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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
南部興亡篇
300/373

中級~上級コース

 中級コース(第2試合)グリフォンs vs Cランク3パーティ。

 こちらは結論から言えば、残念ながら企画倒れと化してしまった。


 アデルが思っていた以上に、ブリュンヴィンドの兄弟達が“戦闘慣れ”していなかったのが原因である。

 兄弟達には空中戦や空対地戦の訓練を少しやらせてみて、それなりに動けていたので行けると思っていたのだが、肝心の矢や魔法に対して余りに不慣れであった為だ。雑な“狩り”で手痛い反撃を食らうことはあるのだが、最初から相手が明確に敵として仕掛けてくる“戦闘”はやはり違うのだ。



 中級コースは練兵場内(空を含む)に限ってのみ行い、アデルは騎乗するが戦闘に干渉せず離脱の判断をするのみ。アンナは場内を飛行し治療や通訳に専念するという条件で離陸。

 下ではCランクパーティ3つによる合同の作戦会議が開かれる。飛行する魔物(幻獣)を相手にする場合は、降りてきたところをカウンターで狙うか前衛、楯役で守りを固めつつ弓や魔法などの遠距離攻撃に重点を置くかとなる。

 今回は幸い、レイド――複数パーティによる合同作戦である。まずは安全な遠距離攻撃をメインとした作戦を取ることにした。


 地上の冒険者たちが布陣を始めたのを見て、アデルは『始め』の合図を出した。こちらも最近覚えた片言の精霊語である。しかし、片言故に必要な情報はしっかりとグリフォン達に伝わった。

 まずはブリュンヴィンドが先行し旋回しながら高度を下げる。こちらは急旋降下スパイラルダイブといった空戦機動ではなく、相手の動きを窺う滑空での緩やかな旋回と降下である。

 冒険者らはこちらを見上げながら何か言葉を交わし合っている様だ。ある程度の所まではほぼ動きを見せなかったが、ある程度ラインより下に降りると、旋回と降下の速度を見定めて最初の魔法を放ってきた。

 彼らが選択したのは【火矢ファイアアロー】。名称通り火の矢を飛ばす魔法だが、こちらも通常では30メートルほどの距離しか飛ばない。それが50メートルほどの高さまで飛んでくるあたり、恐らく射程距離を拡張しているのだろう。これを放つのは先ほどのパーティの《魔術師メイジ》とは別人だ。

 開けた平原の多いグランという地方柄か、魔術師たちは射程を拡張する技術を好むようである。魔法の拡張技術は、飛距離、炸裂範囲、威力等、それぞれ別の項目ごとに拡張する技術が広がっている。これは真言魔法メイジスペル神聖魔法プリーストスペル、そして精霊魔法エレメントスペルにも共通できる技術である。但し拡張すればするほど詠唱時間が少し長くなり、またその消費魔素マナも累乗式に増えて行くというデメリットもある。飛距離3倍、範囲2倍などと言う拡張も可能であるが、その場合、詠唱時間は約3倍、消費魔素は約6倍となるのだ。

 そこで、この魔術師は最低限の効果を持つ飛距離を確保しつつ、なるべく消費を抑えるために真言魔術の初歩中の初歩、火矢を選択したのだろう。つまりは持久戦を考慮しているとうことになる。

 そしてその火矢を目印とするように、その火矢の軌道周辺に矢が次々と放たれた。

 等速移動をしていたブリュンヴィンドだったが、ブリュンヴィンドであれば自らの翼と風の精霊の補助で急激に機動を変え、素早く反転し高度を下げるとそのまま一気に地上部隊の1群の中に飛び込み、急激に周囲の空気を撹拌する。巻き上げられた土、石、そして一部真空と化した空気の刃が地上の冒険者たちを襲い掛かる。

 冒険者たちがたまらずに身体を守ろうとする中、ブリュンヴィンドはすぐに離脱しその体躯からは想像もできない速度で空の安全圏迄上った。本来ならアデルの指示でもう少し低空に残ったり、アデルが槍で追撃をするところだが、今回はアデルは戦闘行動は行わないと事前に伝えてあるのでブリュンヴィンドは素早く距離を離したのだ。

