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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
四天動乱編
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急報

 翌朝、オルタとネージュを伴い、ジョルトや隊商員、そしてリシアらと合流する。

 ジョルトの方にはレイラから既に話が行ったのだろう。オルタを護衛の冒険者として受け入れ、コローナで冒険者として登録できるように協力するとの言があった。ジョルトがそう言うのならこの隊商の者に否やはない。

 オルタは周囲に「よろしく。」とだけ声を掛ける。

 やはり周囲の目を引くのはその眩しい笑顔――ではなく、背中に背負った物騒な鈍器である。護衛の冒険者の戦士が「なんだそれは?」と尋ねると、オルタは《何を言っているんだ。君は?》と言わんばかりの口調で、「剣だよ?」と答える。

 戦士が少し見せてくれというとオルタは嫌そうな表情を見せる。が、「見るだけだよ?ここで抜くのはなし。」

 とだけ言い、その戦士に“鞘”ごと“剣”を渡す。それを受け取った戦士はさらに困惑の表情を見せる。

「重い……なんでこんなものを……」

「ぶん回せさえするなら色々便利なのさ。板金鎧ぶっ叩いたり、敵の船底に穴開けたりとね。」

 ……やはり鈍器である様だ。しかも抜さえすれば両刃武器というハイブリッド。アルムスに見せたら何かが響くかもしれない。アデルはそんな考えを持ったが、それがそんなレベルではなかったことを知るのはもう少し後になる。 

 ジョルト商会は既に帰りの準備を済ませていた。大型とは言え3台の馬車で運べるものとなるとその量は限られてくる。しかし載っている物は異国どころか別大陸産の工芸品や調度品、香辛料などコローナに持ち帰ればかなりの金額になろうと言うのはアデルでも想像がつく。

「フィン、コローナ、それにグランやドルケンでも動きがあるようですし、帰りは急ぎましょう。」

 レイラ情報なのだろうか?不穏な言葉を発してジョルトは帰路を急ぐ。

 結局アデルは碌に土産も買えないまま初めてのフィンを後にすることになったのである。尤もパーティ戦力としてはこの上ない土産があるにはあるのだが。アデルはリシアに何か収穫はあったか尋ねてみた所、水色と青の宝石が組み込まれたシンプルな腕輪と背負い袋に目一杯の香辛料を購入したとのことだ。意外と金持ちなのかもしれない。



 “休憩作業”が必要なくなった分か、帰路は5日程でフィンを抜けることが出来た。しかし、無事にフィンの国境を抜け、一安心かと思った所で異変が起きる。いや、起きていたと言うべきか。

 ジョルトがコローナの国境管理の兵に接触すると、急ぎコローナ最南の町であるレイナルへと向う様にと言われたのである。時刻は日没直前と言ったところ。予定では越境のための待機の広場で一夜を明かす予定だったのだが、兵士の逼迫具合から、一行は何事かと馬車と従卒を急がせ、その日のうちにレイナルの町に入ると、伝令が届いたのかそこで待っていたのは領主のカイ・レイナル侯爵であった。

 いきなりの領主の登場にジョルトはすっかりと恐縮し、また身構えてしまったがレイナル侯爵は手ずからジョルトに封書を渡すと開けてすぐ確認する様に促した。

 書状を確認したジョルトは一度険しい表情を見せたが、すぐに普段の表情に戻りレイナル侯爵に確認をする。レイナル侯爵が短く頷くと、その封書をアデルの所に持って来た。何となく嫌な予感がする。

「エストリアとイスタが厄介なことになっているらしい。君達はすぐにイスタに戻るようにとのことだ。我々が戻り次第すぐに連絡が行き、明日には君達の仲間が迎えにくるとのことだ。まあ、これを見た方が早いか。」

 ジョルトがアデルに封書を渡す。封筒には王家の紋章が箔押しされており、書状の出所が察せられる。

「……」

 アデルは怪訝そうな表情でそれを受け取ると書状を改める。宛先はジョルトに向けた物とアデルに向けたものの2通が入っており、内容はアデル達のいわば出頭命令だった。署名は――よりによって王太子レオナールのものだ。嫌な予感が一層深まる。

 だが、そこに記されていたのはアデルの予想を斜め上に行ったものであった。

「東部の状況が急変したため、貴殿の隊に参加している指定のBランク冒険者(アデル達)を至急イスタへと戻す様に願いたし。冒険者ギルドには連絡済ですでに連絡態勢と迎えの手はずは整っている。彼の者らの報酬はこちらで用意し、貴隊の護衛に補充が必要ならレイナルに申すべし。」

