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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
邂逅編
15/373

コローナ王国(勢力図追加)

実質的な舞台設定説明回となります。

少々冗長かもしれません。

王都コローナへの進入は問題なく終わった。

 到着したのは南側の馬車専用の門との事だった。アデルとしてはそのような門があること自体驚きなのだが、王都の物流量や検問のし易さを考えれば不思議はないのかもしれない。実績や信用のある団体(商会等)に所属する馬車だと、主に簡単な荷物のチェックだけで通れるのだ。荷物らしい荷物は積んでおらず心配したが、国有数の商会の長であるジョルトの隊商の護衛として身元確認はパーティの代表扱いであるアデルとオランの冒険者タグの提示だけでアデルの馬車もほとんど待たされることもなく、すんなりと通してもらえた。


 ジョルト達とは相互に旅の無事を祝い、また互いにお礼を述べあって別れることにした。アデルは、大した仕事もしてないのにと搬入くらい手伝おうか?と申し出たが護衛依頼はこんなものだしこの結果が一番だと言われ固辞された。荷台を返却すると、今回の行程で唯一の戦闘となったグリズリーの毛皮を500ゴルトで買い取るとして、報酬と合せて2500ゴルトを受け取った。これは贅沢さえしなければ1ヶ月丸々宿で生活できる額である。

 別れ際、ジョルトにブラーバ亭を尋ねたら判り易く説明してくれた。どうやらこちらも有名な店らしい。王都に来たと言っても特にやりたいことも見つからず、彼らはそのままブラーバ亭へと向かった。


 露店が立ち並び、多くの人が往来する、歩行者用のメインストリートから2本ほど奥に行ったところにブラーバ亭はあった。

 受付でアリオンからの紹介状を渡すと、受付で少しだけ待つようにと言われた。どうやら、先に到着していたロゼと何やら話しているのが店主のブラバドの様だ。

 ロゼもこの店所属なんだ……とぼんやり眺めていると、どうやら話が終わったようでロゼとブラバドが互いに頭を下げ礼を言い合っている。店を出ようとしたロゼがアデル達に気づくと、少し驚いたような表情を見せるがすぐにひっこめ、『お疲れ様でした。また機会があれば是非ご一緒に。』とやはり頭を下げて出て行った。

 その後、受付に耳打ちされたブラバドがアデル達に手招きをする。

「待たせたな。俺がこの店の店主、ブラバドだ。宜しくな。アリオンの奴がこんなものを書いてよこすとは……よっぽどひm――おっと。お前さんらは随分と期待されているようだな。」

(暇って……まあ、副業で異名がつくくらいには暇だったか……)

 アリオンの体躯をさらに一回り大きくしたような男が店主であるブラバドだった。

「あいつとは一緒に良く稼がせてもらったよ。冒険者としてな。」

 ブラバドはニヤリとそう言う。

「まずは、期待の田舎者どもに言いつけ通りこの国の状況を教えてやろう。」

 ブラバドがアデル達に着席を促すのでアデルはそれに従う。今回はネージュの席もしっかりあるので、ネージュは自分用の席に座った。

「まずはこの国、コローナからだそうだな……『今のところ』都市部は王都含めてどこも安定している。治安も悪くなく、しっかりと仕事をしていれば喰うに困る事は少ない。ただ都市はだいたいが城砦都市だからどの町もスペースには限界がある。だから住宅事情は何とも言えんな。将来、都市部に家を持ちたいと思うなら余程頑張らんとな。」

『今のところ』の部分を妙に強調しつつそう言う。

「ただ、国を取り巻く環境は刻々と悪化している。」

 そこで、一気に険しい表情になる。

「南北西と戦争準備に近いと聞きました。」

「ん?意外と情報が速いな。何処で聞いたかしらんが……まあ、少々大げさな気もしないでもないが、概ねその通りだ。」

 アデルの言葉に、ブラバドは一瞬『ほう?』という表情をして続けた。

(いや、さっきあんたが話していたロゼから聞いたんだが?)

