大先輩
直近のあらすじ
正月休み終了!店からの強制依頼発令!
先輩たちの引っ越しを手伝うんDA! ←イマココ
広い連絡路をアデルは慎重に馬車を進めていた。
ブラバドの指示で借り受けたのは、幌付の小型馬車。肩を寄せ合えば人間5~6人が一度に乗れるくらいのキャリッジだ。それに、アデル以外の4人、ネージュ、ディアス、ルベル、ソフィーが毛布を2~3枚重ねて敷いただけの上に腰を下ろしている。
馬車を借りブラーバ亭に戻ると既に準備を終えていたディアス達がブラバドや店員に挨拶をすると、多くの者が馬車(幌付きの荷台)に乗り込むまで見送っていた。
このテラリア大陸に於いて、各国共通で馬車は原則道の左側通行となっている。
連絡路は馬車の為の広めの道であるが、専用路とは違い人間もそれなりに通行している。専用路が2頭立て以上の大型馬車、輸送専用の道路であるのに対し、連絡路は小型馬車がすれ違える程度といった広さの共用道路だ。
歩行者用のメインストリートは町の中央側にあり商店や露店などは専らそちら側に集中している。連絡路は最初から馬車を前提にした通りであるため、道を横切ったりする歩行者は少ない。通りの左側を徐行で進めば余程のことが無い限り何事もなく門の所までいける筈だ。
途中でこれまで何度か通った馬車専用路に合流し、南馬車通用門にたどり着く。そこで町を出るための審査があるらしい。身元確認は冒険者か騎手のどちらかのギルドカードを示せばそれで済むが、今回は別に荷物のチェックがあるようだ。
「兄ちゃん。馬車の中を改めさせてもらうぞ。」
二人組の衛兵がアデルの所にもやってくる。前方から順番に声を掛けながら馬車の中を確認しているのだ。この2人が順番に回りながら簡単なチェックを行い、そこで不審な荷物があったり、量があまりに多いようだったら別の検問を通らされることになる。
「えっ?ちょっ!?ディアスさん!?」
馬車の幌の中を覗いた衛兵が中に乗っていたディアスたちをみて驚きとも歓喜とも取れる声を上げる。
「何?どうした……
……え?」
もう一人の衛兵も中を覗くと、こちらはいささか緊張した面持ちになる。
それを見たディアスが片手をあげて応えると、ソフィーが人さし指を口に当て、騒がない様にと示す。
「これから引っ越しの手伝いをしてもらうことになってね。」
「そうですか……引退されると云う噂は本当だったんですね?」
「まあな。やりたいことはだいたいやり遂げたし、蓄えも十分あるしな。あとは悠々と過ごさせてもらうつもりだ。流石に出ないと国がヤバいって話になったら動ける様にはしておくつもりだけどな。」
「なるほど。色々お世話になりました!」
ディアスが苦笑しながらそう告げると、衛兵たちは軍の上官相手でもないのにピシっとした敬礼をして次の馬車に向かう。
(王都の衛兵が冒険者に『お世話になりました』って?)
