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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
南部興亡篇
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Guests & Visitors.

 休前日の仕事のラストスパート中のグスタフ王らをモニカと共に控室で待っていたアデルの所に少し慌てた様子の兵士――否、翼竜騎士が駆けつけてきた。

 騎士は控室にいたモニカに少し驚きつつ一礼をすると、アデルに伝えるべきことを伝えた。

「アデル殿……グリフォンが……複数……」

「え!?」

 騎士の連絡にアデルは驚く。と、言うのも複数グリフォンがドルケン王城へと来た時は王種の殺害や密輸に対する警告に来た時以来の筈だ。あの時はあちら側だったが、今日、このタイミングでというのはアデルにとって驚きと動揺しかない。

 そのアデルの動揺を見たか、騎士は慌てて声を掛けてくる。

「あ、いえ、何か問題があったわけではない……と思いますが、アンナさんが呼んできて欲しいと。」

「ん?わかりました。有難うございます。」

 どうやら不測の事態という訳ではない様だ。アデルは騎士に礼を述べいつもブリュンヴィンドを待機させる場所へと向かうと一瞬ぎょっとした。


 そこにいたのは確かに複数、4体のグリフォンだ。1体は当然ながらブリュンヴィンド、残りの3体はブリュンヴィンドを少しだけ、いや、結構違うか。やや小さくした感じのグリフォンである。恐らく王種だ。

「こっちはブリュンヴィンドの兄弟か?」

 彼らを見たアデルがやや困惑気味のアンナに声を掛けるとアンナは少しほっとした様な表情を見せ、ブリュンヴィンドも言葉を理解したかアデルの顔を覗きこみアピールした。

「はい。実は……しばらくの間、教育?養育?を頼まれまして……」

「なぬ?」

 予想外の言葉にアデルは少し驚いた。確かに当時回収された・・・・・卵は4つ。グリフォンの巣へと送り届ける途中、1つが生育が進んでいたか、外的要因かで巣へとの到着を待たずして生まれたのがブリュンヴィンドである。残りの3つ、巣へと戻り現リーダー格のグリフォン夫妻の下で孵ったのが彼らなのだろう。

「祭りの祝いにブリュンヴィンドが招待したって訳じゃないんだよな?」

「はい。言伝はこうです。『彼らに人間の言葉と行動、そして対竜、対人の戦い方について教えてやって欲しい。』だそうです。狩りに関しては既に問題なく出来てるようですが。」

 アンナが言うグリフォンリーダーの言葉にアデルは少し首をかしげる。親を失った彼らは、ブリュンヴィンドは最初に目が合ったアデルとそのすぐ傍でサポートをしていたアンナを、それ以外はグリフォンリーダー夫妻を親と認識し、今まで恙なく少して来たはずである。それが急に何故……

 そう考えたアデルは少し嫌な予感を覚える。

「『対竜、対人の戦い方を教えろ』か。テラリアがまたグルド山に手を出してきたみたいなことをネージュが漏らしてたが……何かあったのか?」

 そう深読みして呟くと、アンナは少し待つように言う。若干の距離がある為多少時間は掛かるが、風の精霊に仲介を依頼してグリフォンリーダーとの交信を試みる。

「現時点でグルド山の幻獣領域には一切問題は起きていないので心配は必要ないそうです。ただ北麓、南麓でそれぞれテラリア兵の動きが見られたり、テラリア兵とケンタウロスらの衝突があったみたいですね。」

「皇国兵とケンタウロス?まあ、敵対してるんだろうけど……最近ほとんどテラリアの話聞かなくなったな……こっちがそれどころじゃないってのもあるけど。まあ、わかった。彼らには対集団や弓の脅威について中心に教えると伝えてくれ。あとは対竜は……うちにいるのは氷竜でグルドの雷竜やメジャーな火竜の相手とは勝手が違うかもしれんぞと。あとは……こちらにいる間の仮でいいが、名前を付けさせてもらうと伝えてくれ。期間はどれくらいだ?」

 風の精霊の往復を待ちながらアデルはすぐにプランを考える。対竜はネージュ対4体で“遊んで”もらうとして、問題は対人だ。弓の脅威はハンナがいればある程度は教えられるだろうが、集団戦となると……カンセロかイスタに依頼するしかないだろう。ドルケンの者は訓練とは言えどグリフォンを攻撃するのにかなりの抵抗があるようだし。

 程なくしてグリフォンリーダーから全て承知、期間はアデル達が十分と考えるか、どちらかが飽きるまででいいという、幻獣らしい大変スパンの広い返信が返ってきた。

 そんなやり取りをしていると周囲が少し騒がしくなる。振り返れば、準備が整ったかグスタフやベックマン、それにモニカとシルヴィアが現れ、かなりの量の酒樽を兵士たちに用意させていた。

 グスタフたちも4体に増えたグリフォンに一瞬ぎょっとした表情を見せつつも、平静を装い、アデルやアンナに声を掛けてくる。

「初回の祭りがどのようなものになるかはわからんが……これだけあれば、2日くらい店が開けるだろう?」

 グスタフが穏やかな表情で笑う。

「それはもう充分です。グランはフィン、僅かですが別大陸の物もありますし。お代は後日ネージュに届けさせますので。」

 アデルの言葉にグスタフではなく、酒好きらしい騎士十数名が反応する。別大陸のものは彼らにしても是非とも味わってみたいものなのであろう。ある程度確保し、グスタフらが戻る時に土産として持たせるのもいいかもしれない。予算や輸送方法はすでにモニカに伝えてあるので、埒外な請求が来る事はないだろう。とは言え国の資産を売ってもらうことになるので友誼による特別価格はそれほど期待できない。酒樽も貯蔵用の物から販売分を小さ目の樽に移し替えて用意してくれている。輸送袋の口の広さに合わせてもらったのだ。