 などとは口にはせずにアデルは黙って説明を聞く。

「まずは北部。北にはオーレリア連邦という古くからの連合王国があって、そことは昔から散発的な戦闘がよく起きている。オーレリアは国土の大半が凍土、コローナは南に向かえば向かうほど土地が豊かになっていくから昔から度々手出しをしてくるが、今回はかなりの規模の軍が北のノーキンス辺境伯領の国境の向こう側に集結している様子だ。開戦と囁かれていて、実際に冒険者の店なのに軍絡みの仕事も増えてきている。

 次に西。西には軍事大国、ベルンシュタットが接しているが今のところ特に大きな争いは起きていない。冷戦状態と言った所か。表だった交流もなく只々お互いを牽制し合う関係だ。国境にはそれなりの規模の軍が睨みあいをしていて、もし何かあれば些細な事でも大きな戦争が始まりかねない。

 が、こちらは昔からにらみ合いというか、軍拡競争というかがあり、北はノーキンス辺境伯、西はデュナン侯爵家をそれぞれ中心とした対北、西の貴族連合の軍と国軍が展開してるからすぐにどうこうというのは考えにくい。

 問題は南側だな。南西方面にはかなりの数の蛮族領があって我国の南西部の穀倉地帯にもしょっちゅう手を出してくる。農村は常に頭を悩ませているところだろうな。勿論国軍や領主であるウェストン辺境伯やワラキア侯爵の兵が守りを固めてはいるが、散発的に起きる略奪には対応しきれていないのが現状だ。特にウェストン辺境伯領では蛮族領との境で常に一定規模の衝突が起きているようだ。これに関してはベルンシュタット側でも同じらしく、脅威の優先順位としては我国よりこの蛮族領の方が上だろう。国境に相当規模の軍を派遣しながら睨み合っている原因はこれだな。いっそのことと共同作戦も何度か提案されているようだが、その辺は直接事に当る当事者の話し合いが難航して纏まったと云う話を聞かない。

 真南は自由国家と謳われるフィン王国があるが……もともとは海賊が興した国だけあって、自由と云うよりも無法に近い。特別仲が悪いと云う訳ではないが、ここも昔からしばしばコローナ南部の農業地帯を脅かしている。不用意に入らない方が良いだろう。勿論、それなりの力や後ろ盾がある奴らは強かに交易をして稼いでいるようだがな。

 そしてフィンの東隣、コローナから見れば南東にあるのがグラン王国。他の3国、それにコローナを加えた4ヶ国と比べると国は大きくないが、それでもフィンの侵攻を何度か追い返している精兵の国だ。基本的にコローナとは友好関係にあり、海産物や海の向こうとの交易品はここから仕入れている。手続きが面倒だが、交易で地道に稼ぎたいというならこちら――と、言いたいところだが、王族の婚姻絡みでトラブルが起きて以来雲行きが怪しいらしい。いきなり交易が止まったり敵対的になったりとかはないとは思うが……

 で、最後に東だ。東には神聖テラリア皇国が接していることになっているが、間の魔の森のお蔭で実質的には接しているとも言い難い状況だ。その辺は君たちの方が詳しいだろうから説明は省かせてもらおう。

 まあ、要するに東以外は冒険者の仕事は腐るほどあると云う事だな。

 王都内や近郊でも仕事はあるにはあるが、下水の見回りやら森の管理やら地味な仕事ばっかりになるな。逆に君らの場合は困ったら森籠りなんて手もあるのかもしれんが。まずは一通り依頼票の掲示板を見てみるといい。

 それから、アリオンが許した“特約”も俺の店の仕事をする限りは有効としよう。そもそも冒険者技能としての《暗殺者》はレア中のレアだ。実際アリオンがそう認めたのも今回が初めてなんじゃないか?」

「もともとは《拳闘士》志望だったんですがね。なにぶんこの体躯じゃたいした打撃にならなくて……《斥候》としては頭一つ抜けて出来ていたので、アリオンさんのアドバイスで、ですね。ショートソードとマンゴーシュは。」

「それでもうレベル16か。ふむ。」

 ネージュとアデルにそう言うと手を顎に当てて考えるようなそぶりを見せる。

「まあ、アリオンが言うんだからそうなんだろうが……とりあえず、少し休んだら試しに一つ受注してみればいい。仕事はたくさんあるからな。」

 そう苦笑し話を終えた。



「今の話を聞いた後だと、若干見方が変わるな……先に説明を受けさせてくれたのはアリオンさんの親切心だろうなぁ。」

 アデルがネージュの頭を撫で繰り回しながら掲示板を見る。

 戦士優遇と目立つように表示されているのは北部での傭兵参加の依頼票だ。依頼主は今の説明にあったノーキンス辺境伯を始めその傘下らしい貴族の名前のようだ。軍歴のない冒険者であっても活躍次第で継続、正式な雇用やら、若い者なら騎士見習いへ取り立てるやらと、騎士を目指すならいい条件が揃っているようだ。

