーノ商店の意図を示すためである。騎乗をするとどうしてもケンタウロスやグリフォンが『人族よりも下』に見らねかねない。普段の移動時の騎乗等に関しては飽く迄、業務としての役割で普段は対等であると言う彼らなりの一つの意思表示であった。

 どちらにせよ、体躯や珍しさで人目を引いてしまうが、揃いの制式装備とあえて騎乗しない意味は分かる者には分かっただろう。


 空が紫から茜に変わりだす頃には、ポルト代表であるエドガーも現われ、アデル達とは簡単な挨拶のみを済ませ代表らの席へと移動する。

 市庁や商店会の周知と呼び掛けにより、既に多くのポルトが大海原の入口へと集まりつつあり、また商店会が関わっているだけあり、周囲には様々な――ほとんどが軽食を扱っているが――露店も少なからぬ数が出店していた。

 いよいよ空が明るくなり、海面から太陽が頭を覗かせると、周囲から歓声が上がりだす。そして十数分、太陽が海上に全容を現すと、いつの間に用意していたのか数発の空砲が鳴り響き、ボルテージを最高潮へと持っていく。

 そして興奮が少し落ち着いたタイミングでエドガーが都市代表として、簡素な櫓の上から挨拶をした。

 初めて1都市として正式に迎える新年に当たり、都市の成長への協力に対する謝辞、今後の港町としての展望、更なる整備計画等が述べられ、改めて祝いの言葉でエドガーの挨拶が終わると再度、日の出時と同様の興奮が巻き起こった。

 ここに訪れた住民たちが皆が皆、新都市発足と成長への役割の自覚、貢献の自負を持ち、更なる発展に期待と新たな決意を寄せる。

 その姿にアデルとマリア、オルタとユナ、フローラが感動し少し高揚する。ティナとエミリーは少し冷めたため息をつき、アンナとルーナはポルトとヴェントブルーノの発展とフィンとグランの戦で消えて行った育った村の者達の安息を改めて祈念する。ネージュとハンナ、ブリュンヴィンドらはエドガーの演説に俄かに沸き立ち周囲に少し困惑の表情を浮かべ、首を傾げた。

  

 こうして新たな町で新たな年が始まった。



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