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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
南部興亡篇
324/373

提案

 アデルがトルナッドから戻って来た時には既に時刻は16時を過ぎていた。

 ポルトが大陸最南部と言えど冬の昼はそれほど長くはない。西の空はすでに茜に染まり、昼間よりも大きく見える太陽を直視するのは少し難しくなっている。

 そのアデルを出迎えたのはネージュであった。ネージュとしては早く次の行動に移りたかった様だが一応アデルの戻りを待っていたらしい。

 ティナの――実際に行使したのは習いたてのフローラであったが――とマリアの魔法により短時間とはいえ予定外の熟睡をとったネージュはオルタと共に次の行動を考えて――否、準備していた様子だ。いわゆる承認待ち状態である。


 状況的に自分の報告は後でも問題ないと判断したアデルは先にネージュ達の話を聞くことにした。

 ネージュとオルタは今夜中にティア――恐らくサラディーノも一緒となるだろう――が隊商とは別行動に出て国外脱出をするのではないかと考えているそうだ。

 ネージュとしては以前ティアを捕らえた時の記憶から、オルタはグラン~タルキーニの地形や関所の位置等から自分ならそうすると考えた様だ。そしてそれはアデルとしても十分に理解でき、そちらの可能性も低くはないと考える。

 オルタが言うにはエドガーはその可能性は低いと見ていた様だが、ネージュとしては間違いなくそう動くと見ている様で、エドガーに幾つか確認・・を取ってきたと言う。

 ネージュが確認したのは次の通りであるという。


 一つ、盗品の売買、密輸は違法であること。

 一つ、国境の向こう側・・・・で起きた事に関してはコローナもグランも一切関知できない・・・・こと。

 一つ、現在、タルキーニ、特に都市部を除いた場所はほぼ無法地帯であること。

 一つ、サラディーノ達は密出国をしようとしていること。

 一つ、サラディーノは殺してはならないこと。


 うん。ネージュさんのヤる気はよくわかった。

 上記を踏まえたネージュの提案はこうだ。

 まずはネージュとアンナで隊商の監視をする。その後、ティアが隊商を離脱するようならネージュはそちらを追跡、アンナは誰が離脱したかを連絡に戻る。別れた場合、オルタがすぐに関所へと向かい兵士たちに隊商の積み荷を改めさせる。既に盗難届と臨検指示書はエドガーから得られている。もし実際に盗まれた魔具――着火と灯明の魔具を持っていたならその場では手を出さずに国境を越えさせる。オルタはすぐに報告に戻り、“回収部隊”を速やかに向かわせるという案だ。

「仮にティアとサラディーノが共に離脱したとして……ネージュの“確認”だけじゃ密出国の証拠にはならなくないか?」

 一通りネージュ達の案を聞いたアデルがまず確認したのはそこだ。しかし。

「……エドガーか誰かを直接連れて行かない限り、関所を避けられた時点でどうにもならないだろ?で、だ。」

 アデルの問いに答えたのはオルタだ。そしてチラリとエミリーを見遣る。

「……ティアマト・エリアナ・カッローニ。これがティアの本名だろう。状況や私達の知る情報を重ね合わせた結果、ほぼ確実と言える。サラディーノ・ルイージ・カッローニの実妹。フロレンティナ殿の拘っていた“古き血”の持ち主だ。」

「……“古き血”?」

 エミリーの言葉にアデルは眉を寄せ尋ね返す。

「ブリーズ三国、そしてグラン国の初代王の血脈のことだ。それを現代に受け継ぐ者達を彼女はそう呼んでいた。」

「……フロレンティナに会ったことがあるのか?――いや、それは今更どうでもいいか。古き血の持ち主、つまりは?」

「タルキーニの王家を継ぎ得る者である。と云う事だ。勿論、最上位はサラディーノであろうがな。」

「……えーっと、つまり?」

 エミリーの言葉にアデルはただ眉を寄せるのみだ。

「サラディーノに何か・・あればティアマトが王位を継ぐ可能性がある。」

「そりゃあまた……でもフィンがそれを許すのか?」

「黙ってはいないだろうな。だが、抑え込めるかは別の話だ。」

「……その辺はあとで詳しく聞くとして取り急ぐのは?」

 アデルはエミリーではなくオルタに尋ねた。

「ティアとジューリオとかいう執事を始末するか逃がすかどうする?って話さ。密出国されてしまえばグランやコローナでは一切関知できない。現時点でタルキーニの治安を守っているのはフィン軍だから……奴らが衛兵に泣きつくわけにもいかないだろうし、あちらの軍勢に合流される前に消すなら不可能はないって話。」

「なるほどな。」

 オルタの話を聞いてアデルにも黒い感情が沸き起こる。

「サラディーノとやらには手出しできないけど……それ以外にオトシマエを付けさせることはできる?」

 オルタの説明を補足するようにネージュが言う。

「私としてはきっちり“回収”することをお勧めしたいけど。」

「おすすめ案は?」

 ネージュにアデルが尋ねる。

まずは・・・魔具を回収する。その際、お金の取り立てもいずれ・・・するって宣言してね。」

「つまりは?」

「別行動を取った場合は隊商を狙う。国境の向こうでね。私はティアを追ってタイミングを見て回収と取立ての予告をして見逃す。」

「別行動がなかったら?」

「……その時はエドガーが喜ぶだけかな?魔具がうちから盗んだものだって証拠が出せればいいんだけど……」

「……この後は商品に刻印でもするかね?まあ、今更か。ふむ。」

「私としても釘だけ刺して見逃す手を推したいな。」

 今度はティナがそう言う。どうやらアデルが戻る前にある程度の話は纏めていた様だ。

「別に必ずしも始末するとは言ってないが……一応理由は?」

「敵性国と裏切者勢力が勝手に潰し合いする。或いは、高利で貸し付けたと考えれば悪くないだろう。」

「信用できない相手に貸してもなぁ?」

「そこは強引にでも取立てすればいいだろう。最終的にものを言うのは力だ。尤も当人が落命したらどうにもならんがな。」

「……ティナとエミリーはコローナの支援を蹴ったタルキーニに目があると思うのか?」

 アデルの問いにティナとエミリーは顔を見合わせる。

「他の2国よりもフィンと離れているからな。目は十分にある。」

「フィンはまずイフナスを抑えるべく動くだろう。とはいえ、コローナが陸路の物流を止めるならタルキーニは相当厳しくなるだろう。その後適切なタイミングでどこかを経由して物を売り付ければそれなりの値段になるだろうな。」

 ティナとエミリーが答える。

「カールフェルトが纏まらなければ十分あるでしょう。ローレンス殿下に纏められるとは思いません。」

 最後にフローラがそう言った。

「……わかった。それなら――」

 アデルはネージュに指示を出した。

20年最後になります。来年は良い年になります様祈念すると共に……


実際の年明けとこの話の年越しを合わせたかったけど間に合いませんでした。ムネン。

どうぞ、よいお年をお迎えください。

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