2つの指令と2つの依頼
義勇軍からの連絡員の聴取を終えたウィリデとヴィクトルは互いの主張を越えて共に苦い顔をしていた。
義勇軍の実態はアデルの予測通りであり、事態の深刻さはアデルの予想を超えるものであった。
義勇軍の大半――主力は旧ベルトーニ派であり、グランディア放棄後、各方面へ散り散りになっている為、連絡系に多少の問題はあるものの指揮系統も健在であるという。
当のベルトーニ侯やラパロ公はフィン軍に捕縛され、すでにフィン本国へ護送されているが、義勇軍は自分たちこそ正規軍だという誇りがあるという。
ウィリデは先程自分でも言ったが、レオナールがこの状況を把握できていないとは思わない。レオナールの裏を極力汲み、それに沿えるように慎重に話を進めた。ちなみに、思いつきで余計な言葉や疑問をすぐ口に出しかねないラグには席を外してもらった。巻き込まれたエドガーには悪いがやはり正解だっただろう。ラグと同意見であるヴィクトルすらもそう考えていた。グラン軍内の対立は彼らの予想以上の物だったのだ。
ウィリデはまず、グラン正規軍(当時)と、フィン――フロレンティナ軍との戦いの様子を聞いた。
全てグラン軍視点からの話になるが、国境突破時こそ少し遅れをとったものの、その後のグラン西部の野戦はほぼ互角、数的にはグランが大きく優勢だったそうだ。フィンの動きはすでに察知しており、一度フィン軍の足を止めてしまえば後は国境沿いに広く展開している部隊と連携しフィン軍を包囲、中央を厚くし、その余剰の数で周囲を囲んで側面から削りつつ叩くという作戦は中盤まできっちりと機能していたそうだ。状況が変わったのは、敵本陣の突撃によるこちらの中央突破。兵の練度や士気はフィン軍の方が高く、それに加えてフロレンティナの強力、広範囲な爆発魔法の支援があり、爆発魔法で中央正面の重装部隊が崩壊すると、周囲の包囲が圧し潰すより先に中央を抜かれたという。
ウィリデはその爆発による負傷者の治療のことをさりげなく聞いたが、特におかしな点はなかったという。アデルの説明にあった“魔女の呪い”はなかった様だ。グランの治療班はスペックをやや上回る仕事をやってくれたと連絡員は述べる。
勿論、ウィリデもヴィクトルもアデルが黙ってガセの情報を掴まされているとは考えていない。呪い――すなわち、治療不可の原因は爆発魔法以外のどこかにある筈だと考えていた。一つ言えることは、その呪いは今の所野戦、その後の都市防衛には使われていないという事だ。
中央突破に成功した後のフィン軍は、そのままグラン軍両翼の内の片翼を食い破りその戦に勝つと、国境付近の3つの都市の攻略に時間を掛けたという。王都を含め焼き討ち等は行わず、ならず者集団と言われているフィン軍にあっては思いの外軍紀がしっかりしており、都市の軍を排除し制圧した後は市民にはほとんど手を出さず、1人1袋までの荷物の持ち出しを認め、そのまま王都へと逃がしたという。これが逆に王都の軍や物資の動きを鈍くする毒でもあったのだが、命のかかっている一般市民にはそれどころではない。
その後も連絡員は、ウィリデ達にはどうでもいい敗戦での武勇伝、所謂正規軍の善戦などを吹聴しながら、最終的にはフィン軍とファントーニ軍の批難に移る。
フロレンティナはグランの国王他、要職者をフィンに送ると同時に、王妃他多くの貴族の子女を捕らえ大粛清を行い、ファントーニはグラン東部に引き籠りそれを黙って見ていた。それどころかその混乱に乗じ、グラマーを乗っ取ってしまったなどと言い出す。
その辺の経緯は今必要な情報ではない。ウィリデ達が欲したのは、“魔女の呪い”に関する部分と、義勇軍の上層部の状況なのだ。
“魔女の呪い”を思わせたのは2点。王都攻防直前の野戦の騎士団長とその周辺、それと王城防衛の際の近衛騎士団達は懸命な治療団の看護が一切効果なかったらしいという伝聞だ。どうやらこの連絡員は王城及び王都の防衛戦には参加していない様であった。
