示標
前回のあらすじ
そうだ、王都行こう→熊うめぇ!→護衛依頼うめぇ!→護衛依頼受ける→
あれ?バレた!? ←今ココ
「それでも……
――“珠無し”に会うのはまだ2度目だけどね。」
女性の言葉に、アデルとネージュは言葉を失った。
「……え?」
「ん?」
「“珠無し”とは?」
「その子は珠無しなんだろう?」
いきなりの指摘にアデルは困惑した。少なくとも害意は感じられない。アデルは全力で考えをめぐらせた結果……
「分るんですか?」
肯定の言葉を使わずに肯定してみせた。
「私を舐めてるのかい?そんなの少し知識があればすぐにわかるさ。」
「えぇぇぇ……後学の為にどの辺でかを教えて戴けると……」
「鬼子と竜人じゃ角の生え方が違う。鬼子は額の中央から1本か、額の脇から2本が前に向って生えるもんだ。竜人はこめかみ、頭の側面から1~2対が後ろ向きに生えるのさ。」
「……成程。」
アデルは指摘の通りにネージュの角を確認してみた。まだ小さい角だが確かに頭部側面からやや後ろに向って角が伸びている。
「一応、先に話くらいは聞いてやろう。依頼を受けにきた冒険者をいきなり捕まえて売る訳にもいかない。イキサツを説明してみな。」
ニヤリと妖艶ともいえる笑みを浮かべて女性が問う。
アデルはどこから話したものかと考えたが、結局村を焼け出された後、可能性を求め危険を覚悟で馬で西へ向った事。途中、ネージュを見つけ拾った事。身寄りも行き場もない者同士として兄妹ということにしてコローナにやってきたこと。以降エストリアの暁亭での受け入れと活動、先の村での待遇を経て今回ジョルトと共に王都にやってきたところまで掻い摘んで話した。
「はっはっは。色々思い切った事をするもんだね。」
女性は大声で笑って見せた後、冷ややかな目を向けてアデルに問う。
「その子が村を襲った蛮族の一味であった可能性は考えなかったのかい?」
「…………考えました。知る限りの状況からして恐らくその通りなんでしょう。ただ、ネージュはその襲撃に参加していない様ですし……俺としても、あの村には家族以外それほど思い入れなどもありませんでした。宛てがあれば移住していたでしょうしね……それに実際こちらに来て生活は上向いていると思います。ネージュと共にいることで、余計な苦労もするとは思いますが、戦力的にも生活的にもそれに充分見合うと思っています。」
「……そうかい。ならせいぜい頑張んな。うちは基本、受けてくれるなら実力不足以外の理由で門前払いなんて真似はしないよ。私もそうだったが、今うちにいる奴らの殆どは村や町をフィンに荒らされた孤児さ。成りあがるチャンスは誰にでもあるってのがモットーだよ。」
「それはまた……ってことはジョルト商会は商売敵?」
「まあ、そうなるね。品物も色々被るってるし……だけど、一応は棲み分けは出来ていて、あっちはフィン、こっちはグランと海に繋がるルートはそれぞれ別に持っているから潰しあいってのは今のところはない。ま、ジョルト商会とはモノによっては融通し合うことも無いわけじゃない。ただ商売の規模はどうしても負けちまうね。」
恐らくは、其々のルートとなるフィンとグランの国力の違いと拡大再生産能力の違いの差だろうか。
「まあ、受けてくれるなら護衛の方はよろしく頼むよ。期間は1ヶ月程、報酬はあんた達パーティとして5000ゴルト。馬も出してくれるならその分別途で出すよ。あとは危険手当だね。賊やら魔物やらが出たらその撃退数によって追加で出す。」
1か月で5000~か。ジョルトの所が8日で2000と考えると、やっぱり少し落ちるけどまあ、仕方ない。モットーに関しても賛同できる。
「国外に出るのですか?」
「そりゃ交易に行くんだから出るだろう。ああ、入出国の手続きは心配しなくていい。」
「そうですか。宜しくお願いします。」
「あいよ。出発は5日後くらいになると思う。決まり次第ブラーバ亭へも伝えるから確認してくれ。」
「わかりました。」
アデルはそう述べて退出する。もしかして……海と言うものを見る機会があるのだろうか?
