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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
南部興亡篇
305/373

a new journey

 ロゼールとの“最後の密談”を終え、侍女と共に元の部屋に戻る。ロゼールとの面会時間は10分少々、外はまだまだ薄暗い。寝なおしても良かったが、一度着替えた“王城用”服をまた脱いで着替えなおすのも面倒化とアデルは今後の方針を考えていた。

 以前から一度ブリーズ3国やフィンの様子や国の体制を見て回りたいと思っていたが、今の状況のマリアンヌを連れていくことも置いて行くことも難しい。エミリアナやレイラ、それにフローラに聞けばある程度のことは分かるだろうが、その“空気”まで感じることは難しそうだ。そしてより近い場所にいてより不安定なブリーズ3国に至っては、長年幽閉されていたいたと言うティア以外に情報源はない。もしかしたらフローラの親である旧カールフェルトの侯爵と接触できれば、現地情報は手に入るだろうか?

 それとも、ポルトの開港を待ち、西よりも南に目を向けるべきだろうか?どちらにしろ、外洋に出られるような船など個人で運用できる訳もないか。

 そんなことをぼんやりと考えていると、いつの間にかベッドの上で眠ってしまった様で、再度現れた侍女に冷ややかな目を向けられてしまった。貸与の服に少しではあるが皺を付けてしまったためだ。

 結局その後、3階に戻され来客用の待機室でネージュとアンナ、そしてシルヴィアと合流する。オルタはロゼールの手配で神殿へと向かったらしい。他に訪れて来る者もなく、少々手持ちぶさたとなったところでアデルは早朝のロゼールの言葉を思い出す。

「『ミリアム様で味を占めたか、アンナも狙われている様ですよ。』ってどういう意味だろう?ミリアムで味を占めたってなんだ?」

 アデルがアンナに向けてそう言うとアンナは心当たりはないとばかり、少し不安げに首を横に振る。

「王太子ってのは翼人の娘を囲いたがるんじゃないの?珍しいし?」

 代わりにネージュがそんなことを言う。囲うとかどこで覚えてくるのやら。しかし、強ち的外れではなさそうだ。ベルンの王太子もユナを侍らせようとしていたらしいし、それを言うならグスタフも王太子時代に……人前に現れるのは稀有な種族であるらしいので権力者として保護欲を掻き立てられる……という訳でもないのだろう。恐らくは見た目と有事の際の支援能力の高さなのだろう。改めてみればアンナも『空色の天使』と囃し立てられるくらいには綺麗に育ってきている。あと5年――いや、3年もあれば誰もが振り返るような美女になるのだろう。アデルは漠然と・・・そんなことを思う。

 アデルが改めてマジマジと見たせいか、アンナは気恥ずかしそうに視線を泳がせた。どうも今朝から様子がおかしい。

「それだとミリア関係なくね?」

 アデルはアンナの様子に少し違和を感じながらも先ほどの疑問の答えに対しまた疑問をぶつけた。

「うーん……それじゃあ、お兄が取りこぼした女を侍らせたいとか?例の古代人もそうなりそうだし。」

「取りこぼしたってなんだよ……王太子様が俺ごときに当てつけしたいってか?」

 アデルはそう言いながらもミリアへの対応を見ると否定はしきれないことに気付く。カミラは実質ロゼールが仕切っている様だが、それもベルンへと向かうまでの事となりそうだ。

「ところで古代人とはなんだ?」

 ネージュの言葉にシルヴィアが反応する。少なくともロゼールを含んだアデル達よりも、長寿で博識であろうシルヴィアにアデルはカミラにまつわる話とフランベル公国の事を話し尋ねてみた。

「人族の国の話なぞ知らんが……グルド山の東側にはお前たちが言う“遺跡”がいくつか埋まっているとは聞くな。ドルフもそんなことを言っていた気がする。」

 ドルフと言うのはシルヴィアの夫とされる人物である。竜人の場合、夫と言うより主人という方が近いのかもしれないが。

「そういえば、ネージュの上、そのドルフとやらの間に子供はいるんですか?」

 アデルの問いにシルヴィアがやや不快そうな表情を浮かべる。

「いるぞ。男女一人ずつ、普通の竜人・・・・・だ。」

「……連れ戻そう、とか取り返そうとかいう話は出てこないのですか?」

「……さあな。結局はドルフの影響が強くて今迄長い事放置されていたが……。そうだな。カーラがいなくなったことで変化はあるかもしれん。ともすると……潮時か。」

「「潮時?」」

 シルヴィアの言葉にアデルとネージュが眉を寄せる。

「モニカ嬢とは話し合っている。このままドルン北部で小競り合いを続けていれば、誰かが生きた私と鉢合わせするのではないかとな。」

「鉢合わせした場合?」

「私は首輪の所為でドルケンとは戦えない。逆にそれを見た竜人たちが、矛先をテラリアからドルケンへと向けるのではないか危惧しているようだ。」

「……で、潮時って?」

 ネージュが尋ねる。

「モニカ嬢――いや、ドルケンはある条件を前提として私の解放も考えている様子だ。」

「「……HA?」」

 突然の話にアデルとネージュが声を荒げて聞き返す。

「安心しろ。その条件の一つ、最前提にお前らの同意が含まれている。他の条件は、ドルケンより南に行くこと、あちらとしては南大陸追放辺りを考えている様だが……」

「ふーん。南大陸ならいいんじゃない?良く知らないけど。」

「南大陸はこちらよりも更に人族が“強い”らしくてなぁ。珠無しの竜人には厳しい所だそうだ。」

「まあ……頑張れ。レイラも頑張れば自分に合う竜玉見つけられるって言ってたし。」

「……」

「……」

 竜人母子が互いを牽制するかのような視線を交わす。だが実際、解放=首輪の解除であるなら、シルヴィアの南方追放に従わせる担保はない。単純にドルケンからの脱出を認めるというだけなら、確かに別大陸に行ってしまえばドルケンの命令に囚われること等ないのだろうが、逆にシルヴィアが生きていくにはかなりの悪条件だろう。モニカ達がどちらを考えているのか、いずれ聞く必要がありそうだ。