義勇軍上部――という呼び方は、この連絡員は激しく嫌がったが――は、コローナの介入を機に北側で連携し、王都を奪還、コローナとの交易路の安定化をしつつ、軍内の統一を目指すという話だった。どうやら、コローナがフィンに直接介入したきっかけは知らない様であったのだ。
ウィリデはヴィクトルとも相談し、その直接介入のきっかけを連絡員に教えた。
ファントーニの娘とレオナール王太子の婚約である。
それを聞いた瞬間の連絡員の顔は酷いものだった。一瞬青ざめたかと思えば、次の瞬間には顔を真っ赤にして怒りだした。ファントーニ失脚のきっかけともなった、娘、ミリアムの醜聞を2人に聞かせ、ファントーニを恥知らずと罵り、終いにはフィン軍を王都に手引きしたのはファントーニではないのかと喚きだした。元々ファントーニはグラン西部を領地としていた。その西部の領民にならず者フィン軍が手を上げなかったのが何よりの証左だと言う。重症である。
ウィリデは、ミリアムの醜聞が捏造だった筈だと指摘し、コローナ王家でもミリアムの純血は確認している筈だと言う。哀しいかな、ミリアはグランに続きコローナでも辛い検査を受けさせられたようだ。
連絡員は捏造という言葉の部分に関して特に否定するでもなく、ただミリアムとファントーニを恥知らずだの売国奴だのと罵る。現状でミリアムへの批判、中傷はレオナールへのそれにつながるとも理解できずに。
ウィリデとヴィクトルは顔を顰めながらも、「“コローナ王国”は『まだ』ファントーニ侯をグラン“王国”の正統な後継者とは認めていない。」事と、「そのレオナール殿下のご意志で“極力”“義勇軍”の支援、救援を行うように指示を出されている。」と強く指摘し、「その上で今後の義勇軍の方針を問いたい。」と連絡員に伝えると同時に、「“コローナ軍”から、南西のフィンの補給部隊を叩くように“強く”指示されている」旨を伝え、さらに「今現在、グランディア北部の義勇軍に対し、小規模ながらフィン軍が夜襲を掛けている様だ。」と知らせる。
連絡員は『我々としてはファントーニの娘とコローナ王太子の婚約は確認していない』としながらも、この状況でウィリデ達が嘘を言う訳もないことも理解しているとし、自分では判断しかねるとの結論を出した。ウィリデとヴィクトルは互いに状況を整理しつつ相談し、まずは義勇軍の方針を確認したいとし、義勇軍の支援、救援の意志は充分にあるとしながらも、作戦や連携はそちらの方針が固まり、責任ある者が相談に来ない限りは、コローナ軍独自で判断、作戦を遂行すると連絡員に話を持ち帰るように指示を出した。連絡員は歯を食いしばるように険しい表情を浮かべ、自分たちの拠点へと早馬で戻っていった。
「決まりですね?」
連絡員が帰路に就いたのを確認し、ヴィクトルがウィリデに確認する。
ウィリデは一つ大きなため息をついたのち、「仕方あるまい。」とヴィクトルにうなずいた。
南西と東、相反する指令、どちらも単体なら十分可能な指令にウィリデはさらに頭を悩ませた。
ウィリデが2つの指令に頭を悩ませている中、アデルは2つの依頼の為に速やかに、思いつく限りの最大の効率で行動を進めていた。
ユナにイスタへの伝令を頼むと、自分たちはすぐに湖へと取って返す。
全速力で1時間とかからず湖に到着すると、リシアに依頼を受諾できる旨を伝えた。
リシアはあまり表情を変えずに脇のペガサスに伝えると少し安堵した表情を浮かべる。どうやらリシアとしては、大して付き合いのない村長の娘よりも、不治の負傷をしてまでも自分を助けてくれたペガサスの方を心配している様だ。
リシアが依頼の詳細――今となっては遺跡の正確な場所だけだが――を伝える。
どうやら先ほどのフィン軍の向かう先の森に遺跡がある様だ。先程のフィン軍の規模から考えると、義勇軍への奇襲と言うよりは、義勇軍の目を避けて遺跡を捜索するための隊だったのかもしれない。と、なると義勇軍とフィン軍は遭遇戦となる可能性もある。もし遭遇戦が起これば、結果として義勇軍を利用する形となるため、アデルは少し義勇軍に悪い事をしたかな?などと内心で考えた。勿論、後に連絡員のミリアへの発言聞き一瞬で吹き飛ぶものではあったが。