と、不思議そうな顔をアデルがすると、ディアスが馬車の前側に出て来て言う。
「俺達の事は道中にでも話すよ。まずは門を出てそのまま真直ぐ南へ向かってくれ。俺ら、町近辺だと少々目立っちまってなぁ。もう少し進んだら俺が隣で道案内するよ。」
「わかりました。」
アデルは言われたとおりにプルルを操った。
門を離れ、30分くらい南へ向ったところでディアスが御者台に出てきた。
「道案内っつっても、当面はこの道を真直ぐ行けばいいんだけどな。天候次第で道がぬかるむ事はあるかもしれんが基本難しい事はない筈だ。森に入る辺りで、運か頭の悪い物取りが出るかもしれんが、そこまでは大丈夫だろう。」
「こんな街道でも出る時は出るんですね……」
「まあ、どこにでも後先考えずに楽に稼ぎたいってやつは出てくるもんさ。もっとも、出なきゃ出ないで冒険者の仕事が減るしなぁ。」
「魔物の類も、西方面は私らが狩りまくったからね。当面デカブツはこれ以上湧いてこないと思うけど。」
とディアスとソフィーが他人事のように暢気な口調で言う。
「まあ、時間はまだたっぷりとあるが……まずは今回の仕事の趣意を説明しておこうか。」
そう言いながら、ディアスさんは今回の依頼の本当の意味を語り始めるのだった。
まず彼らのパーティ、“蒼き竜騎兵”(ブルードラグーン)はコローナでも五指には入る有名パーティであったそうだ。殊に、妖魔や蛮族との争いの絶えない南西方面では絶大な評価を得ていたらしい。
何十体もの敵部隊のリーダー格を討ち、蛮族の奇襲があった時は僅か数名で殿を勤めあげ、危険地帯とされていた“西の森”の魔物や猛獣を狩りまくり――これのおかげで野盗共が安全地帯を得られたとも取れるが――南西に広い領地を持つワラキア侯爵領の敵性戦力をほとんど刈り取ったと言われたほどだ。
年齢は28~33。アデルが見た感じでもまだまだ十分以上に現役でいけるとは思うが引退の決意は変わらないらしい。
そもそも、彼らは基本となる4人パーティに1人の《精霊使い》の助っ人を加えた5人パーティだったそうだ。そして彼らの回想はアデルに衝撃をもたらすことになる。
「ここにいる筈だったもう一人は――竜人族の女性だった。」
「え!?」
「竜人族に関しては……まあ、知らないわけないよな?お兄ちゃん?」
「ハイ。ソレナリニシッテルトオモイマス___」
「“珠持ち”と“珠無し”の差も判るよな?」
「竜に変身できるかできないかの違いくらいなら……」
「まあ、そこが一番の違いらしいな。で、“珠無し”がどういう存在――扱いを受けているかは知ってるか?」
「よく伝え聞いています。」
「ああ。彼女らにしてみれば、あれだけの実力があって尚、同族どころか妖魔の使いっぱしりにさせられるのは納得行かない話だろうな。竜化できなくとも、なんとか生き延びてある程度成長すれば、妖魔くらいなら従えさせられるようになる実力は十二分にあるからな。
だが、それでも竜人として、彼らの集団の中での限界はあるようだ。だから……ある程度成長した“珠無し”が人族の社会を新天地として目指してくることは珍しい事じゃないらしいんだ。」
「ある程度成長した……うん。まあ……うん。」
アデルは後ろを振り返らずに、後ろにいる筈の竜人族の姿を思い浮かべる。
「……俺の彼女だったよ。どっちも本気だった。」
「!?」
ディアスの言葉に、言葉にはならなかったものの驚きの表情でディアスの顔を見てしまう。
「そもそも“珠無し”自体が何百人に一人くらいに珍しいみたいだけどな。ただ、少なくとも人族の9割方にとっては彼らの珠の有無なんて関係ないんだ。竜人族と聞けば昔から人族にとって最大級の脅威であることには変わらないからな。」
「……」
「だが、多少なりとも学なり知識なりがあるやつなら、“珠無し”という存在がある事だけは知っている。で、だ。」
「彼らを人族社会に認めさせるには主に2つの手段がある。知ってるか?」
「2つ?名誉人族の話は聞きましたが。」
「そうか、知っていたか。そう、一つは名誉人族、つまりは魔石だ。魔石をかき集め十分な量を国や魔具ギルドなどの公的機関に供出する。するとそれを受けた機関がその量に見合った社会的な身分証を保証してくれる。つまりは後ろ盾になってくれるってことだな。」
