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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
東部戦線編
227/373

歪む青写真①

 アデルは少し苛立っていた。

 この突然の解散にアデルは2つの“予定外”を一方的にもたらされた為である。


 1つ目は冒険者休業への布石がほぼ全て取り払われたことだ。

 今回の解散と“依頼”の変更によって当初予定していた、イスタでの店を出すための予算や交易に関する認可が一時保留――というか先行きが不透明になってしまったのである。

 当初はポールが持ち込んだ“密約”によってグランディア解放さえなされれば各方面と渡りをつけて、コローナ南東方面をベースとして3カ国を跨ぐ交易を始め、行商として地道に資本増強を図る予定だったが、結局グラン解放が先送り、密約の経過も不透明となっている。口約束の条文だけなら、このままエドガーか誰かと与してグランディア解放戦に参加すればよいのかもしれないが、それならそう伝えられる筈だ。今回の解散によりポールやロゼールらから密約部分に関する説明も保証も一切なされていない。


 2つ目の予定外は直近に関するものだ。

 留守居役兼家庭教師として迎える筈のリシアにそれが叶わなくなってしまったことだ。

 

 解散の宣言と同時に一足先にイスタへと戻ろうとしたアデルはリシアに会いに行ったのだが、数日ぶりに見たリシアがなんと元の姿に戻っていたのである。説明によるとロゼールによって“呪い”が解呪され、治療を受けた結果だと言う。そしてその見返りと言う訳ではないが、ロゼールの“魔女”の分析に協力をすることになったと言うのだ。

 相手が相手であるし、対価も対価であるため、多少やむを得ない部分も理解はできるが、先に約束、しかも数日の強行軍と無茶を含む“依頼”の報酬として取り付けた約束がアデルに何の相談もなしに反故にされてしまったのだ。アデルとしては当然納得がいかない。

 リシアとしては自身を負傷させ20年探した親友であるアニタの仇である可能性が極めて高いフロレンティナ打倒は強く望むところであろう。それも理解はできる。できるがしかし――

 アデルは抗議しようと思ったが止めた。

 リシアとしても当然アデルとの“依頼”という形の約束を反故にすることになってしまうことは懸念している筈だ。

 アデルとしても残念なことだったが、既に治療も行われそう言う話になった以上王族相手にごねる訳にもいくまい。フロレンティナ打倒はこちらも望む事だが――としたうえで、アデルはリシアに別の約束を取り付けた。

 一つ、グランの精霊ネットワークについてはアクセスしても他者には伏せておく事。

 一つ、ルーナとペガサス、湖の洞窟に関しては他言無用。

 一つ、解析が終わった後、改めて精霊魔法の基礎だけでもアデル達に教示すること。

 この3つを条件としてリシアの離脱、即ちイスタでのルーナ、アンナへの家庭教師の約束がすぐに果せれない事諾するとした。

 こちらの約束を1つでも反故にしたら『リシアとはそう言う人物である』と見なすと言うと、リシアはそれに黙ってうなずくのみだった。


 ロゼール本人との縁もレア中のレアではあったが、同時にミリア、カミラ、リシアとアデルが別の所で手繰り寄せた縁者が次々とロゼールらにより引き抜かれている。

 ネージュやアンナに手を出してくることはないとは思うが……ルーナやティアとは接点がないとは思うが……そもそもルーナはいずれグランへ戻す約束だが。

 当事者に他意はなかったとしても、それを国・公益の為と簡単にひっくり返させる力を持つ存在。


 アデルはカミーユが別れ際にくれた言葉を思い出しながら漠然とした不安を感じた。


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 カンセロからイスタへ向かう中で、ウィリデ・ヴェイナンツ男爵は少々苛立っていた。


 コローナやグランの軍民に良かれと思って敢行したカンセロ攻略が全く評価されないどころか、逆に自分の立場を下げてしまった為である。

 それは彼にとって同時に、自分に預けられたまま、魔女の破壊魔法によって命を奪われた兵士やその家族にとって、その一人一人の命が無駄死にとなってしまったと同義であった。

 勿論、長期的に見れば今回、敵の奥の手が発覚したことで、確実に今回の会戦よりも大規模な戦となるであろう最終決戦に無対策で挑み、より大量の兵の死を防げたということになるのではあるが、ウィリデとしては自分が預かった命が正当に評価されずに失われたということは自分にも、そして評価者にも最も許せない事案だ。


 テラリア皇国の騎士団長の一人として当たり前のように“消耗”してきた兵の命。それをおかしいと気付かせてくれたのは滞在先で率先して将兵の身の回りの世話をしてくれた、とある女性だ。

 女性は自分たちの村の者たちの生活と安全を取り返してくれるために来てくれた部隊と、細やかながらも心の篭ったもてなしと、滞在中の炊事や掃除、水の調達等を他の村人たちと共に無償で奉仕してくれた。

