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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
四天動乱編
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藪をつつけば

 ワイバーンにアデルとアンナが乗り、それを追う様にブリュンヴィンドが飛行する。ワイバーンとブリュンヴィンドにはアンナの“疲労軽減”の魔法が掛けられたが、それでもまだ体力が追いついていないのか、遅れ出すブリュンヴィンドに何度か休憩を取らせつつ、夕前にはドルンへと到着した。

 今回は翼竜騎士団の発着場に着陸し担当らに挨拶をすると、「コローナとドルケンの協議に関わる事になりそうなので、事前に話を合わせておきたい。」と軍務卿へと取り次ぎを願う。

 事情が事情な為か取次は速やかに行われ、1時間と待たずに軍務卿の執務室へと通された。久しぶりのドルケンの王城であったが、アデルの横を行く、だいぶ成長したブリュンヴィンドを2~3回見返しつつも、城の者はすぐにささっと道を開けてくれた。イスタならここぞと人だかりが出来そうなものだが、ドルケンに於いては流石の神獣。城内では遠慮なしに触ろうとする者は現われなかった。

「急な連絡で申し訳ありません。」

「君が気にする事はない。フィンに行っていたのだろう?」

 部屋で待っていた軍務卿にアデルが一言詫びると、軍務卿――ベックマン侯爵はそう返してきた。アデル達がフィンに行っていたことを知っている様だ。

「はい。その間にグランが陥落したと……」

「……うむ。」

 ベックマン侯爵の口が重い。

「何かあったのですか?」

「王都グランディアは完全に包囲され、制圧。脱出の叶わなかった王族や貴族、それに将校らは一人残らず処刑されたらしい。」

 物理的な距離が近いせいか、少なくともイスタにいるエルランジェ将軍よりは情報が集まっている様だ。

「市民の死傷者は聞いていますか?伝え聞くところによると随分と悪名高い将軍だったようですが?」

「正確には把握できていないが、『なくはないが多くはない』と言ったところだそうだ。焼き討ちはなく、事前の警告を守った民は町からの脱出が許されたようだ。命以外を惜しんだ者はだいぶ死んだと聞いているがな。」

「それは意外というか……いや、フィン式治安維持法なら理に適っているのか……それにしても処刑までとはずいぶんと早いですね。本国に護送を?それとも侵攻軍の独断ですか?」

「半々と聞くな。国王や王太子など王家直系の者や、役職にあった貴族は本国に送られて公開処刑されたそうだが……」

「護送込みで一週間ちょっとか。何というか。」

「まあ、フィンだしな。それよりも。だ。今の我々の目下の課題は魔の森の蛮族だ。その話があると聞いていたのだが?」

「はい、そうでした。何やらコローナと協議が行われる様ですが、そこに何故か俺も立ち会う様にと言われまして。具体的な話に絡むとは思えませんが……都合のいいメッセンジャーとして使う気なのかもしれません。」

「……今の様にか?」

「……いえ。今回は勝手にこっそりと来ただけです。事前にいくつか確認しておきたいことがありまして。」

「ほう。何かね?」

「まずは……そうですね。今回の件に直接関係するかはわかりませんが、例の組織とオーレリアのつながりの件とか。例えばコローナにどれくらい伝えてあるのかと。」

「……今のところ、コローナには伝えておらんよ。少なくともコローナに関わっている様子はなさそうだからな。だが、蛮族とは何かしらつながっている様だ。連邦との往来は通行料を払って蛮族の支配地域の特定の場所を通っている様だ。」

「蛮族との繋がりがあると言うと、今回の話に絡んできそうですが……その話は当面、コローナには伏せる方針で?」

「そうだな……陛下や国務卿と相談してみるとしよう。今のところ伝える予定はない。」

「わかりました。次にドルケン北東を攻め込まれたと言う話でしたが、それとコローナがどう関係していると捉えていますか?」

「国が関係しているとは考えておらんよ。」

「……あれ?」

 ベックマン侯爵の意外な言葉にアデルは少し拍子抜けした表情を浮かべてしまう。

「コローナの者が我が国北東の蛮族領の砦を攻撃したとは聞いているが、所詮は口実だろう。正規の軍が派遣されたわけでもないし、それをコローナの国にどうこう言うのは難しいだろう。我々としても、先だってのエストリア北東の攻防戦は把握している。勿論、やられっぱなしという訳には行かないから、事情の説明くらいは求めたがね。」