 それを見たブリュンヴィンドの兄弟達がその真似をしようと高度を下げるが、そこは冷静な冒険者たちの弓矢魔法の牽制により直線的な雑な降下は全て潰された。

 特に腹の下後方からの矢の存在に気付けなかった1体が直撃を受け姿勢を崩す。冒険者らが追撃を放つより先にアンナがグリフォンの離脱アウトを宣告し、傷を確認して治療を行ったところでその1体を離脱させた。

 この作戦が奏功し、また店主アデルを乗せているブリュンヴィンド以外はまだ未熟であると察知した冒険者らは作戦を変更し、遠距離攻撃を牽制から挑発へと切り替える。頭を抑える射撃から、尻を煽る射撃へと切り替え、前衛も両手を広げ降りて来いとばかりに挑発に移ったのだ。

 まだ人族の言葉は理解できない彼らだが、彼らの意図は伝わったらしく、やはり雑に高度を下げるとやはり彼らの苦手な角度からの射撃が行われ、簡単に排除されてしまった。


 結局、最初のブリュンヴィンドの強襲のみが打撃らしい打撃でほぼ大勢が決まってしまったのでアデルが『物足りなければ参戦する。』と打診したものの、冒険者らは勝ち=依頼達成という実を選んだ。

 成功報酬というなの景品は各パーティに【着火】と【灯明】の機能を有した2つの魔具である。簡単に言えば自動充電式のターボライターと小型ランタンである。この程度ならCランク冒険者パーティであれば余裕で買える物ではあるが、今回景品としたのはその中でもアデルが特に気に入り、重宝すると購入した新型改良品で、【着火】の魔具は風や雨に強かったり、火吹口が少し伸びたりと日常よりもアウトドアに便利な逸品だ。魔法以外での着火は火打ちやファイアーピストンが主流のこの大陸ではなかなかに先鋭的な代物である。また【灯明】の魔具は直径5センチメートル程度の球状で燃焼を伴わない、通常の物より明るいランタンだが、オプションでその光に指向性を持たせる反射材のグリップを付けると懐中電灯としても使える多用途なものだ。これは本体である球状の魔具に、ネージュを始めとする竜人たちの2種類、収束と拡散のブレスをヒントにアデルがドルンの職人に依頼して内面を磨き上げた頑丈な金属の握りを後付けて用意したオリジナル品でまだ市中には広がっていない。むしろ通常時は金属部分を付けた状態であるので、拡散モードのある中型の懐中電灯と言った方が適切なのだろう。

 グランの冒険者らとしては複数のグリフォンやら竜人やらを従えている(様に見える)店主の実力にも興味はあったようだが、まずは無理せずに貰えるものは貰っておこうということにした様だ。



 そして、双方・・待ちに待った|上級コース(第3試合)である。

 条件は|ケンタウロス戦(第1試合)とほぼ同じである。

 当初はやる気の見せなかったシルヴィアだが、前の2戦を見てテンションが上がったか今は見るからに“やる気”と言った感じだ。

「ネージュ。剣を貸せ。」

 シルヴィアはおもむろにそう言うとネージュに剣をよこせと言わんばかり(言ってる)に手を伸ばす。

「は?渡すわけないでしょ?そもそも武器は訓練用だって……」

 ネージュが眉を寄せて言い返そうとしたが、最後まで聞かずに被せてくる。

「ああ。その剣じゃない。お前が普段使う奴の訓練用があるだろう。そっちだ。」

 どうやらシルヴィアが所望したのは自身の竜剣(竜化するための竜玉が填められている)ではなく、ネージュの蛇腹剣の訓練用の物だった様だ。

「……これか。いいけど癖が強いからいきなり使うのは難しいと思うけど?」

「心配いらん。お前とはセンスが違う。」

 シルヴィアの言い草にネージュは少しムッとした表情をするが、大人しく訓練用蛇腹剣を渡し伸縮機構の説明をする。

「ほう。」

 シルヴィアはその剣を受け取り、説明を受けると興味深そうに蛇腹剣を2~3回振り廻して見せた。

(奇襲用なのに先に見せてどうする……)