 しかしそれを将どころか兵士たちですらほとんどが『村人が皇軍に奉仕するのは当然』と考え、その元の暮らしや村の状況を鑑みることなく多少無理な要求をする。そのたびに彼女らは出来る限りのことをしてくれた。しかしほぼ無意識だろう、ほんの一瞬だけ困った表情を浮かべたのにウィリデは気づくことが出来た。そこでこっそりと村の生活環境、そして今回の討伐目標である蛮族による被害等を聞くと、それまでの自分と皇国に疑問を覚えていた。


 基本的にテラリア皇国の地方領は地方領主である貴族が治め、領の治安や民の生活に責任を持つ。しかしその領主――に限らず、多くの領主は税収・進物等自分への見返りが大きい都市や商人や、軍に対して貢献度の高い武家を優遇する。ウィリデもまた優遇された武人の一人であった。

 しかし、辺境に住まう民に対してはその生活を守るのではなく、治安維持の名目により大した見返りも見せずに徴兵し使い捨てる。彼女らの村はそうして若い男手を徴収され厳しい環境での生活を余儀なくされた上で、妖魔や蛮族の被害を受けていたのだ。妖魔が頻繁に略奪に現れる農村で尚且つ、兵士として丁度良い男手が連れていかれている中、彼女らも自衛のために剣を手に取り、妖魔に立ち向かっていたという。彼女らもまた武人であるのだ。で、あるなら自分や率いている兵たちは何なのだろう。勿論、相応の鍛錬に励んだ自分、正規の訓練を積んだ兵士とは個人の戦闘能力は違うだろう。しかしそれはそれが出来る環境があってこその物だ。辺境に生まれ、民として数えれられているかいるかすら怪しい彼女らは生活と身の安全を全て自分達で賄うしかない。ウィリデはそんなその女性の“強さ”に心を動かされ、更に見た目の好みも相まってその女性と1つの賭けをした。最初は約束をしたかったのだが、それは彼女に断られてしまった為だ。

「この討伐を終え、この周囲一帯の妖魔・蛮族を一掃し、平定された暁にはずっとそばにいて欲しい。」

 このウィリデの言葉に女性は驚いたが、ウィリデの目を見て二心がないと悟ると女性は困った顔で自分は狐人であると告白し、首を横に振った。だがそれで折れるウィリデではなかった。

「では、一つ賭けをしよう。平定を終え、3年以内にすべてを捨ててここに来ることが出来たら一緒になってくれるか?」

 ――できる筈がない。女性はそう考えた。数日の滞在の中、この男がこの部隊の中で一番上であることは分かっている。小隊長か中隊長か。だが皇軍の出世ルートにいる人間が、この国で民扱いされていない亜人の自分の為にそこまでする訳がない。そう思った女性はウィリデと自分を諦めさせるためにその“賭け”を受けた。


 結果、その女性は賭けに負けた。そしてその男が中隊長どころか騎士団長であったことを知るのは、賭けに負けてさらに半年した時であった。

 騎士団を辞め、女性の村に移り住んだウィリデに騎士や軍上層の者が何度も訪ね、復帰を要請しにきたのである。最終的には武力はあるものの、後ろ盾となる権力がないウィリデを半ば脅す様な形をとるようになってきたため村を移住することになってしまった。女性は“まさか騎士団長だったとは”と驚いたが、それが自分の為に全てを投げ打ってくれていたことに感謝し、生まれ育った村を出る決意をしてくれた。

 後に移住したさらに辺境の村で娘を授かることで、ついにウィリデは“1つの命”の存在の大きさを知ることが出来たのだ。例えそれが“亜人”とされる種族であってもだ。

 しかし、立場の弱い者達はさらに立場の弱い者を求め、立て、八つ当たりをしたがるものである。十数年苦楽を共にした、さほど大きくない村でさえそれは例外でないと悟った時、ウィリデは国を捨てる覚悟を決めた。


 コローナに来て亜人に対して“非人間”であるという扱いはなくなった。それでもテラリア歴を採用している大陸に於いて、テラリアの影響力は少なくないのだろう、やはり亜人に対する偏見を持つ者は少なからずいるものである。ウィリデはなるべく皇国から離れたコローナ西部に移り、そこで遅咲きの武人として働き、活躍して有力貴族の後見を得て今の地位を得ることが出来た。

 ささやかな領地とは言え、家族全員が貴族の一員として扱われるようになり、さらに男子を一人授かることになった。それを領民のほぼすべてがともに喜んでくれた。


 不幸中の幸いと言うのはいささか不謹慎であるかもしれないが、新たな自領でかつてより苦楽と生死を共にしてきた兵が“無駄死に”しなかったことは少しだけ喜べる点ではある。ウィリデはそう気持ちを切り替えようとしつつも、やはり敵と刃を交える隙すら与えられずに命を失った兵たちとその評価を思い憮然として馬を進める。