魔石とは主に魔物の体内で生成される、魔素を収集する性質を持つ石、結晶のようなものだ。魔物の大きさに応じてより大きな魔石ができ、それを応用することにより魔具と呼ばれる、灯り、着火具などの小物から、人間を乗せて高速で走れる乗り物の動力源などとして使用できたりもする。現在、大陸で一番大きな魔具がスカイシップと呼ばれる、飛行が可能な小型船だ。もちろんそれに必要な魔石はかなり巨大なものとなり、またそれを安定して運用できる技術も相当なレベルを必要とするため、運用しているのも、コローナの隣国であるオーレリアやベルンシュタットと言った、工業が著しく発展している国のみで、その両国でもそれぞれ2~3隻しか存在しない。
「2つめは単純に誰が見ても文句がでない程のでかい功績をあげる。例えば蛮族の一軍を蹴散らすとか魔の森の一角を制圧するとかな……」
「あれ……?」
「そう。俺達は2つめを選んだんだ。てっとり早く周囲に認めさせたかったからな。で、後悔と絶望をすることになったんだ……」
「え……?」
御者台の隣で一気に暗い表情に変わるディアス。
「噂や伝手などで認めてくれる奴らはいいんだ。飽く迄他人事の範疇で自分たちの厄介事を引き受けて排除してくれるんだからな。
ただ、現場、特にそれを目にした奴らはその限りじゃない。」
「どういうことですか?」
「そりゃ、自分たちが戦場で必死になって敵と相対してる時に、“人ならざる者”が次々と敵を蹴散らして見ろ。どう思う?」
「もうアイツ一人でいいんじゃないかな状態ですかね?」
「なんだそりゃ?でもまあ、イメージは伝わる。そしてそのイメージはまだ温いと言わざるを得ない。」
「え?」
「奴らは、嫉妬や恐怖ってものを覚えるんだよ。俺達も十分と思える実力を身に付けて遺憾なく発揮してたんだがな。それでもあいつはそんな俺らよりもさらに頭一つ抜けてた。実績を上げれば上げるほど領主や領民たちからの賛辞もどんどん上がるが、現場、特に現地の大隊長や将軍クラスにはそれ以外のモノが膨れ上がっていたんだ。いつ気まぐれでその矛先が自分たちに向くかわからない。或いはいつ自分たちの立場を奪われるかわからない等だな。
で、結局通常よりも危険な仕事ばかり増えるようになっていって……それを達成すればするほど周囲の期待とその力量の差は開く。だが、望まれる全ての仕事を無傷でこなせる訳がないんだ。結局最後は俺を庇うように死んじまったよ。ルベル達はともかく、俺が何の為に必死こいてここ何年も戦ってきたかなんてわからないままにな。」
「……」
「俺らも正直お前らの種族を超えた結婚とか見て見たかったんだけどなぁ。」
「結果として想像以上に稼がせてもらっちゃったしね……」
悲しみとも怒りとも見える表情のディアスに、ルベルとソフィーが声を掛ける。
「まあ、結局これが、俺達の引退の理由だよ。俺にしてみりゃもう戦う理由がなくなっちまったようなもんだしな。」
「私らも、さんざん命張って来たと思ったら危険と嫉妬がどんどん膨れ上がって……もう、あとはもう余程の贅沢をしなきゃ仕事せずに生きて行けるくらいの蓄えができたからね。これを機にみんなで足抜けすることにしたのよ。」
「……なるほど。」
アデルは沈痛な表情で只々絶句するだけだ。
「ちなみに……亡くなった彼女さんは《戦士》だったんですか?」
暫しの沈黙を挟んでアデルが口を開く。
「ああ、《戦士:39》、《斥候:30》とかだったな。」
レベル39!?、ブラバドのレベルは聞いていないが、アリオンがレベル36だからその周辺だろう、彼ら以上ではないか。それでも死ぬときは死ぬのだ。
「ちなみに俺が《戦士:36》、《騎手:21》だ。」
「私が《魔術師:34》、《薬師:30》よ。」
ソフィーが静かな笑みを浮かべそう告げる。ヴェルノ辺りが聞けば間違いなく弟子入りさせてくれと言い出すだろう。
「俺は《戦士:35》に《騎手:20》それに《狩人:20》だな。まあ、今更ではあるが。」
レベル30も後半となれば、英雄と呼ばれて始めてもおかしくない頃だろう。王都を出る時の衛兵の様子も納得だ。
