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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
四天動乱編
156/373

前準備

 コローナ到着後、アデル達は夕方の会合までドルケンの一行とは完全に別行動となった。

 ポールの案内で馬車とは大分離れて王城の敷地に入ったアデル達は、そこで初めて遠目ながらにコローナ国王の姿を目にする。齢50前後だろうか。レオナールと比べると、面影は似ているが雰囲気は真逆だった。どちらも武人としても十分な或いは十分だったであろう体格をしているが国王の柔和な雰囲気からはレオナールの様な鋭さは感じられない。しかし立っているだけでも威厳と慈愛に満ちた温厚な表情はまさにコローナの父と呼ぶに相応しい。(比較的)温和な国であるコローナの象徴としても納得のいく?ものがあった。

 同様にコローナの王子や王女らも歓迎式に参列している。アデルが顔と名前を見知っているのは王太子レオナールと第3王女のロゼールのみで他が誰かはわからないが、その雰囲気は各々異なっていた。ロゼールの隣に並ぶ、ロゼールを少しおっとりさせた様な感じの王女が2つ上のマリアンヌだろうか。男子勢はやはりレオナールの存在感が圧倒的である。アデルが小声でポールに確認をしたところ、王子・王女はそれぞれ出生の順に並んでいるということなので、レオナールから左に第2・第3王子、そのさらに左から第1・第2王女なのだろう。第1王女に関してはまったく歳がわからない。聞けばロゼールよりも7つ年上とのことだが未だに独身であるそうだ。


 出迎えの軍の儀仗礼で始まった歓迎式典は、程なくしてコローナ国王の挨拶に移る。

 参列者は王族の他にも公・侯爵級の上位貴族が多く参列しており、様々な表情でドルケンの一行を見ていた。アデルはチラリとその辺りを見渡すが、エルランジェ将軍の姿はこの場にはない様だった。

「まあ、君達が聞いていても何の感慨もないだろう。先に通用門から待機部屋に案内するよ。」

 露骨に周囲をチラチラと見ているアデル、醒めた表情で貴族達を見るオルタ、ただぼーっと眺めているアンナとカミラ、そして一応は欠伸をかみ殺しているネージュ、座ったまま、当然だが何も言わぬブリュンヴィンドを見てポールがそう言った。

「グリフォンも大丈夫なんですか?」

 レオナールからはグリフォンは城に入れられないと聞かされていたのでアデルは確認する。

「通用門から待機部屋までは許可を貰った。そこからは誰かに管理してもらうことになるが。」

「わかりました。ではお願いします。」

 場違い感全開の自分たちを見て アデルはそう答えた。

 よく見れば、ドルケンの一行も飛来した時のワイバーンレザーアーマーではなく、いつの間にか正式な礼装や儀礼用の騎士装備に着替えている。

 コローナ勢は言う迄もなく国賓を迎えるに相応し恰好をしており、ポールでさえも式典用の軍装を身にまとっている。一方アデルらは……いつもの通りである。

 わざとではあるが煤けた鎧、そしてアデル以外はぱっと見、完全に街着だ。確かに知らぬ者がこの場で見れば眉を顰めても仕方がないという感じであった。


 ポールに誘導され、王城の各種雑事に従事する職員用の通用門から王城内に入ったアデル達の内、ドルン王城を知っている3人は、ドルケンと王城とは全く趣の違う城内に目を丸くした。

 ドルン城が防衛を意識した質実剛健といった感じの造りに対し、コローナの王城は1階から文化の中心地ともいうべき優美な造りだった。

 流石に最下層から豪奢な装飾や調度品はないが、通用門から入ったとは思えない城の作りであった。

 柱の造形や随所に置かれた彫刻、壁の装飾やレリーフなど、歴史や文化が好きな者なら丸1日かけて1層を探索できそうなくらいの文化財が並んでいる。ただ惜しむらくは、アデル達にはその手のものを嗜む人間が一人もいない事である。彼等にとってはそんな場所よりも訓練場の方が大いに興味がある所だ。

 やはり、雑務従事者用の階段で2階に上ると、その少し奥まった所にある部屋に案内された。そこには簡素なテーブル等が置かれた正に、従事者向け休憩所と言った雰囲気の所だった。

「少し早いが昼食を用意させる。その後、会談に参加する者は夕方までここで待機してもらうことになる。それ以外の者はグリフォンを伴って王都を自由に散策してくれ。何かあればブラーバ亭へと連絡する。案内は不要だな?」

