“外れ”
やや先行して突入したシルヴィアが階段の制圧に向かったのを確認するとオルタとアンナはブリュンヴィンドから降り、事前に調べてあった『虜囚がいる可能性の高い部屋』へと向かう。
上位種か、やや体の引き締まった2体のオークが廊下の混乱に釣られずに持ち場を守り、扉を固めていた。
だがオークはオークだ。オルタは最初から剣を抜き、造作もなく2体のオークを切り伏せると、剣を戻し“鈍器”で扉を叩き破ろうとした。
しかし扉に鍵や閂はされていなかったか、扉は派手に内側へ吹き飛ぶ様に開く。
扉の先、目の前に飛び込んできた陰惨な後継、続いて鼻に届いた悪臭にオルタは思わず眉を寄せた。
部屋の中には女性ばかり十数名、そしてこの期に及んで一生懸命種の存続に務めているミノタウロスが1体。
扉の乱暴な開けられ方に異常を察したか、部屋にいた者全てが『はっ』とした表情で入口を見た。
その瞬間にはオルタは既に走り出していた。
オルタは走りながら再度剣を抜き、鞘をミノタウロスに投げつけると、ミノタウロスはお取込み中の所を邪魔されて不愉快そうに眉を寄せると簡単にその鋼鉄の鞘を拳で払いのける。
オルタが動いた時点でアンナはネージュが事前に指示した通り、扉を閉めると、その蝶番や扉と壁の接触部分を凍らせ、その内側から分厚い氷壁で覆う。ミノタウロスは新たに増えた人種の牝の臭いでも感じ取ったか、獰猛で下碑な笑みを浮かべ――
己の胴体が別の位置――先ほどまで立っていた位置にある事を俯瞰した。
ミノタウロスの首の切断口から吹き出す赤い血に、先程までその体に蹂躙されていた女性が呆然とした表情を浮かべる。
それ以外にもこの場にいた十数名の女性全てがミノタウロスやその取り巻きによって汚辱されている様子が見てとれた。オルタとしてはレインフォールの者として、この手の奴隷を取り扱ったことは何度でもある。時には部下と共に“教育”を行ったこともあったが、流石にそこは人間同士、ここまで“不衛生”な環境に置いたことはない。
眉を寄せていたオルタだが、剣の鞘を拾い、戻すとハッ我に返りアンナを確認する。幸か不幸か――結果として幸に転じた酷い不幸であったであろう。アンナはアンナで山賊の虜囚だった経験がこんな形で生きたか、この状況を客観的に見、冷静に自分の取るべき行動を始めていた。
虜囚の中から、目的であるマリアンヌがいないか確認を始めていたのである。
入口から左回りで虜囚の顔を確認していたアンナは、5人ほど確認したところでオルタと視線が合ったのに気付くと、首を横に振った。
オルタも急ぎ右回りで虜囚たちの顔を確認して行くが、やはりマリアンヌの顔はない。その全員が、ただ茫然とうつろな表情で正面の壁を見つめているのみだ。
「こっちは外れっぽいな。」
出来る事なら戒めを解き、声くらい掛けてやりたいところだが、原則マリアンヌ以外はこの場では助け出さない事になっている。助けても連れ出す手段がない以上、下手に期待をもたせ、或いは助けてもらえないなら諸共と騒がれても厄介だからだ。
オルタはそう考えながら虜囚を確認していく。こちら側に知った顔をはなさそうだ。そう思いながらも確認を進めると、思わず一瞬大声を上げそうになり、慌てて飲み込む。
何となく見知った顔だ。だが、マリアンヌではない。オルタは声を掛けるべきか一瞬悩んだが、その瞬間、その女性と目が合った。
「貴様は……救助部隊か?」
口調からして上級武官、この状況で唯一正気を保ち、状況を理解した人物。
「コローナの。だけどな。」
オルタの答えにその女性は忌々しそうに眉を寄せた。
「あんた。小さい頃エミーって呼ばれてなかったか?」
「!?」
オルタが何気なく掛けた一声に女はひどくうろたえた様子を見せる。
「マジか……あんたが何故……」
「貴様は……?」
何となく見知った顔から、見知った顔であったことが確定した。
「コローナの冒険者だが……昔レインフォールにいた。今でもレイラとは付き合いがある。」
「ぬっ……目的はコローナの“聖女”か?」
どうやらこの拉致騒ぎにマリアンヌが巻き込まれていることはフィン軍の者にも知れ渡っている様だ。
「まあその通りだ。他は捨て置く様に言われているが……俺に話を合わせて、協力してくれるんならあんた1人の脱出くらいはなんとかしてやる。行先はコローナ経由でトルナッドになるがな。」
