襲撃計画
レイラの来店から3日後、新規契約の受付を一時中断しつつ、予約されていた分の配達を終えると、店は3日間の臨時休業として、レイラの言う通りアデル、オルタ、そしてネージュとアンナの4人でトルナッドのレイラの船へと向かった。
現状、新都市の治安は良く守られており、少なくともハンナがいれば他の者達の安全は充分に確保できるであろう。
当初はネージュとブリュンヴィンドに騎乗させてもらうつもりだったが、レイラの発言から、『珍しいグリフォンで向って足がついても厄介になるだろう』とオルタが言い、オルタは魔法袋に入って、通常竜化のネージュに乗っての移動となった。
そのオルタの配慮をレイラは評価した。どうやらブリュンヴィンドを置いて来たのは正解だったようだ。
「よし。準備に掛かるよ!」
レイラは部下たちにそう宣言すると、まずはフィン王都のレインフォール商会店舗への移動を始める。
今度はアデル達全員が魔法袋に入り、魔具か魔法か、店に来た時の姿に変化したレイラがそれを運ぶことになった。
初めて魔法袋に入っての移動を体験したアデル達はその不思議な感覚にやや落ち着かなかったが、ネージュが面白がった以外に大したイベントもなく無事にフィン王都へと到着する。
ちなみに魔法袋の中は、床が見えない20畳ほどの部屋に入ったと言う感じで、移動中に揺れや衝撃などは一切なかった。床は存在するが見えない為、それに慣れるまで違和感を伴うが、慣れてしまえば思いの外快適な移動が行えるようだ。
さて、王都に到着したアデル達だが、そこで初めて今回の作戦の概要の説明を受けた。
ターゲットの侍女――名前をフローラと言うらしい。が、城の雑用として王都内のいくつかの店で買い出しに向かうらしい。その中で“今回は偶々”やや治安の悪い場所を通り、その帰り道に“何者かによって襲われ行方不明”となるのが筋書きである様だ。
『侍女が城の用事として町に出てくる』以上、この力こそ全て(抑止力も力の一種)であるフィン王都でフローラが単独で行動することはありえない。少なくとも数名の同僚と護衛の兵士くらいはついてくるだろうと言う話である。
まずはアデルがそのグループに接触し合言葉を投げかけてフローラを特定する。侍女たちは服装や髪型を統一している事が多く、知らない人間が伝聞だけで識別するのは難しいだろうという事だ。
次にフローラが特定できたらアデルはそれを素早く確保し、アンナの魔法で隠れてるネージュが護衛兵士を無力化。その後フローラのみを魔法袋に回収し、離脱。指定ポイントで待機しているアンナに改めて不可視の魔法を掛けて貰い、それぞれで店へ帰還すると言う内容だ。
「え?もしかして俺ら人攫いするんですか?」
作戦の内容を聞いたアデルとアンナが渋い顔をする。
「変装と護衛兵士以外の環境整備は完璧な物を約束するよ。」
レイラはさらりとそんな風に返す。
「護衛兵士は殺すの?」
「殺す必要はないが殺しても構わん。」
ネージュの問いにレイラはこちらもさらりと返す。
「むう。」
するとネージュが小さく唸った。ネージュとしては最初から殺すか生かすか決めておいてくれた方がやりやすいのだろう。それを察したレイラは小さくネージュに囁く。
「どちらにしろ死んでもらう。が、物取りや賊の犯行に見せかけるための工作をこちらでする。“余りに綺麗な暗殺”だと少し都合が悪い。」
「りょ。」
得心の言ったと言う表情でネージュが了解を示す。この辺りの割り切りの良さは竜人ならではのものなのかもしれない。
「……フローラ以外の侍女は?」
一方で二人のやり取りを見ていたアデルも同様に小声でレイラに尋ねた。
「どんな素性の奴が一緒についてくるかわからん。一目惚れでもしてどうしてもと言うなら持ち帰ってきても構わんが、基本騒がれない様に気絶させろ。死なせても構わん。命乞いをされて同行を許した後に騒がれると言うが一番悪い状況だ。」
こちらにも同様に囁くように小さく答えてくる。敵国とは言え、真っ当な職務に就いている兵士や侍女を町中で暗殺すると言うのはアデルには些か抵抗があった。アデルでこうなのだからアンナはもっとだろう。アンナが直接現場に立つわけではないが、アデルとレイラもその辺りを察した。
アデルはレイラの言葉に若干の違和を覚えながらも頷いた。アデルから見れば『同じ侍女』の命であるが、レイラたちには明確な線引きが成されている様だ。勿論、情報を回してもらう見返りにその身の安全の保証くらいはしているのであろうが。
こうして作戦の概要が提示され、それぞれの行動が始められた。
決行はおそらく明日の昼前辺りになるだろうと言う話であった。
戦争のドンパチ以上に精神を削る仕事になりそうである。




