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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
四天動乱編
128/373

冒険者

 グリフォンたちと大いに“戯れた”翌日。アデルの元に3つのオファーが届いた。

 1つ目は国王。昨日までの特訓の成績が伝えられたか、王城付の翼竜騎士団に仕官してみないか?というもの。2つ目はダールグレン侯爵から、軍や他の冒険者たちと共に犯罪組織のアジトの捜査に加わってほしいと言うもの。3つ目はカイナン商事から、ヴェンの速やかなコローナ王都への移送である。

 今回も王城、非公式の客用のそれほどの広さのない一室での接見となった。面子も先日とまったく同じ、国王以下3大臣とナミとアデル達である。

 ナミはアデルのミスリルプレートを見て、随分と傷だらけになってるじゃないかと言うと、アデルは、先日から昨日まで、翼竜騎士やグリフォンから手厚い持て成しを受けたと答えた。その言葉に国王と軍務卿が興味を示したが、簡単に事情を話すとやはり呆れられてしまった。

 そして依頼の話だ。まず最初のオファーは丁重にお断りする。元々は“輸送兼護衛”の仕事を主としており、軍とはあまり関わらない様にしている。と伝え、ドルケンも概ねとても良いところだが、まだ定住を決める段階ではないと少しだけ含みを残して辞退した。これに関しては国王の方も、受けてくれたらラッキーくらいのつもりでいたらしく、さほど気にするなと言ってはくれた。実際、アデルが翼竜騎士となったとして、ネージュとアンナ、そしてブリュンヴィントの扱いがどうなるかと言う部分が宙に浮いていたというのもある。とはいえ、先程の話を聞いた軍務卿はもう少し粘りたい表情を見せていた。


 2つ目に関しては、ダールグレン侯爵以外の2大臣からも是非にと言われる。話を聞くと、どうやらその犯罪組織と言うものがオーレリアとつながっている様子だと言うのだ。前から内偵はしていたものの、今回のエーテルの流通にも関与が疑われ、丁度よい機会だというのだ。エーテルの輸入自体は合法なのではないか?との問いには、少し眉間に皺を寄せたものの、今回の事件を契機に規制をし、徹底管理に乗り出すとのことであるが、その組織は余罪が既に固まっている為、まずはそちらでしょっ引くと言う話だ。

 アデルの「何故俺らに?」との質問には、連絡役と斥候役としての働きに強く期待したいとのことである。特に、禁制品やら奴隷やらを扱っているらしく、踏み込む前に可能な限りそれらを確保したいと言うのだ。


 3つ目は、そのままの依頼だ。本来ならヴェン達はとっくにコローナへと到着している頃である。それが戻らぬまま音信不通となっているとなれば、コローナでの業務に大きな影響が出る。

 アデルが軍務卿に、ワイバーンは二人乗りが可能か?可能ならレンタルは可能か?との質問に、2人乗りは可能だがレンタルは……と国王の顔を見る。国王はニヤリとして、2件目に協力してくれるなら貸し出す。さらに、それで十分と認められる活躍があれば、准騎士の称号とワイバーンを1騎譲ると言い出した。

 アデルは、

「確かに今回の一件で馬を2頭失くしてますが……代わりにグリフォンの子供とワイバーンを養えと言われても限界が……」

 と言いながらナミをチラリと見る。

 ナミは一つ溜息を見せると、受けてもらえるなら、魔石と食費くらいは面倒みると答えた。

 国王や軍務卿らは「魔石?」と首を傾げたが、先日、王が交渉したグリフォンから「魔獣狩りを行えないなら、定期的に魔石を砕いて食べさせろ。」とのアドバイスがあった旨を伝えた。すると、国王らは興味深そうにそのような生態があるのかと感心し、「それならそのグリフォン用の魔石の原石は王家で支給し、翼竜はそちらの望むときに随時貸し出すと言う条件ではどうか?」と言う。

 ここまでくればアデルとしても好条件だ。あとはナミに1つだけ現物支給をしてほしい物があると言うと、「こうなったら、余程馬鹿げたものを言わなきゃ、極力善処するよ。」との言を受け、アデルは成功報酬として、収納の魔具を3人分要求したのである。何なら、ウルマン子爵に騙し取られた物をクレームつけて返してもらった中古でも構わないと言うと、ナミは呆れた様子でそれを了承した。

