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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
南部興亡篇
315/373

心配する。

 エドガーがファントーニとの接見を終えた頃、アデルはドルンへと到着していた。

 生憎、現在の窓口となっているモニカは遠征に出ているらしく不在との事で、アデルはとりあえずベックマンかそれに近いところに取り次ぎを依頼する。

 すると最初にそのベックマンに取り次がれ、面会できることとなった。

 しかし、実際に部屋に通されしばし待つと、現われたのはベックマンの他、グスタフと国務卿マルクであった。この時点で何となくアデルは厄介事の気配を感じた。

 挨拶し着席し終わると、真っ先に口を開いたのはグスタフ王である。

「そなたの結婚の話……本当なのか?」

 第一声がそれだ。その声色はやや険しい。

 アデルが結婚した後ドルンに来るのは初めてである。しかしネージュが2度ほど“遊び”にきており、その時にモニカに伝えていた様子だ。

 アデルは事の経緯を全て話す。同時にロゼールとベルン王太子の結婚やそのロゼールが最後に警告した言葉を伝える。『兄がアンナに目を付けている』らしいと。

 その言葉にグスタフは増々険しい顔になる。レオナールがアンナの出自を本気で調べれば恐らくその両親に行きつく・・・・・・・だろう。

「そなたはアンジェリナをどうするつもりだ?」

 グスタフの険しい問いかけにアデルは答える。

「王太子殿下にくれてやる・・・・・気はさらさらないですが……少し心配事もありまして。」

 アデルはアンナに対する心配事として、その寿命を上げた。

 伝聞によれば翼人の寿命は人間よりやや長く150年~200年とされている。人間が50年~100年と考えると、健康であれば倍くらいとなる。そしてアンナは翼人と人間のハーフである。その寿命が人間より短くなることはないであろうが、どちら・・・に寄るかわからないということと、その結婚相手は人間で大丈夫なのか、翼人でないとまずいのかも気になる点であると。仮に子供がクォーターとして生れる場合、いっそ翼を持たない人間に近い形で生まれるならまだ良いが、竜人の“珠無”のように翼人の劣種として生れる懸念があることを伝える。

 勿論アデルとしてはアンナがどのような選択をし、どんな結果になったとしても最大限支えていくつもりである事、もしアデル達より寿命が長いようなら、ネージュに託すことも可能だろうとも伝える。

 するとグスタフは少しだけ表情を緩め、『こちらでも前例がないか探してみる。』『アンジェリナの選択と結果を可能な限り支援する。』と答えると、逆に『そこまで考えていなかった』と詫び、反省すると言った。どうやら父としての懸念は軽減された様だ。

 そこでアデルの結婚の話が終わると、次にまずはアデルの用件を尋ねてきた。

「ずっと世話になっていた冒険者の店の店主が今年の新年祭は派手に祝いたいと言っていたので先日の“企画”を提案した所、大分興味がある様子だったのでその辺りの“商談”と……」

 本題を先に言いつつ、少し置き気になっていたことをついでに尋ねる。

「大陸南部の情勢について、です。俺達も昨日触れたのですが――」

 と昨日エドガーから聞かされたブリーズの蜂起とコローナの対応策、そしてティナとエミリーのそれぞれの予測を伝える。

 話を聞いたドルケンのお偉方の反応は――たった一つだった。

「恐らくグランは動けんだろう。コローナだけでブリーズを封じ込められると思うか?」

「……グランは動けない?いえ、反乱の規模は聞いていませんが、国境線の長さを考えると……個人レベルでの密入国などの完全な封じ込めは難しいでしょう。流石に部隊レベルの者をスルーする事はないでしょうけど。」

「そうなるだろうな。そうか。そのタイミングでベルンと交誼を深められたのは僥倖といったところか。北も安定してきたと言うし南に集中できよう。流通に大きな影響が出ないと良いが。」