「でもまあ、最近は色々各方面できな臭くなってきてるしね。国の存亡にかかわる様な話になったら、協力は惜しまないつもりよ。」
ソフィーがフォローする様にそう言う。
「まあ、今の内から魔石は集めておいた方がいいな。売ればいい金になるが、きっと将来必要になるだろう。」
「今どの程度かしらんが、その子も角があるだろう?15歳くらいからだんだんと伸び始めて、20になる頃にはかなりの大きさになる。そうなると、“鬼子”で誤魔化すのも無理だろうな。隠すのはかなり大変……というか、困難になるぞ。そこは忘れないようにしておけ。」
竜人族は成人すると角が伸び始める。ブラバドも言っていたが、そうなるとフード程度で誤魔化すのは無理になりそうだ。
「それから、ネージュだったか?馬車の中にいる間は、無理に隠さなくてもいいぞ。マリーネ……彼女もそうだったがかなり窮屈なんだろそれ?」
ディアスがそう言うと、ネージュがパッと顔を輝かせる。フードをはずし、すぽぽーんとレザーアーマーも脱ぎ捨てるとうつ伏せになって毛布にうずくまる。
それを見たディアスの表情が少しだけ柔らかくなった気がした。
「そう言えば……助っ人だったもう一人の方は?」
「基本的には俺ら3人にマリーネの4人だったが、だんだん危険度の高い仕事になってきてからは別パーティの2人と一緒に行動してたよ。どちらも高レベルの《精霊使い》でな。片方はここらじゃ珍しい森人だったよ。」
エルフ――『森人』と呼ばれる“人族”だ。テラリア皇国の東の森に森人だけで構成された国、エルメリアがあるとは聞いたことがあるが、アデルはまだ森人を見たことがない。閉鎖的で排他的な種族の上、“人間至上主義”のテラリア皇国とは折り合いが悪く、何度か大きな戦争が繰り返されている。数は人間族ほど多くないものの、実力は上で、特に《精霊使い》としての能力は最高峰と聞いている。大陸の歴史上、唯一テラリア皇国に戦勝したことがある国家がエルメリアである。そもそも、他の、人間族が王を務める国がテラリア皇国に戦争を仕掛けたことがないというだけの話でもあるのだが。
「森人と竜人ですか……中々豪華な面々だったようで……」
「お蔭ですごく目立ったなぁ……実力もずば抜けてたし。」
「俺らが英雄だのと祭り上げられたのにも影響はあったんだろうな。それで調子に乗ってた俺らも大概だよ……今思えばな。」
ディアスが再度表情を暗くする。
ルベルとソフィーはそれを見て肩を竦めるだけであった。リーダーがこの調子ではやはり『英雄パーティ』として死地で活動を続けるのは難しいのだろうなとアデルも感じるのであった。
その後も障害らしい障害は発生せずに、かれらの経験談やら冒険譚を聞きながら2回の夜営を経て後目的地であるワラキア侯爵領の中心都市、アブソリュート市に到着した。
ここにきて初めて聞いたのだが、ワラキアと言うのは家名でなく、現当主個人の名前らしい。本人が姓をあまり気に入っていないのか、周囲には名前で呼ばせているそうだ。世襲で領を治めていると言われるのが癪みたいなことを側近などにぼやいているとか……そういえば、ラウルも少し似た様な感じだったと今になって思う。
ワラキア・アブソリュート。それが“偏屈者”と言われるワラキア侯爵のフルネームらしい。“偏屈者”や“気分屋”などと揶揄されることはあるが、武人として、将軍としての能力は極めて優秀であるようだ。
アブソリュート市も蛮族領と接する侯爵領の中心地と云う事で、外周は高い城壁に囲まれた城塞都市の形式をとっている。
アデル達は東門から町へ入るが、町へ入ろうとしたところから、御者台の隣にいたディアスに衛兵の敬意やら市民からの感謝の声やらが寄せられる。
ディアスやルベル、ソフィーはそれぞれに手をあげたり曖昧な笑みを返しながら応えて見せたが、内情を知ったアデルとしては少々複雑な心境で馬車を進めていった。
(あんまり有名になりすぎるのも面倒な話だなぁ)
人見知りというか、過去の経験からか常に初対面の人には一歩以上の距離を取ろうとしてしまうアデルは内心でそう呟き、自分は慎ましやかに生き抜こうと決意を新たにするのである。
