表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
南部興亡篇
302/373

謁見

 ロゼールから『近いうちに呼び出しが掛かる。』などと言う話を聞いたと思えば、何のことはない。その日のうちにエドガーからその呼び出しの旨がアデルに伝えられた。

「『1週間後、先の作戦に携わった者全員で王城に来るように。』と殿下が仰っていたが……1年前のアレか?」

 帰りの便である輸送袋に入る直前にエドガーからその様に言われたのだ。

「いや、多分、先々月の別件の方だろう。」

「……ん?また何かあったのか?」

「まあな。軍にもギルドにも公に一切記録されない仕事は2度目だ。」

 アデルは自嘲気味にエドガーに返す。エドガーとしても話を伝え、アデルが理解した事を確認するとそれ以上の事は言わなかった。エドガーはアデル達の最初の“公に一切記録されない仕事”とその性質、そして顛末を知っているからだ。穿り返せば穿り返すほどアデル達の不利益にしかならないと理解している。

「とはいえ、全員は難しいな。1週間なら……話は出来るかもしれんが、助っ人がいたしな。」

「そうか。まあ、可能な限りとも言っていたしそれでそっちが揉めないならそれでもいいだろう。」

 エドガーからすれば王太子からの召喚は絶対であるため、先程は『可能な限り』と言うのは省略していた様だ。

「まあ、うん。1週間後ね。承知した。」

 アデルはそう答えるとエドガーを袋に入れ、ポルトへと戻った。



 ポルト、ヴェント・ブルーノ商店に戻ったらすぐに報告会が開かれた。

 微妙な表情で戻ってきたアデルと、妙にうっきうきでニヤついているネージュを見て、店の者達、特にアンナとオルタは『また何か厄介事を拾って来た』と察したようだ。それはそれでどうなんだと思うが、シカタナイネ。

 アデルは全員を集めて、まず他言無用を宣言した後、先程ロゼールから聞かされた話をした。

 大半がポカンとした表情を浮かべ、一拍置いて各々驚きの表情を浮かべた。

 その後の反応は大きく分けて三つだ。

 当初のアデル同様、不安と微妙な表情を浮かべたのがアンナとルーナ、『へぇ……』と言わんばかりのスンとした表情になったのがハンナとティア、そしてユナとフローラ。少し間を置いて『まじで!?すげー』とか盛り上がったのがオルタとエミーだ。

 エミーに関しては冗談めかして『ワケあり王女2人――いや、3人か?も囲うなんてすごいな!』などとおどけてみせるが、『部下の今後について相談があるからエミーもこっそり連れてくるようにだとよ。』と伝えると、あっという間に現実に引き戻されテンションが戻ったか、こちらもスンとなった。

(王女3人?アンナのことを誰か漏らしたか?)

 エミーの言葉にアデルは少し『おや?』と思ったが口にはしなかった。


 問題は受け入れ態勢だ。当初は当面の間、落ちつくまで店の中で接客の一部を任せて王女であると分からない様に人との交流をさせれば良いかと思っていたのだが、“妻”として無期限に受け入れるとなるとそうも言っていられない。『塞ぎこんでいる』という今はともかく、いずれ立ち直った――当然立ち直ってもらわねば困るが――時に、それこそお姫様の如く衣食住すべて他者に依存すると言うのはマリアンヌの性格からしてないだろう。

