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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
邂逅編
21/373

休日

そうだ、王都行こう→熊うめぇ!→護衛依頼うめぇ!→護衛依頼受ける→バレた!?

→実はとっくにバレてた→魔石集めろ。さもなきゃキマイラ10体な。→

なんだ?何かがおかしい……気がする。→嵌められた!?→そんなことよりお湯は贅沢品→

人生最大級の買い物は他人任せ! ←今ココ


 5000ゴルトと言う、人生で最大の買い物をしたアデルは台車を押してカイナン商事グラマー倉庫に帰着した。

 途中、台車の荷物に興味深めな視線を何度か受けたが、フードを目深に被ったネージュが即座にその視線と荷物を遮る様に塞いだ為か、手出しをしようとする者は現れなかった。

 到着して割り当てられた部屋に戻る。先日の応接部屋とはいかず、今回は普通の宿と大差ない部屋に入る。

「さて、これがいくらに化けるのかね……」

「減ったら商人はすっぱり諦めた方がいいよね。」

「だなぁ。もともとそのつもりはないが……」

「任せちゃってよかったの?」

「どうせ相場も判らんし……まあ、店頭表示価格と見比べながら買ってみても良かったんだけどな。せっかくだし任せてみた。」

「面倒なだけだったんじゃ?」

「まあ……うん。やっぱり商人は無理だな。」

 店でのやり取りを思い出しやはり細かい計算や管理は無理だなと思うアデルであった。



 翌日、荷物は商会が預かってくれるということなので、アデルはネージュと共にプルルを駆って町の外に出た。ナミの言う通り、コローナの冒険者ギルドカードがあれば簡単な質問で門の行き来は出来るようだ。尤も、出る時は大した荷物さえなければチェックらしいチェックはないようであるが。

 まずは、昨日の朝通った丘に上がる。

 そこで改めて海の広さを感じる。昨日あれほど大きいと思った港と船が風呂桶に浮かぶ笹船のように見える。さらに広い外洋に出るとその形すらわからない大きさになる。

 勿論この場所からは波が見えることはない。ただ、光が海面を乱反射しキラキラとまぶしく光っている様子は、静かであり穏やかな印象を受ける。この向こうで海軍やら海賊船やらがこの広い海の派遣を争って戦っている様子は想像しがたい。

 この後、かなりの時間をこの町で過ごすことになるのだが、まだそれを知らないアデル達はこの驚きの光景をしっかりと目に焼き付けておこうとしばし2人で眺めて過ごす。

 そのうち、ネージュが森の方を指さして声をあげる。

「何……あれ?……馬?」

 指の先を視線で追うと、馬が森へと“降りて行く”姿を目にとまる。

天馬ペガサス?実在するんだな……」

 その存在は噂に聞いている。そしてどういうものかもちらっとブラバドに聞いている。『保護対象だから手を出すなよ』である。

「見るくらいならいいのかね?」

 周囲に人の姿が見えないところで、ネージュが飛びたそうにしているが、いつ誰に見られるかわからないと嗜め、2人でプルルに跨り見えた方角へ走らせる。

「裏目だったか……」

 森に入ってみて、アデルはそううなだれた。森は管理されている様子もなく、木が好き勝手に生い茂っていた。天馬のように飛べない普通の馬ではむしろ進むペースが落ちてしまうが、今更プルルだけ森の外に出すわけにもいかず、アデル達は降りてプルルの手綱を引きながら森を進む。

 やがて、少し開けた所が小さな湖になっているようでそこで1頭のペガサスを見つけた。

 ペガサスは湖の畔で羽を休ませているようだ。基本的に脅威にはならないと聞いているのでその姿を観察しようと近づこうとしたところで、そのペガサスと視線が合ったような気がした。

