騎馬と荷馬
直近のあらすじ
年末ボーナスすげぇ!→年が明けたよ→祭りだ!→
余興だ!大会だ!→なんとか優勝できたけど…… ← イマココ
余興、新人の部の優勝者が決まった後はまた6人で固まって総合の部を観戦しながらあれやこれやと武技の談義に花が咲いた。
ファイナリストのアデルとラウルには一応、参加してみるか?とのお声が掛かったのだが、心地よい勝負の余韻に浸りたいと2人共辞退した。
総合の部参加者は16人。全員が《戦士》で最大32、平均28レベルという内訳だった。
レベル自体はアデルとそんなに変わらなく見えるが、レベルは20以降はなかなか上がりづらく、20台後半となればかなりの実力者であると言う。王都に来る時のジョルト商会の護衛リーダーであるジョンが24だったのを考えれば実績も実力も推して知るべしと云うところだろう。
逆説的に言えば、それくらいの実績がないとアデル達もこれからは思う様にレベルが伸びないと言う事でもある。
ちなみに優勝賞品はテラリア大陸各国、特に8大国と呼ばれる8か国の内、何かしらの交流がある周辺6か国+コローナの銘酒が1樽ずつだそうだ。
純ミスリルのソードの方が高いんじゃないかと思ったが、総合の部に出るような者ともなるとそれなりの稼ぎはあるし、なによりすでに自分たちが使い慣れた“愛武器”を持っているので、今更新品の武器を用意してもあまり喜ばれないとのことだ。
それなら、冒険者にしてみれば入手が難しい他国の銘酒セットの方が大いに喜ばれるらしい。言われてみれば納得だ。
アデル達はこっそりと、誰が優勝するかを賭けてみたが的中させたのはラウルとネージュだった。まあ、アデルとブレーズは彼らと同じ対象が勝つと踏んだが、6人だけの賭けに同じ相手に掛けても仕方ないと敢えて他を選んだだけだったのだが。
そんな感じで“ブラーバ亭の新年祭”が滞りなく終わる頃には、アデル達とラウル達はすっかり打ち解けていた。
後にすり合わせた話しではあるが、アデル達が見たラウル達の第一印象、“ちゃらい・輩系”というイメージも、ラウル達が見たアデル達の第一印象“怪しい・胡散臭い”というイメージはそれぞれ綺麗に払拭された様である。
一夜明けた後、アデルはラウル達にお願いをして、馬上試合と言うものを見せてもらった。
ラウルとブレーズがそれに応え、彼らの模擬戦闘を見せてくれる。
どちらも騎乗槍とカイトシールドを構えほとんど手綱を使わずに馬を操って見せる。アデルとはその時点で明らかにレベルが違い過ぎた。それ以前に馬が違う。アデルのプルルが荷物運びを主とした小柄ながらがっしりとした力強い種であるのに対し、ラウル達の馬はまさに騎馬。背も高くスマートで正に走るための馬という感じだ。
彼らは互いに数合本気で打合うと、それまでと言う様に互いに離れて下馬する。
「こんなもんでいいか?流石にこの庭じゃちょっと狭すぎる。」
ラウルにそう言われると、アデルは感謝を述べる以外になかった。
「有難う。十分参考になったよ。うん。うちらには無理だと。」
アデルが苦笑いをすると、
「参考にって?あんたまさか騎士志望なのか?」
とブレーズに問われる。
「いや、違う違う。一応これでも《騎手:12》で、少し前に真似事する機会があってね……
やっぱり、素人のイメージと本物とじゃ色々違うということがよく判ったさ。」
先日のグランでの騎乗突撃を思い出しながらそう答える。
「《騎手:12》か。それなら基礎と手綱を使わないである程度の騎獣の動かし方を学べば十分に可能性は見えると思うが?」
「いや、もともとなる気はないから。敵に囲まれて緊急時にはもしかしたらと思ったけど……そんな半端な考えで挑むものでもないな。」
ブレーズにそう返す。
「ちなみに馬は?」
「あれだ。」
ジルベールに尋ねられると、ネージュが厩舎からプルルを連れて来ていた。
「おい……」
「うん。言わないでくれ。だから言っただろう。根本的に違うって……」
「この馬で真似事って?」
先ほどの言葉を遡ったのか、ブレーズが更に尋ねてくるのでアデルは先日の賊撃退の時の話を聞かせた。