 かといって、フローラやルーナ以上に家事が出来るとも思わないし、ティア以上に計算・経理が出来る様にも見えない。

 いっそ、ポルトの守護神か、神殿の神殿長でもやらせれば?などという意見も出たが、そればっかりはアデル達の一存ではどうにもならない。

 結局、なるようにしかならんという結論で1週間後の召喚当日を迎えることになった。



 当日、シルヴィアにもなんとか連絡を付け、アデル、ネージュ、アンナ、オルタ、シルヴィア、そしてブリュンヴィンドで王城へと向かう。

 王城に到着を伝えると、まずはポールが出て来てアデル達に着替えを要求した。

 今回会うのは王太子でなく国王であるそうだ。しかも謁見場には腹に色々なものを詰めた貴族たちが多く詰めることになるというのでアデルとしては頭が痛む限りだった。

 アデルとオルタ。そしてネージュ、アンナ、シルヴィアと2組に分けられ、今迄無縁であった城の3階層でやはり無縁であった礼装に着替えさせられる。

 他者よりやや体の大きいアデルであったが、流石は多くの騎士が詰めると言う王城、アデルのサイズの礼服も問題なく用意されていた。オルタも眉を顰めながらも着つけられ、2階の物より明らかに豪華な控室で改めて女性陣と合流した。

 期せずして有翼種ばかり3名となった女性陣のドレスは事前にロゼールが根回しをしていたか、どれも背中のざっくり空いたデザインでサイズもほぼ3人に合せられて用意されていたそうだ。

 初めて着せられるドレスに、アンナは気恥ずかしそうにそわそわし、ネージュはドヤ顔で翼をアピールし、シルヴィアはまんざらでもないと言う表情であった。

 部屋には再度ポールが現れ、拝謁の注意事項を教えられる。

『そんなもん知らん。』と言い出しそうな竜人母子であったが、ドレスに気を良くしたか大人しく話を聞いていた。人族組は、何かあった時の“厄介さ”を察してか真剣に耳を傾けている。

 部屋への入り方、跪き方、視線の合わせ方、受け答え、物を受け取る時の動作、礼の述べ方、退出の仕方など、丁寧に説明するポールだったが、緊張しているアデルとアンナに、げんなりしているオルタに、何も考えていなさそうな竜人たちに最後は『失敗しても2度と会う事のないだろう貴族どもに悪口を言われる以上のことはない筈だからそんなに身構えなくても大丈夫だ。』と伝えていた。



 謁見の間。

 アデルを先頭に、2列目にオルタとアンナ、3列目にネージュとシルヴィアが並び赤い絨毯の上を進む。

 まだ顔を上げるタイミングではない。しかし、恐らくはアンナのドレス姿だろう、その背中と翼を見た何名かの者が小さく遠慮気味に感嘆の声を漏らしたのがわかった。後を振り向けないアデルとしては最後尾のネージュが“要らぬサービス”をしないか不安だったが、そこは大丈夫だったようだ。

 アデルは指定のあった地点で足を止め、正面上方の見た事もないような豪奢な椅子に向って・・・・・・深く一礼して跪く。目線を合せない様に少しだけ顔を上げ、先程聞いたばかりの口上を述べる。

 商売人として経験を積んだお蔭か、思いの外スムーズにその言葉は紡がれた。

「本日はお招きに与り、拝謁の栄誉を賜りましたこと光栄の至りに存じます。」

 教えられた通りの口上を述べると、国王――新年祭の時に遠くで見えたその姿が目の前にある事を改めて実感する。

「面を上げよ。」

 ここで初めて国王の顔をしっかりと見る。レオナールが貫録を付けるとこんな感じだろうか?それよりも王の方が温和な雰囲気を持っているかな?アデルはそんな感想を持った。


「先における第二王女救出の件。わずかな人数で非常に困難な作戦を成し遂げ、我が国、我が王宮に多大なる貢献を果したこと。真に大義であった。」

 国王が見下ろすままにそう言う。後で竜人母子が鼻で笑わないかと心配になるが、ドルケンでモニカの下で多少は場数を踏んだお蔭か流石にそのような事はなく、アデルはやはり『恐悦至極に存じます。』と紋切り型の言葉を返した。


 ポールの説明によればここから“褒賞の授受”に移る筈だ。しかし、国王はその前に予想外の言葉を述べる。

「聞けば度重なる東部への侵攻に対する防衛での活躍、さらにはドルケンとの軍事交流の橋渡しもしてくれていたと聞く。今の東部の安定に貴君らの活躍は大きい。改めて礼を申す。」

