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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
東部戦線編
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情報戦

 グラマーでの前軍務卿旗揚げの報にいち早く反応したのはやはりレオナールだった。

 すぐに情報武官に情報の収集を行わせ、王家直属の諜報機関にも同様の指示を出す。

 その第一報によると、ファントーニ軍はまだそれほどの規模はなく、グランディア奪還を旗印にしてはいるが、実際はグラマー防衛に専念する動きであるとの事だ。ただ、ファントーニ侯の下に各方面から集まってくる兵士は思いの外多く、グランディア陥落時のグランディアの防衛戦力よりも大きくなるのではないかとの見方が広がっているそうだ。

 それに対し、フィンのフロレンティナ将軍は、増援らの戦力の再編成を行いつつ、まずはグランディアを力によって安定させる事を優先しているとの話であった。

 グランディアは戒厳令が敷かれ、元々フロレンティナが率いていた兵の他、フィンの地方軍からの増援や、稼げると踏んだ傭兵たちなどでこちらも相当規模になりつつあるとの情報である。



 アデル達がその情報に触れたのはドルンだった。グスタフが、最近は2週に1回に減らされたイスタに定例視察に来たときに、アデル達も交えて一度確認したいと、ドルンへ招聘したのである。

 場所は、もはや“いつもの”といっても差しさわりないであろう、例の応接室だ。参加者は国王グスタフ、軍務卿エドフェルト、財務卿ダールグレンと国務卿カールソン、それにナミとヴェン、そしてアデルら4人+1頭である。ドルケン地方派貴族、特に西部の者が見れば穏やかにはいられないであろう面子である。


 まずはナミが状況説明を始めた。

 ファントーニの旗揚げ、フロレンティナの占領軍、それぞれに集まる兵力の数と見込み。両軍の展開図。それを見るとやはり、グランディア奪還を掲げてはいるが、ファントーニの主目的はグラマー防衛の戦力集めと見る方が良さそうだ。実際、グラマー・グランディア以東から万にも及ぶ数の兵士、冒険者、そして志願兵らが集まってきていて、グラマーの人口は戦前の倍以上の人数になっているそうだ。幸い港町として栄えた蓄えがあり、都市内の生活の水準は辛うじて維持されており、集まってきた者たちのキャンプにも十分な物資が行きわたっており、カイナン商事もしっかりとその辺には絡んでいるとの話である。

 また、ファントーニが一番上に立ったことで、今迄日和見気味だった海軍が戻ってきており、物流も今のところはグラマーの分はしっかりと確保しつつ、グラマー以東の中規模都市の物資もなんとか賄えているとのことで、王家が滅んだ後の残党としてはそれほどみすぼらしい物ではないらしい。また、対フィンで国民も結束し、都市部での治安はそれほど悪化していない様である。グラン東部を荒らしていたグランの山賊共も積極的にフィンの輸送物資を狙うなどゲリラ戦を挑んでは蹴散らされているとの報だ。


 また、グランディアの方も、フロレンティナが手堅く占領を進めている様で、自由さはかなり制限されているが生活の水準は以前よりも差ほどの落差はないという話だ。小国とは言え元女王、内政もそれなりに出来る様である。元の国の規模とグラマーの規模に大差がないためか、平和慣れした前の王の統治時よりも緊張しつつも治安自体は良くなっているという噂まであるらしい。

 ただ、こちらは町の出入りが厳しく制限されており、情報が中々外に出てこないようだ。ナミの手下らは、カイナン商事の看板を隠し、ただの商人として近隣村落とやり取りを続けているが、それも長くは続かないだろうと言う。そうなればグランディアの情報はほぼ入ってこなくなる。

 

 そうなると、鍵となるのが“フィンの女帝”と呼ばれる、レインフォール商会会頭、レイラの存在である。レインフォール商会――私掠船団トルメンタがグラマーの海路を封じてしまえばグラマーはジリ貧確定だ。

 アデルがそれとなく聞いてみると、ナミもオルタも『すぐには動かないだろう』と云う見立てを立てていた。レイラはフィン国王の為でなく、フィン王国の為に動く。それが“フィンの女帝”たる所以であるとのことだ。

 先日、会った時の口ぶりを思い出せばアデルも何となくそこは理解できた気はする。こちらは会談後にオルタに聞いた話になるが、レイラ的に今のフィン国王の評価はあまり高くいらしい。で、あるならイベントの籤の様に、そのうち“ガラガラ”と後継者争いが起これば、“ポン”と次の王がすぐ決まるというのだ。フィンに関しては王位の継承権さえあれば、順位は大した問題ではないのだと。順位を付けた所で結局は最後は力で決まる。そしてその力により統治される。良くも悪くもそう言う国だと言うのだ。ただそれが起き、力比べと言う名の内戦が起きている時に、ここぞと他国がフィンを脅かす様ならレイラは間違いなく動くと言う。それも徹底的に。レイラ的には、旧三国もグランもお荷物でしかないのだ。故に現フィン王をただ、“強欲”とだけ評す。


 話は逸れたが、ナミやベックマンの見立てに寄れば、グラン情勢はしばらく膠着、そしてファントーニ侯の戦力が一定以上に達した所で泥沼化し、その辺りでコローナとフィン本国が出てくると見ているとのことだ。物流にガッツリと絡みつつもナミの意見には遠慮がない。

 

 ここで、各々の当面の方針が提示されていく。

 ドルケン……グスタフ王と、カールソン国務卿は中央集権の推進に全力を注ぐとのことだ。最近、イスタ視察の頻度が減らされたのはそちらに力を注ぐことになったかららしい。今は翼竜騎士の先遣隊との軍事交流くらいしかないが、いずれ窓口が正式に動きだし、物の出入りが行われる様になれば、なるべくリスクなく物の交換を行える陸路の確保が必要になる。そこに入り込んで利権を得ようとする者は今頃手ぐすねを引きながら策を練っていることだろうと言う。

 ダールグレン財務卿は国家資産の保全と、密輸の取り締まりだ。地下組織は文字通り地下に想像以上に深く根を張っていた様で一筋縄ではいかない様子だ。マチルダもまだまだ活躍の機会は減らなさそうである。

 ナミは当面はグランの様子を注視しつつ、ドルケンとコローナの通商の話を見守り絡めるところがあれば積極的に狙って行くと国務卿や王の前で宣言した。ある意味強かである。

「アデル君はどうするつもりかね?」

 最後にグスタフがアデルの今後を尋ねた。

「その陸路の安全確保の為にも、蛮族の南拠点の制圧が優先されるでしょう。前はあそこからイスタに攻められましたし……今回は規模も大きく、支配地域も広くなっていますので……ところで、万一イスタに再度襲撃があった場合、先遣隊はどうするおつもりですか?」

 アデルは両国と絡めてそう答えると逆にグスタフへと質問する。

「襲撃があれば当然防衛には参加する。ただ、攻める場合に協力要請があった場合良く検討しなければならんな。」

「ではドルケン自体で情報収集を?」

「ある程度は行っているが……今は北の外患排除に忙しいところでな。」

「……なるほど。今度来る時……いや、次に陛下か軍務卿が視察に来られる時の方が良いかな?訓練の代わりに一度図面を用意して偵察状況を説明した方が良いかも知れませんね。」

「……うむ。その辺りは先遣隊長も交えて相談せねばならんな。宜しく頼む。」

 アデルの言葉にグスタフ王が頷く。その様子をナミとヴェンが複雑な表情で窺っていたのをアデルは気付けなかった。


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