「元々フィンとの交易は多くは無かった筈です。ポルトの港とグランの国力が回復・安定すれば、大きな混乱にはならないかと。国境付近の町の治安は少々心配になりますが。」

「うむ。ならばよい。コローナやそなたらとは今迄通りの取引を期待したい。ドルケンはしばらく西に目を向ける余裕はなさそうでな。」

 グスタフはそう言うと脇の2大臣とアイコンタクトをした後、ため息を吐く。

「……北ですか東ですか?」

「東だ。恐らくグランも他人事では済まなくなるだろう。」

「皇国が……“また”何か始めたんですか?」

「様子がおかしい様だ。」

 グスタフはそこでチラリと視線をマルクに向けるとマルクが後を続ける。

「断定するには至っていないが……テラリアは――いや、テラリア領はという方が良いか?は、今4つに割れている様子だ。」

「ほう……」

 皇国の皇帝の体調不良の話は少し前から出始めていた。と、なると当然、その強力な権力を賭けた後継者争いが勃発するのはテラリアでは良くある話である。しかし。

「皇国の人族勢力が2つ、蛮族勢力が2つだ。」

「はいぃ!?」

 想像だにしなかった答えにアデルは思わず素っ頓狂な声を上げた。

「元々秘密主義な国であるからな。諜報員も苦慮しており、また断定には至れていない。人族勢力は皇太子派と第2皇子派。皇太子が突然、亜人達と和解を掲げ“革命”を起したとされている。」

「亜人と和解して革命?想像は出来ませんが、俺らからすると悪くない話?皇太子が?」

 元テラリア皇国辺境で育った身としては凡そ想像できない話に驚く。

「それも一概に評価は出来ん。皇国内は大混乱であるし、その余波が周囲に波及しかねない状況だ。とにかく皇太子が政策の大転換を標榜して現皇帝を殺害。わずか一晩で中枢を掌握。騎士や聖騎士達は皆、逃れた第2皇子の元に集結し皇国南部で立て直し中とのことだが……」

「聖騎士の協力なしに一晩で中枢掌握ですか?」

「ああ。我々もそこが腑に落ちていないところだ。だが、概ね事実らしい。」

 アデルが知る限り、皇国の最大戦力は聖騎士とその元にいる騎士団だ。如何に優秀な亜人を取り込んだとしても一晩でひっくり返せるとは思えない。確かに皇帝を討ったのが皇太子であるなら、指揮系統は大混乱したであろうが、それだけで権力が一晩でひっくり返るような脆弱な国体ではない。

「それから蛮族軍も、北と南で違う勢力が争い始めたとのことだ。」

「……北と言うのが従来のドルケン――コローナもか。の相手ですよね?」

「そうだ。」

「では南と言うのは?」

「そちらはまだ情報が少ない。グルド山の南東に展開し、今の所我が国には手を出してきていない。モニカ様が今そちらの情報収集に当っておられる。」

 そこでマルクがちらりとグスタフを見る。すると今度はグスタフがその説明を引き継ぐ。

「君達には西に集中してほしかったので言わない様にしていたのだが……ネージュ君の偵察によると、その勢力はネージュ君やシルヴィア殿が知らない竜人が中央に据えられ、配下の部隊には亜人と人間が従わされているとの事だ。驚くのはその最下層の兵士が亜人ではなく人間だと言うことだ。」

「……いろいろ訳が分かりませんね。たしか北の蛮族軍が亜人の解放を標榜して支持を集めていたという話だった気がしますが。」

「うむ。その為こちらとしても兎にも角にも情報収集と言ったところだ。蛮族同士が潰しあいを始めてくれたおかげで、ドルケン内の戦いはやや沈静化してきているが……予断を許さないと言うか、なんとなく不気味でな。慎重に調査している。」

「確かに。個人的には人間が亜人の下に付けられているという南の勢力に興味がある所ですが」

 アデルとしては、亜人の下で扱き使われているテラリアの人間に大いに興味が湧く所であったが、店とポルトの状況を考えるとこれ以上下手に東に首を突っ込むのは難しい。当事者であるドルケンですら、とにかく慎重に情報収集と言う状況で適当につつくのもまずいだろう。仮に何か起きればその時にどう対処するかだ。

 アデルは何かわかったら、何か起きたら遠慮なく伝えて下さいと申し出ると、新年祭絡みの商談のため1週間後また訪ねると伝え、ドルケンを後にした。


 ネージュさんとはあとでゆっくり話し合う必要がありそうだ。


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