 が、アデルにしてみれば論外だ。騎士や爵位にはほとんど興味はないし、身内として竜人族を抱え込んでいるとなればいつ何をされるかわかったものではない。それによく読んでみると、継続雇用は飽く迄も大貴族の私兵としてであり、国軍ではない。国軍なら国の身分保障があるが、私兵ではそれがないのだ。騎士見習いとしても修業を積ませ推挙するとの旨が記されている。勿論その分、国の雑兵とは比べ物にならない待遇の様ではあるが……開戦間近と囁かれるエリアで傭兵となれば、戦略的に重要でない場面で捨て駒として使われかねない。よほど腕に覚えがあれば別だが、やはり避けるべきであろう。


 次に西方面。こちらは国境警備隊の募集が大々的にされている。依頼主は国の軍務大臣であるアーサー侯爵となっているが、実際に管理・運用をするのはデュナン候をはじめとする西方面を治める貴族たちのようだ。こちらは継続すれば国軍として取り立てる用意があるとのことだが、条件に《戦士》又は《騎士》Lv10以上だったり、《斥候》の心得のある者優遇などとそれなりの技量が要る様である。稼ぎは一般の兵士よりは良くなりそうだが、一回の契約期間が半年と長めで、これならエストリアで魔物狩りでもしていた方が融通が利く。アデルの希望として、ネージュの身バレの危険が増す長期拘束は遠慮したいところである。


 南西方面の依頼は、今までの依頼と似た様な蛮族退治だったり、領内の村々の見回りだったりと地味な仕事のようだ。依頼主も領主から村長までさまざまで内容や危険度、報酬もマチマチだ。ある意味本来の冒険者への依頼らしいともいえる。


 最後に南、南東方面だがこちらは商人や旅人の護衛・輸送の依頼が中心となる。ただこれらの依頼は、失敗時に賠償が発生してしまう場合がある様で実績のない新人は受けさせてもらえないことが多いらしい。

 とくに南、フィン国方面はフィンの国情を鑑み数も多くなくまた危険度も高い。最低でも冒険者ランクCからのようだ。 

 

 アデルの希望としては輸送系の仕事だが、御者・馬車の募集の依頼票はなかった。そもそも“御者”は専門の仕事として存在するので冒険者の仕事とは別であるのだから仕方がない。そちらの仕事が欲しければ物流や馬に関する仕事を取りまとめる騎手ギルドへ登録しろという事だ。王都から伸びる各方面への街道を行き来するのにある定期馬車の御者ならある程度安定した収入が見込めるが、戦士などの白兵戦の技能を腐らせるほどでもない。

 そうなると、アデルの希望にかなう依頼はかなり少ない。しかもランクDで受けられる依頼は1件のみだ。グラン行きの交易商の往復の護衛である。拘束時間が約1ヶ月と今迄と比べるとやや長い。隣国と馬車で往復するのであればそれくらいはかかるのだろう。

「ウェストン辺境伯領でスパンの短い蛮族狩りを多く回すか、希望通り輸送系のグラン方面の交易の護衛に着くか、かな?」

 アデルはネージュに問いかける。

「どっちでもいいけど?でも何で、ウェストン領とやらの蛮族退治の依頼がわざわざ王都の店にくるんだろう?ウェストン領に町とかこういう店はないの?」

「……さあな?聞いてみるか。」

 言われてみて気になったので早速ブラバドに今の質問をぶつけてみる。

「その答えは簡単だ。単純に人手が足りてない。ウェストン伯やその寄り子(系統)となる貴族たちの領地は広いからな。散発的に起こされるだけで対処するのは大変になる。それでいて蛮族による被害も多く、また時には大部隊が襲ってくる場合がある。軍や私兵はそちらの対応に手いっぱいで、その手の辺境の村々の見回り、保護など手が回らんのさ。冒険者も腕に覚えのある奴は、チマチマと稼ぐよりでかい軍に入って名を上げたいってのが多いんだ。そういうやつは今なら北に行くだろうしな。」

 そう言われると、今迄何度か経験した、討伐完了後の村々の歓待ぶりも必然なのかと思える。少しでも冒険者の印象を良くしておき何かの時に駆けつけてもらいたいというのがあるのだろう。見事に逆をやってのけた村もあったがな!