 これはジョルトに宛てられた物。そしてアデルに宛てられた物は次の通りだ。

「東部の状況が急変した為、至急イスタに戻られたし。ドルケンとの会合に貴君の参加・立会いを願う。これはイスタのみならず、王国東部、さらにはドルケンにも関わる一大事也。王国帰着の連絡が届き次第、貴君らの仲間が迎えに行くことになっている。冒険者ギルドには説明済みで、任の中途離脱に関する心配は一切無用であり、中途分の報酬に関しては国が責任を持って支給する。コローナ王国王太子レオナール・ルイ・コローナ」

 ドルケンとの会合?1ヶ月ちょっとの間に東部の情勢が急変した。しかもドルケンを巻き込む事態になっている様だ。アデルは厄介事に対する警戒よりも先にイスタが心配になっていた。


 予定外の移動をし、既にかなり遅い時間になっていたせいか一行はレイナル侯爵の屋敷に招かれた。

 主な交易路の中継地であるため、ジョルトはすでに何度かレイナル侯爵とは面会したことがあったそうだが、屋敷に招かれたのは初めてだと言う。

 レイナル侯爵といえば四天の一人、南方の守護者であるシュッド辺境伯派を内部から支える政治に長けた人物である様だ。ジョルトが改めて挨拶をした後、短い時間だがアデルも話をする事が出来た。

 アデルがフィンとコローナとの戦争はあるかと聞いたら、「十中八九あるだろう。」と即答された。これに対しジョルト、そしてオルタは少々険しい表情をしたが特に発言はなかった。状況からしてある程度は折り込んでいるのだろう。

 次にオルタの前で聞いていいのか少し疑問はあったが、コローナ南部の防衛体制を尋ねる。何かあった場合、前線はどこを想定し誰がどのように守るかだ。

 これに対してレイナル侯爵は

「フィンが真直ぐコローナ王都を目指そうとするなら間違いなくここが前線、総指揮は当然だが、シュッド辺境伯になるだろう。ただフィンとの国境ですらかなりの距離を接しているのに、陥落したグランからの進軍にも備えろと言われるととてもじゃないが手におえない。できることならドルケンと友誼を結び、エストリア方面からの協力も欲しいところだが……エストリアもそれどころではない様だな。王国南東部――それこそシュッド辺境伯のレサドとエストリア辺境伯のエストリアの中間あたりに防衛機能を持った拠点が作られるのではないかと踏んでいる。恐らくは王家から誰かが派遣されてくるだろう。」

 何気なく“陥落したグラン”と明言された気がする。時間の問題とは言われていたが、グラン、落ちたのか……だが、今のアデルにとって重要なのはグランよりもイスタだ。

「まさかイスタ辺りですか?」

「いや、イスタまで攻め込まれたら王都なんてすぐだ。もっと南東になるだろう。ただ、イスタが兵站の拠点になることは間違いあるまい。」

「むう。」

 レイナル侯爵の言葉にアデルが険しい表情で息を吐く。

「どうかしたかね?」

「……つい先月、イスタで住居を手にしまして……」

「ほう。その歳で住宅かね。だが悪くない。ひと山越えれば今後イスタはエストリアよりも発展する可能性が高い。どういう形であってもグランが安定すると言う条件は付くがね。」

「グランが落ちたのですか?」

「ここにその報が届いたのは3日前だ。陥落したのは王都グランディアで、まだ残存勢力が港町グラマーに集結しているとの情報がある。フィンとしてもそれは無視できまい。我が国に手を伸ばすのはもう少し先になるだろう。」

「グランが落ちたとなると……そうですね。その場合、南はフィン国境からグラン、北は連邦からエストリア東、魔の森までかなり長い戦線を抱えることになります。やっていけるんでしょうか。」

「そこは君達冒険者らの手も借りる事にはなるだろうが、攻めてこられるなら対抗しない訳にはいかない。そのための貴族、領主、国軍だ。覚悟を決めるしかなかろうよ。なるべく同時に攻められない様にしたいところだが……今後はドルケンやベルンがカギになるのだろうな。ベルンに関しては好機とばかり西部領を狙ってくるかもしれんが……」

 さりげなくドルケンとの交渉が鍵となる様な言で釘を刺されてしまった気がする。尤もレイナルが封書の中身とアデルが呼ばれた理由を知っているかはわからないのだが。

 ただ、急変した事態のせいでドルケンが関わってくる。一体何が起きたのだろうか。意外すぎるというか、斜め上過ぎると言うか……その事態がアデルに伝わるのは翌朝のことだった。



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