仲間?
王都編あらすじ
そうだ、王都行こう→熊うめぇ!→護衛依頼うめぇ!→護衛依頼受ける→バレた!?
→実はとっくにバレてた→魔石集めろ。さもなきゃキマイラ10体な。 ←今ココ
カイナン商事の依頼を受けると決めて3日後、明後日に出発すると言う連絡がブラバド経由で告げられた。
いよいよかとアデルは入念な準備をする。ブラバドの話によると『ナミ』――代表の女性の名前だ――は、本人自身歴戦の《拳闘士》であり、商人と言うよりも組織やモノを動かす戦略家としても相当な切れ者であるとのことで、滅多な事はするなと釘を刺された。手下(ブラバド曰く)達もそれに見合う猛者揃いだそうだ。王都に拠点を構えたのは最近で、それ以前は「用心棒の仕事を中心に金を貯めた」とか、「フィンとの小競り合いに傭兵参加して資金を集めた」などと言う噂があるらしい。自分たちを『フィンに村や町を荒らされた孤児』と言っていたことを考えると後者の噂が真実に近いのだろうなとアデルは考えた。でも、それだと護衛なんているのか?と思えてしまうが、依頼を出しているのだから何らかの理由で必要なのだろう。
実際、ブラバドによると、フィンやグランと言わずにコローナ内でも南部に行けばいくほど治安は悪くなるそうだ。国境を跨げば規模の大きい山賊や盗賊団が出る可能性は否定できないと言う。
とにかくそんな話を聞きながら集合場所へと向かう。
ジョルト商会の時と同様、本来は街の門を出たところで集合であるが、アデルは先に馬を連れて店舗に来るようにと言われていた。
「おはよう。早速だが荷台を馬につないでくれ。あんたの馬がどれくらいの力かわからないから、悪いがあんたが積めると思った量の袋を積んでみてくれ。」
プルルを連れたアデル達の姿を見つけるなりナミがそう声を掛けてくる。
「わかりました。中身は聞いていいんですか?割れたり壊れたりする物じゃないですよね?」
「こっちから持ってくのは米や小麦粉。帰りに積むのが塩と香辛料だ。知ってるとは思うが、同じ重さ当たりの価格は帰りの荷物の方が高価になるからね。帰りの荷物の量自体は減るだろうが、行きは積めるだけ積んでいきたい。」
塩は主に海で生産され、香辛料はグランからさらに海を渡った別の大陸からの輸入品だ。珍しい、又は美味しければ値段が青天井となる。港保有国と定期的な交易というのは、ルートさえしっかり確保できれば稼ぎはかなりのものになる。
とりあえず言われたとおりにプルルのハーネスと荷台をつなぎ指示された袋を一つ抱えてみる。
重い。3袋で人間の成人1人分だろうか。これだと精々20が限界だろう。アデルは荷崩れしないように慎重に積みながら、行程を考え、18袋を積みこれくらいとナミに告げる。
「ふーん。ちゃんと往復できたらその分輸送料は出すよ。それじゃあ馬車通用門に行こうか。」
他の馬車の積み込みも終ったらしく、一行は馬車用に整備された大通りを進んだ。
馬車用の大通りは近年、町を再編し整備されたものだ。露店が出たり通行人を相手にする店が立ち並ぶメインストリートとは違い、単純に馬車による運輸を効率化するために作った道だ。幅は大型馬車がすれ違える程度、10m弱と言った所か。その左側を馬車10台が行進する、なかなかに壮観な光景だ。尤も、パレードの様に見物客などはいないが。
やがて、王都に来た時と同じ、馬車用の通用門に差し掛かると、ナミが衛兵と何かのやり取りをして町の外に出る。
そして集合場所で待っていたのは……
「あ、やっぱりあなた達もこれ受けたのね!」
メロだった……
と、云う事はつまり……他の3人も一緒だ。先週一緒に王都へやってきた隊商の護衛を務めたパーティの中で最もレベルの低いパーティ。勿論依頼人には聞こえないようにしていたが、「輸送の仕事は楽で実が良い」などと能天気な事言っていたパーティだ。不安しかない。
「やっぱりこうなるか。Dランクで受けられる輸送護衛これしかなかったからなぁ……」
オランが片手を上げながら近づいてくる。どうやら理由まで同じらしい。輸送護衛に対する意識は違うと信じたいところだが。
「今回は……馬車に乗れるわけじゃないのかな?」
「そう言えば……荷物もぎっしり積んでたみたいだしな。」
メロの呟きにアデルが答える。
どうやら実際その通りらしい。尤も、今回は護衛だけでなく従業員たちも徒歩のようだが。
「馬車で移動?そんな甘ったれた事いってるんじゃないよ。どれだけ荷物を運べるかがカギなんだ。」
との事だ。
「知り合いかい?」
ナミの問いに出来れば否定したいところだが、そうもいかずに最低限の話をする。
「前回の輸送護衛依頼で一緒だったパーティですね。知り合いってほど詳しくはないです……」
「えぇ~」
アデルの答えに不満そうな顔をするメロ。
(少なくともこちらは輸送護衛依頼は楽とは思っていないんで!)
