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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
南部興亡篇
291/373

国葬と真相

 コローナ王都へと帰還した翌日、一晩王都に滞在したアデル達は、救出――確保できた時点でマリアンヌ、エミーともに既に“手遅れ”であったとロゼールの口から聞かされた。

 両者とも、10日間の間にきっちりとミノタウロスの子を孕まされていたと言う。

 ある程度の覚悟はしていたとはいえ、その報に王城、そしてアデル達も悲嘆にくれた。

 当のマリアンヌも正気こそ保っていれど、ひどく塞ぎこんでいると言う。コローナが国の神と報じる地母神レアは、母親の意志を最大限尊重し、どうしても望まないという“子”の堕胎が認められている大陸では珍しい宗派であった。

 元々は戦争や犯罪によって望まぬ子を産まされ、愛情なく育つ子と経済的・精神的苦痛に苛まれ続ける母を未然に防ぐ“慈悲”として行われる“特例処置”であるのだが、今回は両者ともにこのケースに含まれることとなったそうだ。

 流石のマリアンヌも、人に害をなし、自分や周囲に悲惨な運命だけをまき散らした種の子を産むつもりはなかったようで、“浄め”の“処置”が行われたとロゼールから伝えられた。

 アデル達はエミーに付き添うというオルタを残し、一度新都市へと戻った。

 結果を留守番組に伝えると、直接マリアンヌとの接点はなかったにしろ、皆女性として一様に苦々しい表情を浮かべ、見舞う言葉を述べた。



 それから1週間、オルタはロゼールの監視の元、エミーに付き添いつつ、フィンの様子の聴取に務めていた。

 聞けた話によると、当時コローナと相対していたフィン軍は敵――即ちコローナ側に聖女が来ている事を察知していた。

 何度か攻めてみたものの、味方の奮戦空しく、聖女の治癒力と防護力に数の差は徐々に広がり始め、本国へ増援要請の連絡を送りしばし体勢を整えようと言うところで例の襲撃があったと言う。

 当初――おそらく今でもフィン軍はコローナが蛮族を誘導したと考えていた様だ。

 だがエミー達、フィンの虜囚たちは偶然か、或いは意図的なリークか聖女も同時に捕えられたという事を知ったと言う。蛮族軍の中に人間が数名いて、そんな事を言っていたらしい。

 そして、こちらはロゼールからの報告になるが、制圧された古城の中に虜囚以外の人間の姿はなく、調べた結果、討ち取った相手の中からも人間・人族は確認されていないとのことである。

 また、ミノタウロスを複数、群れで行動させられるような存在はマリアンヌ、エミー、そしてアンジェラ他、救出・保護された両軍の虜囚まで含めて見ていないと言う。

 フィン軍が4000のままとどまっていた理由はエミー側ではわからないと言う。指揮官である自分が拉致され、撤退の決断に悩んだか、後方の増援の当てがでてきたかではないかという話だそうだ。


 そして1週間後、治療を終えたエミーとオルタを迎えに行きつつ、アデルとネージュ、オルタとエミー、ロゼールとアンジェラの6者で情報の交換を行った。と言ってもアデルとネージュはただ報告を聞くのみであったが。

 エミーから聞けたフィン側のあらましは先に述べた通りだ。と、いうのも基本エミーはオルタ以外と話をしていない。また、常時ではないが、少なくとも今回の件について聴取ををするときはロゼールが立ち会うことになっていたので、今の情報は既にアデル達以外には共有されていたと言える。

 故に、最初に上がることになった議題は次のロゼールの報告についてとなる。


「フィン王国が第2王女、エミリアナ・レベカ・ド・フィン――将軍職であられた様ですが――の国葬を執り行いました。」

 そう言いながらじろりとエミーとオルタを見る。

「「え……!?」」

 それに同時に驚いたのがその2人だ。

「なんでも、コローナ南部でコローナ軍と蛮族軍の挟撃に会い討ち死にされたとか。フィンでは、いよいよ戦線が厳しくなったコローナが蛮族と組んだとか、蛮族を唆したとか言われている様です。全く以て心外です。」

