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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
東部戦線編
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報告と誤解

 アデル達が戦場である村の跡地に戻った時にはすでに敵戦力の排除が完了していた。

 一部北へ逃れようとした者を先行していたオルタやアンナが刈り取りアデル達の戦果に組み込まれる。到着したアデル達は南や東に逃れた者を追討に行こうとしたが、そちらはアデル達の動きをよく見ていたラウル達が機転を利かせ、戦闘中にそちらに回り込み、大勢が決まった後、逃れようとする者を集中的に仕留めていたようで、そちらへ逃れた者はいないという話であった。

 戦闘が一段落したところに現れたアデルは、その姿に多種多様な視線を浴びせられた。後ろ手で縛られた半裸の少女……が生える馬の身体、ケンタウロスの背中に跨って登場したためだ。

 幸か不幸か、ケンタウロスの直接的な脅威を思い知らされることなく終わった今回の戦闘参加者たちからは白い目やら興味やら生暖かい視線がやらがアデルとハンナに向けられる。それに気づいたアデルはすぐにハンナから降り、カミーユに報告をする。

「いくつか重要度の高い話を聞けましたが……先に戦場の後始末をした方が良いですかね?」

「ほう。……いや、ここまでくれば、あとのことは副官たちに任せればよい。先に聞こう。」

 アデルからしての“重要度が高い”に、カミーユは少なくない興味を持ったようだ。村はずれの方に少し移動し、人の少なくなったところで報告を促した。

「少なくとも、俺らの言葉は通じませんが……ネージュがそれなりに訳してくれますので、もし追加の質問等があればネージュにお願いします。先に現時点で分かったことですが――」

 そう前置きし、アデルは重要度の高そうな話からカミーユに伝える。

 順序としては、ケンタウロスの総数300。内、コローナ方面に動員されているのが100、ハンナ――この捕虜の氏族は50体ほどで、士気が低いこと。従軍の経緯を伝えたところで、巨人、ギガースの部族の話題に移り、その生息場所、動員の経緯等を伝えた。

「呪いで無理やりか。酷いことをする。」

 カミーユがそう呟いたところにネージュが声を掛ける。

「思考と身体を力で抑えこみ、生存に必要な物を与える。人間が馬や牛、奴隷にしてることと大差ないんだけどねぇ。」

 ネージュの言葉にカミーユは一瞬ムッとした表情を浮かべるが、「むう。」と唸り結局はそれに同意する。

「法の支配も、経済――貨幣の信頼も結局は担保となる力があってこそ……というのは理解しているつもりなんだがな……」

 カミーユはため息をつく。アデルと同様、呪いの解除や敵戦力の切り崩しなどが狙えるか?と問うが、事前に尋ねたアデルやネージュからハンナはその答えを持っていないと伝えられると、一旦、レオナールに報告はする。として今は考えないことにした。

 その後、ハンナの扱いについて、ハンナに訳を伝えずに協議した。カミーユとしては今回の戦では想定していなかったが、こうなった以上は“捕虜”として正規に扱う、しかし言葉が通じず困るのでしばらくはアデル達の預かりにして欲しいとの事だ。対してアデルは同氏族で同士討ちを強いるのは避けたいというのと、先ほど背に乗ったところで実用的ではないこと、また、ケンタウロスの“決闘”の精神さは理解できるが、武器を持たせ戦場に連れまわすにはまだ信用できないと難色を示す。

 結局その場での結論は出ず、一旦保留とし、次の作戦開始までアデル達の預かりとなったが、それが新たな問題のきっかけになるとはこの時点で誰も気づけなかった。




 報告を終えたアデル達が他の冒険者たちの所に戻ると、やはり注目を浴びたが、アデルは気にせず情報交換を始めた。

 戦は圧勝を超えて完勝。数名の負傷者は出たが、部位欠損等の重傷者はおらず、すぐに余裕のある回復職ヒーラーによって治療されたとのことである。

 戦果は前評判通り、ラウル達が単パーティで敵の3分の1を超す数を討ち、敵将であるオーガも彼らが倒したそうだ。

 一方でアデル達の評価は半々であった。これはやはり、幸か不幸かケンタウロスの脅威を思い知る暇もなかったということが大きい。面と向かって文句、現時点で不満を言う者はいなかったが、ラウル達や元々ある程度の付き合いがあったイスタの冒険者達の情報によると、一旦戦域すら離脱し、敵を連れて戻ってきたことに疑問を感じている者が少なからずいるという情報だ。