内心でそう反論する。
「へぇ……そうなんだ。まあ、よろしく頼むよ。」
アデルとメロを意味ありげに一瞥し、ナミは部下たちの方へ戻っていった。
「馬車で移動じゃないのかー」
メロは少々不満そうだったが、それなら他の短距離の仕事を受け直せと言いたいが堪える。実際にそうなって出発が延期となっても困るからだ。
「今回も一緒か。心強いよ。まあ、今回は僕らの活躍の機会も欲しいところだけどね。」
そう声を掛けてきたのはその不安パーティの不安定リーダーであるオランだ。
背後で相変わらず不機嫌そうにしている女の《魔術師》(メイジ)がナナ。もう一人男の戦士がグレイというらしい。
《戦士》2人、《拳闘士》1人、《魔術師》1人の4人パーティ。そしてそれぞれが“専業”で補助的な技能は持っていない。探知、探索系の補助技能《斥候》や、野外、特に山林でのサバイバルが得意な《狩人》がいない、ある意味珍しいパーティである。逆に言うと、当然山林や遺跡の探索など出来る訳もなく、単独で少数の護衛なんてものも出来ない。となると、前回、そして今回の様に多人数で敵を蹴散らす隊商などの輸送の護衛に就くのはある意味当然とも言える。そして現在、それ系の依頼はこれしかなかったのだから遭遇は必然と言えば必然と言えた。
結局、前回の護衛依頼の時には戦闘らしい戦闘はグリズリーとの遭遇戦一度だけ、しかしそれもネージュが勝手に飛びだして簡単に始末してしまったため、彼らの実戦能力は未知数だ。
それでも、レベルが10代後半なのだから、最初に知り合った“村の勇者”ことヴェーラと同等程度にはやれるのであろう。
今回は、馬車が10台+1台、国境も超える。前回の依頼と比べればかなりの大きなものとなる。しかも、南に行けば行くほど治安が悪くなると言う。彼らでやって行けるのかという不安が起きるが、どうやら別の店に所属したらしいし、駄目だったらそれまでなんだろうと割り切る。別に他の護衛パーティを助けなければならないという定めはない。アデルは気持ちを切り替え、ナミの説明を聞いた。
依頼の概要はこうだ。
優先順位は、カイナン商事従業員の無事、荷物の無事、グラン王国に於いて勝手な行動はしない。この三つ。
期間は約一ヶ月。やはり、天候次第で期間の増減はありうるが、報酬は先に契約した通りで、期間変動による報酬の増減は無し。危険手当はカイナン商事で勘案。
こんな所だ。
護衛はアデルパーティとオランパーティの他に2パーティ、計20人。大型馬車10台の護衛としてはやや少ない気もするが、カイナン商事の従業員がどうみてもただの商売人ではない。軽装ではあるが、《戦士》や《拳闘士》として最低ラインでもレベル10以上、上は明らかに20後半はありそうな人たちだ。
護衛4パーティはそれぞれ、隊列の先頭左右、最後尾の左右に配置される。アデル達は最後尾右だ。そして最後尾左がオランのパーティである。
(いざとなったら、俺達を囮にして切り捨てる気満々だな。)
アデルはそう直感した。実際、全体から見れば僅かだがアデルは積荷も預かっている。殿を務めることになった場合、最優先に狙われるだろう。初めて海が見られると期待に膨らんでいたアデルの気持ちは段々と暗澹として来ていた。
出発から早5日、アデルの気持ちとは裏腹に好天が続き、何事もなく旅程は順調に経過していた。その日も日没寸前で移動を止め野営の準備にかかる様にと指示が出る。
悪天候時以外は基本テントを設営しないアデル達は、周囲の人間が慌しくしている中、手伝う訳でもなくただプルルを労いつつ、留め具で固定した荷台の上で寝転がっていた。
やがて日が沈み最低限の夕食が振る舞われる時に、ナミが全員に向って話を始めた。
「皆よくお聞き。知っての通り、グランはフィンの度重なる侵攻を見事に退けてきた。
だがそれは国としての話だ。結果として追い返し国境線は守っているが、辺境の村や町も少なくない数がフィンの襲撃により滅んでいる。それに度重なる徴兵や徴税で民、特に国の管理が届いている主要都市周辺の村や町、それに軍の下っ端や前線などもかなり疲弊している。滅ぼされた村の生き残りや脱落した兵士たちが山賊になっているのも少なくない。ここから先はコローナ内と言え、一切油断しないように。」
ナミの言うとおりである。友好国とは言え、外国であるコローナ王国では、「グラン王国がフィン王国の侵攻を食い止め追い返した」と評されるが、そのフィンの侵攻により滅んだ村や町も少なくはないのだ。その生き残りで他に生き延びる手段を持たぬ者たちがこっそり国境を越え賊となることはないとは言えない。実際にあるのだろう。ブラバドからも、コローナ内でも南に近づくほど油断ならないと言われている。況してグランとの往来を頻繁に行っているであろうナミが言うのであれば猶更だ。
(でもなんだろう。何かがずれている気がする……)
ただアデルはこの時漠然と違和を感じていた。それが何なのかわからないまま、訓示は終わりそれぞれの集団で夜を明かすことになった。
「なんだろう?何かおかしい気がしないか?」
「……さあ?」
何となく不安を覚え、ネージュに尋ねてみるがネージュは何も感じていないようだった。
(考えすぎか。まあ、どのみち何か起きるまでどうにもならんしな……)
日が進むにつれアデルの不安はどんどん膨らんでいくのであった。




