4つの戦場 ①
明けましておめでとうございます。本年も何卒御贔屓に。
年明け早々に恐縮ですが、過去部分の大きな訂正をば。
205部分に於いて、第2旅団の編成、数が間違っていたので修正しました。
×ウィリデ500(内フラム100)、ラグ400、ヴィクトル・エドガー各300 計2000(になってない)
〇ウィリデ900(内フラム200、傭兵、冒険者100)、ラグ500、ヴィクトル・エドガー各300、計2000となります。ご承知おきください。
アデルは兵士にグリフォンとその連れ(逆)が自分の仲間だと説明すると、ウィリデに呼んで良いか、或いは自分がこの場を離れて良いかを確認する。
ウィリデはここに呼ぶようにと指示を出すと、程なくして新しい装備に身を包んだオルタとハンナ、そしてブリュンヴィンドとユナが現われた。
「こ、これがグリフォンか……」
ブリュンヴィンドを初めて至近で見たラグが声を漏らす。
「まだ、生後1年未満の幼体ですがね。あと1~2年で成獣と同等の大きさになるそうです。」
アデルが説明する。しかしラグにそんな言葉は届いていない様だ。明らかにもふりたがっている。その辺は年相応の女性らしい。
「ゆっくり近づけば触っても暴れませんよ。殺気でも飛ばせば別ですが。」
アデルの言葉を許可と取ったのだろう。ラグは席を立ちあがると、まっすぐにブリュンヴィンドへ向かっていった。
「で?兄ちゃん……」
珍しく緩み切ったラグをよそにオルタが声を掛けてくる。
「あー、掻い摘んで説明するとだな……」
アデルはそう答え、本当に掻い摘んで状況を説明した。
軍の指令で南西のフィン補給部隊強襲と東の義勇軍の救援の2つを行いたいこと。さらに出来ればカンセルという要衝を押さえたいことなどをテーブル上の地図を借りて説明する。まずはその偵察をしたいのだが、その救援すべき義勇軍と言うのがベルトーニ派の旧グラン国軍であることなどだ。ただ、ファントーニやミリアと然程付き合いもなく、興味も薄いオルタには義勇軍の実態はどうでもいい事であった様だが。
「なるほど。で、まずは偵察?俺らはどっちに向かえばいいんだ?」
「カンセロの偵察かね。数と武装度……この時間だと警備体制くらいしかわからない気もするが。」
アデルはオルタにそう言いながらウィリデを見る。
「そうだな……」
ウィリデはアデルがオルタに説明をしているところを横で聞きながら、第三者の視点でその説明を一緒に反芻していた。その上で少し思案し答える。
「確かに夜襲を考えているわけではない。今日は今すぐ休んでくれ。明日の早朝からそれぞれ頼みたい。空からの偵察は何カ所いける?」
「今だと、基本的に2つですかね。安全な場所ならもう1つは行けるかもしれませんが。」
「となると、一つは南西、カンセロとタルキーニ軍の偵察、もう一つは義勇軍へのツナギだな。こっちはできればアデルに頼みたい。可能ならもう一つ、グランディアの動きの監視も頼みたいのだが。」
「……監視ですか。そうなると長時間そこにとどまる必要が出ますね。正規軍の斥候はどうなってるんですか?」
「勿論いるにはいるが、速度を考えるとな……」
「なるほど……」
そこでアデルは思案する。なるべくウィリデの要望に沿いたいが、仲間の休息や戦闘能力の低い、または低下している者の安全も出来る限り確保したい。そこで出た結論がオルタとヴリュンヴィンドが南西へ、アデル、ネージュ、アンナがまず義勇軍とのツナギを付け、そのままアンナが夕前までグランディアの監視を行う。その間に正規の斥候を確保してほしいと言う。
しかしウィリデは難しいと答える。半日程度ではグランディアに到着できる斥候がいないというのだ。馬を飛ばせば間に合うだろうが、敵に気付かれ処理される可能性が出ると。
アデルが監視の内容を尋ねると、グランディアから軍が動いた場合、そのタイミングと数、方向を伝えてほしいと言ってくる。それくらいなら精霊ネットで何とかなるかもしれない。それならリシアにお願いすればなんとかなるだろうと伝えた。
