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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
邂逅編
20/373

海!

そうだ、王都行こう→熊うめぇ!→護衛依頼うめぇ!→護衛依頼受ける→バレた!?

→実はとっくにバレてた→魔石集めろ。さもなきゃキマイラ10体な。→

なんだ?何かがおかしい……気がする。→嵌められた!?→

そんなことよりお湯は贅沢品 ←今ココ



 翌朝。早い時間に全員起きだし、ヴェンの号令の下、次なる目的地、港町グラマーに向かうことになった。

 隊列は今までと同じ。商会の馬車10台の前後を護衛冒険者が周囲を警戒しながら進む。アデル達の配置はやはり最後尾右だ。ただ今度はプルルに荷台をつけていない。ナミと相談した結果、荷台を外した方が取り回しが良いだろうということと、買える物ならプルルの背に例の大袋2つ背負わせるくらいなら税も取られないだろうという算段からだ。尤も、復路の依頼も受けカイナン商事の者として従事すれば税と越境手続きはカイナン商事で受け、一旦税の立て替えもしてやるぞ?との事だったがそこまではと辞退した。物があっても大した売却ルートがあるわけでもなし、そもそも相場も碌にわからない。そう告げると、『正直は美徳かもしれんがそれじゃ冒険で大金を得ることもできないよ?』と言われてしまった。

 それではと、アデルが報酬の前借りを頼むと、ナミは「いい度胸だ。」と言いながら、依頼の基本料である5000ゴルトをポンと用意してくれた。

「危険手当は最後に渡すよ。期待しておきな。あと、せっかくだ。それで買える分の交易品を自分で買ってみて、コローナに戻ってみな。まともな買い物が出来て、希望があるなら“それなり”の金額で買ってやる。それで損したら商才はなかったと諦めるんだね。」

「有難うございます。」

 アデルはそう礼を言いながらも、

(こんなことなら、受注決めてから3日、だらだらせずに海産物の予習をしておくべきだった……)

 と、後悔したのであった。




 緩やかな丘陵を抜け、初めての海が見えた瞬間、長い隊列の最後尾から歓声が上がった。アデル達とオラン達である。それ以外は何度かは見ているらしく、中には後ろを振り返って彼らの反応をにやにやと生暖かく見守っている者もいた。

 初めて見る海に圧倒されていたアデルとネージュは、馬に乗って近寄ってきたヴェンの言葉で我に返る。

「まあ、初めて見れば誰しもそうなる。きっと、大陸よりも広いんだろうなぁ。そこを自由に行き来出来る様になれば、色んなものが手に入るだろう。これからは商売も海の時代になる。海を制覇できたら国も栄えることだろうな。今現在、最も海の力を持っているのはフィンだろうけどな……」

「フィンですか……」

 海賊が起こした無法地帯と言うが、実際に近海を制圧しているだけの国力はあるようだ。陸地面積こそコローナの半分程度の国なのだろうが、領土、領海と合わせれば実際に支配しているエリアは広い。機会があれば一度は見てみたい気もする。

「グランは商売が下手だな……フィンが海から攻めてこないのを良いことに海軍をほとんど増強していない。まあ、フィンも海を牛耳っているのは海軍でなく、私掠船団だけどな。」

「私掠船団?」

「国に協力的な海賊みたいなもんだ。他国の船を襲い、奪った財を国と折半する連中だ。元は海賊国家だ。やることもそれなりだな。だが実際強いし、効果も高い。」

「なるほど……」

 国が無法を認め、利用しているという所に疑問が出るが、他国事情と割り切るしかないようだ。

「さて、それじゃあ早速行こうか。港の近くにうちの倉庫がある。港にゃ露店やら市場やらがあるから明日1日ゆっくり見て回ればいい。」

 一行は一路、カイナン商事グラマー倉庫へと進んだ。




「でけぇ……なんでこんなものが水の上に浮かぶんだ?」

 港地区に入り、貿易船を実際に目の前にしたアデルの正直な感想だった。

「風の力だけで水の上を走れるの?」

 ネージュの興味は別のところにあるらしい。

「まあ、実際に浮いて大荷物まで積んであっちこっち旅してるらしいしなぁ……」

「魔具でも使ってるのかしら?それとも浮力が働くような構造?」

 同じく隣で見上げていた、オランとナナも呟く。

「まあ、私らにゃ直接関係することはないんじゃない?誰も泳げないし、水の上で何か月も生活とか無理……」

「まあ、そうだよなぁ」

 メロがそう言うと全員一様に興味が薄れたようだ。いずれ直接関係する様になるのであるが、この時点でそれを知っている者はいない。


 カイナン商事の馬車はすでに港の倉庫に入っている。そこで冒険者勢は1日半の休暇となったのだ。他の冒険者たちは既にどこかへと消えている。初めて見る港町、見るべきところは多い。

