余興
直近のあらすじ
年末ボーナスすげぇ!→年が明けたよ→祭りだ!→
余興だ!大会だ! ← イマココ
店員たちが裏庭のテーブルの片づけを始めると、その時間にブラバドが裏庭に出てきて説明を始めた。
「参加は希望者だけで構わん。これより交流試合の様な物を行う。部門は新人の部と総合の部だ。新人の部は裏庭にいた者たちだけが参加可能だ。総合の部は誰でも出られるが……新人の部で勝ち上がれないようなやつらが出る幕はないと思え。まずは心得のある者は新人の部で勝って見せろ。
試合はトーナメント制。新人の部の優勝賞品は――なんと……」
ブラバドはそこで目一杯溜を作って賞品を明かす。
「この純ミスリル製の長剣だ。俺が知り合いの鍛冶屋に頼んで今日のために用意した。本来なら新人がとても手を出せるような代物じゃないぞ?」
ブラバドの言葉に裏庭に一番多くいたであろう戦士達から歓声が上がる。
ミスリルソード――鋼の上位素材と言われるミスリル鉱の加工品となれば、鉱山を持たないコローナでは相当高価な物の筈だ。ミスリルの剣なら、黒鉄や鋼を合わせた剣では何度打ち合っても刃こぼれ一つしないと言われる逸品だ。そして硬度もさることながら、魔力も通しやすいと言われている。魔力を通すことで装甲を切り裂きやすくなったり、火傷や凍傷などの追加効果を付与させたりといろんな効果があるらしい。
「準優勝になると、こちらのショートソードになるな。こちらも少々純度は落ちるが、ミスリル鉱80%以上という代物だ。そこら辺の剣相手に折れることはないだろう。繰り返すが参加は自由だ。腕に覚えのある者はこぞって前に出てこい!」
ブラバドがそう言うと、ラウル達は3人で互いに拳を突き合せあって前に出る。それを何とも羨ましそうに眺めながらブランシュが見送る。そして何食わぬ顔でネージュがそれについて行く。
「お前な……」
「ん?」
「いや、いい。だが、狙うはショートソードの方だぞ?」
アデルは他に聞こえない様にネージュに耳打ちする。
「ええぇぇぇ……?」
露骨に不満そうな表情を見せるネージュにアデルは言い聞かせる。
「俺たちは名より実だ。ショートソードならお前が使えるだろうし、使いにくかったら俺が槍の穂先に加工する。」
「……なるほど。長剣使いいないもんね……売るのも難だし、うーん。」
ネージュはすでに勝った気でいる様だが……アデルは他者の分析を始めた。
新人の部に名乗りを上げたのはアデル達を含めて18名。元々40人強の人数の内、町中故に攻撃魔法使用不可という内容に加え、賞品が武器であるため、参加者は全員、前衛技能持ちということになった。
見た感じ、過半数というか、ほぼ全員が戦士という感じだ。この場に拳闘士もいないことはない筈だが、賞品に魅力を感じなかったか、参加表明したものは2~3人だ。レベルは……普段の装備をしているわけでない為、実際に動きを見てみないとわからないが、レベル20を超える者は殆どいなさそうである。
組み合わせは番号くじで行われた。参加者18人を2ブロックのトーナメントに分ける。つまり運の悪い者は4名、1戦余分に戦う必要がでてくるが、この枠にネージュとジルベールが収まってしまった。
最初に登場するのはネージュだった。
相手はアデルよりも少し年上の男の《戦士》と言った様子だ。
相手は対戦相手として出てきた少女とも幼女ともつかぬネージュをみて、少々面食らった表情を浮かべている。それでもブラバドが止めずに参加を認めた者であるという認識があるのか、長めの木剣を正眼に構えて、試合の体裁を整える。恐らく普段の得物は両手剣なのだろう。参加者には全員、武器は普段自分が使っている物と長さや形状が似ている木製の訓練用の武器を貸与されていた。
ネージュにもショートソードとダガーを模した木剣が貸し出されたが、ネージュはそれを腰に差しその上からお気に入りのローブ――というよりも、パーカーに近い。というか素材以外ほぼパーカーといえるもの――を羽織り、動きの邪魔にならないように紐で腰のあたりで軽く縛っている。
最近のネージュのお気に入りはこのパーカーとホットパンツだ。今回はそれに二つのお団子頭。現代の日本人からは「違う、そうじゃない。」と突っ込みが入るかもしれないが、チャイナドレスなんてものはないので仕方ない。