 そんな話をしている間に彼らの部屋に朝食が届けられた。昨日の夕食の様な豪華な物はないが、シンプルながら高級素材が使われているだろうことは容易にわかる。

 届けられたのが4つ、つまり今いる者の数だけであるところをみると、手配したのはロゼールだろうと伺える。『あと一人はどこへ行った?』などと言う問答が避けられるのは有難いと言えば有り難い。


 朝食を取り終えるころにはオルタが戻ってきて合流した。王城程高級なものではないにしろ、オルタは神殿で朝食を貰ってきた様子である。オルタは取り敢えず全員回収してきたと言うと、戻り次第すぐに話し合いが要るだろうと言った。

 フィンに戻りたくない者はエミリアナ含めて5名、他8名は現状を知らされた上でもフィンへの帰還を望んでいるという。アデルとしては帰還させられる者は帰還させたい所であり、むしろ残りの5名をどう扱うかが問題だが、そこはオルタに丸投げしてやろうと考えた。


 その後程なく現れたポールにより預けていたアデル達の持ち物――主に装備品が返却されると、ポールの方から一つリクエストをされた。

 アデルとマリアンヌは帰還の際には、グリフォンでなく白竜で帰路について欲しいと言うものである。

 当初ネージュが少し考えるそぶりを見せたが、アデルの判断に任せると言う。恐らくはレオナールの差し金だろう。彼らの筋書きによれば、近年存在しない“竜騎士”によってマリアンヌは救助され、見初められてともに旅立ったという触れ込みにしたいと聞いている。

 アデルとしても、『どこの誰』と特定されるよりは、『流れの自由騎士』とされる方が都合が良いのは確かだ。だが、それもレオナールの掌の上だと思うと少々癪ではある。癪ではあるが、結局他に良い手もなくアデルはそのリクエストを受け入れた。

 するとポールはすぐに出立の準備をするように指示してくる。当初は昼過ぎ、昼食後という話であったが、何かイレギュラーでも起きたのだろうか?少し気になるところだが、これはアデル達にとっても渡りに船の話である。ここで無駄に長時間閉じ込められているよりは、早く店に戻り今後の相談をするなり、日課の鍛錬を行いたいところであるからだ。

 アデルがそれに同意するとすぐに準備が始められた。

 どうやらブリュンヴィンドを先に発たせ、時間をおいてアデル達に目立つように出立させたいとの事だ。

 シルヴィアは一旦魔法袋に入ってもらい、ブリュンヴィンドにオルタとアンナを乗せて先に向かわせた。

 その後、発着場となる城の庭でマリアンヌことマリアと合流する。マリアは以前、エストリア防衛に向かった時と同様、レザーアーマーの上にローブという、前線仕様の出で立ちであった。

 そして庭にはマリアの他にも昨日会った国王と第2妃、そしてレオナールを始め、騎士・侍従を中心にそれなりの人数がマリアンヌの第2の人生の見送りに来ていた。

 国王は近衛騎士の制止を逆に短い言葉と動作で制止すると、単身でアデル達の前に歩み寄ってきた。

 国王はまずアデルに右手を差し出すと、応えるアデルに『よろしく頼む。』と声を掛けた。続いてネージュにも同様に『慕ってやって欲しい。』と声を掛けると、最後にマリアンヌを抱きしめた。

「余の力が衰えていなければ……」

 それは別れを惜しむ2人以外には聞こえない筈の小声で合ったが、アデルもネージュもはっきりとそれを聞いていた。

 アデルが深く一礼し、ネージュに頷いて見せると、ひんやりとした秋の空気がさらに一段上の寒さへと変わる。一瞬遅れて閃光と共にその中から白竜――氷竜が現れると、昨日アンナに見せた時以上の声が周囲に広がっていく。

 姿勢を低くした氷竜の首に足を掛け、アデルは首筋へと跨ると、手を伸ばしてマリアンヌを招き寄せる。“竜騎士”と言えば聞こえはいいかもしれないが、実際は鞍も鐙もない竜の首にしがみ付くだけである。乗り降りもアンナのサポートがあれば簡単だが、先に出立している為それもない。マリアンヌがやや苦戦しながらようやくアデルの後ろに収まると、見送りに来ていた者に深く一礼した。

 見送りに来ていた者達は王族3名を除いた全てがマリアンヌに応え、同様に深く一礼をする。

「行こう。余計なサービスはいらないからな?」

 アデルがそう言うと、ネージュは風の精霊の力も借りて一気に城壁を超える高さに上がる。やはりロゼールの姿は見えない。

 アデルとマリアンヌが揃って国王夫妻へと一礼すると、国王は頷き、第2妃は眩しそうな顔で空へ浮かぶ娘へと手を振った。

「余計なサービスはいらないからな?」

 アデルの言葉を合図にしてネージュはゆっくりと南へと向かい出すと、2か月早い雪に代わって氷の細片が巻き起こり、進行方向上の陽の光を乱反射しながら王都南部に降り注ぐ。

 その日、コローナ王都では多くの者が氷竜と旅立つ第2王女を目撃したと言う。


 その様子を王太子が祝福とは程遠い笑みで見送っていた。


俺たちの戦い(政争)はこれからだ!




そんな展開はない模様。

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