「ありゃ。見つかっちまったな。」

 アデルがそう呟くが、ペガサスは逃げる様子を見せない。

「プルルとどっちが力あるんだろうな……」

 そんなアデルの呟きを理解したネージュとプルルが驚きとも呆れともとれるような表情を浮かべる。

「ペガサスを荷馬にするつもり?」

「ブルルルルン」

 ネージュが呆れた声で聞き返してくると、プルルは不満げな音を発しながら息を吐く。

「いや、そういうつもりじゃないからな?」

 プルルはさらに「フン」と鼻息を荒げると、湖の畔に座り込んだ。

「磨けと……そう仰るか。」

 何となくプルルの言いたいことを理解したアデルとネージュは、まずネージュがブーツを脱ぎ湖に足をつける。

「結構冷たいよ?」

 そう言いながらも、両手で水を掬い、1度プルルに水を掛ける。

 するとプルルは湖の水が気に入ったのか、一度立ち上がると湖の中へ足を進め、先ほどと同じように少ししゃがんでまた立ち上がる。

「おい、待てや、ネージュ、離れろ!」

 アデルがそういうや否や、プルルはまた湖から上がり……全身の水気を払うべく体をブルブルと小刻みに震えさせた。

「お前な……」

 もう少し回避が遅ければ、アデル達も“水浴び”に巻き込まれたであろう。水を浴びた獣特有の臭いが立ち込める。

「……馬用の石鹸とかあったら買っておこうかね……」

 そう言いながら、背負い袋からいつものブラシを取り出すと、濡れたプルルの毛を目なりに梳いて行く。プルルはそれにご満悦のようで、しゃがみ込み目を伏せうつらうつら始める。

「まあ無茶もさせたし1か月働きづめだったしな……」

 アデルはそう声を掛け乍らしばらくプルルの毛並みを整えて行った。

「あ、こっちくる……」

 ネージュが声を発し、その目線の方向を見ると、先ほどのペガサスがこちらへと歩み寄って来ていた。

 黙って様子を見ていると、一度数メートルの位置で停止し、こちらを観察した後、再度寄ってくる。

 そして、先ほどプルルが行ったように、湖の水を体につけると……

「おいぃ!?」

 やはり同様に派手に水しぶきをまき散らした。少し距離があったので、もろに浴びるまではいかなかったが、それでも若干は濡れてしまう。

「水も人も怖がらないんだな……」

 アデルはそう感心しながらも、ペガサスの意図を理解すると、せっかくだと思いペガサスの毛も整えてやるのであった。

 ペガサスは大人しくそれを受け入れていたと思うと、しゃがんだまま翼を広げる。

「翼まで梳けと。」

 アデルは苦笑しながら、示されたとおりに翼を軽く梳いてやると、古い羽根が何枚か抜け落ちた。

 やがて、アデルの施す毛繕いに満足したのか、ペガサスは立ち上がり、『ブルルルルン』とこっちは満足げに口を鳴らすと、数歩の助走と共に空へと戻っていった。

「平和だねぇ……」

「危機感ないねぇ……」

「ブルルルン」

 それぞれ、思い思いの感想を述べあい、ペガサスの残した羽を拾い上げて彼らはグラマーへと戻るのであった。



 そんな、動物好き(?)なアデルとしてはちょっと素敵な休日を堪能し、翌日、カイナン商事の人たちと共にグランディアに戻ることになった。

 やはり、グラマーからグランディアに戻るにあたっては障害らしい障害も発生せず、滞りなくグランディアに帰着。その時点で往路分の依頼は完遂ということになった。

 ナミが依頼の遂行状況についての査定書と報酬を各パーティに配る。

 冒険者パーティとしては実際に戦闘を行ったアデル隊とオラン隊に約束の危険手当が支給された。

 額は各パーティに3000ゴルトずつだ。これを聞いてメロが不満を述べる。倒した人数と、割る頭数で差があると感じたのだろう。

「まあ、作戦立ててリーダー潰したのはあっちだしな。あれがなければもっと泥沼になっていただろう。」

 オランがそう言うと、一応は納得したようでメロは不平を引っ込めた。

 アデルも一瞬むっとしたが、アデル達は基本……というか、完全に財布はアデルが握っているので、人数で割るという発想はなかったのだが、メロ達はそうでもないらしい。まあ、確かにそうか。ヴェーラ達と組んでた時はそれぞれ頭数で山分けしてたしな……と、理解する。

 続けてナミが各パーティに今後の方針を問う。

 継続して復路の護衛に従事するか、グランをもう少し堪能していくかだ。

 結局、オラン達以外の3パーティはそのまま復路も契約継続することとし、オラン達はもう少しグランを見て回りたいとの旨を伝えた。

「ほう?」

 と、ナミがオラン達の今後を気にしたが、オランは単純に港の仕組みを勉強してみたいからだという理由を付けた。本心のところはわからない。

「まあ、それなら。今グランは、フィンのちょっかいなしでも結構緊張してる状態だからね。下手は打つんじゃないよ。」

 とだけ注意して彼らを見送った。

 残った者は皆、すぐに出発できるように準備するよう命じられると、日を改めずにグランディアを発つことになる。

(随分と急だな……)

 今までの準備や行程と比べて拙速ともとれる行動にアデルは往路とは別の違和感を覚えることになった。


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