町の喧騒を離れ、西寄りの閑静な住宅街の中の平均的な屋敷の前でアデルは止められた。ここが彼らの拠点となった屋敷らしい。
この屋敷は西部での活動を本格的に始めた時に4人で購入し、5年以上使ってきたとのことだ。今回解散にあたり、現地に残るルベルに全部譲り、ディアスとソフィーはそれぞれ別の地に引っ越すのだと言う。
ディアスは王都から2日ほど南西にある、数年前に叙任されたばかりの新鋭の男爵領に、ソフィーはさらに東に行ったところにある、エストリア辺境伯領の第2の地方都市にすでに屋敷を購入しているとの事だ。どちらも、ここよりは温暖な所でのんびり暮らしたいとのことである。
「温かいからとあまり南に行きすぎてフィン国境に近いとまた面倒なことになりそうだからな。」
とはディアスの弁である。もともと強大な海賊の頭領だった初代フィン王が一定エリアを平定し、国として周囲に認めさせた国であるフィン王国は、港を中心に栄えているが、常にきな臭い空気が漂っていると言う。コローナとも過去に何度か戦争を繰り返し、今の国境が決まっている。
コローナとの交易も少なくはないが、決して多くもない。一部の商人がそれぞれの国の有力者の後ろ盾を背景に寡占しているという感じだそうだ。コローナの主な海洋絡みの交易相手は、実質同盟国である南東のグラン国だ。グランもまたコローナ同様、フィンとは何度か戦争を経験しているが、小国ながらきっちりと国土を守りぬいている。実際は先日目にして来たとおりでかなり疲弊しているようだが……
参考までにとそのことをディアスに教えると、
「東も東で大変なんだな……でもまあ、西も似た様なもんか。」
と、呟く。
東も魔の森とグラン、西も同じく魔の森とフィン、さらにはにらみ合いが続くベルンシュタットがある。東のグランやテラリアは今のところ敵性ではないので東の方が若干マシか。
到着した当日はゆっくりすることになった。
ハウスキーパーと云う名のメイドさんの手料理で迎えられ、食後「遊んでやる」と調子に乗った無防備なディアスに、ここぞとばかりにネージュが翼を駆使しての3次元機動で得意の肘うちを見舞い、慌てて口を押えながらうずくまるディアスをルベルとソフィーが生暖かい目で、アデルとメイドさんはぎょっとした表情で見守りながら、
「あいつらに子供ができてたらあんなヤンチャだったんだろなぁ」とルベルが感慨深く呟く。
そのうち復活したディアスも段々ヒートアップしていき、最後は格闘訓練に近い状態になりつつあった。
「あれが《暗殺者》か。もうレベルの20に手が届きそうなんだって?」
「ブラーバ亭の新年祭の余興で準優勝したらレベル20になりました。やはり上には上が居ましたがね。」
「私も実際に冒険者の《暗殺者》を見るのは初めてね。」
「そうなんですか?俺は既に別にもう1人見ましたけど。」
「ほう?どこで?」
「カイナン商事の代表に個人で雇われているみたいです。」
「あそこか……」
「そう言えば……」
と、アデルは前回の依頼の話を聞いてみる。試すような襲撃のこと、その後の報酬、ナミの人物評などだ。
「東方面のことはよく知らん。まあ、フィン相手に色々やらかして、グランのお偉方に気に入られたらしいって話だな。人物評も……ちょっとそれだけだと判断できんかな?」
「誰でも成り上がれるチャンスはあるってのはいいと思うんだけどね。報酬も……妥当と言うよりは結構良い感じじゃないかしら?口止め料も入ってるんだろけど。ただ、人使いは荒そうね。まあ、東方面で稼ぐ気ならもう少し様子見てもいいんじゃない?」
ルベルとソフィーの曖昧な返事が返ってくる。
「甘いぜ!」
「ぬおぁ!?」
慌ててそちらを見ると、ディアスがわざと作った隙につられたネージュが鳩尾に拳を伸ばそうとして横蹴りカウンターを食らい数メートル吹っ飛ばされるところだった。
「おいおい……」
ルベルが慌ててディアスを嗜めようとするが……ネージュは不敵な笑みを浮かべ立上るのであった。
「あれじゃ、魔石集まるまで大変そうね……」
アブソリュート市での最初の夜は穏やかに、賑やかに過ぎたのである。