初の南国への冒険に期待が膨らむのであった。
カイナン商事を退出したアデルはネージュと共に一度ブラーバ亭へと戻る事にした。カイナン商事の手ごたえは中々いい感じだったなと思いつつ、おそらく代表であろう女性の名前を聞くのを忘れてたと今になって思った。
戦災孤児の出から、国と国を繋ぐ交易ルートを確立する商会にまで発展させたのだからかなりの実力と運をお持ちなんだろう。と、同時に一つの疑問が頭をよぎる。
『少し知識があればすぐにわかるさ。』
商人ゆえの鋭さなのだろうか?ほんの数十秒角を観察しただけで分ってしまうのだ。歴戦の冒険者であるブラバドやアリオンが気付かなかったとは考えにくい。ブラバドに関してはまだほんの1時間程しか顔を合わせていないのだが……
とりあえずブラーバ亭に戻り、カイナン商事の依頼を受ける旨を伝え、出発日時が決まり次第店に連絡を寄越すと言うので来たら教えてくれと頼む。
「どうだった?」
「あの黒髪の女の人が代表ですよね?色々凄い人だなと。」
「ほう?」
「いえ、戦災孤児から簡単に越境できるくらいの商人になられたそうで?テラリアじゃまず考えられません。」
「おや、そんなところまで話してもらったのか。」
「こちらも色々聞かれましたがね……」
「何を?」
「村を出てここまで来た経緯と……ネージュの角についてですね。」
「なるほど。」
「南西方面の仕事はお勧めできないってのもやっぱり……?」
「……まあ、そうだ。あちらは蛮族の被害がかなりの数に上っている。いくらハグレ者とはいえ、その風当たりは間違いなく田舎の鬼子よりは強いだろうな。そもそもバレたら良くて追い出し、悪けりゃ近くの町の官憲に通報されて拘束されるぞ。まあ、今のその状態なら角を一目見ただけで見分けらえるやつはそう多くはないだろうがな。」
――やはりバレていたようだ。とは言え、今の状態ならそうそうばれないらしい。
「ええと……アリオンさんも?」
「そりゃな。普通、真っ当な成人前の女児に《暗殺者》なんてもの勧める訳ないだろう。」
「チッ……」
「何その舌打ち!?」
突然のネージュの舌うちに思わずアデルが声を上げてしまう。
「バレてるんだったら、本気出して相手してもらいたかった……」
「ああ、うん。そうね。そんな場所があればね……」
「むう。」
不満げな闘争民族を尻目にアデルはブラバドに問う。
「竜人の襲撃例もあるんですか?」
「いまのところ聞いてはいないな……まあそれに関しては……そうだな。受けた仕事が終わったら面白い奴を紹介してやろう。」
「面白い?」
「連絡が着くかわからんがな。会えればきっとお前らの為になる。」
「そうですか……」
「まあ、そういうことだ。余所でその辺に詳しそうな人と会う時はなるべくフードを被る様にしていろ。もしかしたら髪型を工夫するとかして隠れる様にすると尚いいな。もっとも、あと数年して成人する頃には髪やフード程度じゃ隠せない程に伸びるだろうが。」
「鹿の角みたいにポロっと行きませんかね?」
「行かないだろうなぁ。それまでに頑張って名を揺るがぬものとするか、或いは魔石を貯めまくって名誉人族称号を得るか。」
「名誉人族?」
「一定の基準を満たす者を人族と同等に受け入れる制度だ。尤もそれを得たとしても一般からの扱いはそう変わらないだろうがな。それでも少なくとも衛兵に問答無用で拘束されたりと云う事はなくなる。ハグレ者と揶揄する奴はいるだろうが、無視すればいい。下手に実力を見せると逆に相手の身とこちらの身分が危うくなりかねないしな。」
「一定条件とは?」
「人間と言葉でコミュニケーションが取れる、種族的に敵性と見做されている亜人達だな。無論竜人も含まれる。他には狼人とかハルピュイアやレイブンと言った敵性種族の鳥人とか。」
「どうしたら認められますかね?」
「魔石を貯めまくって公的機関に寄付するか、並の冒険者では手が出ないような危険な脅威を討伐するとか、戦争で大きな手柄を立てるかなどかな。とにかくお前らは魔石を得られる機会があったらとにかく売らずに集めておけ。何かの時に助かるかもしれん。」
「魔石相当額の金とかじゃだめなんですか?」
「だめだな。大量の魔石を得ると云う事はそれだけの脅威を狩った証だ。他の手段で遣り繰りできる金とは線が違う。」
「魔石を買って収めるというのは?」
「割が合わんぞ?それに、世で売られる魔石はだいたい何らかの魔法を付与した加工品だからな。納めるのは原石だ。」
「なるほど……危険動物と魔石持ちの魔物の見分けってできます?」
「長命の高位蛮族や、魔素だけで生きて行ける魔物……そうだなぁ。ドラゴンとかグリフォンとか?ペガサスやユニコーンは基本敵性でないから下手な手出しはしない方がいい。そうだな、もう少し現実的となると……キマイラを10体も狩れば十分認められる量になるだろう。」
「キマイラですか。あとで調べておきます。」
「……危険レベル30、討伐参加にゃBランク以上が必要になるがな。」
「……Bランクになっていないと討伐にすら参加できないんですか?」
「依頼は受けさせられない。まあ自分たちで見つけるなり遭遇するなりして倒せば魔石は手に入るだろう。討伐証明部位を持って来れば討伐としても認められるが、下手な店に持ち込めば魔石は売ってくれってことになるだろうな。」
「……なるほど……では並の冒険者では手が出ないような脅威を討伐となるとどのあたりの魔物が対象になりますかね?」
「そうだなぁ。ドラゴンなら一発だろう。」
「あ、はい。」
「まあ、それができりゃどこででも生活出来るわな。現実的なところだと……翼竜の群れとか、敵性種族の“王”(キング)クラスとか。高位の竜人もそうなるだろうなぁ。竜化するとワイバーン以上の大きさになるくらいが目安かね。尤もそうなるとその配下共が必死に守るだろうから相手が人間じゃないってだけで戦争と変わりなくなるな。北や南の小競り合いは……余りお勧めできんな。まあ近道なんて考えない方が良いだろう。いくら頑張っても死んだらそれまでだからな。」
聞く限り現在のアデル達では到底及ばないような相手ばかりだ。魔石を集めるにしても道は恐ろしく長くなるだろう。それでもしかし、明確に道が示されたのは事実だった。