「うーん、アデルさん……なんでプルルの荷台置いてきちゃったの?商会で借り直さない?」

 メロがそう言う。

「何する気だよ……」

 薄々は感じ取りつつも、メロに尋ねてみる。

「だって、スパイスとかコローナじゃ貴重品よ?大貴族御用達の物でも仕入れて売り付ければ結構な金になると思うの。もしかしたらコネもできたりして……」

 カネだけでなくてコネもか。コネに関してはアデルは考えてもいなかった。

「買付資金あるの?あと越境時とか販売時の税とか結構複雑そうだけど……」

「そんなの、あの会頭かヴェンさんにやってもらえばいいじゃない。あんな目に遭わされたんだからそれくらい当然でしょ。」

「荷台は取り上げられちまったよ。さすがに商売敵の様な真似はさせられないんだろうよ。買い込むのは自由らしいから、その辺の計算とかは個別で相談してくれ。ひたすら往復して計算して販路確保とか面倒過ぎて俺には無理だ。」

「販路なんて、そこそこの貴族の好み調べて得意先になってもらうだけじゃない。」

 アデルはお手上げといった様子をメロに見せるが、メロはまだ食いつく。案外商売に向いているのかもしれない。

 荷台は取り上げられたのではなく、相談の上で外してきていたが、面倒なので取り上げられたことにした。むしろナミの方は『買えるだけ買ってみろ』的なスタンスだったので少々申し訳ないが意地悪されたことにしてもらう。販路も今回限りだが、コローナに戻った後に宛てが見つからないなら最低額保証でナミが買い取る約束もしてくれている。個別交渉で報酬の前借りまでしてきたなんてことは言えない。言ったら間違いなく面倒なことになる。アデルはそう思った。

「それくらいの計算くらいできるようにならないと、この先やっていけないんじゃない?」

 ナナにもそう突っ込まれるが、やはりアデルはお手上げだ。

「だ、そうだが?」

「頑張って覚えるしか……」

 アデルが例によってオランに振ると、オランは頑張って覚えたい旨を表明した。

「ま、計算の基礎くらいは教えて上げるけどね……」

「お、おう!」

 ナナがデレた。そしてオランちょろい。そしてアデルはもう彼らの眼中にいない。してやったりだ。

「オラン達は、最終目標は大金持ちかなんかなのか?」

「そりゃそうよ。金があれば何でもできる。自分の贅沢から、誰かの手助けとか。アデルは違うのかい?」

「……当座の生活資金確保が目的だったからなぁ。それが確保できたら……魔石でも集めながらチビチビ稼ぐさ。少なくとも商人にはならんだろうな。」

「魔石?魔具師ににでもなるつもり?」

「まあ、興味はある。」

 ナナの問いにそれとなく答える。流石にネージュの身元保証の為に必要ですとは言えない。特にナナよりもメロの方が要注意だとアデルは感じている。メロに迂闊な話は聞かせられない。