「コローナに戻ったらヴェンに用意してもらえ。」

 ナミの言葉に、

「これからしばらくは、俺の背負い袋はブリュンヴィントに占領されることになるのでね。」

 と答えて見せると……「全く笑えない冗談だ。」と返されてしまった。本気なのに。


 条件が整った所でアデルは話を整理して予定を組み立てる。

 ワイバーンの移動能力を尋ねると、ドルンから国境まで半日、そこからコローナ王都まで恐らく半日だろうという事なので、まずは、ナミからヴェンへの指示書を昼前までに用意してもらい、そのまますぐにヴェンを乗せコローナに向かい、明後日中には再びドルンへと戻る。その後、直ちに2つ目の依頼に従事するということにした。

 2つ目の依頼はすでに現地付近へとリーダーや先遣隊を派遣しているとのことなので、本日中に繋ぎをつけてアデル達の紹介と受け入れ態勢、さらには段取りや指示の確認、作戦の立案などをさせておくという事になった。合流後、すぐに作戦開始となりそうな雰囲気である。当日ドルンを出発する前にもう一度ダールグレン侯爵の所に立ち寄ってから行動を始めて欲しいとの注文を受け、アデルはそれを了承した。


 予定が決まった所でアデル達はすぐに行動に移る。昼前に商会の事務所に寄るのでそれまでにヴェンへの指示を済ます様にナミに言うと、自分たちは自分たちの準備……数日分の保存食の確保と、そろそろ出来上がる筈のヴェントの形見となる袋の買い取りへと向かった。

 袋は既に出来上がっており、見るからに立派なつくりであった。しかも防具屋の配慮で袋の側面には楯や槍を固定できるフックやソケットなどが設けられていた。雑貨屋ではこうはいくまい。そして、同時に頼んでおいたプルルの皮の保存処理もしっかりとやり遂げてくれていたようだ。その出来と、丁寧な処理の感謝をこめて、依頼した時よりも少し上乗せして防具屋にお金を渡す。防具屋は少し恐縮したが、長年の愛馬の形見をしっかりと処理してくれたのだから、と伝えると、素直にそれを受け取った。

 その後はヴェンの出発の準備が整うの待ち、少し早目の昼食を取り出発をする。今回ばかりは流石のヴェンも「まさか俺がそのまま空輸されることになろうとは……」と呆れ半分、飛行への興味と恐怖がその半々と複雑な表情を見せる。

 借りたワイバーンにアンナのサポートを受けながら乗り込むと、ヴェンも先日のアデルと同じ様な反応を見せた。今回は慎重な離陸の上に、軍からの厚意で2人用の鞍を用意してくれてあったので、さぞかし快適なはずなのだが……

 いつもの疲労軽減の魔法を掛けつつも、ワイバーンにそれなりの負担になるだろうと、夕刻前には国境付近で夜を明かす。

 翌朝は未明の内から離陸し、関所のない空域を高高度で通ってコローナへと入る。完全な密入国になるが、何の設備もないところで、高空にいる彼らを見つけ、剰え誰であるのかを特定するということは不可能だろう。言葉を解さないワイバーンに、“不可視”の状態を維持しろと言うのは無理であったためだ。

 8時頃にはイスタが遠くに見える位置に到着し、ここで一行はまずアンナを分けた。ソフィーへ事情の説明しつつ、イスタにワイバーンでの立ち寄りが可能かどうかを確認するためである。その可否にかかわらず、明日の昼過ぎにはこの場で合流する約束をする。

 そして昼前に王都周辺に到達すると、今度はネージュにワイバーンを預け、この付近で夜を明かしてもらい、アデルとヴェンは2時間程をかけて王都へと徒歩で向かうことにした。こちらはネージュの角と突然のワイバーンの飛来で騒ぎになるのを避けるためである。万一事情聴取などと言われた場合、今後の予定、さらにはその先に於いてもいろんな懸念が沸き起こる事が容易に想像できたためである。

 ネージュも《騎手》技能持ちであるとして、ワイバーンの扱い方、更には訓練のどさくさに紛れて、ワイバーンの騎乗の仕方もちゃっかりと習っていた。調子に乗って、空中でワイバーンから離れて別行動を取ろうとして、担当騎士に思い切り怒られたのは御愛嬌と後学だ。


 予定通り、昼過ぎにはアデルとヴェンがコローナ王都に到着する。ヴェンは「明日朝までに収納の魔具は用意しておく」と告げ、足早に商会本部へと向かった。

 一方のアデルも忙しい。まずはアモール防具店へと赴き、プルルの皮を預かってもらう。出来れば今度戻る時までに、皮から革へと加工してもらえるように頼む。

 アモールにプルルを会わせた事はなかったが、アモールはアデルの話を聞いて事情は察してくれた。可能なら3人分のブーツとグローブにしたいと言うと、流石に両方は無理、1人どちらか分だろうから、誰がどちらを作るか考えておけ。と作業を引き受けてくれた。

