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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
四天動乱編
144/373

条件 2

「本当に一本取りやがったか。満点とは言い難いが……合格だろう。」

 オルタが悔しがる様子をじっくり堪能した後にレイラが呟いた。

「よし。勝手な休みはここまでだ。全員仕事に戻んな!オルタはその2人を私の部屋まで連れてこい。」

 レイラが大声で叫ぶと野次馬たちは一目散に持ち場へと戻っていった。オルタは一通り悔しがった後は元の眩しいばかりの笑顔でアデルとネージュに声を掛けてきた。

「船長室まで案内するよ。外国人を招くのなんて10年ぶりくらいじゃないかね。」

「そりゃ光栄だ。」

 少しおどけて見せてアデルはオルタの後に続いた。してやったりのネージュは満面の笑みでその後ろに続く。悪戯というかドッキリが成功した後の子供の様な表情だ。

 甲板から簡素な階段で船の中に入ると、一番奥、船の向きからすると一番後ろの突き当りの部屋に案内された。どうやらレイラの私室らしい。オルタは扉を3回ノックすると、返事を待たずに開けてしまう。

「連れて来たよ。」

 船長と船員にしては随分とフランクな感じで中にいるであろうレイラに声を掛ける。海賊と言う物は海軍とは違いこういう物なのだろうか?尤もアデルは海賊や海軍の規律を知るどころか、ボート以上の大きさの船に乗るというのが今回初めてなわけではあるが。

「うむ。ご苦労。」

 中から声が聞こえた。中に入ると部屋は金銀財宝と言うよりはいろんな色の宝石をあしらった宝飾品・調度品でいっぱいだった。私室と言われたことを考えると、航行中の指揮などを行う船長室はまた別の位置にあるのだろう。その派手な内装にアデルは金額を考えるより先にめまいを覚えたほどである。アデル達が中に入るとオルタは背後の扉を閉めてレイラの脇へと控える。

「さて、それでは2つ目の条件だが……こちらは簡単だ。そいつをお前らのパーティに加えてやってもらいたい。実力は今身を持って知ったばかりだろう?」

 レイラの示す2つ目の条件は少々意外な物だった。オルタをパーティに加えろというのだ。

「「え?」」

 驚いたのはアデルとネージュのみ。オルタには既に話を済ませてあったのだろう。そしてオルタが文句を言いながらも加減をし、こちらに必要以上の危害を加えなかったのもこれが前提だった為だろう。

「まあ、軍事情勢に少しでも関心のある奴なら、この時期に私の手の者をコローナに連れて行けというのに疑問がある事は分かる。が、こいつは私の友人の子でな。信用出来るか出来ないかは自分達で判断してくれ。条件としては最低3年、お前たちのパーティとして扱ってやってもらいたい。」

 フィンとグランの戦争はフィンの勝利目前、その後どちらが先に仕掛けるかはわからないが、フィンとコローナは遠からずぶつかる事になるだろうと多くの者が見ている。そこへフィンの国王以上に実力があると言うレイラの手の者を迎え入れるという事は、敵国のスパイを入れることになりかねない。

「この先、フィンやコローナの王が誰になろうとも、フィンとコローナという地域の取引が無くなる事はない。まあ、断られるならあのジョルトに圧力を掛けるだけの話だがな。」

 この時点で否やはほぼないらしい。

「受け入れてくれるなら私からもサービスをしよう。断られるなら少々残念ではあるがジョルトの商会員として連れて行かせる。」

「目的は?」

「そんなもの……そちらの内情調査に決っているだろう。そちらの“誰”と“取引”をするのが一番有益かというのを、一番下の目線から見定めるためだ。」

「一番下?」

「ジョルト商会はすでに相当の権益を保持している。そのフィルターを通すと商会に都合のよい者を推してくるだろうからな。冒険者というある意味“定職”を持たない一般人目線からコローナの商人や要人に対する評価が欲しい。私の目的はそんなところだ。オルタの目的としては……まあ、こいつはこの国が嫌いだからな……」

 そう言うと、少し哀しむ表情でオルタに視線を送る。

「……」

 オルタは無言で視線を逸らした。少なくともオルタは演技が得意そうには見えない。この国に何か思うものがあるのだろうか。

「友人の子供を勝手に国外に?」

「……こいつの母はある意味、この国の犠牲者とも言える。まあ、その辺りはお前らが信用されれば自分から話してもらえるだろうよ。」

「なるほど……ではオルタに関してこれ以上の詮索はしない事にします。では、サービスと言うのは?」

「お前たちの“望む知識”を私が持っている限り提供する。どうだ?」

 破格だ。相手はフィン建国以来――200年来の培った知識、そして何より珠無し竜人として後天的に竜化を可能としたと言う豪傑だ。だがそこでアデルはふと試して見たくなった。

「すみません。では一つだけ試供品を頂けませんか?」

「む?」

 アデルの言葉にレイラが少し困惑の表情を見せた。意味が分かりにくかったのだろう。

「この国の現王に対するあなたの評価を教えて頂きたい。試供品として参考にさせてもらいますので。」

「ほう……」

 レイラは感心する様な声を漏らすと、少し思案した。

「いいだろう。現王フィデルだが、一言で言うなら“貪欲”。それが大きな力になる事もあれば、足元をすくわれる原因にもなるだろう。こんなところだな。」

 レイラがそう答える。アデルは視線をオルタに向けて反応を覗うと、オルタもそれを理解したか、

「まあ、そんなところだろうよ。アレの代になって以降、国が3つ消えた。領土は広くなったけど貴族どもが調子に乗り出して今まで以上に好き勝手始めているのも事実だし。」

 と、少しむくれた表情でそう答えた。公の者がいない場所であるが、現国王を“アレ”呼ばわりするとは余程なのだろう。現王の侵略で母親でも亡くしたのだろうか?アデルとしては国が3つ消えたというのが気になるところではあるが、それは返答ののちに尋ねればよい。

「…………わかりました。この話お受けします。」

 アデルの言葉に、レイラは少し緩んだ表情で、オルタは少し嬉しそうな表情で頷き合う。

「オルタの立場はどうしますか?俺らと同じく、元国外の難民とかですか?それとも最初からレインフォール商会の者として?」

「お前は人の身でありながら竜人の妹がいるのだろう?弟とでも言い張っておけ。」

「「oh...」」

 アデルは困った様な、ネージュは呆れたような声を漏らす。

「コローナに辿り着いた当初ならともかく、今は既に3人で活動していてそれなりの実績も積んで居まで構えましたし、今からそれは厳しいだろうと……」

「3人?」

「もう一人《精霊使い》がパーティにいます。今回は都合がつかずに別件を任せてきていますが……あと、現在修行中のメンバー候補がもう一人います。」

「ふむ。リーダーはお前なのだろう?」

「はい。」

「ならなんとかしろ。私の関係者と知れると警戒する者も出てくるだろうし、その辺は伏せてくれ。フィルター付きの情報はいらんのだ。」

「わかりました。」

 アデルが思案しながらそう答える。

「……よろしくな、兄ちゃん。」

 オルタは少しはにかみながら、そして満面の笑みでそう言う。

「あ、一つ確認しとかなきゃだけど……」

 そんなオルタを見てネージュが言う。

「高いところは平気?」

「え?マストの上で作業したりはよくするけど?」

「そう……」

 オルタの返答にネージュはニヤリと笑った。 

 

 オルタがネージュの“高い所”と言うものが別次元で違っていた事を思い知るのは彼がコローナに到着してからとなる。


誤字報告等ありがとうございます。

思っていたよりも便利な機能で捗ります。

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