 あからさまに怒気を含んだ口調で言う。

「当然、我々はそれを否定し抗議しましたがね。まあ、戦争相手に抗議した所でどうにもならないでしょうけど。」

「同様の言いがかりをつけてやれば良いんじゃないか?こっちも同じ襲撃をくらって――」

「……ええ。いずれ明らかになってくるでしょう。ですがこちらが被害を訴える場合は……」

 アデルもやや怒り気味にそう言うとロゼールは静かに首を振る。こちらが被害を訴える場合、マリアンヌに何が起きたのか知らせる、知られる可能性がでてくる。

「騎士数十名が被害を受けた。じゃだめなのか?」

「フィンに援軍要請に戻った伝令が、こちらの陣に姉がいた事を報告したらしいので。まあ確かに姉が拉致されたと知る者はフィン側にはいない筈ですがね。」

「ってゆーか、いきなりだな。フィン側から囚われていた人たちも救出できたんだろ?」

「ええ。ほぼ全員。しかし彼女をフィンに返したところで正直に話すかは疑わしく、また、姉も拉致されていたことがばれてしまっているのでしょう?」

「ってことは、マリアンヌ様の事を何物かが意図的にフィンの捕虜に聞かせたのか?ただそいつの勘違いってことにすればいいのに。」

 オルタが憮然として言う。

「どちらにしろ噂としては徐々に広まりつつあるようです。」

「箝口令仕事しろ。」

「意図的にリークしている者がいる様ですね。恐らく何かしろの裏があるようですが……」

 ロゼールはそこでエミーを見る。

「今更あなたがエミリアナ殿下であったとしても驚きませんが、何故あなたがあの場に、あの戦場におられたのですか?」

「何故も何もあるまい。コローナがグラン平定に横槍を入れてきた、その対応として我が国は戦争を布告している。」

 エミーが言う

「……そんな事を聞いてはいません。その前線に、なぜあなたが、わずか数日の不在で“戦死”扱いされるような状況なっているかと聞いているのです。」

「……?」

 ロゼールの言葉にエミーはその表情に疑問符を浮かべると助けを求める様にオルタへと視線を送る。

「あなたが寡兵で、最前線に張り付かなればならない様な作戦を立てた、或いは指示した人間は?恐らくあなたが公から消えたらさぞかし喜ぶ人物なのではないかと思うのですが?」

 ロゼールの強い言葉でエミーはロゼールは何を聞こうとしていたのかをようやく気付いた。

 心当たりは――ある。が、それはフィンの今後の問題だ。エミーが内心でそう考えると、表情でそれを見透かしたか、ロゼールはオルタをチラリと見て言う。

「待てませんので今すぐ決めて下さい。今、あなたがコローナにて生存している事を知る者はここの6名、他にあなたと一緒に拉致されていて、我が軍に保護されたフィンの女性兵士13名のみです。生存を明らかにし、公式に・・・コローナからフィンへ戻りますか?」

「むっ……」

 ロゼールの怒りとも焦りとも取れる強い言葉に年上らしいエミーが怯む。


「……そもそも私が取れる選択肢はどうなっているんだ?」

 長い思案の後、自分がエミリアナであることを一切否定せずにエミーが尋ねる。

「……1つは、何があったかマリアンヌの部分を外して説明することを条件に他の13人と共に公式ルートでフィンに戻ること。こちらの条件を破らない為に何かしらの担保は取らして頂きますが。まあ、公式で名誉の国葬までされた後に、のこのことミノタウロスに汚されましたと申し出る勇気があるのならですがね。そこまでしてでもあなたを嵌めたヤツに一泡食らわせたいというならそれもいいでしょう。」

「……」

 ロゼールの言葉にエミーが沈黙する。

「それ以外は……勝手にレインフォールにでも売られて下さい。」

 要するに公式ルートで不名誉の帰還をするか、レインフォール……トルナッドに潜伏し再起を図るか、今すぐ選べと言う訳だ。

「後者を選んだ場合、13人はどうなる?」

「さあ?同意を得たうえで“治療”は済ませてありますが。捕虜として扱われるか、亡命するか、本人次第じゃないですかね?」

 ロゼールは、同時に捕らわれたフィンの女性らがエミリアナ同様不名誉な帰還のハードルの高さ承知している様に言う。

「すぐに決めて下さい。どうしてもというなら、“その他大勢”の捕虜として後日、捕虜交換の目玉になってもらっても構いませんが。」

 一切の有無を言わさずロゼールが畳みかける。

「…………」

 2分ほどの沈黙の後、エミーは希望を口にした。


「……嵌められたのはあなただけではないのですよ。」

 別れ際、ロゼールは苛立たし気にそんな言葉をエミーに掛けた。

 ロゼールはこの1週間で察知してしまったのだ。この騒動を本当に主導したのが誰であるのか。

 そしてその思惑通り、それはもうどうやっても覆らない程きっちりと自分が嵌められていたことに。


雲行きはどんどん怪しく……

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