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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
東部戦線編
242/373

2つの悪夢

少し空いた割に短いですが……

あとがき部分に細やかなお知らせがあるので、リアタイ勢は一番下まで目を通して頂けると幸いです。


 ユナは夢を見ていた。

 空から地上を見下ろしている夢。

 夢であると分かったのは、空にいるのに自分が翼を動かしていないからだ。その違和感はすぐに自分が夢の中を彷徨っているのだと理解する。

 地上で繰り広げられているのは、人と妖魔、蛮族たちとの戦いだ。


 その場に自分がいないかのように誰もこちらを――空を見ようとする者はいない。

 自分は何故ここにいるのか。落ち着いて地上を探すと、戦場の中で何度か見覚えのある姿を見つけた。

 遠目でもわかる。金髪のツンツン頭にバスタードソード。その剣は一度も抜かれておらず、その重そうな鉄の鞘を鈍器の如く振り回している。

 敵兵が雑兵の小鬼なら一瞬で数体が吹き飛ぶ。一回り大きな豚の様な奴が正面から打ち合うが、ほんの数合の攻防――両者ともに、防は回避一択の様だが――の末、金髪の少年が倍ほどの体躯を誇る化け物を簡単に屠る。

 しかし、その剣(鈍器)の大振りの隙に背後から、すばしっこい雑兵が忍び寄っているのが空から確認できた。

「――!?」

 自分を闇から救い出したその少年の名を叫ぶ。

 その瞬間、少年を守るように突き出された槍が難なくその小鬼を仕留める。

 槍を持っているのは、半人半馬の女性だ。少年とは対照的に金属鎧を上半身の人部に纏い振るう槍は周囲の小鬼を瞬く間に殲滅する。


 その時、自分以外は何もいない筈の空から何かが響く。

 声の様なそれは、言葉にはなってはいなかった。ただ、甲高い音だけが周囲の空間に次々と鳴り響いて行く。

 聞くに堪えない音である。しかしそれに抵抗すれば抵抗しようとするほど、胸の内から何かがやってくる。


 ――恐怖だ。


 その何かの正体を自分が掴んだと思った瞬間。地面が動き出す。

 違う……統率の取れていた人と妖魔が突如動きを変え、暴れ出すかのように周囲の如何、敵も味方もなく武器を振り回し、或いはその場を逃げようとする者達が大きな波となって“彼ら”を飲み込んだ。


 その瞬間、ふっと意識が途絶えたのが分かった。夢が終わる。


 夢の中を彷徨うのはこれが初めてではなかった。







 ルーナは夢を見ていた。

 高い場所から地表の広場を見下ろしている。

 自分の手は縄で後ろ手に拘束されていて自由に動かすことはできなかった。

 怖い。何となくそう感じると、後ろを振り返ることはできなかった。

 誰かの気配がある。

 顔を動かさず、視線を目一杯動かして周囲を探る。


 隣にいるのは……誰だろう?

 何となく見覚えのあるような女性たち。見たこともない豪奢な衣服を身に纏ってはいる。歳はバラバラで上は30代後半くらいから、下は自分よりも小さい少女まで、この場にいるのは自分を入れて5人。この時点で自分が彼女らと同様、豪奢だがとても軽い衣服を付けていたことに気付く。

 全員自分と同様に後ろ手に拘束されていて、背後に立つ兵士がその縄の先を持っている。


 見下ろす下は刑場だった。

 広場に設置されたギロチン。見るのは初めてだったが、それがどういう使い方をされるかは容易に想像がつく。


 引き立てられているのは――翼人の女性だ。

 まず目を引くのはその体だった。裸に剥かれた身体には無数の裂傷。恐らくは鞭で打たれたのだろうがあちらこちらに見て取れた。

 背中の白い翼は羽の半分以上が毟り取られ、その内側が見え隠れするが、やはり同様の傷がいくつも走っているのが見える。


 その翼人の髪は水色だった。

 なぜそれに気づかなかった!?

 私ははっとなってその翼人を凝視するが、“姉”である見知った女性ではない――その瞬間、不思議な安堵と不安が芽生える。


 刑主らしい女が何かを訴え、手を上げ合図をするとその翼人がギロチンへと引っ立てられる。その移動に移る瞬間、その翼人は手から小さな何かを取り出し――否、“姉”が何度か見せる魔法だ。氷のナイフを生成し、手首をまとめて縛る縄を切るとボロボロの翼でわずかに宙に浮きあがり、氷の槍を生成して頭上から官吏を突き殺すとそのまま空を滑る様に移動し刑主の腹部を狙う。

 護衛だろう3人が慌ててその進路を塞ぐと、翼人はそのうちの2人の腹を突いた時点で地に降りる。否、落ちたと言うべきか。ボロボロの翼では急な機動を維持できなかったのだろう。

 他の護衛達が剣を抜き構える瞬間、翼人は氷の槍を刑主に投げつけ、腹部を貫通させる。刑主が短い悲鳴を上げると、広場に集まっていた者達が歓声を上げる。広場にいるのは翼人の味方である様だった。

 だがしかし、次の瞬間、自ら武器を手放した翼人の身体にいくつもの護衛の剣が振り下ろされた。

 広場が静まり返る。


 いろんな緊張が走る中、刑主は自らの魔法で槍を消失させると、すぐに自分の傷を塞いだ。


 刑主が立ち上がり何かを叫ぶと、広場に集められた人たちが一目散に逃げだす。

 恐らくは無理に集められていたのだろう、逃げる人たちを兵士が次々と切り倒していく。

 その光景を見た瞬間、自分の中に謎の喪失感が広がっていくと、そこで意識が途切れた。


ただ今GWゴロゴロウィークに向けて、本作品と設定と一部キャラクターを共通させた

短編(予定)の用意をしています。

こちらの次話更新時には準備を済ませ次話のここにURLを貼れたらと思っています。

コンゴトモヨロシク。

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