 仮想敵の目の前で剣の特殊能力を見せてどうする。とネージュは思ったが口にはしない。

「まあ、もし万一・・があれば、お前が竜人の本来の力を見せてやれ。」

 シルヴィアはそう言ってにやりと笑った。

 ネージュは一瞬――いや、数秒その意味を理解できなかったが、なんとなく察すると『わかった。』と微かな笑みを浮かべ外野席へと戻った。


 シルヴィアは見せつける様に強く羽ばたいて見せ浮揚しその場を離れる。それを見てアデルが作戦会議の開始を指示する。

 冒険者らから一応と竜人の特徴を尋ねられるとアデルは、『人型種の中でも最強の部類。筋力・魔力・機動力すべて高水準で上位にの者は人形態の状態でも光熱のブレスを吐ける。竜化した場合、肉体が一気に活性化する為かそれまで付けた傷も回復されるが、竜化状態の傷はそのまま人形態にフィードバックして深刻なダメージになる。』と答えた。

 すると、冒険者の1人がこんな事を言う。

「……それじゃあ、人形態でダメージを与えても竜化で回復した後、また人形態に戻られたら以下無限ループなんじゃ?」

 その発言にアデルは『そんな事例見た事ないけど確かに?』とネージュを見る。

 するとネージュも『考えた事なかったけど……』とつぶやくと、少しぎょっとした表情でディアスが割り込んでくる。

「何言ってるんだ?竜化は竜玉に蓄えられた魔素マナを解放して行うのだから、1度竜化すると最低1日は次の竜化は出来ないぞ?」

 ディアスがそう言うと冒険者らは少しほっとした表情を見せる。しかし……

「「「え?」」」

 アデルとネージュ、そしてアンナが少し驚いた表情を見せる。

 ネージュは輸送やら遠征やらの折、竜化と解除を何度も繰り返す日もあった筈だが……

「基本的にはその通りだ。故にわた――力のある竜人は身体と魔力に適合する竜玉を複数所持している場合もある。が、ネージュの場合は……」

 “私は”と言いかけつつ、複数の竜玉を持つレナことレイラがそのような事を言う。

「竜人より竜に近いのかもしれん。実際に竜化に竜玉の有無は関係ないのだろう?」

「うむ。」

 レイラの言葉にネージュが被せて頷く。

「あー……でも、そうか。1日2回以上通常竜化は試したことないから……多分そんな感じなのかも?」

 とアデルやアンナに説明する。状況と慣れに応じて使い分けていたつもりの竜化だったが、ネージュの氷竜化がむしろ特殊であった様だ。ネージュの言葉にレイラとディアスが少し驚いた表情を見せる。

「竜との子供かぁ……」

 レイラが少しげんなりした表情で言う。強いと分っても実行に移すかは相当に微妙な感じであるようだ。

「まあ、そういうことらしいが、今回は竜化はしない方向で話をしているよ。」

 アデルはシルヴィアが現在“珠無し”であることを言明せずに今回の竜化を否定した。

「どうしても戦ってみたいってなら、アレをボコボコにするといい。そしたら、ふつーの竜化を見せてあげる。」

 アデルに続いてネージュが言う。シルヴィアに万一・・などあるとは思わなかったが、恐らくそういう意図なのだろう。この冒険者らに竜化を見せる必要がある。或いは見せるに値すると認めた場合は代わりに見せて相手してやれと言うことなのだろう。

 冒険者らは少し表情を引きつらせて『まずはあの状態に勝つことだけを考えよう。』と相談に移る。

 店主アデルが『竜化なしを前提』と宣言した以上、竜化ネージュとの戦闘はおそらくエクストラマッチなのだろう。つまりはシルヴィアをなんとかすれば報酬(景品)はもらえる筈だと。



 上級コースにはDランク含むすべてのパーティが参加している。そして作戦が決まった冒険者らは2手に分かれると、先程グリフォンsに仕掛けたのと同じ冒険者が『そんなところにいないと不安か?かかってこい!』などと挑発を始めた。

