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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
南部興亡篇
325/373

非情な取立て

あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしく。


と、言いながら早1週間、1月中にはこちらも1月の話に入れますように……


 ネージュとオルタが計画した“オトシマエ”作戦はアデルの調整と承認を以て実行に移された。

 『非情』を通り越して『非道』に近い作戦案に周囲はマリアが反対又は難色を示すかと思ったが、その『必要性』をアデルやオルタが説明しながら最終的な作戦をアデルが決めると当初険しい顔をしたマリアとアンナもそれ以上の口は挟まなかった。


 まず作戦参加者である。本隊はアデルとブリュンヴィンド、オルタとレドエルド、エミリーとブロースカ、ルーナとヴィトシュネ。そして斥候・遊撃としてネージュとアンナ、伝令担当はユナとし、ハンナとティナが拠点(店舗)の防衛、マリアとフローラは後方支援というヴェントブルーノ商店での事実上初となるの“総力戦”でとなった。

 当初ネージュは暗視を理由に少人数による強襲を考えていたようだが、そこはアデルである。昼に向かったレインフォール商会より、グリフォンsにはブリュンヴィンドとお揃いの金属製ハーフキャップを、ルーナやハンナ、ユナ、エミリー、そしてティナやフローラ、マリアとエドガー向けにはべっ甲のフレームにガラスを嵌めたゴーグルに暗視魔法を付与したものを用意してきており、ネージュを驚かせた。因みにエドガーの分は元々ティア用に発注してものであったのはアデルとレイラのみが知る秘密となった。

 ゴーグルはガラス製であるため凡そ激しい戦闘特に格闘には向かないが、今回のようなシチュエーションでは必須となるだろうと手配していたものであった。本来ならアモール防具店に発注していた屋号紋ロゴ入りワイバーンレザー装備と一緒に年末のサプライズとして贈るつもりであっただけにアデルとしては計画をぶち壊されたという思いも抱いた。


 “回収作戦”の主目的はティアに対する“差押通告せんせんふこく”と“強制執行とりたて”、次に“脅威の排除”となった。脅威というのは“敵”であるなら一番の脅威となりうる近侍、ジューリオのことである。恐らくはティアを誑かし、またカッローニ家の密出国その他を裏で取り仕切り、エドガーをして危険人物と言わしめる人間だ。分散するのかしないのか、したとしてどちら側に付くかはわからないが、注意し、隙あらば始末する算段は整える。

 アデルが各々にゴーグルとハーフキャップの暗視起動方法を教え終えるとすぐに作戦開始となった。

 ハンナは早速試用を兼ねて前線を希望したがやはり今回も移動を理由に留守居役となってしまい、不満そうな顔をする。


 最初に動くのはネージュとアンナである。

 ネージュとアンナはそれぞれの役割を再確認すると、ネージュが速度重視の“竜化”を行い、その背にアンナが乗り込み自身とネージュに【不可視】の魔法を掛ける。こうしないとお互いが見えない為はぐれる恐れが多分にある為だ。

 ネージュ達が風だけを残して離陸したのを見届けるとアデルはオルタと共にエドガーの元へと向かう。臨検の令状を確保するためだ。

 アデルはエドガーに暗視ゴーグルてみやげを渡しながら状況と作戦と通知した。

 アデル達の作戦を聞いたエドガーはぎょっとした様子を見せたが、すでにネージュやオルタの様子から凡そを察していたらしく、エドガーはサラディーノとジューリオが関所を通った場合と避けた場合、それぞれの対処の“要望”をアデルに伝えると、『国境の向こうの出来事には関知できないが。』と言葉にしながら臨検の令状を用意してくれた。


 エドガーによる黙認というGOサインを得られたアデル達はすぐに行動に移った。

 まずは臨検の令状を持って街道を行く隊商が通るであろう関所までオルタとユナがレドエルドと共に先に向かう。それ以外はユナとアンナが情報を持ち帰るまで待機だ。

 サラディーノ、ティア、ジューリオの所在、隊商が関所に到着する時間、そして盗品魔具の有無によっていくつかのパターンに作戦が切り替わる。とにかくまずは初報待ちとなった。




 作戦開始から3時間ほど。日は完全に落ち視界を確保するには別途の灯りが必要となった頃合いにまずはアンナが店に戻ってきた。

「ティアとサラディーノ、それに護衛3名が馬で隊商を離脱、ジューリオは含まれないようです。」

「「「ふむ。」」」

 アンナの報告にアデルとティナ、そしてエミリーがそれぞれ別に頷く。

「ジューリオを残したか。どう見る?」

 アデルがティナに振った。

「隊商を完全に囮にする気だな。カッローニ兄妹の出国を最優先にしたのだろう。」

「護衛は機動力と護衛力に自信があるのだろうな。ジューリオとやらは自分たちの似顔絵の手配書が配られている事を知らんのか?」

 エミリーが口を挟む。

「何かしらの“後方処理”を請け負ったのだろう。或いは足止めの“殿しんがり”の可能性もある。」

 ティナはジューリオとサラディーノの別行動をそう分析する。

「……ってことは、隊商かと思ったら中身は軍人だったって可能性も――」

「大いに有り得る。むしろ小間遣いよりはそっちの方がしっくりくるだろう。ただ現状でコローナやグランに実力行使を仕掛けるほど愚かでもあるまい。恐らくは関を通り抜けるための小細工を施すつもりなのだろうが――」

「少なくともコローナは彼らを関で止める気は最初からないと。」

「関を越えてしまえばコローナやグランもレオナールやファントーニの裁可なしで追い掛けることもないだろうしな。」

「どちらにしろプランB確定だな。隊商が軍の可能性もあると。次はユナ待ちか。アンナはユナが戻るまで休憩を取っておいてくれ。その後予定通りネージュにつなぎを頼む。引き返せない場所まで泳がせたうえで取立の徹底の宣告だけをしてこいと。」

「わかりました。」

 アンナはそう言うとフローラから軽食を受け取り休憩に入った。


 そしてアンナの初報から1時間と待たずにユナが最初の報告に現われた。

「積荷の確認はこちらの指定通りにやってもらえることになりました。隊商は関所の東約30キロ地点の街道脇で夜営に入った様子です。恐らくは明日の昼前に関所に到着するだろうとの事です。」

「残った隊商の規模は?」

「30人~40人ほど。2頭立ての馬車3台ですね。馬の数的に数名離脱した様子だとオルタさんが。」

「ああ、そっちの情報は届いている。アンナ。」

 報告を受け取ったアデルがアンナに示すと、アンナが頷き、4騎――サラディーノとティア、それに護衛が離脱したことをユナに教える。

「ジューリオとやらは隊商にいる可能性が高い。また、隊商員も軍人である可能性が高いからオルタには合図があるまで強引な事はするなと伝えてくれ。関所でグリフォンを見られない様に注意し、ユナは隊商が関所を通ったら様子を教えてほしい。その後合流地点で合流、機を見て全力で“回収作業”に入ると。」

「承知しました。」

 要点だけのやり取りを終えるとユナは再びオルタの元へと向かって行く。



 その様子をエミリーが注意深く見つめていた。


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