だが、そうなるとそこまで狙われるルーナと言う存在も気になってくる。村の財産や女性たちの為にほとんど躊躇なくアンナを山賊に売り飛ばした村長の娘。山賊にしてみれば、滅ぼしてしまえば総取りだったものを翼人の小娘一人で妥協した理由も謎ではあった。結果として悪くない方に転がったが、1人、人身御供的に売られたアンナの気持ちを考えれば、大人しいとは言えアンナの内心も穏やかではないだろう。
アデルは何故ルーナが狙われるのか尋ねると、リシアはその答えを持っていない様だ。
ペガサスの説明によると『長が適合者の可能性が高いと言っていた。』との事だが、何に適合しているのかはペガサスたちも知らないらしい。だが、それは救出すれば分かる話であるし、少なくともそれがあるとフロレンティナの都合の悪い物であることも確かなようだ。
アデルは改めて遺跡の探し方、合流の仕方などを確認する。
ペガサス同士での連絡は取れている様なので、具体的な時間帯と合言葉を決め、風の精霊にやり取りをさせれば問題ないだろうと言う。伝令をユナに頼み、アンナをこちらに連れてきたのは結果として大きい様だ。
話を聞けば、とりあえず先のローザに雇われた時の遺跡探索の様なダンジョン攻略をする必要はなさそうではある。
今の所、フィン軍の到来はないようだが、アデルは先のフィン軍が捜索隊である可能性を考えると、なるべく早く動いた方が良いと判断した。恐らくは義勇軍と交戦しているだろうが。
アデルはネージュの状態を確認する。まだ深夜と言う時間ではないはずだが、昼から長距離移動と竜化を繰り返している。体力や魔力の消耗が気になったのだ。
「……問題ないし、色々早い方が都合が良さそうだし?」
ネージュは心配ないと言うが、アデルは入念に体調の異常を確認する。本人の心配もあるが、土壇場に来て魔力切れか何かで竜化出来なくなる可能性も心配しているのだ。そしてアデルもネージュも、竜化のデメリットをまだ把握できていない。生活し易さもあるのだろうが、竜人が常に竜化していない理由は何かしらある筈だと考えている。が、
「んー。少し眠いくらい?でもまあ、いきなり動けなくなったりとか言うのはなさそう?」
急ぎたい状況で、本人が行けるというのであればそれを強引に止める理由は少ない。アデル達は先程フィン軍がその森へ向けて行軍している事を伝え、すぐに向かうことにした。また、その行軍をペガサス同士の連絡で伝えてもらいたいと告げる。リシア経由でペガサスはすぐに伝えると言うと、合言葉を決めてほしいと言う。
「“アンジェリナが来た。”で。」
ネージュがそう言うと、リシア達はきょとんとしたが、アンナが乾いた、引き攣った笑みを浮かべている。
「まあ、それで行きましょう。」
急いでいたか、思いつかなかったか、アデルも安易に同意をして決定となるが、それが後々に響くとはこの時彼らは思ってもみなかった。
かくして、ルーナ救出作戦は幕を上げた。
グランディア北北東、目標地点周辺に到着するとすぐに火の手が上がっている事に気が付く。
念の為高度を上げて偵察するに、燃えているのは義勇軍の拠点であった。ただ、最初にアデル達が見つけ、警告文を投下した拠点ではない。それよりやや北東にあった、最後に見つけた3つ目の拠点だ。
拠点には双方の兵士たちが多数倒れており、この場で激しい戦闘があった事を物語っている。だが、今拠点の中で追い詰められているのはどうやらフィン軍の方であるようだ。
アデルの警告が効いたかはわからないが、周囲を完全に義勇軍と思しき部隊が包囲し弓で攻撃を掛けている。義勇軍が森に陣取っている為、暗視や火の灯りがあってもその正確な数はわからないが、少なくともいまのフィン軍よりは多そうだ。フィン軍は最初の交戦と続く包囲戦のせいで数を半分以下にまで減らしている。尤もこれは先に目撃した700が全てこの場で交戦しているとするなら――の話であるが。
