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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
東部戦線編
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火蓋

 ラウル達のイスタ到着から一週間余、アデル達はいつもの役人経由でカミーユに呼び出しを受けていた。

 場所も庁舎2階のいつもの一室だ。そこでカミーユから東伐作戦と今後の概要を示された。

 アデル達に求められたのは、それに対し斥候として或いは蛮族を知る者としての意見だった。所謂作戦の監修である。


 作戦はそう遠くない内、雨が降らないと見込まれる日の夜からということだった。

 夜半過ぎに大将をカミーユとして国軍が最低限の照明でイスタを発ち、夜明けとともにまず蛮族の前哨陣地数カ所を一斉に攻めるという物だ。そのまま北拠点との連絡を絶ち、一気に南拠点を殲滅するという案であった。

 また、最初の陣地の朝駆けはそのうちの一つを冒険者に担ってもらうことにする方向でギルドと話を進めているそうだ。

 蛮族軍の構成、探知能力、数を考慮しての作戦であるが、それに関しての意見を求めたいとの事である。南拠点周辺の配置図が広げられ、そこに最新の敵の情報が記されている。尤もその大半の情報収集はアデル達が行ったものであり、その数字に対して彼等から尋ねる必要はなかった。

「概ねその策で良いとは思います。伏兵とかの様子もなさそうですし、指摘するとしたら……敵の伝令を取り逃がし、即座に北が動いた場合の対処が怪しいといったところでしょうか?ケンタウロスの探知能力は正直俺も驚きましたが……それを踏まえても朝駆けは大いに有りではないかと思います。あとは、前哨陣地制圧後に拠点に力攻めをするか補給路を止める兵糧攻めにするかでしょうか?」

「君ならどちらを選ぶ?」

「こちらの数にもよりますが、現状なら一気に攻めてしまいたい所ですね。北からの援軍などでケンタウロスに後ろを脅かされると言うのは避けたいですし。」

「北との連絡の遮断は無理と考えるか?」

「無理かと。前哨陣地も全てを包囲して一発で潰すわけにもいかないでしょう?それを察知された瞬間にどこかからケンタウロスの伝令が本気で北に走れば追いつける者はいないと思います。」

「ケンタウロスか。つくづく厄介な連中だな。なんでご先祖たちはあんなのを敵に回したのか……」

「……言葉は悪いですが、馬の超完全上位種ですからねぇ……制御する術があったなら、まあ。」

「ふむ……」

 そこでカミーユはアデルの反応を確かめるかのような様子を見せた。

「魔の森やテラリア西部でケンタウロスの部族の話は聞いていなかったか?」

「聞いたことないですね……少なくともテラリアの西に出没したり襲撃があったと言う話はない筈です。もっとも、辺境の村に入る情報なので断言はできませんが。何かあったとしても関係者が直接村に来ない限りは、その様な情報は領主に握りつぶされたでしょうし。」

 カミーユはそこでチラリとネージュを見遣る。

「……聞いたことない。ただ私が生れたのは魔の森北東の部族だし、道を挟んだ南のことは全く聞いてないし知らされることもなかったし。」

 今度はネージュの反応を確認する様にカミーユが言う。

「それは魔の森には複数の部族がいるという認識で良いという事か?」

「他の話は知らない。でも、いても何の不思議はないかな。」

「ちなみに……ちなみにだが、君が生れたと言う部族は君の親を含めて竜人は何人いたんだ?」

「…………知る範囲で4人。ちなみにこの前の腕を落した竜人は知らないヤツだったけど……今回北に派遣されてきたのは見覚えがある。」

「「何!?」」

 ネージュの言葉にアデルとカミーユが驚きの声を上げた。

「……詳しくどの様な者か知っているのか?」

「知らない。ただ私をあげつらって母の立場を引きずり降ろそうとしたクソ女。」

「…………そうか。」

 ネージュの心のこもった汚い言葉には流石のカミーユも一瞬閉口する。しかし。

「一応参考までに。機会があるとしたら戦いたいか?それとも会わずに済ませたいか?」

「ん?んんん……」

 突然の振りに思わず唸って考え込んでしまうネージュ。

「興味ないと言えば嘘になるけど、優先度は低め。南拠点にいたならみんなでぶちのめして竜玉奪ってやりたいところだけど、わざわざ北に乗り込んで会いたい訳でもないかな。腐っても本物の竜人だし、私ひとりじゃ勝てないだろうし。パーティやブリュンヴィンドに無茶させるくらいならスルーしたいかな。」