 こうして話を聞かせてくれる者たちは、アデル達にしかできない事の優先度を理解してくれているようだが、遠巻きで見ている者達の中には「楽しやがって」などと思っている者もいる様だ。

 その話を聞いてネージュが若干ムッとした表情を見せたが、アデル、オルタ、そしてラウルが「次からは明るいところで暴れてやれば良い。」と言うので一旦は怒りを収めた。

 その後、ラウルやイスタの冒険者たちに今回仕入れた情報の内、敵の数、巨人の存在等を伝えたところで、いつもとは違う表情で更に質問してくる者がいた。

 ブランシュである。竜人、鬼子、獅子鷲とただならぬ知識を持つブランシュもケンタウロスを直に目にするのは初めての様だ。通訳となるネージュに前のめり気味に質問をする。

 ハンナは淡々と、しかし各々の質問に答えていく。中には嘘も混じっているのかもしれないが、それは恐らく本人は嘘でないと思っている物だろう。

 その結果、ケンタウロスの士気の低さが伝わったが、それに対し、ブランシュは「族長を一騎打ちで破ればケンタロスのその氏族は手を引くか?」と問う。

 それに対しハンナの答えは

「決闘により従っている時に、その相手以外から決闘を受け入れることはない。」

 とのことだ。つまりは、『族長を打ち破った者がいる限り、族長が他者から正規の決闘を受け入れることはない。』とのことである。決闘は原則双方の同意が必要なので、結果、結論としてその可能性はないという答えだ。確かに無尽に決闘をしていれば“主”が複数いることになりかねず、彼らの規律は成り立たなくなる。

 次にラウルが便乗し、

「では、直接の決闘をしていない者に決闘を申し込み勝てば手を引かせることが出来るか?」

 と、問うと『集団戦中に個別に決闘なんてしてる暇ないだろう?周りが許すまい。』との答えであった。戦域から離脱しそこで決闘に乗ったアデルの判断は、今回においては結果として一番スムーズに事を運ぶことが出来たと言える。

 他にも主にブランシュの質問により、いろんな誤解が明るみになって来る。

 例えば敵性種族というのは誤解で、現代ではケンタウロス族は原則、人間とは不干渉、基本的にケンタウロスの方から一方的に攻撃を仕掛けるということはないらしい。ただ、人族と関われば“亜人”として見下されるため、テラリア周辺での扱いはお察しであり、それに対抗した結果、敵性種族として広がっているのではないか?という話だ。

 生息地域も、オーレリアに限らず、グルド山周辺にはいくつか氏族があるだろうとの話だ。直接竜人やテラリアと接触していない氏族なら、その領域を荒らさない限りケンタウロス側から攻撃を仕掛けることはないだろうという。この辺りは改めてカミーユやグスタフ王らに伝える必要がありそうだ。

 また、槍と弓を好み攻撃型の種族なのか問えば、一応所謂“兵科”は存在するらしく、中には金属鎧や大楯を装備する者もいるそうだ。但し、ケンタウロスには金属加工、特に板金の技術はなく、鎧は戦利品か他種族(今回は竜人等)からの支給品であることが多く、貴重なものだという。その他いろんな質問がぶつけられ、今迄知られていなかった生態が明らかになっていく。

 そんな中で、アデルは

「ケンタウロスって腹を下したらどこが痛くなるの?」

 と、人型の胴の腹と馬の腹を触りながら質問し、ハンナ他数名の冒険者から改めて白い目で見られたのは余談である。

 因みに、痛くなるのは人の腹部であるらしいが、元々生でも行ける雑食であるため、腹を下すことはないそうである。



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