先の天幕で義勇軍救援の指示があるという話を聞いていたアンナがどうするかと尋ねてきたが、アデルは首を横に振り、自分たちの仕事を優先すると伝え、更に目的地へと近づく。
リシアに指示されていた地点と思しき場所で手筈通りにアンナに頼み、風の精霊での交信を試みる。
事前に到着予定時刻を伝えてあったため向こうも待機していたのだろう。ほんの数分後に不意に下からのつむじ風が巻き起こるとネージュが少し煽られるように右上へと流されたが大きくバランスを崩すこともなくやり過ごす。すると、ペガサスの魔力を分け与えられたか、向こう側の風の精霊がうっすらと実体化する。
「誰にも見つからない様に注意してほしいそうです。」
アデルは不思議――やや不審に思いながらも了承し、アンナに“不可視”の魔法の行使と説明を頼む。
アンナはまず風の精霊に不可視の説明をして、ネージュ、アデルの順に魔法を掛け、最後に何かをやりとりする。
「精霊は魔力が見えるので、こちらの姿が消えることは問題ないそうです。ゆっくり移動するのでついてくるようにと。」
アンナがネージュに向けてそう説明をすると、自分にも不可視の術を掛けた。
風の精霊が、念のためか少し実体の密度を上げて先導する。低速で10分程移動をすると、山の斜面にぽっかりと空いた風穴、アデルとネージュが最初の依頼として受けたゴブリンの巣穴の様な風穴へと到着した。
周囲の気配を確認して着陸をすると、“ネージュから降りる”という、他者に干渉する能動的な動作の為か、不可視の術が解ける。アデルはすぐに風穴へと飛び込んだ。
次にアンナも同様にし、最後にネージュが竜化を解いて続く。今回、ユナに貸したため、アンナの視野に影響が出たため、精霊と相談したうえで、ある程度風穴に入った所で光の魔法を使った。
精霊の誘導に従い進むと、土壁を模した隠し扉を潜る。するとそこには風穴とは別光景が広がっていた。
前に見た物と同様の“遺跡”だ。
精度の高い直方体に切り出された石を積み重ねて建造されたであろう遺跡。精霊の先導のまま少し進んでいくと、人工的に作られたであろう泉――もはや地底湖と言っても差障りないと言える大きさの水場に出た。水と陸(石)の配置が何となく先程見た湖の洞窟の奥に似ている。
そこに二つの気配がこちらに気づき、その内の片方が駆け寄ってきた。前情報通りのネージュと同じくらいの年の少女だ。
少女は光を発していたアンナの顔を見てかなり驚いていたようだが、アンナが静かにうなずき、救援に来たと告げると、安心した表情でアンナの胸に飛び込んだ。
アデルはその様子を無言で見つめ、アンナに視線を送るとアンナは静かに頷く。ルーナと見て間違いなさそうだ。そうなると……
もう一つの気配に向き直る。ペガサスだ。それもただのペガサスではない。一角獣を思わせる、頭に真っ直ぐな長い角を持つペガサスだった。
アデル達はペガサスに近寄る。聞きたいことはたくさんがったが、アデルはアンナに一言だけ通訳を頼んだ。
「ここでの用事は済んでいるのか聞いてくれ。」
「……ルーナの件は終わっている様ですが、折角来たのだから水浴びくらいしていけ……と。」
「水浴び?何かあるのか?」
「……水の精霊の加護、炎の魔法に対する耐性と回復力が少し上がるとか。四半刻くらいどっぷり浸かっていけば、だそうですが。」
「ほほう。」
話を聞いたネージュがそのまま飛び込む。ペガサス含め、一同面食らったがネージュの衣服はただの幻であると思い至り、確かに何の問題もないと諦める。ただ、勢いよく飛び込んだものの、ネージュの表情は険しい。
「……冷たい。」
「……そりゃ温泉だとは誰も一言も言ってないしな……」
アデルは呆れるようにつぶやいた。