 かつて、狐人である娘と仲良くしてくれ、自分が野に降りて最初に槍を教えた少年。しかし結局家族の圧力に負け、娘を遠ざける様になった少年が、よりによって竜人の保護者となってその槍で自分達の窮地を救った。

 この事実にウィリデは苦笑とため息を漏らすのであった。



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 コローナ王国王太子、レオナール・ルイ・コローナは少し苛立っていた。

 自身が描いた大陸南部情勢の構想に大きくズレが生じてしまっていたためだ。


 当初、グランに対しては形ばかりの増援を送り様子を見つつ、グラマーのファントーニが焦れたタイミングで一気に増派し、そのままカンセロ周辺をコローナ軍で制圧、その後のグランとの交渉を優位に進め、カンセロ周辺の租借、あわよくば領土化を狙っていた。

 今のグランの情勢下でコローナが奪回したカンセロを一時的に預かると言う事は、西――フィンからの侵攻に対しても責任を負うと言う事だ。そうなれば王都を始め各地の復興に忙しいグランは期間と正当に取り戻す手段があるなら、住民たちの生活状況を鑑み、それを飲まざるを得なくなっていただろう。


 しかし、ウィリデが2000の兵にグランの義勇兵の1000を組み込んで一足先に勝手に攻略してしまった。ウィリデに与えた兵はほぼ新兵で、それが2000いたところで“門”の町の攻略は無理だろうと考えていたのだが、門を裏から攻めるという文字通りの裏技を用いそれを成し遂げてしまった。それもコローナの軍は半分、残りをグラン義勇軍の兵によってである。

 さらに自分の指示を逆手に取り、グラン義勇軍を立てるような言動を要所で行った。その為、カンセロをコローナの物とするのが難しくなってしまったのである。 

 コローナの立場は飽くまで“グラン解放”であり制圧ではない。その為、情勢が許さない限りはその支配地を広げる名目がなかなか得られにくい。


 そんな中で次善策よりも好転したと言える部分もある。

 トルリアーニの存在感が増したことにより、ファントーニの一存だけでグランの外交が決め難くなったということだ。

 レオナールがファントーニをグラン王国の後継とすぐに認めないのは思惑があった。

 一つは、グランの旧王家、王宮等の中央貴族が全て排除された状態で、『コローナがファントーニをグラン王国の正式な後継者』と認めてしまった場合、コローナにはない海軍戦力を背景にファントーニ単身で軍事のみならず、経済、交易等あらゆる対外政策を決められるようになる。それを先延ばしさせ、コローナに充分以上の条件を出させたのちに、ファントーニを認めるというつもりであった。

 それがトルリアーニが存在感を見せたことにより、ファントーニだけでは決めかねる状況が少なくとも今回の会談の場では作り上げられた。

 必要以上のことをしでかしたが、ウィリデに義勇軍の救援・救護の優先を命じたのは本来この為でもある。実際、カンセロを“与えた”ことでトルリアーニはレオナールらコローナの意思を無碍にできなくなっている。むしろ逆らえなくなったと言っても良いくらいだ。

 トルリアーニらにして見れば、コローナが“表”から手を引けば自分たちがすぐにファントーニらによって排除されることは明々白々である。その分、会談でまとまった“グラン復興が成される”までの間、自領ともいえるカンセロを東西に対抗しうる勢力に立て直さねばなならない。その間、コローナ・レオナールによるファントーニへの牽制は必要不可欠であるのだ。トルリアーニとしても見ても、レオナールがファントーニの娘を側妃として迎え入れている以上、機を見てファントーニをグラン王国に据えるつもりでいることは理解している。

 実際に、先の会談では期限付きとは言え、コローナによる港町の保持と開発の受け入れの賛成に回ったのだ。表の交渉の場で、コローナとグランの交渉は2対1に近い状況を作ることが出来た。


 それともう一つ、タルキーニ兵を丸々捕虜と出来たことは想定以上の結果であった。彼らをうまくもてなし懐柔することが出来れば、厳しい状況に置かれている旧3国を内部から崩せる可能性もある。そしてそれは

旧ブリーズ3国の“解放”に、戦力的にも、民意的にも大きな力となる筈だ。

 レオナールは当初の予定とは少し異なるが、改めて大陸南部の影響力を増やせるよう、軌道修正案を“第1旅団”こと、ジェラルダン元帥に送った。



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 コローナ王国東部。クロード・セバスチャン・エストリア辺境伯は焦っていた。