「魔具なんて頼らずに自分で覚えてしまえば早いのに。」

「仕事の片手間に覚えられるもんなのか?結構ハードルが高い気がするんだが?」

「確かに。生活費を稼ぎながら魔法を習得するってのも大変か……」

「ナナは学校かどこかで?」

「ええ。」

 ナナは学校出か。即ち少なくともある程度裕福な家庭の出であることがわかる。オランはどこでどうやって馴れ初めたのだろうか。ちょっと興味がわく。

「とりあえず、こんなところでぼーっとしてるのも勿体ないよ。折角なんだし市場にいっていろいろ買ってみよう。」

 メロはそう言い出すとすたすたと市場の方に向って行った。

「まあ、そうだな……」

 他の5人もそれに続いた。



「さて、何を買うかだな……尤も今日は様子見で本気で買い付けるなら明日の朝の方がいいんだろうけど。」

 メロが前を独歩している事を良い事に、アデルは適当な理由をつけてオラン達と分かれた。

『せっかくだから合同で』とか言い出されたら面倒なことになるだろうという判断からだ。荷物持ちならオランとグレイがいるし、問題ないだろう。

「安全確実なのは塩だな。ただ移送量を考えるとそれほどの稼ぎにはならんのかな?」

 独り言のように呟く。

「じゃあ香辛料?実際に食べてみて美味しかったの買ってく?」

 ネージュがそう返してくる。

「結局は食材との相性だろ?香辛料なんてアクセントと香り付けなんだろうし。」

 そんな会話をしながら、市場の店の様子を観察する。

 そこでアデルはある事に気づいてしまった。

 この場で取引されているのは個人客向けだ。好きな香辛料を選んで適量を……秤で重さを量って売っている。商売人たちが行う様な取引場ではなかったのだ。

「流石にここで袋売りしてくれと言ったら怒られるかな?」

「さあ?結構一杯ありそう、聞くだけ聞いてみれば?」

「そうだな……」

 と云う事でそれほど忙しくなさそうな店員に尋ねてみる。

「すみません。イナカへのお土産にしたいのですが、袋で買えますか?」

「ん?まあ、売ってくれと言われれば売るけど、どれくらい欲しいんだ?」

「俺が背負って帰れるくらい?」

「なんだそりゃ……自分で料理でもするのかい?」

「すごく簡単な物なら。どこかでレシピでも買っておいた方が良いのかな?」

 店員がアデルとネージュを一瞥する。

「冒険者かね?」

「ええ。」

「……どこから来た?」

「コローナです。」

「そうか……予算は?」

「最大で7000っす。」

 なんだかんだで今手許には前借分も含めるが、10000ゴルトはある。さすがに全額突っ込む気にはならないが、折角だしと言う気もある。が。

((素人だと思って足元をみてくるかな?))

 店員の様子を見て、アデルとネージュが同時に警戒する。

「…………まあ、押し売りはせんよ。自分で選ぶかね?」

「まとめ買いの割引きとかないなら?なんか、依頼主にも試されてるみたいなので……」

「試される?」

「隊商の護衛としてきたんですが、1日、自由に買い物してこいと。で、戻ってもし売る相手がいないなら私が買い取ってやると言われまして。」

「コローナの隊商……ね。お嬢のところだな?どうだ?悪い様にはしないから、5000ゴルトでいい感じに見繕ってやってもいいが?」

「護衛に雇われただけで、あそこに大した影響力はないですよ?

 5000ですか……そうですね。ではお願いします。」

 5000ゴルト――少ない金額ではない。アデル達の生活なら何もしないでも半年くらいは生活できる金額だ。少し考えるふりをしてアデルは任せることにした。もしここで7000で見積もると言ったらもう少し警戒していたかもしれない。ブラバドや商事の受付同様、ナミを“お嬢”と呼んだあたり恐らく知り合いか何かだろうという推測もあった。

 店員に5000ゴルトを渡してしばらく待つと、例の袋を4つ程持ってきてくれた。

「それぞれに1種類ずつ香辛料が入ってる。4つ合せて5000てとこだな。もし持てそうもないなら荷車も売ってやるがどうする?」

「荷車って?」

「あれだ。」

 店員がそう言って店の脇を示すと、一輪型の手押し車がいくつか立てかけてあった。

 アデルは試しに1袋持ってみると、米よりは軽いが、それでもかなりの重さがある様だった。アデルでも4つ……いや、3つでも少しきついか。

 その様子を見てネージュも1袋持ってみる。

「1つなら……いけそう。すぐ帰るなら2ついけるかな?」

「すげぇな……」

 一つの袋をワンクッション置いて肩に担いだネージュを見て店員が驚嘆の声を上げる。が。

「台車おいくらですか?」

「ん?80ゴルトだが?」

「あ、買います。1つ下さい。」

 アデルは即答した。

「え?2つくらいいけそうだけど?」

 ネージュが不満そうに言う。5000の後に80ゴルトと言うと、大した額ではない様に見えるかもしれないが、それでもかなり豪華な食事ができる。

「5000ゴルトの荷物だぞ?2人とも両手が塞がってる状態で何かに襲われてみろ。」

「ああ、なるほどね。」

 アデルが追加で80ゴルト出して台車を買う。

「まいどあり。機会があれば是非また寄ってくれ。」

 アデルが台車に荷物を積み込むのを見届けると、店員は笑顔で去って行った。

 ――その笑顔の意味は現時点ではわからなかった。



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