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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
邂逅編
22/373

雲行き

あらすじ


そうだ、王都行こう→熊うめぇ!→護衛依頼うめぇ!→護衛依頼受ける→バレた!?

→実はとっくにバレてた→魔石集めろ。さもなきゃキマイラ10体な。→

なんだ?何かがおかしい……気がする。→嵌められた!?→そんなことよりお湯は贅沢品→

人生最大級の買い物は他人任せ!→

UMAだ!天馬だ!聖獣だ!  ←イマココ

 その後、カイナン商事一行は一路コローナを目指した。

 往路終盤で覗かせていたナミの上機嫌な表情は完全に消えていた。それが伝わったのか隊商員たちの表情も悉く硬い。

(お偉方との商談がうまくいかなかったか?)

 とアデルは感じたが、勿論口にはしない。ただ、明らかに帰還を急いでいる様子は感じ取れた。プルルをリフレッシュさせたのは正解だったな。などと思いつつ隊商の最後尾に続く。

 急ぎたい、との理由で、アデル達の荷物もカイナン商事の荷馬車で運んでもらえることになった。こんなことならもっと欲張っても……などとは思ったが、とても口に出せる雰囲気ではない。

 そして、来る時の様に村々に立ち寄る事もなく、移動のペースも明らかに速い。実際、本格的な冬が近づくにつれ暗くなるのが早くなるが、往路では夜営準備を指示していた暗さになっても、薄暗い間は移動を続けていた。

 越境時も、往路のように何か荷物を下ろすということもなく、簡単な事務手続きのみで門を通過する。これは単純に、今の商会の荷物に彼らの足しになるような荷物がないからではあるが、それでもアデルは何かを読み取ろうとそれぞれの国境の兵士たちの様子を観察した。

 グラン側もコローナ側も兵の態度や様子には以前と大した差は見られなかった。グラン兵たちも、復路の荷物は自分たちとあまり関係がない事を理解しているのか、往路到着時のような表情はでないもの、淡々と業務をこなしている。コローナ側も相変わらずだ。紋切り型のお役所仕事とも言える。


 そしてアデルの疑問はどんどん膨れ上がり、ついに許容量(我慢の限界ともいう)を超えたところでアデルは質問をぶつけた。これは国境を越え、コローナ王国に入ってからも急ぎのペースが続いたため、隊員や護衛、馬の疲労もかなり溜まってきていたからである。

「随分と急ぐようですが、何かあったんですか?」

「ん?どうした?」

 アデルは浮かない顔をしているナミに尋ねた。今までなら、アデルなり誰かが近づくとかなり早い段階でそれに気付くナミだったが、心ここにあらずという状態か、アデルが近くで声をかけるまで気づかなかった様子だ。

「いえ、往路と比べるとペースが早すぎる気が。馬も人間も少々疲れている様な気が……」

「……そうだね。ちょっと無理させ過ぎたか。明日は少しゆっくり行こう。」

“何かあったのか?”という質問の答えは返ってこない。

「雪の心配をしてる訳でもないですよね?」

「ん?ああ、違う。ちょっとね……グランで――グランディアでちょっと厄介な事になったらしいんだ。」

「らしい?」

「あんたにゃ関係ないよ。」

「……そうですか。わかりました。」

『あんたにゃ関係ない』つまりは、余計な口を利くなと云う事だ。アデルが察して離れようとした時だ。

「グラン王国の王太子の婚約が破棄されたらしいんだ。詳しい経緯はわからないが……この破棄された娘がうちと懇意にさせてもらってる貴族の娘でね……」

「王宮の話ですか……なるほど。確かに俺には関係なさそうですね。で、急遽対策の為急いで戻りたいと。」

「ああ。それなりの実力者だからいきなり失脚する事はないと思うけど、政権内の風の流れが一気に変わった様だ。娘の方は濡れ衣だと言い張っているそうだが……詳細は聞こえてこない。」

