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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
南部興亡篇
321/373

寝る。

 かなり遅い時間にもかかわらず仕事へと向かうネージュとエドガーを気遣いつつ送りだしたアデルは今の自分に出来る行動に移った。

 それは寝室へと向かうことである。出来れば一度、暖かい風呂に浸かりたいところであったが、送り出したネージュや、明日の朝の早さと予定移動距離、そして現在の時刻を考えると流石に一から準備して入る気にはならず、水を温め、お湯で体を拭く。湯沸かしに関しては、魔具よりもエーテルを使った方が早いのだが、エーテルは消耗品だ。それに設備も高価となる。エーテル湯沸かし器を持つ家など、貴族であっても上位貴族の屋敷、それも貴族専用のスペースにしかないだろう。そして時間が掛かるとはいえ、魔具の湯沸かしも決して安いものではない。ブラーバ亭でも宿泊料金とは別途に貸し出し料を取られるような代物である。基本的には溜めた水の中に入れ数分待つタイプが主流だ。風呂だと十数分~二十分くらい要するが、小さな木桶であれば数分で温められる。


 アデルの寝室は現在、店舗の奥、住居エリアの2階の一番大きな部屋だ。ある意味で当然だが、マリアも同室である。

 木桶の湯が沸き、アデルが身体を拭き終える頃には、ティーカップの片付けと消灯を終えたマリアが寝室に入ってきた。

 結婚当初は寝室にあっては薄絹一枚だけの姿だったが、南国グランとは言え12月の夜となればそれなりに冷えるため、最近は厚めのタオル地のローブ姿になっている。その下には下着の類は一切つけられていない。

 アデルが少々意外に思ったのは、マリアは自分の裸を見られることに羞恥のようなものを見せなかったことだった。この世界でも他人に裸を見せるのはタブー視されており、そんな環境で育つ以上、誰しもが裸を見られるのには抵抗がある。しかしマリアは当初から――ミノタウロスの砦で解放された時から局所を隠すということはせず、少し言葉は違うかもしれないが、毅然として振舞っていた。勿論自分から進んで他人に肌を見せると言う事はないが、本人の中で是と判断される場合は怯むことも気負うこともない様子だった。

 自らの身体に自信と誇りを持っているのか、上に立つ者の威厳なのか、或いは上位貴族に政略として嫁ぎ、子を成すための教育を徹底されてきたかのか、もしかしたらそのすべてなのかもしれない。

 目の前に迫るマリアの姿は、アデルにとってまさにいろんな意味で眩しかった。当初は気圧されたり遠慮したりしていたアデルだったが、そのたびに逆にマリアの表情を曇らせると悟り、最近は当然の如くベッドの隣に入るマリアを受け止めている。

 今のマリアは先に上げた三つのうち、最後に当たる部分が欠落してしまっている。体の表面こそ、傷一つなく“復旧”されたが、内部は精神には先の騒動の傷跡がきっちりと残されたままなのだ。

 アデルは先ほど王城で別れ際にみせた兄王子の様子を伝えた。

 するとマリアは小さく『そうですか。』とだけ答えると、やや安堵の表情を浮かべていた。その様子は少なくともロゼールが至った結論には辿り着いている様子もなく、ただ兄や父母らにこれ以上の気苦労を掛けることがなくなったことへの安堵に見えた。


 体を拭き終えたままの姿でアデルがベッドに入れば、マリアも同様の姿でその隣に収まる。アデルもまだまだ若い。そのような状態になれば時間帯に関係なく燃え上がることも多々あるが、アデルがどちらの選択をとってもマリアは受け入れ、受け止めてくれた。

 辺境の村から苦労続きのこの10年、一度も感じることのなかった優しさと温もりに包まれてアデルは微睡に落ちていた。



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