「《精霊使い》はそんなことまで出来るのか?」
と驚くウィリデやヴィクトルにアデルは《精霊使い》でなく、ペガサスの協力によるところが大きく、それに接触できるようになっただけだと答えた。
また、ペガサスからルーナを預かる折、ルーナに騎上槍術を教える様に乞われたと伝え、ウィリデにいずれ時間があるときにでも少し指導してほしいと伝えるとウィリデは少し思案した後に同意する。すると、それを聞いたヴィクトルやエドガー、ラグまでもがウィリデに一度手合わせと指導を乞いたいなどと言い出した。
ウィリデは思わず苦笑して『まずはフラムに勝ってからだな』と言うと、その場にいた全員が『ほう。』とつぶやく。フラムは与り知らぬ所で7騎のバトルマニアの挑戦を受けることになってしまった。
翌朝。
数時間前、7騎の武人の挑戦を受けることが決まっていたなどと全く知らされていないフラムはいつも通り日が昇る1時間くらい前に起き出し、イリスたちと共にアデル達のパーティその他を引き合わせた。
オルタは変わり果てたリシアの姿に驚きを見せながらも、身体を見舞い顛末を聞いた。最後にブリュンヴィンドに興味津々の様子のルーナを確認し、『これが新たな妹か……』と察したように尋ねた。
『一時期アンナの妹だったらしいぞ。』と答えるアデルに、ネージュが『即ちお兄の妹。』と付け加える。どうやらアンナさんの足抜けは認められていない様子だ。
そんなやり取りをアンナとフラムが少しムスっとした表情で、ルーナが興味津々という表情で眺めていた。その辺の話が済むとアデルはリシアに言う。
「イスタへ送るのはこの後になりそうです。出来れば時間があるときに“魔女の呪い”に関しては報告書的な物にまとめておいてもらえるとありがたいです。あとグランディアの監視ですね。大雑把な内容で良さそうですし、いけますかね?」
アデルの申し入れにリシアは少し間をおいて了承した。これならアンナを分ける必要はなさそうだ。アデルは昨夜決まったことをフラムやイリス、リシアに伝えると、オルタとブリュンヴィンド組、アデルとネージュ、アンナ組、リシア、ルーナ、ユナ、ハンナ組に別れ行動に移った。
最初に他者と接触したのはアデル達だ。いきなり“白竜”で接近・降下すると攻撃を受ける恐れがあるため、アンナに矢除けの魔法を掛けた後に接近してもらった。
森を移動中の義勇軍の兵士は突然、頭上から声を掛けられ驚いたが、流石にいきなりアンナに矢を射かけることはなかった。アンナが事情を説明し、後続が一旦足を止めた所でアデルの所に戻りアデルが着地できる場所を探して着地、書状をコローナのグラン救援軍第2旅団の長の物と説明しその部隊のリーダーに渡す。
リーダーはグラン王国軍少将のジョルジョ・ジェッダと名乗り、アデルの所属を尋ねてくる。
アデルが第2旅団の大将に直接雇われた冒険者だと説明するとジョルジョは少し眉間に皺を寄せる。ジョルジョは「コローナは伝令と言う重要な役割を冒険者に頼んでいるのか?」と尋ねてくると、アデルは大将のウィリデとは古くからの個人的な知り合いであり、伝令と言うよりは特殊な事情で大急ぎの時のメッセンジャーだと答えた。
「主な仕事は偵察ですがね。」と言うと不承不承も納得はしたようだ。実際、義勇軍の方も今は半分近くが民兵どころか、町を追い出され村を焼け出された者たちやフィンに恨みを持つ者、中には山賊あがりなど、軍の訓練など殆ど受けていないような者達である。
ジョルジョは念入りに封筒を確認した後、開封し書状を確認すると目の色を変えた。ジョルジョはすぐに伝令を呼ぶとその書状を持って誰かの所へ向かう様に指示をした。
「少将の上の方?」
ジョルジョはアデルの問いに『そうだ』と答え、グラン国軍の今のリーダーであるトルリアーニ大将へと繋ぐと言う。
「もしかしてその方の返事待ちになります?」