 アモールは既に傷だらけとなったアデルの鎧を見て何事かと尋ねると、アデルはイスタ防衛戦とグリフォンと対峙したことを正直に明かす。イスタの防衛戦はすでに話を聞いていたようだが、そこでディアスとソフィーの活躍の話をすると、かなりの興味を持ったようだが、明日中にまたドルンへ戻らなければならず、時間がないと言うと、一体どこの冒険者だよ……と呆れられてしまった。

 次は地母神レアの大神殿だ。

 見た目、武骨でお世辞にも小綺麗とは言えない場違いなアデルの来訪に受付や訪問者たちは怪訝な表情を見せたが、ロランとジョセフの名を上げ、この書状をロラン司祭の弟子で有られる、アルシェ様に明日お渡しして欲しいと申し出ると、何かを察したかすぐにロランに取り次いでくれた。

 アデルとしては予定外だったが、ロランに「竜人撃退の参考になるかもしれない。」と、伝え、現在多忙で出向く時間は到底ないので、明日の昼過ぎにこれをポールさんへ渡す様にとお願いした。その時間には既に出発してるからだ。

 そしていよいよブラーバ亭である。

 アデルが受付、そしてブラバドに挨拶ををると、ブラバドは

「ずいぶん時間が掛かったな。」

 という。

「実はまだ終わっていません。国境を越える直前にあちらで大トラブルが発生しまして……明日の朝には再出発し、明日中に他と合流してドルンへと戻らなければなりません。」

「はぁ?お前がか?どうやって?」

「ワイバーンを1騎借りることが出来ました。実は――」

 と、アデルが一通りの説明をする。

「ドルケンとグリフォンって……そりゃあ、ドルケンにしてみりゃ国の一大事じゃないか。そんなのに首突っ込んじまったのか。」

「まあ、無知と言えば無知でした。大怪我もしましたが、お陰で密輸犯の一味にされることもなく、任意でワイバーンを借りることが出来るようにもなりました。ただその過程でいくつか深刻な問題もおきまして……」

 アデルはそう切り出し、プルルの死、ネージュの制御できない竜化、角の肥大化、グリフォンの子供の養育を任されてしまった等の相談をする。

「竜化だと?珠無しじゃなかったのか?」

 ブラバドが真っ先に確認したのはそこだ。

「俺も、そして本人も目にしたことはありません。ただ、俺個人の推論ですが、竜人なら誰でも竜化する能力を持って、その制御のための竜玉ではないのだろうかと。」

 アデルの推測にブラバドは首を横に振る。

「ないな。俺は今までに、珠無しをネージュを含めて4人見ているがそんな話は一度も聞いたことはない。感情の暴発程度で起きるなら、瀕死になったり、死の瞬間になったりしたときに起きないのはおかしい。」

「むう……」

「どちらにしろ……再現性がないならどうしようもないな。角に関しては……どうにもならんなぁ。その為の魔石集めだったのだろう?」

「最後の手段として……なんですけどね。ただ、今、竜人が名誉人族――何かの管理下に入るとなったら、間違いなくエストリアに飛ばされるのではないかと。コローナの方が知り合いも多いですし、豊かで安全ではありますが、しばらくドルケンにいるのもありなのかな?という考えもあります。強制依頼はBランク以上からって保証があるなら、Cランクのままこちらでゆっくりしたいというのが本音ですが。」

「なんだと?」

 ブラバドの表情が険しくなる。

「あちらは亜人に対して結構緩いようです。あと、グリフォンの羽根飾りのお陰で普通に町にいる分には竜人であることによる弊害が抑えられるんですよね。ただ、裏の犯罪組織というのが、アンナ――翼人を狙っているという話もあって……あとグリフォンを育てるには周囲の目が少々気になるか。どちらにしろ、今回のヤマを無事に乗り越えらえてから、ですけどね。密輸に関しての疑惑はまだ払拭しきれていない様ですし。」

「むう……」

 アデルの言葉にブラバドは渋い表情で腕を組んだ。

「どう転ぶにせよ、今のヤマが終わったらもう一度来い。こちらでも出来る事は考えておく。」

「すみません。よろしくお願いします。」

 ブラバドの言葉にアデルは深く頭を下げた。


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