 王宮のスキャンダルやら権力争いといったところだろうか。確かにアデルには関係なさそうだ。娘が濡れ衣というと謀略か何かあったのだろうか。

「地方がかなりカツカツだってのに、王都は平和そうですなぁ。」

 王宮――というか、領主や貴族と云うものにあまり良い印象を持っていないアデルは少々皮肉気に声を上げた。実際、地方の開拓村でその日暮らし……農村ならその年暮らしとでもいうべきか。に必死な人間にとって王侯貴族のスキャンダルなど何の飯の種にもならない話だ。もう少し大きな町や村で領主の顔色を気にしながら生活するようになるとまた別ではあるが、少なくともアデルには今まで無縁の話である。

「あんたね……まあ、その通りか。まあ、とにかく悪かった。ペースはもう少し気をつけるよ。」

「お願いします。」

「そう言えばあんた、随分と馬を心配しているようだね?」

「……本来の家族と言う意味では今となっては唯一ですしね。俺より長生きしてますし……」

「え?あんた歳いくつだよ?」

「16くらい?」

「くらいって……」

「碌に暦のない村で育ちましたので……」

「ああ、そうかい……なるほどね。で、最初の襲撃の時見てたが……戦馬ウォーホースは買わないのかい?」

「アリオンさん……ブラバドさんの昔の仲間ですけど、その人に無理するなと言われました。」

「騎士には興味ないのかい?」

「ないですね……学もそれほどないし、国の為に捨て駒になれと言われても無理っすね。況して東西南北、いつ戦争になってもおかしくないなんて話を聞いていると。」

「開拓村出身にしてはちょっとレベルが高い気がするけど……まあ今となってはそれもそうか。」

 アデルに町や国の知識、槍の手ほどきをしたのは隣家のおじさんだ。『獣人と駆け落ちした元騎士団長』という話を後になって聞いた。もし、隣人母子の獣人バレと出奔がなければアデルは騎乗戦闘も教えてもらえていたのかもしれない。が、それこそ今となってはの話だ。

「そういえば………天馬騎手ペガサスライダーとかっているんですかね?」

「はぁ?」

「いえ、実はグラマーで1日休んだ時に見かけまして。カッコいいというか、かわいいというか……いい性格しているというか……

あと、ここだけの話ですが、もしネージュと二人きりで長距離移動をするなら大いにアリなんじゃないかと。」

「はぁ……馬鹿いうんじゃないよ。ペガサスは大陸各国間の条約で保護されてるんだ。特にグランじゃ国旗にあしらわれているほどの、国を象徴とする聖獣として扱われている。乗ろうなんて馬鹿な真似……まさかしたんじゃないだろうね?」

「してませんしてません。流石にいきなりそれは……まあ、背中撫でてブラッシングしたら気に入ってくれたみたいだったのでもしかしたらと……保護されてるってのは聞いてたので……」

「ブラッシングって……直接触ったのかい?」

「え?ええ、そりゃあ、まあ。」

「…………慎重なのか大胆なのか……気が小さいのか、強いのか……ほんとにわからん奴だね、あんたは。」

(単純に無知なだけです。)もしプルルが人の言葉を話せるならきっとそう告げていただろう。

「え?随分と人懐こかったような……最後は自分で翼まで広げて羽根まで繕えと。流石いいご身分だと感心したんですが。」

「ペガサスなんて、人前で姿を見せること自体が稀だからね?寝ぼけてたんじゃないのかい?」

「いや、ネージュも一緒でしたし……羽根もほら……」

「……おいおい。まさか抜いたんじゃ……」

「羽を梳いたときに抜け落ちたのを拾ってきただけですよ?」

「ああ、そうかい……抜けた羽根を拾えただけで幸運が舞い込んでくるって話だ。直接貰えたならさぞご利益もあるだろう。大事にするんだね……」

 結局最後は呆れられたのである。



 その後、一行は若干ペースを下げたものの、往路とは比較にならない早さでコローナ王都まで帰還した。

 “冬”はもうすぐそこまで来ていた。 


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