新装備
回収劇の翌日。昼過ぎからヴェントブルーノ商店の各員は各方面へと“商談”に向かった。
アデルとアンナはドルケンに、オルタはエミリーと共にトルナッド・レインフォールに、ネージュが双方の進捗状況の報告としてコローナ王都ブラーバ亭へと向かう。
それぞれの方面で商品や予算の確保が完了したことを確認すると、その翌日と翌々日にはアデルとネージュ、そしてアンナの3人でブラバドを袋詰めにしてそれぞれへと向かい、ブラバド本人の目で最終的な品物の選考・確認と取引を行わせた。
流石にドルケン王グスタフと直接会うことは出来なかったが、国務卿であるカールソン、トルナッドではレインフォールの会頭レイラとの直接取引には流石のブラバドも大いに緊張をしたようだ。
カールソンとは冒険者の店、ギルドの運用等の情報や意見の交換、レイラとはコローナ王都や南海の情勢・トレンド等の意見交換等の取引以外のやりとりも行われたりした。
ブラバドにとっては丸2日の強行軍であったが、イベント用の酒や店内武闘会の商品用の武具などを十分に仕入れ、また“大物”とのやり取りやコネクションに経て満足して帰国し、最後はイスタへ寄りってソフィーやディアスに催事の協力を打診、その快諾を受けると意気揚々とブラーバ亭へと戻った。
ロゼールの結婚とベルンシュタットとの同盟締結、戦続きの中に齎される慶事に便乗し、数年ぶりに賑やかな新年祭にしたいと意気込んだ。
一方でアデル達もアモール商店に頼んでいた制式ワイバーン防具の最終確認と引取を終えた。
有翼組のレザースーツは従来品と大きくデザインは変わっていないが、表面の艶や模様、可動域や硬度が大きく向上しており、またそれ以外用に仕上がった前衛組のレザーアーマー、後衛用のチューニックも冒険者向け革製防具として最高位に近い仕上がりだ。それぞれの肩の部分にグリフォンを模した紋様の烙印が入り、この場にいる3人はとも満足げであった。アモールが言うには、革製品であるのでこれからじっくりと使い続けて行けばさらに装着感や質感はさらに増していくとのことだ。
アデル達は店内でそれを装備すると次にエストリア・暁亭へと向かった。
突然の来訪にアリオンは驚いたが、アデルがアリオンから譲られたミスリルプレートを『次のエストリアの守護者の為に返却したい。』と告げると、アリオンはやや残念そうな表情を浮かべつつもそれを受けた。アリオンも既にアデル達が冒険者として殆ど活動していないことは知っている様だ。
エストリアも今は北東部の蛮族拠点の完全撤退が確認され、また挿げ替えられた新たな領主が規模に見合う領軍の整備、冒険者ギルドや店との関係改善に取組み、安全は高いレベルで担保されているとのことである。
冒険者の店としては昔同様の危険動物や魔獣、妖魔退治の依頼が中心に戻っていると言う。
また、新領主が冒険者の信頼を回復した結果、冒険者や一部住民の間で氷竜騎士と聖女の活躍が語り草になっているとのことだ。
当時の対応、特に魔族・カーラとの戦闘や置き土産を思い出し、アデルとネージュはややげんなりしつつも『そうですか。』とその話を受け止めた。
アデルが『もし熊が増えすぎたら、毛皮で商売したいのでブラーバ亭かイスタに連絡してほしい。』と言うと、アリオンは小さく笑いつつ『わかった。』と答えた。
アデル達が店に戻ると、その新装備を見た数名――オルタとルーナだけだが――がそわそわし始める。肩当ての刻印をみてそれがどういうものかすぐに理解したのだろう。
それを見てアデルは嬉しそうに、満足げに魔法袋から各々用の物を取り出し、今年一年の感謝と来年の活躍と商会の発展を祈り、と配り、『サイズ調整の必要があれば次の“海外旅行”までに準備出来る様に早めに言ってくれ』と言うと、オルタとルーナ、ユナそしてハンナが早速装備しに向かった。
マリアは少し表情を緩めながら受け取り、ティナは一瞥し質感を確かめながら受け取った。
エミリーは物言いたげに一つ溜息をついて見せた後、やはりその質感を確かめ、この手の冒険者向け装備を身に付けたことのないフローラは困惑の表情を見せた。
「まあ、“防具”が必要になる様な場所にフローラを連れていく予定はないけどな。」
フローラの反応を見てアデルは苦笑しつつそう告げる。
「《魔術師》として修練を積めば一端の術者になれそうだがな。」
ティナがフローラを目で示しながらそう言うと、フローラはティナに
「祖国の宮廷魔術師になれますかね?」
と返す。
「宮廷魔術師は戦闘専門ではない筈だが、本格的に学べばチャンスはあるだろう。……かつてのカールフェルトが戻れば……だがな。」
とティナが答えると、フローラは少し満足そうに、エミリーは少し苦虫を潰したかのような表情で新装備を受け取った。