 モニカに魔法袋を広げてもらい、アデルが先に中に入り兵士から樽を受け取り袋の中に整理して並べる。その様子をベックマンが興味深く覗いていた。一方のグスタフはアンナと談笑している様子だ。アンナがブリュンヴィンドの本当の兄弟であると伝えると、密輸されかけていた4体全ての健やかな成長を喜んでいた。


 準備がすべて整うと今回ばかりは仕方ないとアデルがブリュンヴィンドに騎乗し垂直に離陸し、その後をブリュンヴィンドの兄弟、アンナ、シルヴィア、そしてグスタフらの翼竜3体が続く。当初は魔法袋による移送を考えていたが、何かあった時の為に自力で戻れるようにしておきたいと言う事で翼竜で移動するとなった為、事前に翼竜の来訪と着陸の許可を申請したのだ。

 帰りも真っすぐ直線的に新都市へと飛行し、ワイバーンのペースに合わせて3時間ほどで新都市へと到着する。事前の申請通り、地上からある程度視認できる高度で、指定の通り東門の真上から新都市へと入る。それ以外のルートの指定はされなかったので、少し南側、港の上に移動して旋回し、南東方向からヴェント・ブルーノ商店裏庭へと着陸した。

 ネージュを始め、店の面々は予定外のブリュンヴィンドの兄弟達に少し驚くと、さっそく目を輝かせながら取り囲む。ネージュもシルヴィアがん無視でブリュンヴィンドに駆け寄り、長距離移動を労った後に兄弟達をもふり始める。嫌がるかと思った兄弟達は、害意がないのがわかるのか、今のところは大人しくもふられていた。

 その様子を微笑まし気に眺めなたら翼竜を降りたグスタフとベックマンにまずはモニカがレイラを紹介した。

 あまり人目に触れるのもまずかろうと、アデルとオルタでドルン組の翼竜を預かると伝えると、アンナの先導でグスタフらとレイラが店の中へと入っていく。

 アデルはルーナに“招待客ゲスト”が揃ったことを伝え、フローラと共に歓迎の準備を進める様に伝えた。

 その後、オルタと共に翼竜をとりあえず雨風を凌げる場所まで移動させると今度はブリュンヴィンドの兄弟達に場所を割り当てる。それなりの広さはあると思っていたヴェント・ブルーノ商店の裏庭だが、流石に翼竜3体とグリフォン4体が寛げるスペースを確保すると広さが半分程度になってしまった。

 それでも無事割り当てと休息をとらせる準備を済ませるとアデル達も店舗の中へと戻る。


 店内に入ると、明日・明後日と“酒場”となる準備を終えていたスペースに招待客らと店の者全員が集まっていた。今日1日は明日・明後日に備えた準備をすると言う事で、受注の窓口以外開けていなかったがそちらも少し早めに閉め、今日は既に店じまいとなっている。

 他国の国王であるグスタフを前に、レイラも変装術を解き本来の姿でグスタフらと挨拶を交わしていた。公務外とは言え、事情を知っていたディアスやソフィー、彼らの紹介に当初呆然となっていたルベルとマリエル、ヴェルノらが遠慮気味に近くの別テーブルに着いていた。

 グスタフらのテーブルにはフローラが、ディアスたちのテーブルにはティアが付き、アンナやルーナが腕にりをかけて料理したものが並べられていく。その間にアデルとオルタ、そしてエミーで魔法袋から買い付けた酒樽を運び出し積んでいく。落ちつかないのかマリエルが給仕の手伝いをしようと申し出てくれたが、マリエルには明日明後日とお世話になる予定なので今日くらいはとゆっくりしてもらうことにした。

 時刻は空の色が茜色からグレーへと変わり始めたくらいだろうか。宴会には少々早いが時間帯かもしれないが、細宴の準備が整ったところでアデルが音頭を取ってグランの者以外が祝うグラン新都市の“前夜祭”が始まった。

 元々モニカやレイラと面識のあったディアスやソフィーがうまく仲を取り持って、酒が出始めるころには2つに分かれていたテーブルもほぼ一つの纏められ、ドルケン勢、コローナ勢、そしてフィン勢が互いの酒を勧めあう。どさくさに紛れてエミーがフィン勢のスペースに紛れ込んでいるが、当然余計なことは言わないようにと釘を刺したうえでオルタに警戒もさせている。

 本来なら……いつもなら、毒見くらいは付くであろうグスタフらやエミーも今はそんなことすら考えずに食事と各国の名酒、そして雑談や商談を楽しんでいる様だ。その辺りレイラの話題、そして手札の切り方は流石である。同じ竜人であるシルヴィアは少し離れた位置でアデル達の身内向けのテーブルでつまみを片手に酒をちびちび飲んでいるところをネージュがたまにちょっかいを出して眉を寄せさせたりしている。

 接待チームも宴が始まって以降は半分ずつに分かれ、今は前半戦の年少組が応対し、アデルを含む年長組、アデル、ティア、エミー、アンナが客らとほど近いテーブルで先に食事をとっている。

 そんな賑やかながらも穏やかな時間が流れる中、何者かが店の出入り口の扉を激しくノックし始めた。

 何事かと思ったアデルが席を立ち、入り口の扉の鍵を開けると少し扉を引いて外を確認すると……


 そこにはやや困った表情のエドガーが中の様子を窺いつつ、予定外の事を告げた。


 明日の主役の1人である筈のエドガーはどうやら“招待客ゲスト”ではなく、“訪問客ビジター”を連れてきた……連れてきてしまった様子であった。



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