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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
東部戦線編
218/373

会戦

 カンセロ北、約10キロメートルほどの地点で第2旅団――いや、連合軍と言うべきか。は、その日の動きを止めた。ここから東に向かえばオーヴェ平原、いわば分岐点である。

 日没までまだ少々時間が残っているが、距離的にもやや半端であり、またこちらの手の内を知らせないためにも敢えてこの場で行軍を止めることにしたのだ。

 カンセロ方面隊は、明日の日の出を前に行軍し、カンセロの東と北に展開、合図により同時攻撃を行う運びとなっている。

 グランディア方面隊も、日の出前には東進し、オーヴェ平原でグランディアからの部隊を迎え撃つ算段だ。


 カンセロ方面隊は改めて、2×4(-2)会議を行う。トルリアーニと副官、フラムとイリス、エドガーとアデルの6名だ。

 ネージュは図面のセルフコピーを持って、最終アップデートを行うためにカンセロへと飛んでいた。

 詳細はそのネージュの報告を待つことになったが、今のうちに戦略、連携などの確認を行う。

 攻撃開始の合図、北門が先に抜けた場合と東門が先に抜けた場合の次の動き、西門の敵が動いた場合など、戦況をいくつかのパターンに分けての確認をしていく。


 両陣営とも、自分たちが担当する門の方が先に抜けると考えている。グラン側は兵数と練度、そしてカンセロの知識と領地奪還に向ける士気の高さを根拠に。

 コローナ側は小回りの利く各部隊、そして“切り札”の存在を考えて。


 フラムが従えているヴェイナンツ家直参の部隊は、あのウィリデが手塩にかけて育て上げた精鋭中の精鋭だ。相手は妖魔が中心であったが集団戦の経験も充分である。

 更にコローナでは3組しかないSランクパーティの一角、白風ヴァンブランシュ。もともと西部、ウェストン領で共に活躍していたウィリデの隊と白風達だ。互いの実力は周知であり信頼感も強い。また今回集められた冒険者達もSランクという憧れの存在と戦場を共にできることに興奮気味の者は多い。

 エドガーの方も預けられた兵は若手中心で士気も高く、またエドガー自身も先のイスタ東の対蛮族戦において遊撃として野戦、砦戦ともに十分な活躍をしている。そして共に遊撃に参加しその脅威度を遺憾なく発揮した“不可視の強襲部隊”の存在もある。


 柵と石壁ではその防御能力は桁が違うが、逆に壁の向こうから直接矢に狙われることはない。また遠距離通しでの撃ち合いなら、こちらには人には真似のしようのない狙撃手もいる。

 更に幸いなことに、元々は西への守りを重視した商業都市だけあって東、北方面には投石器と言ったような長距離かつ破壊力のある大型設備は確認されていない。実際に現地を直接見た訳ではないが、エドガーもアデルもその手のわかりやすい存在をネージュが見落とすとは考えていない。

 アデルは既に“門の無力化”作戦を考え始めていた。最終的には自分の目で決める予定でいるが、少なくとも1つ、あわよくば2つの門を自分たちだけで無力化するプランを何通りか考え、そんな策がある旨をエドガーにだけ伝えていた。

 エドガーにだけ伝えたのは、過度な期待はするなと言い易いことに加え、他者には言ったところで信用されないと思ったためだ。カンセロ攻略の最大の難関である6つの門の内の1~2つを“無力化できる”と言って誰が信用できようかという話ではある。

 ならばこっそりやれば良いと言う話だが、その場合本当に出来てしまった時にかなりの好機を失うことになりかねない。軍対軍の戦に勝敗を付けるにはやはり軍は必要なのだ。仮に敵の大将を暗殺できたとしても、その後の敵兵の排除或いは無力化を完了するまでは戦勝とは言えない。

 なので、以前共に行動し、幾つかの“門”の強襲を知っているエドガーには事前にその場合の策を考えておくようにと伝えた。

 エドガーの方もその話を受け、アデルの提示した案の中でも最も高い効果をもたらす“プランA”の実現に向けて積極的に立ち回ってくれた。

 エドガーが行った、北門が先に抜けた場合の行動の大胆な提案に、トルリアーニ達は苦笑を、フラム達は一抹の不安げな表情を浮かべて聞いていた。



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 一夜明け、行動を開始した連合軍カンセロ方面隊の前に、大きな町が姿を見せた。

 規模はそれぞれの王都と比べれば小さいのものの、その構えは一端の城砦都市を思わせるに十分なものである。アデル達が良く知るイスタよりも2回りは大きそうだ。

 昨夜ネージュが持ち帰った情報は、守衛や弓兵の配置、都市内伝令のルート等の最新情報程度で、都市攻略としてそれほど大きなものはなかった。遠征し、奪って間もない都市である。一晩程度でその防衛施設を増設したなどと言う真似が出来る訳もなく、彼らは彼らなりの、既存の設備と兵力で取りうる最良の防衛配置を行っただけである。

 

 ネージュの最終偵察によると、敵の数は1000程度、それを北と東の門を中心に分けて配置している。こちらが軍を分ければ向こうも外門と内門の間で兵の移動を行うだろうという見立てだ。

 その情報の中に、弓兵以外に“対空”要素がない事に、アデルとエドガーはほくそ笑んだ。


 この時点、この地点からカンセロ方面隊は2手に分かれ、北・東門を目指す。

 ある程度攻撃の目途が付いたところでトルリアーニが合図の太鼓を叩き、戦闘開始となる運びだ。


 数の最終確認を終えた時点で、グラン軍1000が東、コローナ軍600弱が北へと向かう。

 おそらくは敵もそれに合わせた配分を中でしてくることだろう。  


 分割地点から門に近いコローナの部隊600が先に配置を終えた。そしてそれから十数分後にグランの部隊の攻撃準備が整うと、東門の方から大きな太鼓の音が聞こえだす。

 どうやら音が到着するのに2秒程を要する様だ。音が聞こえだした時、東門のグラン軍は比較的装備の厚い騎兵を先頭に突撃を仕掛けていた。

 2秒遅れでコローナ軍、エドガーの重装――と言うよりも、矢を意識した大楯部隊と言うべきだろうか。が門への接近を開始すると、残りの部隊もそれに続く。

 コローナの兵は殆どが歩兵であり、グラン軍の様な勢いはつかなかった。しかし確実に門へと接近すると、こちらの動きに合せて石壁の上に展開している敵弓兵がほぼ一斉に矢を番えるのが見える。


 前面に立ったエドガーの部隊が大盾を構え更に接近をすると、80メートルほどの位置から弓の斉射が始まる。まだ距離があり、牽制程度の矢の量であるが、無防備に近づけば確実に負傷者が出る斉射だ。

 だが、当然こちらもそれに怯んではいられない。

 そして敵弓隊が第2射の号令を発した数秒後――


 敵の弓隊に号令を出していた者の眉間に長めの矢が突き刺さっていた。

 遠目でも敵弓隊に数秒の動揺が広がっていくのが見えると、エドガーは一気に突撃の号令を下した。


 “門”の異名を持つ都市の大きな門を攻略する戦いが始まった。 


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