とりあえず、これならぱっと見《拳闘士》にしか見えないだろう。知っている者から見れば子供騙しにもならないが、初見の相手にはそれなりの効果があるかもしれない。
「始め!」
ブラバドの合図と同時にネージュが駆け出した。多くの者の想像を余裕で超える早さであったが、戦士は冷静にその進路を見据え、真正面から剣を軽く突き出す。間合いを詰められるのを嫌ったか、牽制のつもりで軽く突き出したのを見て、ネージュはその軌道の未来予測をして軸を少しだけずらして一気に跳躍する。戦士が慌てて剣を戻そうとするが、その瞬間にはすでに戦士の手首を掴んで背負い投げの態勢に入っていた。
「な?」
戦士の体は綺麗に円弧を描き背中から地面に落ちる。もしこれが柔道であったなら間違いなく一本だっただろう。しかしこれは柔道の試合ではない。
「ヒャッ――ホゥ!」
ネージュは相手の背が地につく直前にはすでに手を離し、軽いバックステップから一歩踏み込むとそのまま得意の跳躍をする。そしてそのまま膝落としの態勢に入る。
投げつけられた戦士は投げの衝撃に息を乱され、気を取られたのか視線はすでにネージュを追っていない。そして、首を持ち上げ状況を確認した頃には……
そのまま鳩尾に高さ2m弱の所からの膝落としが鳩尾に決まる。戦士はもんどりを打つと、うずくまった姿勢で懸命に腹抱え、口を押えた。
食後まだ20分も経ってないもんね。仕方ないよね。
戦士は、衆人環視の前でのリバースをなんとかこらえきるが、結局試合は止められてしまった。ブラバドとしてもこの席で裏庭を汚されるのを嫌ったのだろう。出したら片付けなきゃならんもんね。シカタナイネ。
周囲は、ほぼ一瞬の出来事に理解が追いつかなかったが、勝負がつくとまばらな拍手が始まった。『奇襲が功を奏した。』新人冒険者の大半がそう思ったようだが、べテラン組はそうでもなかったようで、中の一人がブラバドに何か尋ねると、その答えに驚いた表情を見せ、興味深そうにネージュを見るのだった。
続いて、ジルベールの出番だ。
相手はロングソードとタワーシールドといった防御重視然とした戦士、ジルベールはロングソードを両手持ちというスタイルのようだ。アデルがラウルに尋ねると、「ここじゃ騎乗戦闘はできないからな。俗に云う決闘用の“剣”だよ。」と教えてくれる。つまり戦場用のスタイルとは違う用だ。3人とも野戦では馬上槍を用いるが、賊や妖魔の住処などの屋内や洞窟ではロングソードを扱うらしい。そして、流石は《騎士》である。決闘用の剣技と云う物もしっかりと修めているようだ。
ジルベールは最初こそ、楯に攻撃を阻まれうまくペースを掴めなかったようだったが、やがて相手の防御を崩し自分のペースに持っていくと、連続攻撃で初戦を突破した。《戦士》としてみるなら、やはりレベル20付近は固いだろうな。とアデルも思うのであった。
次にラウル、アデル、ブレーズと推定格下相手に難なく勝利を得る。
2回戦に入り、最初にアデルとブレーズが対戦することになった。
アデルはいつもの通り、片手槍とラウンドシールドのスタイル。ブレーズはジルベール同様のロングソード両手持ちのスタイルだ。アデルの持つラウンドシールドは取り回しが楽な反面、多くの戦士が持つタワーシールドやカイトシールドと比べると大きさが若干小さいためか、ブレーズは最初から攻勢をかけてくる。アデルは槍で牽制しながら慎重に防御を固め、そろそろ一度膠着するかという所で下段を払おうとする。剣同士の決闘ではあまり下段の払い攻撃は行われないのか、虚をつかれたブレーズが足を取られまいと思わず大きめのジャンプで回避してしまうが、そこをアデルが狙い済ましてフォロースルーキャンセルからの突きをブレーズの腹に加える。
「勝負あり!」
ブラバドの宣言に、ブレーズは息を整えなおしてまだ行けるという表情をしたが、ブラバドは軽装で食らえばそんなもんだよと取り合わずに次の試合を促した。
「むう。」
ブレーズは不服そうだがそれに従った。アデルが「運が良かったよ」と言って握手を求めたが、ブレーズはそれを拒否し、「いや、実戦ならそんなことは言ってられん。ここからは勝者が決まるまで敵同士だ。」
と告げ、ラウルたちの方へ戻っていくと何やら相談を始める。勝ち残った者用に対策を考えるのだろう。その辺りも見た目に寄らず真面目ではある。アデルは肩を竦めてネージュの元に戻るのであった。
