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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
南部混迷篇
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下準備

「準備期間は2週間だ。万全の準備を整えたら知らせに来い。それに合わせて南北2手に分けて行軍を開始する。北はアラン元帥に、南はバルヴェ大将に任せる予定だ。」

 会談の最後にレオナールが手前の2人の将を示しながらそう言う。なるほど、それゆえの面子か。そして先軍を任せられるこの2将はアデルらによる奇襲――殺さないつもりの暗殺計画に消極的であると。

「魔法袋は先に渡しておく。その中に準備金も入っている。一度覗いて確認してみると良い。また必要があればロゼールにあらゆるサポートをさせることも約束しよう。」

 確認しろというので、アデルは魔法袋を覗き込む。すると袋の口を入り口とした20メートル四方ほどの広い空間があり、その手前、少し手を伸ばせば届く所に金貨の詰まった箱が置かれていた。

 アデルは自分たちで一度周辺の偵察を行い、参加者を含む作戦素案を立て一度そちらの意見を伺い本格的な準備に入りたい答えるとレオナールやアラン元帥もそれ深く頷き会談を終えた。


 アデルはすぐにイスタへと戻ると、まずはパーティ――“冒険者組”を集めると、依頼の内容と受託の旨を伝えた。

 若干残念だったのは200万ゴルトと言う数字にピンと来る者がいなかったことだろうか。本来なら先ほどのアデルやオルタの様に目を丸くする話である筈なのだが、人族の社会生活がそれほど長くなく、また渉外その他をアデルに任せっぱなしのネージュやハンナ、長い事清貧生活に慣れていたアンナには伝えたところで『ふーん。』という返事しか来なかったのだ。

 ただ、『冒険者として最後になるかもしれないし、足抜けするには十分な金額である』ことを伝えると、アンナが少しだけ安堵の表情を浮かべたのが分かった。ハンナは恐らく意味が分かっておらず無反応、ネージュの方は意外にも冒険者というものにそれ程の思い入れは無い様だった。どうやら合法的に実力行使が出来ればいいらしいという反応に、アデルは納得と同時に心配を覚えると、隣でオルタが苦笑して、たまにレイラの所でガス抜きでもさせてもらえば両者喜ぶだろうと入れ知恵してくれた。


 最初に決めておかねばならないことが、誰を作戦に参加させるかだ。

 アデル・オルタ・ネージュ、それにブリュンヴィンドは直接攻撃部隊として確定。アンナとハンナ、そして他の面々をどうするかと言うところでアデルが最初にこの面子だけを集めた理由を告げた。

 ティアの存在だ。聞く限りの話からすると、元々はタルキーニの上級貴族、他の面々と同時にフロレンティナが確保或いは保護しようとした者達の一人である。この期に及んで直接の内通はないだろうが、何かしらの利敵行為を行わないという保証はない。

 一番簡単な処理が、他のタルキーニ人が捕縛或いは保護されているウィリデやカンセロのエドガーに預けることだったが、これには攫ってきたネージュが手下おもちゃとして気に入っているのか難色を示す。実際、ティアはなんだかんだ言いながらもネージュとオルタが調達してきた“日替わりメイド衣装”を身につけ、真面目に屋敷の維持管理やルーナやハンナへの家庭教師をこなしているのだ。

 結局のところ、“依頼の最終目的”は人前では口に出さず、『グラン解放に向けての大仕事』が入ったという体で話を進めて行こうということで落ち着く。戦力にならず、作戦の直接メンバーには入らないであろうユナにオルタがそれとなく『ティアの監視』を命ずるということで話はまとまった。


 次は各方面での情報収集だ。作戦地の偵察やフロレンティナの使う、或いは使う可能性のある魔法についての情報、フロレンティナの警護体制に関する情報などの収集だ。

 偵察に関しては聞いた話の内容からしてフロレンティナが常時その山に詰めている訳ではないと見ている。とはいえあの巨岩を上空数百メートルの所まで転移させる能力があるなら、自身や護衛をグランディアの王城から山の基地へと転移するくらいはできると見るのが妥当だろう。また、高位魔術師であるならシルヴィア同様、視覚だけでなく魔力で物を見ることができる可能性もある。その辺りの情報収集も別途行っておきたいところだ。ただ、大きな戦闘の直前に不必要な転移魔法を連発できるとも思わないので、その山基地にもある程度の部隊なり施設なりが置かれているだろうと当たりを付けた。