「地道にやるのにはありだとは思うのですが、その辺りは鬼子差別とかはどうなんでしょう?」

「あ?ああ……そうだな。この辺の仕事を請け負ってもらえるのは有難いんだが、それを考えるとお前らにはあんまりお勧めできないなぁ。」

 お勧めできない。それが答えの全てだ。

「……なるほど。グラン王国ってのは?」

「あそこはフィンと争いつつも海の交易と産品で持っている国だ。人種はより取り見取りだろうよ。南の2国は獣人も多いがそれを一々気にするやつもいないかな。」

「ってことは依頼主次第か。この依頼票、一旦受けさせてもらっていいですか?」

「一旦?」

「依頼主が、亜人お断りな人だと断られるでしょうから事前に確認してきます。」

「慎重だな。まあ、受けて出向いた後に何か言われるよりはマシか。」

「ええ。そういう目に遭ったのがきっかけでこちらへの紹介を頂いたので。」

「なるほど。そういうことなら行ってこい。この依頼主は……カイナン商事のお嬢様か……これなら少なくとも種族で差別はしないと思うが……一度会ってみるのもいいだろう。場所はこの辺りだ。もう今日から動くのか?それならまずは先に、冒険者タグとギルドカードをうちの店の者として更新しよう。」

 そう言うとブラバドはエストリアの暁亭で貰った冒険者タグとギルドカードを回収して一度奥へと向かう。アデルはなんとなく少し名残惜しい気もしたが、新天地で活動するに当り必要なものだと諦める。

 程なくして、新しい冒険者タグとギルドカードがブラバドの手から渡された。

「説明は要らんな?タグがうちの店の冒険者である証、ギルドカードはレベルやランクの証明証みたいなもんだ。なくすなよ?」

 ブラバドはそう言うと改めて依頼票を確認し、地図で依頼主の場所と名前を教えてくれた。



 アデル達は依頼票を持って教えてもらった場所へ向った。依頼票によると出発にはまだ数日の猶予がある。

 場所はすぐに見つかり、受付らしき人に依頼票と事前に確認しておきたい事があってきたと伝えると、ギルドカードの提示を求められる。

 アデルがそれに応じると、受付は不躾に「へぇ……」とだけ呟き奥へと消えて行った。

 そして程なくして、奥に行く様にと誘導される。

 奥について行くと、受付が扉の前でノックをし『お嬢!連れてきやした。』と大声で告げると、「お嬢じゃねぇ!」と大声が返ってきて内側から扉が開く。

「ほう……入んな。」

 女の声がしたと思ったが扉を開いて出てきたのは若い男だった。

 アデルは首を傾げそうになりながら部屋に入る。部屋はジョルトの時のそれとは真逆の、素っ気ない部屋だった。

 最奥に大きな机と椅子があり、そこに一人の女性が座っている。歳は30前後だろうか?キツ目の印象を受けるがきれいな女性だ。

 係だろうか?が扉をしめ立ち去ると、その女性が立ち上がり告げる。

「まずは座りな。」

 部屋の中央のテーブルを挟んで向い合うソファの入口側に着席を促される。いつもの様に(?)先にネージュが座り、2~3回ボフボフしながらソファの感触を確かめると、女性はやや面食らった表情を浮かべ、そして苦笑した。

「依頼主に会おうって所にフードをしたままなのかい?まあ、いかにもアサシンて感じではあるけどさ?」

「あー、すいません。別にそういう訳では……まあ、事前確認したい事の一つですし……」

 そう言うとアデルがネージュの横に立ち、そのフードを脱がせる。

「……ほう。」

 ネージュの頭部を見た女性は興味深そうに観察する。

「今回の依頼、鬼子でも参加できますか?」

「変な事を聞くね?」

「いえ、以前……というか、少し前にとある村の依頼を受けに行ったときトラブルになりまして。」

「へぇ……まあ、私にゃ身寄りのない鬼子なんてのは珍しくないさ。」

 そこで女性は目を光らせて言う。

「それでも……

――“珠無し”に会うのはまだ2度目だけどね。」


……



…………



………………え?


挿絵(By みてみん)

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