「……そうか。」

 カミーユは頷いた。

「その辺りを纏めると、敵軍は尚も戦力増強中の可能性が高く、竜人は少なくとも4人以上いるということになるな。」

「……それが全部こちらに向かってきてる訳ではなさそうですけどね。」

「そうか……そうだな。しかしそうなると、下手に刺激を与えるのも得策とは言えぬのか。」

 アデルの呟きにカミーユが思案に入る。

「とはいえ、グランの様子を考えればコローナ南東部が不安定なままと言うのもどうかと思いますが。フィンから大量の物資を購入するという訳にもいかないでしょうし。」

「うむ。何としてもこの南拠点の制圧とイスタ以南の安定は必須だ。それに北も放置はできまい。連邦の動きが怪しい上に、蛮族軍の進入経路であるしな。」

 カミーユは頷きながらそう言うと、最後に

「しかし、敵を知る上でその敵、テラリアの状況も一度しっかり確認しておく必要があるな。ドルケンと組んだ以上、テラリアと組むことはありえないが。」

「もともとはテラリアがこちらを巻き込みやがった案件ですしね。まさか今更上から目線で軍事協力とか言い出す事はないと思いますが。あいつら他人を何んとも思っていないので何とも。」

「……まあ、そこはドルケンと組んだという事が示されれば流石に今更言い寄って来ることはないだろうが……それよりも今回の作戦だ。」

「ええ。概ね案通りでいいとは思いますが……出来ればこの拠点の交代のタイミングで夜襲を掛けるのもいいんじゃないかと。」

 アデルはそう言いながら、イスタ方面へ飛び出ている3つの敵陣地の内、中央にある陣地を示す。先日偵察した、矢を射かけられた村だ。

「夜襲だと?一応理由は聞こう。」

「こちら寄りの陣地の中では一番敵の動きが多いようですし、場所も中心付近、この3つの中でも1ランク上の拠点であると考えます。ここを先行して潰せば、初動分に対しては連絡・連携の封殺も可能ではと。ケンタウロスの戦力と行動力を考えると、出来ればここのケンタウロスが散開する前に一気に叩いてしまいたいと思いまして。」

「立地的にもその意見は理解出来る。しかし、可能なのか?」

「流石に俺ら単独じゃ無理ですけど……ケンタウロス以外を制圧できる戦力があれば行けるとは思います。幸い、優秀な冒険者パーティがイスタに来ている様ですし。」

「“北の英雄”か。話はいろいろ聞いているが、彼らに夜戦ができるのだろうか?」

「夜戦も何度かこなしている様ですが……相手が人間と蛮族じゃ、暗視的にも勝手が違うでしょうね。ただ、ケンタウロスさえなんとかできればある程度の光源は――」

 アデルはそう言いながらアンナを見る。

「そうか。そうだったな。確かにそれならケンタウロスを奇襲で何とか出来れば行けそうだが……少し検討させてくれ。その案だとその戦闘が火蓋の切り口になるからな。何としても成功させねばならん。」

「わかりました。一応そのつもりで準備は進めておきます。あとの大局的な戦略はまあ、流石に俺らが首を突っ込む話ではないでしょうし。」

「……うむ。意見は大いに参考にさせてもらいつつ、最終的な検討に入ろう。近いうちに何かしらの依頼があると思っていてくれ。」

「わかりました。」

 カミーユの言葉にアデルは頷き、全員で退出して行った。


 その4日後、冒険者ギルドからアデル達やラウル達に大きな依頼が入る事になる。


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