 最初からその山を目的に空から偵察を行えば向こうも何かを悟る可能性が高い。

 そこで偵察はネージュによる夜間偵察とアンナによる精霊ネットワークからの調査の2本柱で当たることにする。

 準備期間は2週間以内だ。今のうちにそれぞれ誰が何をできるかをリストアップし、骨格となるタイムテーブルを決めておく方が良いだろう。


 アデルは居間に移動し、残った者を含み全員を集めた。

 まずはたった今決めた通り『グランディア解放に向けての大仕事を受注してきた。』と伝える。ティアの反応のチェックはオルタに任せてあるので、アデルはそちらに意識を向けることなく、普段通りに屋敷組に説明を続ける。

 ルーナが詳細を聞きたいと言ってきたが、『今回は冒険者ギルドすら通さない慎重に慎重を期す事案で、ギリギリまで他者の耳に入れることは避けたい。この話自体を外に持ち出すことは一切禁止だ。』とアデルが言うと、ルーナはアンナをチラ見し、アンナが小さく首を横に振ったのを見て言葉をひっこめた。

「そんなことをして大丈夫なんですか?」

 そんなことを言ってきたのは意外にもユナだ。ユナが元々いたオーレリア連邦での冒険者と、それ以外の国――特にコローナやグラン、ドルケンの冒険者、そして冒険者ギルドの違いを直に理解しているせいなのだろうか?言外に『ギルドを蔑ろにして大丈夫なのか?』と言うニュアンスが聞いて取れた。

「事が終われば成否にかかわらず王宮からギルドに説明は行くことになっている。これは『とある一点を如何にこっそり突破するか』という内容でな。余り公にはできない案件らしいんだ。ただ、戦局を決める一手になりうる案件だ。十分に見合う報酬は約束されている。口約束じゃなくて王太子殿下のサイン入りの誓紙でな。冒険者として身体を張るのは最後になるかもしれん。」

 アデルの言葉にユナは一層不安げな表情を見せる。しかし言葉を発したのはユナでなくルーナだった。

「え?冒険者止めちゃうってこと?頑張って槍の稽古しているのに!?」

 ルーナが驚く。ルーナには託してきたペガサスの言葉通りに騎乗を意識した槍術を教えている。まずは一通り槍を振り、槍の持つ複数の機能――刺突、切り払い、叩きつけ、それに投擲などだ――や、他の武器と比べた時、対した時の利点や不利な点などをアデルとアンナで教えている。思いのほか飲み込みが早く、今なら多少のハンデをつければアンナやハンナとある程度打ち合うこともできる様になっている。体が未成熟故、(筋)力不足はどうしようもないが、槍の才能だけならアデルやハンナよりも上かもしれないと思えるほどだった。

「流石にペガサスもルーナを冒険者として生活させるために槍を教えろと言ったわけじゃないと思うが……」

 アデルはそう言いながら、いずれルーナがいないところでペガサスの本意を聞く必要があると感じた。

「むう。」

 ルーナがむくれて見せる。ちなみにユナとティアはオルタから剣の手ほどきを受けている。アデルとしてもあと3年――いや、2年も精進すれば、自分たちを含めてAランクに手が届き、Sランクも見えてくるのではないかと思える様になってきたのは事実だ。故にネージュが渋ると思っていたのだが、それ以上に残念がっているのがルーナである様だ。

「それなら参加させてください!」

 そう言うルーナにアデルは

「FやEランクの依頼なら問題ないだろうがな……これは成功すれば一攫千金だが失敗したら全滅の可能性どころか、更にコローナ軍の損害が膨れ上がるってやつなんだ。実戦経験が欲しいならどこかで余裕をもってサポートをできる現場を探す。今回はサポートに徹してくれ。」

 と、やんわりと前線参加を退けた。そこまで言われれば流石にルーナもそれ以上は言ってこない。



 結局、直接の作戦参加は冒険者組、それ以外は今まで通り裏方仕事をしてもらうことに決まった。

 外部からの助っ人考察も含め、まずは目標地点の下調べがないと話が進まないとアデルはネージュに指示を出した。

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