衣服を全て脱ぎ、15分くらい浸かりながら顔や頭も万遍なく浸せという一角ペガサスの指示通り、アデル――と、結局アンナも――は服を全て脱ぎ、途中何度か水中に潜りながらペガサスから話を聞いた。
最初は別々、或いは離れて水浴びをと思った2人だったが、とれる時間の少なさとペガサスからの事情聴取の事を考え、それほど離れない位置で同時に浸かることにした。当初は目を背けるかと思ったルーナはアデルとアンナの身体を見比べ、興味津々とガン見していたのは御愛嬌と言うかなんというか。
アデルとしてはアンナの裸体は、流石に全裸は例外だが、それなりに目にする事はある。最近は年相応の体つきになっているのも確認済みだ。同年代の女子と比べると、やや筋肉質と言った感じだが、それは冒険者を生業としている以上仕方のないことだろう。特に背中から腰回り、胴回りは引き締まりは有名芸術家の彫像にも一切引けを取らない。一応後衛職であるのだが、仕方がない物は仕方がない。ちなみに、不可視の魔法を掛けるとか、ネージュの幻装を借りると言う発想は誰も思いつかなかったらしい。
閑話休題。首まで水に浸かりながらアデルはまずここに来た理由を尋ねた。勿論アンナと精霊を介してになるが。
一角ペガサスによるとここに来た理由と何をしていたかは『現時点では答えられない。』という。思わせぶりだが幻獣がこう言う以上無理に聞き出すことは難しそうだ。ただその代わりに2つの約束と、新たにもう1つの依頼をして寄越す。
約束の内の1つは元々の依頼の報酬であった『グラン領内での情報収集の支援』である。伝聞による情報収集なので実際に目にするよりも精度は落ちるだろうが、グラン領内であれば、森の中でも水の中でも可能な限り応じるというものだ。水の中の需要は謎だが、コローナと比べても森の多いグラン内ではかなり有用な話だろう。
2つ目はグラン内に於ける精霊を介した連絡のやり取りである。風か水の精霊を呼び出し、精霊語によって離れていた位置にいても若干のタイムラグで連絡のやり取りが出来る。その為のいわゆるネットワークのアクセス権をアデルとペガサスが認める者に与えると言う物だ。ただし、精霊語は自分で勉強し、認証には一度ペガサスの元を訪れ認めてもらう必要があるとのことだ。
しかし、無線も電話のないこの大陸でグラン国内限定とはいえ、それに近い物が使えるというのは今後かなり大きい。しかも、アクセス権はグラン解放後も有効と言うのだから破格である。但し、当然ペガサスたちにも筒抜けになるのは致し方のない部分である。
そして、この時のパスワード、即ち合言葉が――
「アンジェリナが来た。」→「アンジェリナとは?」→「空色の翼人。」となったのはネージュの悪ノリと圧しの弱いアンナとアデルのせいである。
そして追加の依頼だ。半分は予想内、半分は予想外といったところだろうか。ルーナの保護である。やはり村はすでに残っておらず、村長含め住人はすでにこの世にいないだろうと言う。少し意外だったのはその保護期間の条件だった。期間は約2年、ルーナが成人するまで後見人となってほしいと言う物だった。出来ることなら騎乗槍を教えてやって欲しいとも言う。報酬は先払いと後払いに分け、先払いとしてまずは、ネージュを除くアデル達全員にグランの水の精霊との契約の仲介、ネージュには風の精霊との契約の仲介をすると言うものだ。これは湖に到着次第、すぐに実行するという。
後払いの具体的な明示はなかったが、ルーナが成人した後に湖を訪ねてきた時、ルーナと今ここにいる全員に見合った武具を用意すると言う。
その頃まで冒険者やってるかわからないんだけどな。とアデルは思ったが、幻獣が用意してくれる、見合う武器と言うものが大いに気になった。当然だが、ネージュも興味津々と言う表情を浮かべる。そして言う。
「足抜けしたアンナに変わりこれからはお兄をお兄様と呼ぶと言い。」
「「足抜けって……」」」
アデルとアンナが思わず口を揃えたが……
一人卒業したと思ったらまた一人、新入生が入ってくる様だ。