アデルがそう尋ねると、『当然だ』と返ってくる。書状の内容はアデルも知らされている。カンセロ攻略に義勇軍も一枚噛まないかという呼びかけだ。カンセロを攻略しグランディアへの兵站を奪えば“解放軍”にだけでかい顔をされずに済むようになる。軍の事情を知らされていない多くの国民はグラマーで海軍や正規軍の一部を取り込んだファントーニの軍をグラン王国軍と認識している。アデル達にとってもグラン国民にとっても、こちらの部隊は“義勇軍”なのである。“義勇軍”はグランディア陥落以降、戦果らしい戦果を上げていない。そこへ要衝カンセロへの“共同作戦”を提案すれば、可能な限り参加するだろうというのがウィリデの目論見である。他国の正規軍の援軍部隊と対等の立場で作戦を成功さえれば、改めて自分たちが“正規軍”として認められる、認められているということになるのだ。ただ、実際問題として義勇軍の機動力がどれほどのもので、それだけの兵員を参加させられるかは怪しい所であるが。
少し待つことになりそうなのでアデルは今のうちに各方面の情報収集に努めた。
まずは“義勇軍”についてだ。
彼らの部隊は今近くにいるのが2000、東へ逃れた者が1000程、その内何名かはグラマーに向かった者もいるようだ。現在の部隊の内、兵士等の軍経験者は6割ほど。残りの半数はまさに“義勇兵”である様だ。戦力的には厳しいものがあるが、逆に彼らのお陰で補給らしい補給を受けられなくても今まで何とか食いつなぐことが出来ていたという。採取、狩猟に長けた者もそれなりにいるらしい。しかし限界も近い。季節が秋から冬へと変わり、物資や食料が底をつきかけると、3か所ほど村ごと徴発せざるを得ない事態にまで陥っているという。すでに何カ所かフィン軍により略奪、全滅させられた村も出ているという情報も広がっていたため、村人たちは不本意ながらも軍への組み入れを受け入れた様だ。
次に昨晩の小競り合いのことも尋ねる。『それを知っているということは、昨晩の槍文は君たちか?』との答えに『そうだ。』と答え、グラマー・グランディアの偵察の帰りに偶々見かけたから一応警告だけ置いてきたと答えると、一応の感謝を示された。
ジョルジョの方もコローナ軍の数や動向を尋ねてきたのでアデルは知る範囲で答えた。
第1旅団3000、第2旅団2000、近くまで来ていて自分が所属しているのが第2旅団で第1旅団はまだレサド付近にいること。第2旅団はペースを上げ、今日中には国境を越え、明日の朝にはカンセロの攻略準備に入るだろうと伝える。第2旅団のトップを尋ねられた折、ウィリデ・ヴェイナンツだと答えると、ジョルジョは『聞いたことはない』と言う。『叩き上げと言うか、名誉生え抜きと言うか……“コローナではまだ”男爵だが腕は確かだ。』と伝えると、やはり眉を寄せる。
それ以外にもアデルはジョルジョに質問をぶつけていた。その中で特に気になったというか、居た堪れなくなったのがフロレンティナによる虐殺というか惨殺の話だった。
国王・王太子、その他の王子らや内務卿ラパロや新軍務卿ベルトーニらは捕らえられフィンに送られた後に処刑されたという。その辺りは敗戦国となったらさもありなんというところだったが、フロレンティナはそれ以外の貴族やその子女に対しても熾烈な粛清を行った様だ。当初、王妃や王太子妃、3人いた王女は全て『自決した』と発表されていたが実際は違う様だ。また王都に残っていたジョルジョの妻子もその凶刃に掛けられたという。『王族の生き残りは』との問いに、フィン王とフロレンティナに全員殺されたという答えが返ってきた。グラン王家は今のコローナ王家よりも10歳くらい若い王家だった様だ。王と王妃が40手前、1人いた側妃が30手前で、子は王太子が16、以下王子が14と9、王女が上から18、13、10歳だったという。その中にアンナの母、アニタを思わせるような情報は含まれていない。アデルは王太子妃の話を尋ねると、ミリアム・ファントーニとの婚約破棄の後、わずか3か月ほどでラパロ内務大臣の次女と結婚したという。ジョルジョは口に出さないが、その露骨すぎる婚姻に当時まだ多く残っていたファントーニ派の軍人が多数離反し或いは失脚させられる要因ともなった。ほぼ直前に不本意にも運命を大きく捻じ曲げられたミリアは果たして運が良いのか悪いのか。少なくとも良くはないか。