 それを見た竜人3名はやや面食らった表情をしたものの、当のシルヴィアは少し高度を下げて……

「余程の間抜けでない限り、わざわざ自分の有利を潰す阿呆はいないと思うが……時間の都合もあるだろうしな。」

 嘲る様に笑うと大きく息を吸い込む。竜人を相手にしたことがある者なら――否、戦わずとも竜人の戦闘を知る者ならそれが何を意味するかはわかるだろう。そして高ランク冒険者なら知らずとも察せる筈だ。つい先ほど説明にも有ったし。

 挑発した冒険者らはすぐに防御態勢を敷くが……

 降下と同時にシルヴィアは挑発した集団に拡散のブレスを吐き付けると、空中で反転し、もう一方の集団へと突撃した。

 反対側が挑発をしていても流石に油断はしていない。そちらのグループもすぐに楯を構え、防護魔法の展開や牽制の魔法や矢を放つ。

 シルヴィアも自身の周囲に魔法障壁を張ると飛来する矢を躱し、敢えて頭上を飛び越えて背後に回った。矢を気にして迂回するよりも多少の被弾は覚悟の上で直接真上を抜けた方が、時間の短縮と敵の前後衛の入れ替えが難しくなるためだ。

 冒険者らの前衛も楯を掲げたまま慌てて後衛の保護に移動しようとするが、後へ抜けた段階で動きを止め、慌ててこちらへ向かってくる挑発グループ――そちらをAとしようか――の方へと向き直ると、今度はその挑発をした戦士に収束のブレスを浴びせかけた。

 戦士は慌てて楯を構え止ろうとするが、今度は牽制でなく本気(多少の手加減はしている筈)のブレスである。収束モードとは言えブレスは着弾点で小爆発を起こすとその戦士を後の数名ごと後ろへと吹っ飛ばした。

 戦士の損傷状態を確認し、吹き飛び具合からして実戦なら重篤なダメージを負っていただろうと判断、アデルはその戦士の退場アウトを宣告するが、治療はこちらで行うので他は体勢を立て直す様にという。

 戦士はまだやれるというアピールを見せたが、そう言うルールだとアデルは退場を促した。断じてブリュンヴィンドの兄弟の仇と思ったわけではない。断じて。

 戦士は渋々離脱すると、少し離れた位置でアンナの治療を受けた。

 その間にもシルヴィアは派手に動き回っていた。

 Aグループの動きが完全に止まったのを見て、機動の揺さぶりのみで再度Bグループに位置取りを何回か強制すると、3度ほど揺さぶったところで吶喊し後衛数名を蛇腹剣を伸ばし薙ぎ払った。

「まだまだだね。」

 その様子を見たネージュはそう呟いていたが、防具の損傷具合からアデルは一定以上のダメージはあったと判断できる数名の後衛の離脱を宣告する。

 シルヴィアはさらに上段から振りおろし、前衛の1人の戦士の楯を強打すると、それを防いだ隙に接近し、足を払い転倒させる。そしてそのまま股間を踏みつけた。

「ぎゃああああああああああ!?」

 予想外の容赦のない攻撃に戦士はたまらず大声を上げのた打ち回ると、アデルの宣告を待たずに自ら転がってその場を離れた。

 その容赦のない攻撃にBグループ前衛男性陣が一瞬怯むとシルヴィアはすぐさま自分を中心とした爆発魔法を放つ。

 爆炎と爆音、衝撃波が周囲を襲うが、そこは事前に防護魔法を唱えていたおかげもあり爆発自体では冒険者らにそれほどの被害を与えていない。しかしその爆炎が落ち着く頃にはシルヴィアは再度中空に佇み、『こんなものか。』と言いながら訓練用の蛇腹剣をネージュの方に向けて投げてよこした・・・・・・・

 30メートル程高いところにいたとは言え、シルヴィアが投げた剣は80メートル程離れたネージュの足元少し手前の地面に突き刺さった。 

「あのヤロ……」

 ネージュは慌ててその剣を回収したが、その蛇腹剣をエミーとフローラが興味深そうに見つめていた。

 そかしそれは今重要な事ではない。驚くべきは2キログラム程度の重さの訓練用蛇腹剣をほぼ真っ直ぐ80メートルもぶん投げた腕力である。

 それは明確に冒険者らにも伝わり、冒険者らはざわりとすると改めて各パーティ毎の配置に付いた。

 今の所はそれぞれから数人の脱落者は出ている者の、壊滅したパーティーはない。

 しかし先ほどのブレスを見せたシルヴィア相手に2グループ合流は余り良い手ではない。各グループのリーダー格は互いに視線を交わし、次のフェーズへ移行しようとする。

 