「なるほど。うーん……コローナでもそうなんですが、なんで蛮族どもが態々口実を欲しがるんでしょう……」

「さあな。ただ、君のおかげで一つ思い出す事が出来たよ。」

「え?」

「北部と連邦とを結ぶルートにその砦が関わっている可能性が高い。今回の被害区域を考えるとありえん話ではない……が、そうだな。せっかく事前に来て話を合わせてくれるというなら有難い。国務卿とも相談して、この話にはコローナには黙っておいてもらった方が良さそうだ。」

「わかりました。」

 アデルの返事にベックマンは静かにうなずく。アデルとしては単純に知人でもあるコローナの勇者の起した厄介事とドルケンを関わらせたくないという思いから出たものだったが、ベックマン侯爵としては国務卿と結託し少しでもドルケンに有利な条件を引き出したいという思惑からである。少なくとも――当然ではあるが、アデルに外交交渉などという物が分かる筈もない。

 一通り2国間交渉についての確認したい事を確認をしたアデルは本命の別件を切り出す。

「全く関係ない話で恐縮なのですが、昔、陛下が複数のキマイラの討伐に出た事はありますか?」

 ある意味急すぎるアデルの質問にベックマン侯爵は少し訝しげな表情を見せたが、アンナをちらりと見てすぐに思い至ったか表情を険しくして答える。

「複数のキマイラか。過去に何度かある筈だが?」

「その中で、アニタと言う翼人が関わったものを知っていますか?陛下が即位される前の話だったと聞いていますが。」

「……それがどうしたのかね?」

「……いえ、いつくらいの時期なのか気になりまして。」

 アデルが以前、防具屋などから耳にしていた、王城が水色髪の翼人を探していたのが20年ほど前、リシアの話を完全に信じるならその頃なのだろうが、アンナの年齢を考えると少しズレが出てくる。元々人間と比べると翼人は若干成長が緩やかな印象を受けるが、アンナが自分の年齢を間違えているとは考えにくい。アデルとしてはアンナがドルケン現王の隠し子である説を否定できると考えていた。

「何故今急に?」

「……その時、もう一人翼人がいた筈です。その片割れが少々おかしなことを言っていまして。出来ればそれとアンナが無関係であると確認するためにも時期を教えて頂けないかと。」

 アデルとしてはかなり慎重に言葉を選んだつもりだった。事案を知らない人間が聞けば何の話か全く分からないだろう。だが、ベックマン侯爵の反応は明らかに違っている。

「……翼人が2人いたというのは初めて知ったが、アニタと言う翼人には心当たりがある。……誤解があっても困るな。少し待っていてくれ。」

 ベックマン侯爵は難しい表情でそう言うと、背後に控えていた兵の一人に少し時間をかけて丁寧に耳打ちをすると、その兵が部屋から出て行く。

 特に代わりになる話題もなく、ただただ沈黙の中で時間が過ぎる。5分、10分……体感ではもっと長く感じる。予想以上に重い空気の中、手持ち無沙汰なアデルは脇に座っているブリュンヴィンドの頭を撫でて動きを待つ。アンナは緊張した表情で椅子に座りながら、机の下でアデルの手首を握っている。

 昨夜、ネージュに連れられて部屋に戻った後、自分なりにリシアの話を整理したアンナは、他が寝静まってからアデルの部屋を訪ねていた。勿論、ネージュならその気配は察したかもしれないが、首を突っ込むような真似はしなかった。

 アンナがアデルに不安を打ち明けると、アデルは、

「リシアの話を全部鵜呑みにすることはない。」

 といい、あたかもアンナがドルケン王の隠し子であるというリシアの決めつけを否定した。アデルが言う通り時期的には少々のズレがあるのだが、翼人は人間の様な間隔で子供を作らないことは知っている。希少種というだけあって、受胎率も人間や火民ほど高くはない。そうなると――

 アデルの答え合せの時間が来る。


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