「まあ、大丈夫です。そうか、送りも考えると、今夜はブラーバ亭に泊まることになるか。」

「そうなるだろうな。会談と言うか、協議は今日の夕と明日の朝の2回予定されている。後の予定はドルケンの担当者か殿下に聞いてくれ。」

「2回?聞いていませんが……」

「そうなのか?今日の協議で大綱を決め、夜のうちに各々で相談し、明日の午前の2度目の協議で詰められる部分を可能な限り詰めると聞いているが。」

「そうなんですか?詰めの部分にはいらないのか、そっちにも出なきゃいけないのか……まあ、予定は2日取ってありますし、指示があればわかるでしょうか。」

「うむ。殿下に一度確認してくれ。それから……済まないが、カミラ殿はこの場に残ってほしい。」

「「え?」」

 ポールの突然の申し出にアデルとカミラが声を発する。

「ロゼール殿下が重要な話があると言っていた。」

「……カミラだけですか?」

「カミラ殿だけだな。」

「……わかりました。」

 ポールの表情から何となく不安を感じたが、カミラはそう答える。

「宜しく頼む。では軽食を用意させよう。その間に城に残る者を決めておいてくれ。」

 ポールがそう言って部屋を出て行く。

「で、誰が残る?」

 オルタが言う。

「俺とカミラは確定か。あと、ブリュンヴィンドが外で確定だな。そうなると……アンナもそっちか。オルタはどうする?ドルケンの話じゃ用はないだろうけど、コローナの軍部の人となりを確認したいとかあるか?」

「あー……確実に部外者兼場違いだし、俺も町かな。」

「滅多にない機会になると思うがいいのか?」

「現時点じゃ必要ないかな?」

「それならアンナに同行してくれ。」

 アンナがアデルとオルタのやりとりを不思議そうに見ているが、アンナはオルタがアデルに付けられた目的がレインフォール商会の交渉相手の人選という事を聞いていないからである。

「そうなると……ネージュはこっちだな。」

「え?……えぇぇぇぇ……」

 アデルの言葉に露骨に嫌そうな表情をするネージュ。

「退屈だろうが我慢してくれ。もしかしたら東部情勢の偵察結果を聞かれるかも知れん。」

「あー……なるほど。」

 ここ数日間、エストリア東部の偵察を主に行っていたのはネージュとアンナだ。そのうちのアンナがブリュンヴィンドの為に町に出るというのならネージュが残るしかない。また、パーティ内に於いて各種偵察に関しては自分が最右翼という自負のあるネージュはこの言葉で一応の納得をする。

 程なくして、ポールと城の侍女が5人+α分としてはやや多めのサンドイッチを持って部屋に戻ってきた。

 アデルがポールに人選を伝えると、ポールは承知したとだけ言って部屋を出る。

 ブリュンヴィンドに興味津々の様子だが、仕事人としての矜持か一切動かない侍女を尻目にアデルらは空腹を補う。残った分は別行動――外出組の為に小分けにできるバスケットも用意されていた。オルタが輝く笑顔でお礼を述べると、侍女は少し顔の表情を緩め、最後に言う。

「グリフォン……触っても大丈夫ですか?」

「触る程度なら大丈夫ですよ。」

 アデルがそう言うと、侍女はさらに表情を綻ばせて王種グリフォンの毛並みを触って確かめるのであった。



 外出組が侍女の案内で通用門から町へと抜ける道へと向かい部屋をでてしばらくした後、カミラがアデルに尋ねる。

「ロゼールというのは……第3王女だったか?先日の神殿の人だよな?」

「ああ。一応個人的な知り合いではあるが……明確に個人よりはコローナを優先するようだな。まあ、王女であるなら当然のことなんだろうけど。どうかした?」

「いや……あの女性――王女様か。なんか雰囲気が苦手でな。」

「まあ、線引きが明確というか露骨だからね。まあ、カミラが国益とかを考える必要はないだろう。カミラが直感で思った通りに返答すればいいんじゃない?」

「……そうだな。」

 その後も、カミラの記憶に残るフランベル公国の話を聞きながら時間が過ぎていく。



 そして時は夕刻、16時少し前と言ったところか。アデル達の待機する部屋に3人が訪ねてくる。

 現れたのはレオナール、ロゼール、そしてポールだ。

 ロゼールが簡単な挨拶をすると、レオナールはこれから会談が始まるからついて来いとアデルに言う。アデルが周囲を見ると、レオナールとネージュ以外が小さく頷いたので、アデルはそれに従うことにした。ネージュが随伴する事に王宮組達は少々意外そうな顔を見せたが、「東部の偵察情報等聞かれることもあるかと思いましたので。」とアデルが言うと、納得した様子で、レオナールが「よろしく頼む」と言うと3人で部屋を出る。

 アデルとしては、ロゼールがカミラに何を話すのか気になったが、それは後で聞けばよいと考えていた。王族組は敢えてアデルがこの場を離れるタイミングでロゼールとカミラが接触する様に仕組んでいた。


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