 国王の更なる謝意に周囲が少しざわめいたのが分かる。今迄アデル達が個パーティとして表舞台に出ることはなかったのだ。アデル達が初めてどういう存在なのか知った者もいただろう。

 しかし、イレギュラーの持ち上げに狼狽しかけたのは当のアデルである。さすがに同じセリフを繰り返すのもまずいと思い、とりあえず『もったいないお言葉です。』と返す。

 国王はそう返すアデルの顔を数秒見据え、チラリと横を向いた。

 そこで控えていたレオナールとロゼールが小さく頷く。この場にマリアンヌの姿はない。東部防衛の評価であるならマリアンヌの活躍に付いても具申すべきか?アデルがそんなこと考えていると話は次へと進んでしまう。


「さて、我が国への未曾有の損害を防いでくれた貴君らに、改めて褒賞を授けようと思う。」

 周囲が一瞬で静かになる。

「貴君らの活躍、本来なら爵位と領地とを以て然るべきところなれど……」

 国王はそこで言葉を止め、周囲の反応を窺う。

 戦争で大活躍をした者を一代限りの貴族として取り立て領地を与えるということは決して珍しい事ではない。特に今コローナは四方戦乱と言っても良い状況だ。実力のある下位貴族なら大歓迎と言ったところだろう。

「貴君らは我国の一大事業であるポルトの整備に深く関わり、またその新たな地で新たな事業を軌道に乗せつつあると聞いている。よって――」

 周囲の緊張が高まる。この後、国王が一介の元冒険者、成り上がり商人に何を言い出すのか。

「我が王城への出入りと取引を全面的に認め、また越境に関わる審査の全てを免除する。」

 つまりは御用商人のお墨付きと国境のスルーパス権だ。越境に関しては空路を取るに当たり今でも実質黙認でのスルー状態だがそれに根拠が与えられ、さらには陸路で何かを輸送する場合も審査が要らなくなるのであれば、将来的には大量、或いは大型の商品を扱うことができるようになるだろう。

 そして――

「そして……」

 国王が大きく息を吸う。

その方が望む・・・・・・マリアンヌとの結婚を認め、我が娘をそなたに託したい・・・・

 勝手にアデルが望んだことにされている。周囲が色んな意味でざわつく中、アデルはチラリとレオナールとロゼールを見ると、レオナールは強く頷き、ロゼールは小さく首を横に振る。

(どっちだよ!?)

 と思う所だが、それぞれ『遠慮せず受け取れ。』と、『諦めて下手なことは言うな。』という意思表示だとすぐに察せられた。

 アデルはちょっとだけ反抗心を抱くと恭しく頭を下げて述べる。

「まさに望外・・の喜びであります。今後何があってもマリアンヌ様をお守りし、幸――いえ。共に穏やか・・・に過せるように全力を尽くす所存であります。」

 アデルの言葉に王はその顔を見、一言『頼む。』と小さく頭を下げた・・・・・

 するとその一言、一端を打ち消すかのような大きな拍手が鳴り出し、最後には『コローナ王国万歳』とか、『コローナ王国に栄光を』など、王国を・・・讃える声があちらこちらから聞こえた。

 その後、アデル以外の4名には金一封が授けられる旨が述べられ、さらに別に望みがあるかと尋ねられたが、シルヴィアまでを含めそれを口にする者はいなかった。

 

 退出を促され、従うと謁見の間の外にはポールが待機していた。

 ポールは『アデル以外は今日はこれまで』と言うと、別の者にオルタらを案内する様に指示をする。

 怪訝な表情を浮かべる一行だが、ポールは『王女を娶る事になるのだからもう一仕事必要だ』などと言い、アデルを3階層の別の部屋へと誘う。他の4人は先の控室に戻り、そこでロゼールの侍女から話があるという事なので、アデルは装備を預ける振りをして魔法袋をオルタに渡した。中にはエミーが詰められている。ロゼールからエミーに関して何か触れるというなら、エミーに1週間付き添っていたオルタでも大丈夫だろうという判断だ。


 アデルはいよいよ、事件後初めてマリアンヌと対面することになる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