 中空のシルヴィアは何かの魔法の詠唱を始めると、空いた両の手それぞれに魔法を発現させていく。

「うわぁ。あの状態で“並列制御ダブルキャスト”かぁ……」

 《魔術師メイジ》、それも高レベル高ランクであったソフィーが引く様に言う。どうやら高度な技術であるようだ。そしてそれはレイド隊両グループの生き残っている魔術師にも伝わったようで――

「【魔法障壁マジックレジスト】と【聖壁プロテクション】を2重に!」

 魔術師がそう叫んだ瞬間――

 シルヴィアの両手と各グループの足元、計4つ・・・の魔法が冒険者らに襲い掛かった。

 発動したのは全て同じ爆発系の魔法だ。恐らく同一の魔法を4つ同時に展開したのだろう。アデルとしても初めて見る現象だ。

 威力も抑えながらも十分にあり、レイドパーティ全てを総崩れに持ち込む。一部体力や魔法抵抗力のない者には相当のダメージになったようだ。

 アデルはすぐに試合を止め、アンナも動員してすぐに治療に移る様に指示を出した。


「“並列制御”と思ったら“4重制御クォッド”だった。一体何を言っているかと」

 ソフィーが呆れる様に言う。シルヴィアは竜人として……《戦士》だけでなく《魔術師》としても相当に優秀であるようだ。

「……チッ。」

 その様子を見てネージュさんは出番がないと察したか小さく舌打ちしながら、訓練用蛇腹剣をヌンチャクの演武の様に振り廻してしまうのであった。



 上級コースは“レイド失敗”という判定が下った。訓練としてはもうどうにもならないし、実力としてもシルヴィアはまだまだ余力を残していそうな雰囲気だった。

 と、言うかぶっちゃけ、シルヴィア、竜化中よりもこっちの方が強くなかったか?

 4重制御の魔法を見ながらアデルはそんな事も感じていた。

 しかしディアスやレイラによると、竜化中にも同様に魔法は扱えるらしい。そして、魔力が上がる竜化状態なら威力や範囲もさらに上がるだろうとのことだ。余程の閉所でない限り竜形態が人形態より劣ると言うことはないと言う。

 アデル達が勝てたのは、周囲に何もない野外での空中戦で奇襲が奏功しただけあったと改めて思い知らされることになった。それはネージュも同様だ。そして現在、そのシルヴィアを使役しているモニカにも相当のショックを与えた様だ。

 レイラに尋ねてもシルヴィアの戦闘力は竜人としても相当の上位であるだろうと言う。そして単純に戦闘力だけで考えるならレイラよりも上であろうとも。

 その言葉にネージュとモニカは、そのシルヴィアに正面から勝利し従わせていたドルフ――魔の森の蛮族軍の首魁の存在とその強さに思考を巡らせずにはいられなかった。




 彼らの戦い、訓練ではあるが――を練兵場の観閲席から見ていた者がいた。

 1人はエドガー。そしてもう一人はファントーニである。

 エドガーは呆れた顔を、ファントーニはいつになく険しい表情を浮かべている。

「あれがオーヴェとカンセロで暴れたと言う竜人か?」

 ファントーニがエドガーに尋ねる。

「いえ。あの方はドルケンで捕えた別の竜人――その竜人の母親だそうです。」

「捕えた?と、いうことはその竜人はあれよりも強いのか?」

「……どうでしょう?彼等も『運よく作戦勝ちできたお蔭で、2度目はないだろう。』って話ですし。」

「ミリアムが助けられたと言うのはそっち・・・か?」

「そうらしいですね。」

「むう……今日はその力は見れず仕舞いか。」

「そうなりそうですね。」

 エドガーはファントーニの表情を見、不穏な物を感じた。レオナールとアデル、それぞれに報告しておいた方が良いだろう。エドガーは内心でそう感じていた。


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