そうこうしている間に肩で息をする伝令が現れる。伝令が何かを言おうとするとその必要はないという様に一人の男がアデル達の所に現れる。その男を見た瞬間、ジョルジョが深く一礼をする。
状況的に話を聞く必要もない。この男が大将、文字通り国軍の大将であるトルリアーニ大将なのだろう。アデルは察すると、背中でネージュやアンナを押しながら数歩下がる。
トルリアーニはジョルジョに二言三言確認をすると、腕で示されたアデルへと向かう。
トルリアーニはアデルのことなど意に介しないと言わんばかりに質問をまくしたてる。
「この書状は本当にコローナ軍の大将の物だな?」
「コローナのグラン救援隊は2つの旅団に分かれています。そのうち、近くまで来ている方――第2旅団の大将からこちらの部隊に宛てたものになります。」
アデルは辛うじて“義勇軍”という言葉を飲み込んだ。
「証明出来るものは?」
「ヴェイナンツ様のサインだけになりますか。ヴェイナンツ様はグランでは全くの無名の様ですので大した保証にならないでしょうが……こちらの部隊の連絡員がうちの将官らと話をした後に戻った筈ですが、その方しかわからないかもしれません。」
アデルの言葉にトルリアーニは脇に控えた、伝令しそこなった伝令に視線を送ると、伝令は小さく頷く。どうやらこの伝令が連絡員を務めていた様だ。
その後もアデルに対して怒涛の質問攻めが続く。
第2旅団の状況、現在位置、この提案をした経緯、第1旅団の状況なのだ。
それに対しアデルは最後以外を正確に答える。第2旅団2000は現在グランとの国境付近おり、この時間にはカンセロへ向けて出発し、明日中にはカンセロを攻められる位置まで移動すること。この提案をした時点での第2旅団の優先目標は、フィンによって出撃したタルキーニの補給部隊の殲滅、可能なら物資の鹵獲、次にカンセロであること。グラン国軍の残存部隊、コローナでは便宜上“義勇軍”と呼ばれている部隊の救援がその次であることなどだ。提案の背景としては、カンセロとグラマーを押さえていればフィン軍の補給はほぼ封じられることを最大の理由とし、コローナ軍は“義勇軍”も“解放軍”も表面上は同一のものとして見ている事、そして歩みの遅いコローナ第1旅団に対する当てつけもある。とウィリデに言われた通りに伝える。
話を聞きながらトルリアーニはアデルの目を鋭い視線で見ていた。アデルは最後の、当てつけもあると言う部分で肩を竦めて見せた以外は正面からその視線を受け返した。
「わかった。この提案、規模は何とも言えないが、是が非でも受けさせて頂く。明日中には“戦える”部隊を合流させられる様に何とかしよう。そう伝えて頂きたい。」
トルリアーニは軽く頭を下げアデルにそう伝える。アデルは『承知いたしました。』と深めに頭を下げ、ネージュとアンナに『急いで戻るぞ』と伝える。
すると何を勘違いしたのか。いやわざとだろう。ネージュはアンナに視線を送ると頷きあう。アンナが素早くアデルが降ろしていた荷物を抱えると、ネージュがアデルの両脇に自分の両腕を挟み込む。
「え?」
すると有翼の妹達は共にその場で翼を広げ離陸を始める。
「ちょっ……待っ……ええぇぇぇ……」
困惑するも抵抗しないアデルをネージュがそのまま抱え上げ、アデル達はその場を離れた。
『ええぇぇぇぇ……』
トルリアーニとジョルジョもそんな表情で視界から消えていくメッセンジャーをしばし見送っていた。
昨年中にもう少し更新出来ると思ってましたが明けてしまいました。
FFTコラボに釣られて某ソシャゲに手を出したせいではないと信じたい。
対象がメリアドールだったら財布と時間がやばかった。