 自領北東部に拠点を築いていた蛮族軍が、ここ数日間でその数を倍以上にしているという報告を受けたためだ。

 しかも、集結しているのはここ数か月の敵とは明らかに異なる。

 ゴブリン、オークと言った妖魔を主体としながらも、その中に100騎ほどのケンタウロス。さらにそれらを統べるべく竜人が敵拠点内で活動しているというのだ。

 竜人の部隊は一度、自領出身である“勇者”らの力を使い撃退に成功した。その際、右腕を奪った報復として隻腕の竜人単体による攻撃を受け、町の防壁や設備に大きな損傷を受けた。

 その時も勇者らの働きにより撃退はされたが、勇者の仲間が拉致された後、勇者はその後行方不明だ。

 そんな中、別の竜人が北東の拠点に現れたという。しかもイスタの戦いで多くの将兵を恐れさせたケンタウロスが群れを率いてそれに従っているという。

 規模からしてエストリアへ攻めてくるのはそう遠くない未来であろう。


 大してエストリアは十分な防衛体制が整えられていない。

 然程多くない領兵に、3000程の国軍。その名目上のトップであった第3王子はグラン解放へと異動されてしまい、残っているのは少将クラスの武官1人だ。

 各方面の努力でなんとか関係を修復しつつある冒険者ギルドにも有力な冒険者らが集まりつつあるとされているがそれを自軍の戦力と数える訳にはいかない。

 すぐに王都へと敵の動きを知らせ王都とイスタへと応援を要請したが敵戦力に見合う戦力を割り当てられるかは不透明だ。

 ないとは信じたいが、最悪一度放棄させられた後、改めて自分以外の者を立ててエストリアをも直轄領とする可能性も否定できない。

 北の辺境伯は遠征の失敗を理由に首を挿げ替えられるという噂も届いている。

 自分はどこで何を間違ったのか。尻に火が付く中、エストリア辺境伯は町への損害よりも身の心配を優先するようになってしまっていた。



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 コローナ王国北部。アダン・ウィリベール・ノーキンス辺境伯は夢を見ていた。


 目の前に広がるのは小麦実る金色の大平原。

 振り返れば自らを首領と崇めるコローナ北部の数名の貴族。

 その背後には、統一された全身白銀の鎧を纏うその子息たち。

 アダンが頷くと彼らは膝を地につけ、自分を陛下と呼ぶ。

 その瞬間、抑えきれない感情と高揚が湧いてくる。

 自分が何かを叫んだ瞬間、視界が真っ暗に暗転した。



 目の前にあるのは自身の寝室。

 ここ数日、アダンは一人で寝室に籠っていた。

 自らが送り出した部隊が北方オーレリア白国で壊滅したという報を受けた後、彼は自室で塞ぎ込むようになっていた。

 派遣したのは先ほど夢に現れた北部地方の貴族の子息達。

 コローナの中でもエリート中のエリートの筈の彼らが何故――夢で見たまさに“夢心地”から一転、悔恨一色の気分に陥る。


 その瞬間、アダンは“自分だけしか入れない”部屋に何者かの気配を感じた。

 慌てて枕元の剣を右手に握り、左手で火の必要ない魔具ランプを翳す。

「久しぶりにぐっすり眠れたみたいね。いい夢は見れたかしら?」

 何度か見覚えのある女がそう呟く。女は限りなく全裸に近い半裸。煽情的な踊り子の衣装よりも更に面積の少ない衣装――とすら呼べない様な格好でこちらを見ていた。

「貴様っ!」

 女の顔には見覚えたあった。

 半年ほど前、寄り子の誰か――たしか、北部地域としては南寄りのフォルジェ家の当主だっただろうか?に紹介され、妾にした女だ。

 この寝室にも幾度となく招き入れたことはあったが、少なくともここ数週は他者の入室を認めたことはない。

「警護は何をしている!出合え!」

 アダンはそう叫んだ。しかし確かに叫んだ筈なのに周囲からの反応がない。否。己の声が音になっていなかったことに気付く。

「な、何をした?」

「私は何も?」

 女がにやりと嗤う。そう、嗤っただけだ。嗤っただけで口は動かしていない。それなのにはっきりと自分の耳、或いは脳にその声は認識されている。

「大陸――テラリアの歴史がいよいよ動く。でもあなたはそれを見届ける事が出来ない。」

 女が口を閉じたまま言う。アダンは全身から滝の様に汗が噴き出し、流れ落ちるのを感じた。

「おやすみなさい。良い夢を。」

 女が再度嗤うと周囲の“闇”が動き出した。

 立っていられないほどの倦怠感と眠気がアダンを襲う。

 意識が途切れる寸前、アダンは女のこめかみに山羊の角の様なものが張り付いていたことに気づく。女が振り返るとその一筋の紐だけの艶やかな背中には蝙蝠の様な皮膜の翼が生えていた。


 アダンの意識はそこで途切れると――


 再び意識を取り戻すことはなかった。



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