「なるほどな。確かにその状況で賊の目を引き付けたいだけならその効果は大きかっただろうな。弓や長槍がいたなら危険だっただろうが。」
「それでも格下の賊とはいえ、一当てでそれならセンスは悪くないと思うが。」
「まあ、他の騎馬と一緒になったら、早さが違い過ぎて孤立した所に雑兵やら弓矢が飛んでくるだろうけど。」
ラウル、ブレーズ、ジルベールがそれぞれ意見を述べてくれる。
「でも折角だし見せてみてくれ。昨日の仕返しもしたいしな?」
そう言い訓練用の武具を持ち出したのはジルベールだ。
「仕返しって……でもまあ、うん。」
ジルベール促され、アデルはプルルに簡素な鞍を付け騎乗した。騎士になるつもりはないが、騎乗戦闘を諦めた訳ではない。先に述べたとおり、冒険者として活動する以上、あらゆるシチュエーションで仕事し、生き延びる手段はあるに越したことはないのだ。本来騎馬戦向けではない種であるプルルだが、それでも一定時間に限れば人間よりは速く長く走れる。囲みさえ突破できれば賊や歩兵相手なら十分振り切る事はできるのだ。
短槍と丸楯。先ほど見せられた騎乗槍と凧楯と比べると一回り以上貧相ではあるが様にはなる。
「はじめ!」
ラウルの合図のあと、ジルベールと相対するが、重心、手綱の使い方、馬の使い方。どれ一つとっても違う。ジルベールの短い突進のあとの突きは楯で受けてもその重さが違った。アデルは馬上でバランスを崩すとそこへジルベールの追撃が次々と押し寄せる。アデルは辛うじてそれらを弾く事は出来たがバランスはどんどん崩れていき、最後は圧力に負けて背中から転げそうになる。
「「「え?」」」
その瞬間、プルルが数歩下がってアデルの重心を適正な位置に持って来ると、アデルはなんとか馬上から落ちずにはすんだ。
「ウソだろ……」
呆れたのはジルベールだ。普通ならあれだけ背中を後に傾ければ転げ落ちる筈だがそれを馬の方が位置を調整して重心を支えたのである。
「騎手より騎馬の方が騎乗戦適性あるんじゃねーの?」
ラウルの呆れた声が聞こえたが、体勢を立て直したアデルは再突撃してジルベールに攻撃を仕掛けるが、今度は手加減なく馬から落されてしまった。
「随分と賢いというか器用な馬だな……」
ラウルがそう声を掛けながらアデルに手を伸ばす。
「俺より長生きだからな。」
「そりゃあ……大事にしろよ。」
「勿論。」
ラウルの手を借り立上ると、アデルは改めてプルルの首を撫でた。
その後、3日ほど彼らの合同訓練は続いた。
流石に馬を駆り出しての訓練は無理だったが、それぞれの基礎訓練の後に、1対1や2対3、4などの形で練習試合を行う。
勝率的には、1 on 1 では高い順に
ラウル≧アデル>ブレーズ≧ネージュ>ジルベールとなったが、パーティ戦の場合はほぼ互角と言える勝率に落ち付いた。
これはアデル達にもラウル達にも非常に大きな経験となった。特に今迄個々の力で相手をねじ伏せ続けて来ていたラウル達には連携の重要性を考え直させられる貴重なきっかけとなった。
序盤、普通に2対3だとラウル達が圧倒していたが、後半、アデル達が作戦を変え、戦闘の流れの中で瞬間的に2対1×3となるように動くと、狙われた1人はほぼ為す術もなく落されたためである。
これはアデルの間合いや呼吸、局地的な流れを読む戦術眼と牽制能力、それにネージュの暗殺者としての瞬間的な突破力がうまくかみ合った成果と言えた。この結果は、アデル達の作戦の一つの選択肢として大いに有効であると気付けたのだ。
そんな感じの訓練を午前に行い、午後は適当に遊びに行く。アデル達の訓練は新人その他問わず多くの冒険者が観察しており、その間に彼らはブラーバ亭の次期主力候補の2パーティという評価を得ることになっていた。
そして、所謂正月休みと呼ばれる期間が過ぎると、また以前の様に各種の依頼が舞い込むようになってくる。
ブラバドはアデル達に、今日のうちに旅の準備を整え、明日の朝にはブラバドのところに来るようにと命じた。
理由を尋ねると、ブラバドは笑って、
「輸送系の指名依頼だ。」
とだけ告げた。
(指名依頼?早速ナミさんあたりか?)
アデルはそう考えたが、そんなことはなかった。