試合はその後も順調に進んでいく。ラウルは相手をほぼ圧倒し、ジルベールもスロースターターぶりを思わせながらも無難に勝ち上がる。ネージュも2回戦は難なく突破するが、3回戦では手の内の一部を明かさざるを得なくなった。接近を許さない相手の猛攻に、左手のダガーで受け流しながら右手の短剣で相手の攻撃の隙間を突くというスタイルだ。組み合わせ上、次でネージュと当たるラウルはやはり他の2人と対策を考えるようだ。
そして次に準決勝としてアデルとジルベールが当たることになる。
ここまではどちらも防御中心でペースを掴んで勝ち上がってきている。とくにジルベールは後半になればなるほど動きの質が上がっていくように思えた。
(これに勝てば賞品確定なんだがなぁ。ガン攻めしてみるかね……)
この試合に勝てば、あちらのブロックの天辺であるラウルとネージュのどちらか勝った方との決勝戦となる。ラウルの試合もすべて見ていたが、本来のスタイルとは違うはずなのにレベルは相当に高い。単体特化とはいえ、相手の虚や死角を突くといういつもの暗殺者的な立ち回りは恐らく許してもらえないだろう。できれば、ここで余力と尽くしてでも勝っておきたいとアデルは考えた。
「はじめ!」
ブラバドの合図にまず両者睨みあう。短槍と長剣、リーチはアデルが若干有利、一撃の質量はジルベールに分があるといったところか。ブレーズ戦とその後を鑑みれば恐らく下段対策も何かしら考えてはいるであろう。
そんなことを考えている間に先手をとったのはジルベールだった。剣を上段に構え突進してくる。当然アデルは楯を構えその斬撃に供えるが、ジルベールはそれを見てとっさに上段攻撃から中段突きに切り替えてきた。これが他の駆け出しであったなら多少対応に時間を取られるだろうが、アデルにはしっかりと見えていた。ジルベールの攻撃ラインを確認し、敢えて一歩踏み込んで楯で弾くと同時にジルベールの脇腹を狙って槍を突き出す。勿論、これまでアデルの動きを見ていたであろうジルベールもそのカウンターは予測したのか、攻撃失敗を悟ると同時に一歩下がって回避する。
(さて……)
カウンター狙いばかりではジリ貧になる……アデルもそれは理解していた。これが普段の戦闘ならば、アデルがきっちりと守りを固め、相手の注意をきっちり引いていれば相手の首がこっそりと落ちてくれるのだが今回はそれが期待できない。
(槍は突くだけのものではない。盾は受けるだけのものではない……ね。)
アデルはかつて幼少期にきちっと武技を教えてくれた師の言を思い出す。
(楯は最近まで使ってなかったけど……こうなるとやっぱりタワ(ー)シ(ールド)の方がいいのかね……)
アデルは左手に力を込めると、猛然とダッシュした。
楯を前面に迫ってくるアデルに、ジルベールは“楯を弾く”か、“攻撃を避けるか”一瞬だけ悩んだものの、前者との結論を出し、剣を構え全力で振り下ろす。受け流すには困難な一撃で、恐らくは動きを止めざるを得なくなるだろう。そこへ素早く追撃する……と考えたのだが……
アデルはジルベールの渾身の一撃を受けるではなく、身体の軸をずらして回避すると楯でジルベールの側面を殴りつける。そのまま楯を投げ捨て両手で槍を持つと、上から全力で振り下ろした。若干体勢を崩されたジルベールは咄嗟にその振り下ろしを剣で受けようとするが、しなりを加えた槍の一撃は想定以上に重く、体勢を維持するために他の所に力と神経を注いでいた状態では受けきることが出来きず、思わず剣を手放してしまった。
剣が手から離れたところをアデルは見逃さずにそれを遠くへ蹴り飛ばす。
「勝負あり!」
ブラバドの宣言に、ラウルパーティ以外の全ての者から歓声が上がった。
アデルは自分の楯を拾いなおすと、
「勝者が決まるまで敵同士らしいからな。」
と、いって片手だけをあげ試合場を去った。
ジルベールは苦笑をして自分の剣を拾い上げるとラウルたちの方へ引き上げた。ブランシュが慌てた表情で治療を申し出るが、「大丈夫だよ。」と魔法は辞退した。
「さて……」
歓声が鳴りやまぬ中、それぞれのパーティが寄り集まっているところで、ネージュとラウルが同じ言葉を口にしたのだった。
予定ではもう次の依頼が決まる筈だったのに祭り&余興だけで3話もかかる不思議。