「…………わかった。頼む。」
消え入りそうな声で女性がそう答えた瞬間、遠く――おそらくは反対側の部屋だろう――から、派手な爆発音と何かが崩れ落ちる音が聞こえた。
「時間はなさそうだ。簡潔に言うぞ。俺達はコローナの姫様救出――確保に近いか。の為に地上部隊から先行して7名で潜入してきている。この城は間もなくコローナ軍2000によって包囲され制圧されるだろう。監禁場所候補が2ヶ所あったから2手――いいや、3手に分かれている状況だ。どうやら向こうが当たりを見つけたらしい。」
「……」
「さっき言った通り、基本あっちの姫様以外は放置する様に言われている、が、うまく話せば1人くらいなら捩じ込める。俺らの回収が来たら、何が来ても慌てずに黙っていう通りに動け。」
「…………」
無言で睨んでくる女性にオルタは続ける。
「ぎりぎりになって、やっぱり信用できないってなったなら遠慮はいらん。好きにしろ。俺らはあんたをそのまま置いて離脱するだけだからな。」
「……承知した。」
女は渋々といった表情でオルタに同意した。それを聞きオルタは再度剣を抜き、その女の足と、腕と壁を結び付けている縄を切る。
無色透明なオルタの剣を見た瞬間、女は驚く様に目を見開いたが、縄の切断、刃物の使用に神経を集中していたオルタはそれを見逃していた。
「いいか。混乱を招く。呼ぶまで勝手に動かないでくれよ。」
オルタが改めてそう声を掛けると、女は黙って頷いた。
「アンナ!こっちは外れのようだ。が、1人“連れ帰る”。とりあえず窓の下を」
そう言うとアンナは少し驚いた表情を見せたが、すぐに窓の下の壁に括られていた女性らの戒めを解くと安全な位置に移動させる。戒めを解かれた時点で救出を理解したか、女性らは虚ろな目をしたままだが、大きく一呼吸した。
そこでようやく女性達が正気をわずかに取り戻す。『助けが来たのか?』そんな表情が、壁から離された女性らを起点に広がっていく。
「俺達が助ける様に命じられているのは一人だけだ。だが、ここは既に地上部隊に包囲されていて、妖魔もすでに半分は蹴散らされているだろう。あと一刻、何とか耐えてくれ!」
オルタが叫ぶと重い沈黙が流れる。今回拉致された女性らは一人残らず軍人だ。で、あるなら助け出されるべき1人が誰であるのか、それぞれ予想し理解する。
「窓を!」
オルタが叫ぶとアンナが高圧水流の魔法で窓をぶち破る。
「今壊した窓の傍から離れろ!アンナ、氷のダガーをいくつか用意してやってくれ。」
オルタの指示に全員が従った。
そして窓が壊されてから10秒後。爆音とともに窓の下の壁が大きく崩された。
大きく崩れた壁の向こうにはグリフォンがいた。
そのグリフォンが空けられた穴から侵入すると、その背に2人の人間を乗せているのがわかる。
「兄ちゃん。レイラへの土産が見つかった。袋を貸してくれ!」
オルタがグリフォンに向けてそう声を掛けながら近づくと、オルタはグリフォンの背の上の人間から袋を借り受け口を開く。
「エミー。この中に飛び込め!」
「腕の戒めくらい……!」
「そうはいかないんだよ!あと、中で“何を見ても”下手に喋るなよ。後々面倒になるだけだ。」
「くっ!?」
オルタにそう言う割れるとエミーと呼ばれた女は両腕を括られたまま走り寄ってきて、グリフォンの背に者達を一度睨みつけてから袋に入った。
「オルタ。これは一体……?」
エミーが袋に飛び込んだのを確認してオルタが口の閉じ、その端を釣り上げる。
「うまく条件を付ければ“あっち”の情勢が聞けるだろうってな。どうやら“聖女”が拉致された事は向こうも察してやがる様だぜ。」
「マジか……それはしんどいな。」
グリフォンの背にいた人物――勿論アデルである。は苦い表情で呟いた。
「離脱するぞ。オルタ。中は頼んだ。」
アデルがオルタから袋を受け取り、再度口を開く。
「任せてくれ。」
オルタはそう言うとするりと魔法袋の中に身を潜らせた。
「アンナ!」
「はい!」
アデルが声をかけ、ブリュンヴィンドを壁の大穴を潜らせるとアンナは入口の内側の氷壁をさらに補強した後、振りかえる事なくブリュンヴィンドの後を追った。
すりぬけブレムつらい。(ガチャ脳)




